【レポート】Manufacturing on AWS ~製造 DX の新潮流~(AWS-20) #AWSSummit

2023.04.25

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この記事は、4月26日に行われた AWS Summit Tokyo(2023)のセッション『Manufacturing on AWS ~製造 DX の新潮流~(AWS-20)』のセッションレポートとなります。

セッション概要

製造業のお客様のデジタル変革(DX)は、既存業務の効率化やデータ収集の自動化などを中心に取り組まれてきました。AWSクラウドを活用いただくことで DX への取り組みは新たな段階を迎え、こういった従来の取り組みに加えて、生産プロセスの改革や、モノ売りを脱却しサービスビジネスへの転換といった変化が進んでいます。本セッションでは、それらの新しい潮流について、AWS クラウドで実現するためのリファレンスアーキテクチャを最新の事例と共にご紹介します。

スピーカー

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
技術統括本部
シニア ソリューションアーキテクト
浅野 佑貴 氏

セッション視聴

AWS Summit Tokyoの登録を行うことでオンデマンドで視聴可能です。(現地参加された方は改めての登録は不要です。)

登録済みの場合、以下から直接遷移できます。

レポート

まず最初に浅野氏は、DXの定義を一旦下記のように定めた上で、セッションをスタートされました。

  • データとITを駆使して業務プロセスや製品を変革させる
  • ビジネス環境の激しい変化に対応し、競争上の優位性を確立する

これを踏まえて、製造業のトレンドとして「データドリブンな製造業」がトレンドになっていると話されました。特に製造業では少子高齢化などの影響によりベテランのノウハウを若い世代に伝承していくことが課題となっています。このため「ノウハウをデータとして」扱えるようにして伝え、この延長上に予知保全といったスマートファクトリの実現があると語ります。

一方で、ITの導入や活用だけではなく「リモートメンテナンス」の導入といったユーザー体験の変革などビジネスモデル自体を変えていく試みも必要といいます。 とはいえ、業界全体で見るとまだまだ導入が進んでいないと感じたり、PoC までの事例がほとんどでは?という意見に対して、国内企業の3つの事例が紹介されました。 例えば、旭化成株式会社の「現場手動の施策で撹拌機の異常を5ヶ月先まで予測して生産停止を予測」する事例などが紹介されました。

既に国内企業における業務改革の事例があることを強調されている点が印象的でした。確かに製造業においてもAWSやその他ベンダーが各種サービスを展開する中で、少しずつIT/クラウド活用の流れが出てきていると思います。今後数年間で先進的な事例がどれほど増えてくるのか楽しみに思います。

製造DXにおけるAWS活用メリット

次に浅野氏は、「Amazon のフルフィルメントセンターで行われている自動化やデバイス作成において、AWSも共に成長してきた。そのノウハウをAWSサービスとして提供している」と語られました。 AWS IoT SiteWise では産業用の通信プロトコルである OPC UA でデータ収集して可視・モニタリングするサービスとして提供されており、外観検査においては、Amazon Panorama というサービスでエッジに設置するデバイスとコントロールするためのデバイスも販売しています。これにより 工場で作業員など人が倒れた際にそれを検知することができるようになります。

私自身つい先日、工場の作業員が作業アームに挟まれる動画を見たことがあり、こういった安全性対策を専用サービスにより迅速に導入できるようになるのは素晴らしいなと感じました。

製造DXにおけるAWS活用モデル

ここまでで業界の課題や AWS の個別のサービスの紹介がありましたが、実際に個々のユーザー企業がAWSを導入する際にはどうすればいいのでしょうか? 浅野氏は「ビルディングブロック」というモデルを用いて、システムを構成していくことができると紹介されました。

例えば、データ処理を受け持つコンピュートサービスでは、サーバーレスやコンテナが選択肢になりますが、実際の要件とサービスの仕様に合わせた選択を行います。また、先程の AWS IoT SiteWise などのようにある程度目的がはっきりしているなら目的別にAWS サービスを選択したり、サードパーティのツールのように既にベンダーによって検証済みのソリューションを導入する選択肢もあります。 そしてこれらの選択において、例えば「産業設備からのデータ取得」というユースケースで考える場合なら「OPC UAを使うなら AWS IoT SiteWise をまず考え、そうでなければ違うサービスの選択を考える」というように「柔軟性とユースケース特化のバランス」で考えて選択することが重要といいます。

