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そもそも「Wi-Fi」がふわっとしている人向けに「Wi-Fi Halow」を超噛み砕いて説明してみる

2016.01.09

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こんにちは、せーのです。今年もブログ書いていきたいと思います。よろしくお願い致します。

.........ここWi-Fi飛んでるな。

ということで私の新年一発目のブログは最近発表されたIoT向けのWi-Fi新規格「Wi-Fi Halow」についてです。

暈(かさ・Halo) + 低電力(Low)= "Halow"

Wi-Fi Halow、とは数日前にWi-Fi Allianceから発表された新しい無線技術 "802.11ah" 採用製品の名称です。読み方は「ワイファイ ヘイロー」です。
由来は「暈」とか「後光」とかの意味を持つ"Halo"と特徴である低電力を表す"low"を組み合わせた造語です。

Wi-Fi Halowの特徴

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サブギガ帯を使用

Wi-Fiは今まで2.4GHzと5GHzの2種類の周波数帯を使用してきましたが、今回の最大の特徴は900MHz帯、所謂サブギガ帯を使いながらもWi-Fiと同様の規格で無線通信を行う、というのが最大の特徴となります。

伝送距離、伝送速度

サブギガ帯を使用することで建物などの回り込みに強く、また混み合っている2.4GHzを避けて電波干渉が少ない通信が行えることが想定されています。また通信範囲は2.4GHz/5GHz帯に比べて約3倍以上と言われており、最大で約1kmはWi-Fiが飛ぶ、と言われています。
通信速度は150kbpsとのこと。流石にそんなに早くはできないですね。

IP通信可能。既存のWi-Fiネットワークに簡単に組み込める

従来のWi-Fi規格に則っているため、既存のWi-Fiネットワークに容易に組み込むことができるようになります。またWi-Fi Halow自体も2.4/5GHz帯で動作するように設計されていますので一般家庭に広まるのも早いのではないでしょうか。

。。。とここまでがよく言われる「Wi-Fi Halow」の解説です。
どうでしょう。分かる人には未来の見える規格であることがわかります。「そんなに速度は出ないけど通信範囲がめちゃ広い」「たくさんのデバイス(最大約8000)が同時接続出来るようになっている」ということからも工場や野外等も含めたIoT/M2Mデバイスの一括送信を念頭に置いているのだな、と感じます。

ただ、エンジニア以外の人には具体的な数字を出されても何か「ふわっと」しているのではないでしょうか。「なんか役立ちそうなんだろうけど、結局わかったようなわからないような」という方も多いかと思います。そこで今回は上の解説のうち「ふわっと」しか理解してない人が多そうなキーワードをなるべく噛み砕いて説明してみようと思います。

サブギガ帯ってなんだ

まずはWi-Fi Halow最大の特徴である「サブギガ帯」についてです。サブギガ帯、とは1GHz以下の周波数帯の事を指します。全世界で決まっている2.4GHzや5GHzと違い、1GHz以下は国によって割り当てられている周波数帯が微妙に違うため数字を直接言わず「サブギガ帯」と称します。 今回はWi-Fi Halowに割り当てられるであろう900MHz帯について説明致します。

特徴

900MHz帯の特徴としては

  • 通信距離が長い (2.4GHzの3倍)
  • 低消費電力
  • 建物、部屋の壁などの障害物に強く、電波が回り込みやすい

ということが上げられます。大体周波数としては「400MHz帯」「900MHz帯」「2.4GHz帯」「5GHz帯」「60GHz帯」くらいがカテゴリとして分類されますが、900MHz帯は400MHzに比べれば伝送速度が早く、2.4GHzに比べれば電波が届きやすい、という通信機器にとっては丁度いい周波数帯となっています。

経緯

周波数というのは自由に使っていいものではなく、それぞれの国でそれぞれの周波数が何に使われるかを割り当てています。日本でも総務省が周波数の割り当てを行っており、周波数帯によっては総務省が許可した事業者以外はその周波数が使えません。

