デザイナーが沖縄での2週間のリモートワークを通して学んだリアルなUX

2018.04.20

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意味不明なタイトルかもしれませんが、私は今年の4月の上旬から沖縄県の那覇市内及び、そこから車で行ける離島においてトータルで連続2週間のリモートワークと旅を並行して行いました。何故そんなことしたの?とか、やってみてどうだったの?という内容を書いていきます。
結論を先に書くと、最高でした。
場所が限定でなく、同じことをやろうとする人にとってできるだけ役に立つ内容になれば良いと思います。

経緯

経緯に関するまとめです。

Vagabonding

Vagabonding(Rolf Potts 著)という旅に関する本を読んだのがきっかけです。私は英語版で単語を調べつつ読みましたが、日本版があるようです。読み終わってから知りました。

内容は大体下記のような感じです

  • 旅は所有物を増やすのではなく、個人の選択の幅を広げるのが目的
  • やり方次第で大量のお金を必要しない旅も可能
  • Vagabondingとはライフスタイルやトレンドではなく、今までと違う視点で生活を見ること
  • 時間に追われて観光地を次々に見て回ることはしない
  • トラベルブックを見る時は危険な地域を調べる程度にとどめる
  • 旅は実生活から逃げるのではなく、実生活を発見すること
  • 旅は平日の疲れを癒すレジャーではなく、旅こそが人生の主目的

というように、よくある自己啓発的な内容ではあります。この本の中では映画のワンシーンが取り上げられます。
将来有望な若い証券マンが彼の夢について語ります。「30歳になるまでにたくさん金を貯めて、この忙しない生活を終わらせて俺は中国をバイクで横断してやるんだ」
これに対して本の筆者が疑問を持ちます。その夢を実現するには、不必要な無駄なものを買ったりするのを控えたり質素な生活をしてお金を貯めれば数ヶ月間で実行できるんじゃないの?と。また、長期間の旅でずっと高級ホテルに泊まり続ければお金もかかりますが、安い宿なら大したお金はかかりません。いくらお金を持っていても使う時間がなければ意味がありません。お金は相対的な価値を持っているということです。
長期的な旅の体験を通して何が得られるのか、私は強い興味を持ち始めました。

どうやって実行する?

本の中では計画的にお金を貯めてから仕事を辞めて(休んで)長期的な旅に出る方法が語られています。とはいえ、私は仕事を辞めて長期的な旅に出たいわけではありません。旅をとるか、仕事をとるか、という選択をしたいわけではありません。なので、選択を迫られる時はどちらも取れる方法がないか考えろ、ということです。
幸いなことに、なんとクラスメソッドではリモートワークによる働き方の選択肢が用意されています。これは平たくいえば、結果さえ出していれば働く場所は問いません、という仕組みです。 よって私は関係者の説得を行い、沖縄で2週間リモートワークしつつ並行して旅をする計画の準備に着手しました。
※ この辺りについては本稿の最後の方でも書いています。

準備

準備に関するまとめです。

荷物

Vagabondingでは基本的に荷物は極力少ないのが良いと推奨されているのでそれに倣いました。

2週間の旅で用意したもの

  • 3−4日分の服、下着
  • 仕事に使うコンピューター関連のデバイス、各種充電機
  • 小さいナップザック
  • 紙、ペン
  • カッパ上下
  • モバイルWi-Fi
  • ボディシャンプー
  • 風邪薬、絆創膏、消毒薬
  • 読みかけの本

キャリー型のバックだと動きずらいので、これらを大きめのバックパックに詰めました。軽装なので、ぱっと見は2週間の旅行をする人に見えないと思います。必要なものが生じたら、現地調達の方針です。モバイルWi-Fiについては、宿のネットワーク環境が不良の時などのリスク回避策としてレンタルで用意しました。

宿泊先

宿泊先はAirbnbを利用しました。もちろんこのサービスの存在は知っていましたが、利用するのは初めてです。沖縄だと安いところで一泊10ドル台から、200ドル越えの高級なマンションまで様々です。私は一泊あたり30-40ドル台の宿に決めました。立地については移動を1回することを考慮して2箇所で、都市部と辺境の地の2箇所という条件でかなり適当に決めました。

Airbnbのメリット

  • キッチン、食器、洗濯機/乾燥機が自由に使える(洗剤や簡単な調味料も使えるところが多いです)
  • Wi-Fiが利用できる宿泊先が多い
  • 長期的な宿泊の際にはホテルに泊まるよりも圧倒的に安く済む
  • ホストが音響設備なども開放していることもあり利用できる
  • 他にも宿泊先によっては多様なアメニティ・設備が利用できる

