製造業界におけるアジャイル導入の課題と挑戦

製造業界におけるアジャイル導入の課題と挑戦

私たちが製造業界でアジャイルを導入する上で感じた難しさと、成功に向けて重要だと感じたポイントについて紹介します。
Clock Icon2024.12.02

この記事はクラスメソッド発 製造業 Advent Calendar 2024の2日目の記事です。

私が所属する「産業支援グループ 製造ビジネステクノロジー部」は、『クラウドとリアルの融合により製造業の新しい可能性を切り開く』という理念のもと、製造業界のお客様の課題解決と価値の実現を目指して活動しています。技術力、クラウド、アジャイルを強みとし、多くのお客様をご支援してきました。

これまで、私は製造業界のいくつかの案件でスクラムマスターとして関わってきました。製造業界のお客様と共にアジャイル開発を実践することには、特有の課題とやりがいがあります。この記事では、その中で感じたこと、学んだこと、そして現在取り組んでいることについてお伝えします。

アジャイル導入支援

製造業界はソフトウェア業界と比べて歴史が長く、確立した製造工程や品質基準が数多く存在します。ソフトウェア開発においてもハードウェア開発を基にしたウォーターフォール型に慣れているお客様が多く、アジャイル開発はまだ新しいと感じられるケースが少なくありません。中には「自組織にはアジャイルは適用できない」と諦めてしまうお客様も見受けられます。

しかし、近年の製造業では、ソフトウェアが製品価値の中心的な役割を担っています。自動車ではインフォテインメントやエネルギーマネジメント、家電ではクラウドやAIを活用した機能強化が顕著です。このような背景から、ソフトウェア本来の柔軟性を活かす「しなやかな開発プロセス」が求められています。

私たちは、この課題を解決するために、アジャイルを通じてお客様の競争力強化と価値創出を支援しています。プロジェクト初期には説明会やワークショップを開催し、アジャイルの意義を共有しました。

具体的には、勉強会やワークショップにより以下のような内容を説明しました:

  • アジャイルを採用する理由、その背景とメリット
  • 開発プロセスの全体像とスクラムの重要なエッセンス
  • プロダクトの目的と価値の明確化
  • チームの役割と優先事項の整理
  • ユーザーニーズを基にした業務ドメインの可視化

これらの説明を丁寧に行うことで、お客様がアジャイル開発の意義を理解し、エンジニアチームとワンチームとなって積極的に関与していただけるケースが多くありました。

これらの経験を基に、現在、製造ビジネステクノロジー部では「アジャイル導入支援」という形で、お客様の理解度に応じたアジャイル研修のメニュー化に取り組んでいます。

このような取り組みを通じて、お客様と開発チーム共にゴールと期待値をすり合わせた上でスムーズにアジャイル開発に移行することは、アジャイルチームの成功に向けた第一歩として非常に重要だと感じています。

クライアントとの共創

アジャイル開発の導入は、プロジェクトのスタート地点に過ぎません。プロジェクト進行中には予期しない課題が次々と発生します。こうした不確実性をどのように乗り越え、適応していくかが、アジャイル開発の本質だと言えるでしょう。

その中で特に重要になるのが、「クライアントとの関係性」です。

私たちは、単なる受発注の関係を超えて、透明性を持ちながらお客様にも主体的に参画していただくスタンスを大切にしています。

この姿勢により、一度請け負ったお客様とは非常に長く良い関係を築くことができています。実際、既存案件の継続受注が多いことは、この信頼関係の深さを物語っています。単なる取引を超えたパートナーシップが、お客様と私たちの双方にとって価値を生み出していると感じています。

たとえば、私が参画した過去のプロジェクトでは、可能な限りお客様にもデイリーミーティングに参加していただきました。課題が発覚した際には、素早く透明性を持って共有することを徹底しました。また、継続的なふりかえりもお客様と一緒に行うことで、「問題対私たち」というチーム一丸となったマインドの醸成に大いに役立ったと感じています。

プロダクトゴールの継続的な見直し

プロダクトゴールは、チーム全体が同じ方向を向くための羅針盤です。いま作ろうとしているものが実現したい価値に近づいているかどうかを継続的に見直す活動は、価値あるプロダクトを作るために必要な活動です。

しかし、一度作ったプロダクトゴールはなかなか見直されないケースが多いのも事実です。顧客ニーズや市場環境が変化する中で、ゴールを見直すことなく進めると、実現したい価値から遠ざかってしまうリスクが高まります。

そこで私たちは、プロジェクトの状況に応じて定期的にプロダクトゴールを再確認し、必要に応じて修正する仕組みを目標設定として取り入れました。

しかし部内のアンケートによれば、これを継続的におこなえているチームはまだ全体の2割程度です。今後は部内にこのプロセスを導入し、部全体としてのプロジェクトの価値を最大化していきたいと考えています。

製造ビジネステクノロジー部のOKRと今後の展望

現在、私たち製造ビジネステクノロジー部では、アジャイル推進のためのOKRを設定し、「継続的・漸進的なプロジェクト進行と仮説検証サイクル」を回すことを目指しています。

その達成に向けて、

  • プロダクトゴールの再定義
  • スクラム運用の課題改善
  • 技術的負債の解消

を重要な指標としています。

特にスクラムに関しては8割以上のチームが採用しているものの、その半数がスクラムの運用に何かしらの課題感を持っていることがアンケート結果からわかりました。この課題を克服するため、スクラムマスター間での知識共有や、技術的な改善に役立つノウハウの蓄積を進めています。

おわりに

アジャイル開発には、クライアントとの密接な協力や、透明性の高いチーム文化の醸成が欠かせません。製造業界では、特に丁寧なアジャイル導入支援が必要と感じています。また、私たちの部門でもプロダクトゴールの継続的な見直しや技術的改善など、まだまだ改善の余地もあります。

これからも製造業界におけるアジャイル開発を進化させ、より多くの価値を生み出していくことを目指していきます。

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