また、自社だけでは難しい場合は、産業用ソフトに強みを持つパートナー企業と一緒に検討するという選択肢もあり、製造業におけるパートナーネットワークも紹介されました。

製造業においては、設備機器からデータを取得するだけでも機種や型番によってデータ通信のインターフェースやプロトコルが異なることがあります。そのため自前で個々に対応するのは難しい場面もあると思うので、必要に応じてパートナーネットワークや、パートナーが提供するデバイスを利用する選択肢は効果的に思います。

ビルディングブロック活用の壁

ここまで、様々な選択肢をビルディングブロックで構築する観点で話が進んできましたが、ユーザーとしては「なぜサービスの組み合わせが必要なのか?」「完成品を使えばいいのでは?」という疑問が生じます。この疑問について浅野氏は、「DXはゴールが明確ではないことが多い」「典型的なユースケースがサービスとして提供されている場合がある」ため、PoCで迅速に検証を実行し結果として有益と判断できたら本番化することも容易になるといいます。

一方で、200以上あるAWSサービスから「どのサービスが要件にフィットするのか?」「どう組み合わせればよいのか?」という疑問に対しては「AWS が公開しているリファレンスアーキテクチャ」の活用が紹介されました。この中には「製造業向けリファレンスアーキテクチャ」も含まれており、製造業における課題を解決する全体像が紹介されています。 「製造業向けリファレンスアーキテクチャ」の全体像は「やりたいこと」の観点で次の4つのに分類できるため、自分たちの要件に合わせて参考にしながら設計していくことになります。

  • Smart Factory
  • DataLake / Analytics
  • Smart Product
  • HP / Enterprise Apps

下記はセッションの投影資料ではないですが、同様の内容で「AWS for Industrial」の説明資料の中で紹介されているものになります。(48ページ目)

aws-20-reference

エッジ側の設計からデータ分析など網羅的なアーキテクチャが提示されているため、自社の課題と照らし合わせながらDXの推進がやりやすくなると思うので、このリファレンスは今後も活用していきたいと思います。

製造業向けリファレンスアーキテクチャ

「製造業向けリファレンスアーキテクチャ」のうち、産業機器からのデータ収集においてはサービスの選別について次のように解説がありました。

  • 既存環境が OPC UA を利用しているなら AWS IoT SiteWise が最初の選択肢
  • 実際にはOPC UA以外のプロトコルを使っていることもある。
    • そんな場合は、Machine to Cloud 接続フレームワーク(OPC DA,Modbus TCP, OSI PI)などの検証済みソリューションやサードパーティのアプリを検討

また、製造業に特化したサービスやソリューションを使わず、サーバ上で AWS CLI を使って S3 にデータファイルをアップロードするケースも紹介されており、要件に応じて無理なく使える形でサービスやツールを使い分けていくことが大切だと解説されています。

これは、データ分析においても同様で、下記のようにレベルや要件に応じて柔軟にサービスやアプローチを選択して利用する手法が紹介されました。

  • Amazon Monitoron でセンサーを設置して温度・振動のデータを取得して機械学習で推論
  • 任意のデータなら Lookout for Equipment で機器の異常検知
  • 自社で研究開発できなるなら Amazon SageMaker などを使って独自モデルの開発

最後に

エッジのデータ収集や分析など製造業のいずれの場合においても、次のように何らかの形で AWS のサービスやツールをうまく使って効率的にサービス開発することが重要なポイントになることが分かりました。

  • ユースケースにマッチしたサービスがあれば、まずはそのサービスを使ってみる
  • そうでなければ部分的に使えそうなサービスを試す
  • カスタム要件においてもAWSのサービスやツールなどを使うことで開発工数が省力化できる

これらのポイントは製造業に限らず他のWebアプリケーションでも同様の考え方になると思います。製造業向けのサービスも多くありますが、個々の特徴を抑えて効果的な導入ができればと思います。

以上です。