Airbnbで宿泊先を選ぶコツ

宿を取るにあたり、いくつかのコツを発見しました。

  • 長期間宿泊すると割引される(例: 一週間で10%割引)
  • スペシャルオファー割引(例::特定の期間に利用すると先着で20%割引)
  • これらにより一泊あたり10ドルくらい割り引かれました
  • ユーザーレビューは参考になります(過去の宿泊者のレビューに対して運営側の審査があり、あまりに的外れなことは掲載できません)

気構え

恐れやリスクによってアクションを起こすことを躊躇することは何事にも当てはまります。そのような場合に、恐怖に対して歯を食いしばり耐え忍びながらアクションするのも一つの手かもしれませんが、もっと楽な方法があります。
それはアクションを起こすことで生じ得る問題、問題の回避策、その問題が起きてしまった場合の処置をあらかじめ考えておくことです。

例:

  • 生じ得る問題:

宿泊先の雰囲気が気に入らない

  • 問題の回避策:

リラックスできるグッズを持っていく(入浴剤/ポータブルスピーカー/コーヒー/アロマ用品 等々)

  • 問題が起きた時の処置:

宿泊先を変える

回避策と処置の数が多いほど良いです。「宿泊先を変える」はこの問題における降伏のように思えるかもしれませんが、お金を払えば解決するのでどうしてもダメなら我慢して居座るよりもさっさと変えてしまう方がいいです。どんな問題であれ、あらかじめ回避策と処置の選択肢を持っていれば始めの一歩を踏み出すのはずっと容易になります。

宿泊地には前乗りする

旅をするとはいえ、平日はあくまでも仕事が主体となるので仕事に支障が出るのは避けないといけません。あくまでも仕事においてパフォーマンスを出せるのが前提条件です。当日に現地に入って仕事をしようとしたらネットワークが使えない、となるとクリティカルな問題になります。前日までには現地入りして仕事の環境を整え、テストしておくことが重要です。

旅先での計画

これもVagabondingに倣って、ほとんど何も計画しませんでした。リスクを考慮した上での行き当たりばったりが計画です。

結果

結果に関するまとめです。

宿泊

Airbnbで予約した2件の宿泊地は概ね想定した通りでした。キッチン、浴室、トイレ、ベッド、全部きれいでした。

生活臭の問題

Airbnbの宿泊施設は特に観光地であるほど世界中の様々な国籍の人々が利用します。調理ができる環境なので様々な香辛料が使われますが、この匂いが結構強力に部屋に残っていることがあります。洗っても消えないので、清潔との関係性が低いと思います。実際それを経験しましたが、平日の仕事の拠点が宿泊地である場合に、匂いはパフォーマンスに大きな影響を与えかねないダークホースです。当然、紹介ページにはそのような情報は乗っていないので、近くにスーパーなどの施設がない地域に行く場合はあらかじめ消臭剤を持って行くことを勧めます。

Wi-Fiの問題

宿泊地のWi-Fi表記には注意が必要だとわかりました。これは私が迂闊でしたが、固定回線とは限らない、ということです。要するにWiMAXでした(2件目の宿泊地)。
チェックインが対面の鍵の受け渡し方式でしたが、その際に、「天気によって電波状況が変わる」と聞きました。確かに電波状況が全く安定しておらず、問題なのは私が予備で持参した機器もWiMAXなことでした。部屋での仕事を諦め、ネット環境が安定した、車でいける最寄りのカフェなど探し始めました。 しかし、ダメ元で機器の設置位置を窓の近くに変えたらほぼ完全に正常化しました。天気は関係ないようでした。原始的なやり方ですが、同じような問題が起こったらぜひ試してください。
また、ネット環境などは事前にAirbnbのメッセージ機能を介してでホストに質問しておくことを勧めます。

仕事

いつも通り、オンラインミーティングはGoogleハングアウト、ZOOM、音声の入出力デバイスはAirPodsで行いました。離島での通信速度に関しても問題なかったです。仕事の量については平常よりもむしろ多かったですが支障は時にありませんでした。
2件目の宿泊地では徒歩で移動できる圏内には何もないので、むしろ気が散らずに集中できました。