2011年に地上波テレビ放送がデジタル化、所謂地デジ化に伴って空きの出たUHFの周波数帯(400MHz-700MHz)の再編を行うのに合わせ、900MHz帯の再編も検討され始めました。900MHz帯は上にあるように通信機器にとって非常に使いやすい周波数帯のため「プラチナバンド」と呼ばれ、特に各携帯電話会社がこの周波数帯を取りたい、と色々な活動をしていました。

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※総務省発行 「我が国の電波の使用状況」より

結局950MHzにあったRFID(ICタグとかに使う通信型式)を900MHzに移し、950MHzには新たにソフトバンクモバイルが入りました。2.4GHzに電子レンジやWi-Fi、Bluetooth等デバイスが非常に混雑しているのは、それが10mW以下の出力であれば免許不要で利用できるよう開放されている領域(ISMバンドと言います)だから、なのですが 2012年に総務省が国際協調、国際競争力の強化の観点から法改正を行い、920MHzでも免許不要で使用できるようになりました(ちなみに出力は10mWから20mWに引き上げられました)。恐らくWi-Fi Halowはここらへんの周波数帯を使うことになるのではないか、と思われます。

つまり「Wi-Fi Halow」はみんなが使いたがっていた900MHzの周波数帯を使ってWi-Fi通信の新しい未来の形を示すものになるわけです。

周波数ってなんだ

さて、さらに掘り下げていきます。先程から「周波数帯」とか「900MHz」とか言っていますが、そもそも「周波数」とはなんなのでしょう。なんか心電図みたいな波がクネクネしているイメージです。

周波数とはある単位時間あたりに繰り返される振動の回数を示します。「振動」の種類は内容により様々です。例えば電力では電圧の上下による振動、音波では空気が圧縮されて元に戻ることを繰り返す振動、となります。単位はHz(ヘルツ)となり、1秒間に1回振動すれば1Hzとなります。

電力→音→電波(電磁波)

では具体的に周波数帯を見ていきましょう。

電力

電力は直流の場合は一定の電圧で電気が流れますが交流の場合は電圧が上下します。この振動が周波数となります。日本では東日本が50Hz、西日本が60Hzとなりますね。

音波はスピーカー等が空気に圧力を与え、それが空気を伝わって人間の耳に届く、その圧力の上下が周波数となります。音の周波数は20Hz~20000Hzと言われますがこれは可聴領域(人間が聞こえる範囲の音)であり、実際はそれより高い音も低い音も存在します。例えば20Hz以下の周波数の音波を流し続けると人には聞こえませんが不安になってきたりすることが知られています。ちなみに256Hzの周波数で音波を流すと「ド」の音になります。

電波

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電波の周波数は昔学校で習った「右ねじの法則」というのが基本定理になります。右ねじの法則とは電流を流すとその回りに右ねじのまわし方の向きで磁界が発生する、というものです。これは逆も言えて磁界がある回りには電界が発生します。つまりアンテナに電流が流れ、そこに磁界ができて、その磁界の周りに電界ができ、そこに磁界ができ、、、とつながっていって進むもの、これが電波の正体です。この仕組みは波動方程式(マクスウェルの方程式といいます)、というもので導き出すのですが、それは大学かネットで調べてみましょう。

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このようにして電波は進みます。

電波(電磁波)の周波数は多岐に渡り、10HzのULFと呼ばれる波長からはじまり、ラジオのチャンネルの周波数帯に使われるのが66-90MHz辺り(FM)、地デジが470-710MHz帯、その上に本日のテーマになっているサブギガ帯(400MHz〜900MHz)、ISMバンド(2.45GHz)と続き、赤外線(3THz - 400THz)、光ファイバー(193.1THz)、紫外線(750THz - 30PHz)、X線(30PHz - 3EHz)と続きます。これらは全て電波(電磁波)です。 電波は音波と違い空気がなくても伝わります。なので衛星のような宇宙空間から電波を飛ばすことができるんですね。

大体周波数、というものがしっくり来ましたでしょうか。

Wi-Fiってなんだ

Wi-Fiとは、「Wi-Fi Alliance」という業界団体がIEEEという国際標準規格で定めた無線通信の規格を広めるためにつけた「ブランド名」のようなものです。メルセデス社があの車に「ベンツ」と名づけるような感じです。

