【書評】影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか #ビジネス書を楽しもう

2020.12.07

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はじめに

せーのでございます。

誰にも知らせずまったり始めている「ビジネス書」アドベントカレンダー、本日は7日目です。

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本日ロバート・B・チャルディー二著「影響力の武器」です。

これも行動心理学の名著と言われ、数々の増刷、加筆、修正が加えられて、現在は第三版となっています。

ロバート・B・チャルディーニさんはアメリカを代表する社会心理学者で、社会的影響過程、援助行動、社会的規範に関する数多くの業績を上げている方です。

そんなロバート・B・チャルディーニさんがこの本で研究しているのは「人の態度や行動を変化させる心理的な力」に関してです。
一見仕事術とは関係ないように見えるテーマですが、この本を選んだ理由は「他人を騙せる手法は自分も騙せる」と思ったからです。この本では様々な心理学上の定義や実験を通して「人が承諾する心理」について語られているのですが、これをそのまま自分に適応させた場合「必要なものにコミットし、不必要なものにはコミットしない」という選択が可能になります。このことによってより集中した状況で生産性の高い作業ができるのです。

今日は少し複雑なので、なるべく簡単に説明するために単純化してみようと思いますので、みなさんもついてきてください。

ベースにあるのは「信号刺激」

まず承諾する心理についての基本的な原則として「信号刺激」という論理が紹介されています。   信号刺激、とは、生物における固定的な動作パターンは、ある一つの特徴からのみ引き起こされる、というものです。 それは動物界では、ひな鳥の親が、自分たちの子供が鳴いていると自動的に防衛行動として周りの生物に攻撃を加える、というようなものですが、人間に置いてはいくつかのステレオタイプにより決定されます。

この本では例えとして「売れ残った指輪」の例を出しています。売れ残った指輪を売るためには、価格を1/2にするより、2倍にした方が売れるのだそうです。それは人間の「高いものはいいものだ」というステレオタイプを利用しています。

この現象をかみ砕くと、その指輪が「価値のあるものかどうか」を判断する材料が値段しかなかったために、人々は高価な指輪をいいものだ、として買ったわけです。これは「日常における判断はもっとも身近な一つを選ぶ傾向にある」という心理的効果に基づいていて、これを「判断のヒューリスティック」と呼ぶそうです。

「判断のヒューリスティック」が効くステレオタイプは大きく分けて

  • 返報性
  • 一貫性
  • 社会的証明
  • 好意
  • 権威
  • 希少性

という6つのカテゴリに分けられます。つまりこれらの原理を使うと人間は承諾しやすくなる、ということです。

更にこれらを後押しする原理としてこの本では「知覚のコントラスト」という理論が紹介されています。これは、「二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、それが実際以上に最初のモノと異なっていると考えてしまう傾向」のことを言います。

例えば最初に重たいものを持つと、次に持ったものが軽かった場合、何も持たなかった状態で持つよりも軽く感じる、というようなことです。これを商売に応用すると高いものと安いものがあった時、最初に高いものを勧めておくと、次に安いものを勧めたときにより安く感じて買いやすくなる、という現象が生まれます。

この「信号刺激」と「知覚のコントラスト」をベースとして、人が承諾する心理を理解していきましょう。

返報性

「返報性」とは「人に何かしてもらったら何か返さないと不快になる心理」の事です。

返報性の例としてこの本ではチケット売りの話を紹介しています。
それはAさんがチケットを売る場合、チケットが売れた確率が高かったのが

  • Aさんに対する好感度が高かった場合
  • Aさんからコーラをもらっていた場合

の2つだったそうです。ここで注目すべきは、コーラをもらっていた場合Aさんを好きか嫌いかに関係なくチケットを買っている、という点です。「借りをかえさなければ」という義務感は想像以上に大きい、ということですね。

この返報性の原理を利用した手法に「ドアインザフェイス」というテクニックがあります。これは最初に高い要求をしておいて、相手がそれを断ったら譲歩して低い要求を出す、というテクニックです。
相手にとってみれば最初に相手が譲歩しているので、自分も譲歩しなければ、という返報性の原理が働いて、低い要求をのみやすくなります。

最近流行ったビジネス書で「GIVE & TAKE」という本があります。これは人間を「GIVER(与える人)」「TAKER(もらう人)」「MATCHER(損得勘定する人)」に分けて、GIVERが最終的に成功する理由などを書いた本です。

この本では「見返りを考えずに与えること」について書かれているのですが、実は「与えられた側」にこの返報性の原理が働いているために、最終的に返ってきやすいのではないでしょうか。
しかし「最終的に返ってくるだろう、と考えて与える人」は「GIVER」ではありません。それは「MATCHER」となります。ここら辺の考え方とこの本での影響力の考え方は少し違ったベクトルで書かれているので、こちらの本も読んでみるとよりこの「影響力の武器」が面白くなるかと思います。