移動、訪問場所

適当に思うがままに移動する。これは本当にオススメします。マップアプリを開いて面白そうな名称があればそこに移動しました。
食事をするにしてもアプリを開いてユーザー評価を調べた上で食事すればそれもいいかもしれませんが、それだと面白くないので見た目や雰囲気で判断しました。結果、当たりもあり、ハズレもありですがどれも新鮮な体験でした。また、旅の前は興味はありませんでしたが、沖縄は第二次世界対戦中に地上戦が行われ大勢の命が失われた場所ですので、海軍司令部壕に行ったりや博物館で歴史を学んだりしました。次の予定を決めているにしても、気に入った場所があったなら予定をキャンセルしてその場所で満足するまで過ごすのが良いです。他人の評価と自分の評価は必ずしも一致していない場合もあります。

レンタカー

行く前にはバスの利用で良いと思っていましたが、それだと時間の制約などがありやはり面倒なのでレンタカーを利用しました。
私はペーパードライバーなので普段は車を全く運転しません。よって、運転席に座ったらまずギア付近に記載された1文字のアルファベットのそれぞれの意味や周辺の計器ボタンのアイコンが何を意味するか再確認するところから始める必要がありました。雨の降り始めは窓の曇の消し方が分からず、前が何も見えないので困りました(停車しました)。 ですので、普段運転しない人は旅の前に1日くらい練習することを勧めます。

利用は予約必須

借りる際にいきなり店舗に行って借りるのと事前に予約するのでは1日あたり数千円の開きが出るため、事前の予約は必須だと発見しました。

移動するときは洗濯してから移動する

これも匂い関連の問題ですが(私は普段は別に匂いをあまり気にしません)、移動をする際にバックパックに使用済みの服(特に雨天時着用)を詰めると、袋で分けた場合でも洗濯済みの服にも匂いが伝播して最悪です。できれば移動の前に洗濯を済ませましょう。

高級リゾートホテルの風呂

安い宿に泊まっている場合でもリッチな気分になれる方法として、一泊数万円のホテルが解放している風呂の利用が挙げられます。個室の風呂ではなく、共同浴場です。千円ちょいで高級感を味わえるので良い発見でした。
また、そういったホテルは最寄りの駅から無料送迎バスが出ていることが多いのでチェックすることを勧めます。

当然ですが週末にはレンタカーで海に行きました。4月なので寒くて入りませんでしたが半日何もしないで寝っ転がってぼーっとしていました。これはやってみてください。現地の人は海や星はもはや当たり前すぎてしばらく見てすらいない、と言っていました。

食事

自炊と外食半分半分でした。日常と同じような割合なので出費も抑えられました。

夜をどう過ごすか

平日は部屋で仕事をするので、夜をどう過ごすかが重要でした。やったことは前述のように高級ホテルの風呂に行ったり、近くの飲み屋に行ったり、YouTubeで第二次世界大戦や沖縄戦について調べたのに加え、辺りをランしました。これも危険なエリアを避けた上で適当に走り回るわけですが、走行距離のトラッキングツール(Apple Watch)があったので大いにアドバンテージがありました。
また、都市部のマンションの一室で過ごしていると、結果的に都内で過ごすのと同じなのでは?という懸念があったため2つ目の宿泊先は離島の一軒家を選択しました。

持っていけばよかった装備

私の場合でいえば、コーヒー器具(手動ミル、エアロプレス)でした。かなり好きなものがあるとして、それによって生活の質が飛躍的に上がるのだとしたら、他の荷物を削って持って行ったほうが良いです。コーヒー器具は現地で買うには高価だし、手に入らないものでした。

体験

体験に関するまとめです。

慣れによる理解はデザイナーにとって体験の創出の引き出しになる

現地の食べ物について正直にいえば、はじめの数日は全く慣れませんでした。普段食べているものと違って甘いし苦いし発酵してドロドロしているので、一旦諦めて普段でも食べないファストフード店まで結構な距離を歩いて通ってました。2週間滞在して今では現地の食べ物が大好きになりましたが、これは慣れたということです。自分が理解できないからと言って、現地の人は毎日普通にその土地の料理を食べているわけなので、それらをよく理解してもいないのに拒絶するのは横柄だと気づきました。これはデザインにも言えることですが、自分が良いと思うものを追求するのも確かに重要ではありますが、それをやるには引き出しが多くなければなりません。特に広いユーザー層に対してリーチするようなサービスの場合には、様々な人々の文化や価値観、バックグラウンドを理解する必要があります。これは旅に限りませんが、デザイナーは様々な体験を通して自らの引き出しをガンガン増やして行くのが良いと思います。体験とは本やネットで得られるものでなく、感覚的なことを含めて生身を投じることで得られるプロセスだと思います。その対象が生身の人間なので当然かもしれません。