802.11とは

Wi-Fiの話をすると必ず出てくるのがこの「802.11」という数字です。802.11acとか、802.11n/g/b、とかですね。この802.11というのは米国電気電子学会(通称IEEE)というところの「802標準委員会」というところの「11グループ」でこのWi-Fiに関する規格を決めているのでこのように呼びます。

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※WikiPediaより

現在802.11ではこれだけの規格の話し合いが行われています。今回の「Wi-Fi Halow」はそのうちの[802.11ah]という規格になります。最近では他には802.11adについてサムスンが開発に成功した、というニュースが出ていましたね。

Bluetoothとの違い

Wi-FiとBluetoothはどのように違うのでしょう。それはターゲットとする通信距離です。よくWi-Fiを「無線LAN」といいますがこの「LAN」は「Local Area Network」の略で、ローカルエリアをカバーすることを目的にしています。対してBluetoothは「近距離の無線通信」を目的としています。これを「無線PAN(Personal Area Network)」と言います。

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Bluetoothの特徴は「近距離」「低電力」「接続が簡単」となります。昔は通信速度がWi-Fiに比べて遅かったのですが、現在のBluetooth4.2では理論値54MbpsとWi-Fiとほぼ遜色ない速度まで上がってきました。 Bluetoothは現在のIoTデバイス接続では主力と言ってもいい通信規格ですが、今回のWi-Fi Halowの登場により、もしかしたら勢力図が変わるかもしれません。

Zigbeeとの違い

ZigbeeとはBluetoothと同じ「無線PAN」に分類される通信規格です。特徴は「低電力」「複数接続」「スリープからの復帰、スリープへの戻りが早い」ということがあげられます。
ZigbeeはBluetoothに比べて何万台、というデバイスを同時に繋げることができ、必要な時にスリープから復帰し、仕事を終えたらスリープにすぐ戻ることで消費電力を抑えています。最新のZigbee3.0では色々な規格があったZigbeeシリーズを統一することを宣言し、より明確なポジションを確立しようとしています。

Wi-Fi HalowはZigbeeの役割を汎用的なWi-Fiの規格で行う、という理想の元に作成されているように見えます。そういう意味ではWi-Fi Halowの進むゴールはZigbeeの長距離版、ではないでしょうか。Zigbeeは2.4GHzで動きます。Wi-Fi Halowの方がつながりやすい、という状況になった場合はWi-Fi Halowに一日の長が出てくるかと思います。

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Wi-SUNとの違い

Wi-Fi Halowの標準化を策定した802.11ahの当初の目標の一つとして「Wi-SUNと共存できること」というのがあげられています。Wi-SUNとはスマートセンサー、つまり電気やガスのメータデータを収集する時に使われている通信規格で、サブギガ帯を使用しています。またWi-SUNの仕様はIEEE 802.15.4gというZigbee(802.15.4)がベースになって周波数帯の変更などが行われた仕様となっています。つまりIoTデバイス環境では理想的なものであり、さらに最近では「Wi-SUN HAN(Home Area Network)」というエアコン、照明、太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池、給湯器、EV充電器、スマートメーターを通信させる無線規格を立ち上げており、このWi-SUN HANが拡張、一般化した場合ユーザーはWi-Fi Halowとどちらの無線規格を使うか選択する場面も出てきそうです。どちらがスタンダードになるか、現時点ではまだわかりません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。Wi-Fi Halowを出来る限り噛み砕いて解説してみました。
まとめますと、Wi-Fi Halowとは

  • 802.11ahという無線規格に名づけられた通称
  • Bluetoothよりは沢山つながる。Zigbeeよりはつながらない
  • サブギガ帯を使うことでZigbeeとの差別化を測る
  • ライバルはWi-SUN HANになりそう
  • 全てのIoTデバイスが同一Wi-Fiネットワーク内に配置されるとPush処理とかは超ラクになる

という代物です。
Wi-Fi Halow対応の製品は再来年くらいから発売される、との見通しが出ています。 それまでにIoTの通信を取り巻く現状がどう変わっていくか、注目されます。