一貫性

次に紹介する原理は「一貫性」です。これは「人間は最初に決めたことを変えたくない」という心理の事です。
この一貫性の例として子供のクリスマスプレゼントに関する話がとても分かりやすいです。あらすじをざっと紹介すると

  • クリスマス前に特定のおもちゃの魅力的なCMが流れる
  • 子供がそれを親にねだり、親はそれを買うことを約束する
  • 実際にはそのおもちゃは売り切れており、代わりに同じくらい魅力的なおもちゃが店頭に置いてある
  • 親は代わりにその代用品を子供に買う
  • クリスマスが終わった後、本来買う予定だったおもちゃが店頭に並ぶ
  • 子供はそのおもちゃを「買ってくれるといったじゃないか」とねだる
  • 親は一度約束している手前、そのおもちゃも買ってしまう

という話です。もちろんクリスマス前に品薄になり、クリスマス後に充分な量を卸しているのはメーカーの戦略です。大切なのは「一度約束をしたら、その自分の言葉を裏切りたくない」という一貫性の原理なのです。

この「約束する」という行為を「コミットメント」と言うのですが、コミットメントには特徴的な要素が2つあります。それは

  • 「紙に書く」という行為はコミットメントを強める
  • 外部からの圧力によるコミットメントは効果が薄く、自分の意志によるコミットメントは効果が高い

ということです。これは効率的な仕事をする上でも役に立ちます。守りたい目標は「紙に書く」ことで達成されやすく、誰かにコミットメントを求めるときは、圧力をかけずに最低限の方法で「自分からやるように言わせる」ことが大事、ということです。この本ではこのコミットメントについて「子供のしつけ」を例に紹介しています。

子供にあるおもちゃを使わせたくない場合、「このおもちゃで遊んだらお仕置きするからね!」と強く圧力をかけた場合、子供はその親がいなくなったらこっそり遊ぶ確率が高く、「このおもちゃでは遊ばないでね」と最低限のお願いだけをして、本人が納得した場合は、親がいなくても遊ばなかったのです。

つまり、自分で決めたことは守りたいという思いが強くなるわけですね。

社会的証明

社会的証明、とは「特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断すること」を指します。
バラエティ番組に差し込まれる笑い声が代表的な例で「ここで笑っている人が多い、と判断すると笑いたくなる」という心理を利用しています。
この方法の面白いところは「笑い声が人為的に差し込まれている、と理解していても笑いたくなる」ということです。これはまさに「信号刺激」と言われる現象で、笑い声を聞いた時に、反射的に脳が「面白いもの」と判断してしまうわけです。

この社会的証明の原理を細かく定義する上で必要な知識として「集合的無知」というものがあります。

これは「自分の決定に確信をもてない時、状況が曖昧な時、人は他の人々の行動に注意を向け、それを正しいものとして受け入れる」という現象の事です。

つまり、ほかの人の影響を受けやすい時は自分がその事に関して情報を持っていない時、と言う事です。
これは「空気を読む」日本人には特に顕著な現象で、情報が不足、もしくは錯綜しているような時に、数人が一斉に発信した情報に一気に世論が傾く、ということは最近よく見る現象です。SNSなどの炎上パターンも、その情報が発信された時ではなく、インフルエンサーがその情報に対して批判した時に一気に燃え上がることが多いです

これは例えば勉強会などで質疑応答の時に最初は誰も手を上げないのですが、2人くらいが質問しだすと、一気にみんなの手が上がる、という現象でも確認できますね。その場が「わからない事は質問して構わない」という事が確認されて初めて自分の行動を決めるわけです。

好意

これは単純です。「自分が好意のある人の言う事は聞きやすい」というものです。
では「好意を持つ」原理はなんでしょう。この本では人が人を好きになるのは

  • 外見がいい時
  • 自分と似ている、と判断した時
  • 自分のことを好きだ、と判断した時
  • 自分になじみがあるとき(単純接触効果)

なのだそうです。営業の人なんかはここら辺を留意して顧客と接しているように見えますね。
また興味深いのは、人を良く思ったり悪く思ったりする材料として、その人自身のことではなくても「悪い出来事や良い出来事とただ関連がある」というだけで、人はその人に好意を持ったり持たなかったりするそうです。
例えば魅惑的な若い女性モデルが写っている新車の広告を見た男性は、モデルがいない同じ車の広告を見た時よりも、その車を高く評価するのだそうです。モデルの評価が関連付けられて車の評価に移るわけです。