戦争で亡くなった若者と現代の若者の中身は同じ

戦時中の若い将校が妻に宛てた手紙の実物を読みました。昔の人は今の人とは違う、この固定観念は完全に覆りました。書いてあることは現在の若者がLineで送信する内容と本質的な違いが全くありません。こういうものは擬似的に過去を再現したどんなにお金をかけた壮大な戦争映画よりも大きな説得力がありました。

現地の人と話す

これについては事前に特に期待もしてなかったので、とてもラッキーな経験をしました。夕食を飲み屋で食べていたら現地の若者が話しかけてくれて仲良くなりました。現地の人でしたが、過去に東京で音楽活動をしていたとのことで、東京の共通ネタもありこれもラッキーでした。現地の人は想像よりもツンツンていると感じていましたが、彼によると沖縄の人は基本的にシャイだから、ということがわかりました。また色々と現地のローカルネタを聞かせてくれたり、食べ物を差し入れてくれたり大変お世話になりました。もちろんリスクは考えないといけませんが、うまくいくと、その土地に対するとても強力で正確な情報源になります。現地の人との交友はトライすることを勧めます。
話しかけ方としては同性に対して「現地の人ですか?」で良いかと思います。(同性でない場合はハードルが上がります)。私は「現地の人ではないですよね?」と話しかけられました。知らない土地にいるのでそのあとは色々と話は弾むと思います。

リスクを考慮した上での無計画な行動

前述の現地の方が言うには、私の宿泊した2拠点は現地の人にとってもディープなエリアだと判明しました。
一つ目の都市部の拠点では今までに肉眼で捉えた中では最も怪しげな飲食店・バーが軒を連ねるエリアでした。朝になって表に出ると、必ず泥酔したおじいさんが誰かしら道端で寝ていました。飲食店で食事をしたら速攻でお腹が下りました。私は元来こいうったノリが嫌いではありませんが、それでもうろたえて心底で厳しいと感じました。前述の現地の人が「あのエリアに綺麗な宿泊地があるのですね?」と言う意味が後でわかりました。
二つ目の離島の宿泊地は人がいませんでした。昼間だといくつかの飲食店に従業員が来ていたり、綺麗な浜辺があってよかったです。巨大なお墓がいくつも立ち並ぶ、おそらく少人数の集落がありましたが、おそらく観光目的で入られると困るので立ち入り禁止でした。廃墟も存在していました。自分がベッドに横たわって電気を消すと、自分が発する音以外は皆無でした。夜を一人で一軒家で過ごすには不気味な要素が多かったです。前述の現地の人が「あのエリアに宿泊地があるですね?」と言う意味が後でわかりました。
二カ所ともガイドブックを読んでいたら宿泊地には選ばない地域かもしれませんが、両極端なディープさを体験して正解でした。短期間で高級ホテルに泊まって毎日美味しい食事をするのも良いですが、今回はVagabondingとしての手応えを得ました。サバイブ能力が強化されたと思います。

カウンター的衝動から考える最良なUXとは

今回利用したAirbnbは旅人とホストを繋げる素晴らしい体験を提供してくれました。旅自体を大改造しているわけではないです。テクノロジーによって大ナタを振るうのではなく、適度な距離で生活をサポートしているところがグッドです。なぜ旅したいと思ったかを考えると、SNS等や閲覧・購買・位置情報などにより数字や行動パターンが過剰に統制管理される環境に対するカウンター的衝動が燃え上がっていた気もします。極端な方向に振れると逆の方向にバランスを取りたくなるのが人間です。デザイナーはそう言ったバランスを考えて体験を創出する必要があると理解しました。

私の破壊的イノベーション

Vagabondingでも旅をしながら現地の仕事をする方法は語られていますが、仕事を継続して長旅をする方法は語られていません。
今回の旅では仕事と冒険と生活が地続きのオフロードで繋がっていました。既存の壁を破壊するイノベーションが私の中に巻き起こったのを実感しました。
今ではこれをやらないデメリットの方を考える必要があると思っています。地方にお金が落ちたり満員電車も緩和され個の経験値が上がり、社会的生産性も上がるでしょう。
テクノロジーで解決するのは大切ですが、生活の再発見も必要だと確信しました。

謝辞

クラスメソッドでは必要に応じて各地の拠点での勤務ができますが、現在のところ沖縄には拠点が存在しません。ですので、今回の私のリモートワークは特例的であり、部長のはからいに寄るところが大きいです。
また、許可は得ていたものの、短期間で半ば強引に進めたプランですので、関係者にご理解を頂いたことに、この場でも深い感謝をお伝えしたいと思います。

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