権威

権威、とは「人は権威者の命令に従いやすい」というものです。
この場合の権威、を判断するのは色々な材料があります。それをシンボルといいます。代表的なシンボルは

  • 外見。服装や装飾品など
  • 肩書
  • 能力の断片

などがあげられます。これらを見せつけられると、人は権威の原理により信号刺激が起こり、その人の言う事を聞きやすくなる、というものです。

外見や肩書はなんとなくわかりますね。「能力の断片」について、この本はこんな例を出しています。

あるレストランでチップを段違いに稼ぎ出すウェイターがいました。そのウェイターの接客方法はこうでした。

  • 家族連れ: いささか道化じみて見えるほど元気よく接する
  • 若い二人連れ: 堅苦しく、いささか偉そうに接する。男性にしか話しかけない
  • 年配の夫婦: 同じく堅苦しいが、偉そうな表情は見せず丁寧に接する
  • 常連客: 友達のような物腰で温かくもてなす

特に団体客に対しては、彼らが何を頼んでも「その料理は今夜はお勧めできません。その代わりに〇〇やXXをお勧めします」と少し安い料理を二つすすめるのだそうです。「今夜は両方ともすごくおいしいんです」

これが「能力の断片」で、つまりこの場ではこのウェイターが、今日は何がおいしくて、何がおいしくないか、という情報を熟知していることが大事で、さらに少し安い料理を勧めていることから、このウェイターは信頼できる情報提供者、と認識され、その注文をしやすくなるわけです。さらにサービスとして貴重な情報を受け取った客は返報性の原理が働いて、よりたくさんの注文をしたいと思います。結果このウェイターはチップをたくさん手に入れるわけです。

この原理は個人的には肝に銘じておかなければいけない、と感じました。
私たちは専門的な知識をお客様に提供することが多いので、それにより知らず知らずのうちに権威の原理により、お客様が自分で判断せずに無条件にこちらの言う事を飲んでいる可能性もある、ということです。
私たちはその可能性も考慮して、正確な情報を伝え、一緒に考えてもらうことが大事だな、と思います。

希少性

最後は希少性です。これは「希少なものは手に入れたくなる」という心理ですね。
この時の希少、という意味は「数が少ない」という場合と「手に入れられる時間が限られている」という場合があります。

もう一つ、希少性の原理を理解するうえで大切なのは「心理的リアクタンス」というものです。

これは「人は自由な選択が制限されたり脅かされたりすると、自由を回復しようとする欲求から、その自由を以前より強く求めるようになる現象」を指します。

つまり「タイムセールの商品」は「タイムセールの時間に安く買うことができた」という自由を制限されることによる心理的リアクタンスが働いて、よりその商品を欲しくなる、という論理なのです。

更にこの希少性の原理をよく適用できる条件として

  • ある品が新たに希少となった場合: すでに制限されているものよりも新たに制限されるようになったものにより価値を置く
  • 他人と競い合っている場合: 人と競争している時、希少性の高いものに最も引き付けられる

の2つがあげられます。

最もよく表しているのは「タイムセール」の「早い者勝ち」みたいな時でしょうか。他人と競い合って、いつ売り切れるかわからない商品が欲しい場合、人は最もその商品に価値を置くことになります。

これらの原理を組み合わせると、こんなパターンが考えられます。

あるサイトでタイムセールで早い者勝ち、50%オフの商品があったとします。
もしそれに負けて買えなかった時に、似たような商品を30%オフで買える、となったらどうでしょう。ここで希少性の原理より「ここの商品を買いたい」と強く思った購買者は、一貫性の原理により「何か買わないと収まらない」状態に陥り、さらに30%オフの商品を見て「返報性の原理」が働いて、ついつい買ってしまうのです。

これ、つい最近私が経験したことだったりします。影響力の武器には抗えない、と改めて感じます。

まとめ

ということで今日は「影響力の武器」をご紹介しました。実はこの本、大変長いです。今回はかなり省略してご紹介していまして、本の中にはより具体的な例が沢山載っていますので、じっくり読んでみることをお勧めします。

仕事術、という観点で考えると、これらの心理学的現象は「人に何かを求めるとき」には非常に有効に働きます。例えばマネジメントや、チームでの作業などには役立つ知識となるでしょう。

同時に生産性を上げる、という観点で考えた場合、例えば最初にあえて誰かに何か作業をお願いしてみると「返報性の原理」により自分の作業を行うきっかけになったりします。ほかにも目標を書き出して「一貫性の原理」で自分にコミットメントする、ライバルを作って「希少性の原理」を元に競い合う、などをしてみると生産性が上がるのではないでしょうか。

それではまた明日、お会いしましょう。