[セッションレポート] モノタロウのAI駆動開発の実践 #AI駆動開発 #aidd

[セッションレポート] モノタロウのAI駆動開発の実践 #AI駆動開発 #aidd

Clock Icon2025.05.09

お疲れさまです。とーちです。

先日、AI駆動開発カンファレンス2025というイベントに参加し、株式会社MonotaROさんのセッションを聞いてきたのでレポートします。

セッションでは、BtoB ECサイト大手であるモノタロウが取り組んでいるAI駆動開発の実践内容について、活用方針、使用しているAIツール、具体的な成果など組織にAI駆動開発を浸透させるための情報が詰まった内容になっており、大変勉強になるセッションでした。

なお、下記の株式会社MonotaROさんのテックブログにもAI駆動開発の内容が詳しく書いてありますので、こちらもご参照頂ければと思います。

https://tech-blog.monotaro.com/entry/2025/04/24/091000

登壇者

  • 株式会社MonotaRO 執行役CTO/VPoE 普川 泰如様
  • 株式会社MonotaRO プラットフォームエンジニアリング部門長 香川 和哉様
  • 株式会社MonotaRO AI駆動開発チームリーダー 市原 功太郎様

セッション内容

モノタロウの事業と課題

セッションの冒頭では、モノタロウの事業概要と課題について説明がありました。モノタロウはBtoB向けのECサイトを運営しており、非常に多くの商品点数を扱っています。売上は継続的に伸びており、それに伴いシステムの規模も拡大しています。

モノタロウでは会社の成長が継続する中で、どのように業務をスケールさせるかを常に考えてるとのこと。しかし、システムの複雑性が増していることや、開発ノウハウが組織全体に行き渡っていないという課題も抱えているとのことでした。

AIに対する認識と活用方針

「モノタロウではAIを単なる流行ではなく、世の中に大きな変革をもたらす不可逆な変化と捉えている」 というメッセージが印象的でした。
そのため、「様子を見てから導入する」のではなく、「一気に導入して効果を検証する」というアプローチを取っているとのことでした。

AIツールの導入方針としては、以下の点を重視しているそうです

  • 効果が出るかどうか以上に、全体で試してみること
  • うまい使い方をしている人のノウハウを組織全体にすくい上げること
  • 会社の中で自然にAIが使われるようになる環境づくり
  • LLMの進化が早いため、その恩恵を受ける仕組みや体制を構築すること

AI駆動開発の現状と取り組み

モノタロウが現在導入しているAIツールとどの程度の規模感でつかっているかの説明もありました。AIツールは導入のコストが気になる企業も多いと思うのでこういった形で具体的にどのツールをどの程度導入しているのかといった情報は、参考情報として貴重ではないかと思います。

  • GitHub Copilot:全社で利用
  • Cursor:約40名が利用
  • Cline:約100名が利用
  • Devin:160人以上が利用

導入時期等についても説明がありましたが、2023年5月にGitHub Copilotの全社導入を決めている等、かなり会社として情報のキャッチアップと判断が早いなという印象を受けました。

AI駆動開発推進の組織構造

モノタロウではAI駆動開発を推進するための組織構造を以下のように設計しているとのことでした

  1. 専門チーム:AI駆動開発を専門に推進するチーム
  2. エバンジェリスト:各チームに配置され、情報共有の旗振り役を担当
  3. チャンピオン:エバンジェリストの上位役割として置くことで、社内の成長を促進

この構造により、専門チームが各チームに張り付いてAIの使い方を教えるという非効率な方法ではなく、ボトムアップで各チームが学べる環境を整えているとのことです。チャンピオンについてはエバンジェリストの中から選出されるとのことで、社員のAI開発のモチベーション向上の動機づけにもなりそうだと思いました。

AI駆動開発の具体的な取り組み

セッションでは、モノタロウが実施している3つの具体的な取り組みについて紹介されました。

AI駆動開発ツール価値探索プログラム

このプログラムのコンセプトは「触って、試して、使ってもらう」ことだそうです。AIツールの価値は使ってみないと実感できないため、まずは開発者に実際に使ってもらうことを重視しているとのこと。

上記のブログを拝見すると具体的には、「開発者が自律的にAIツールを活用・学習し、組織全体のナレッジを蓄積」するといったことを行っているようで、プログラムに参加することで各種AIツールのアカウントが払い出されるとのことでした。自身の判断で参加させることで、自然とモチベーションの高い人にAIツールが行き渡る良い仕組みだなと思いました。

AI駆動開発トレンドラボ

生成AIの直近のトレンドや社内事例の共有を行う場として、社内勉強会を実施しているそうです。これまでに延べ180人が参加しており、最新の知見を組織内で共有する役割を果たしているとのことでした。

AI駆動開発DOJO(企画中)

AIスキルの底上げのための企画として、DOJO(研修プログラム)を計画中とのことです。AIの使い方の底上げを図り、ベースラインとなる標準スキルを定義することを目指しているそうです。

各AIツールの評価と実績

セッションの中で、モノタロウが導入している各AIツールの評価と実績について詳しく紹介されました。実際に使ってみての肌感ということでとても参考になる部分でした。

Devin

Devinは万人向けではなく、マネージャーなどタスクを分けて渡す側の人に向いているという評価だそうです。

活用方法:

  • Devinを使った調査や壁打ち
  • コードを書いてもらってPRの作成

実績:

  • 導入から1週間で23件のPR作成(費用:$400)
  • 1ヶ月で330件のPR作成
  • 計測対象リポジトリの14%をDevinが作成
  • かかったコスト:$4,000
  • PRの6割はクローズ、4割がマージ(130PR/$4,000)

Devinに対するポジティブな反応:

  • 要件が明確なものはきちんと作成してくれる
  • 「エンジニアが一人増えた感覚」という声も
  • Devinが代わりに仕事をしてくれるという感じ

Devinに対するネガティブな反応:

  • プロンプトの不備など様々な理由で書かせたコードがNGになるケースがある
  • レビュアーの負担が増加
  • ただし、人間と比較できるくらいにはコーディングできているとのこと

Cline

Clineは主に各LLMのAPIキーを設定することで利用できるようになりますが、モノタロウではClaude APIキーを一人1キー発行する形でClineを使用しているそうです。

利用状況:

  • ほとんどのユーザーがSonnet 3.7を使用
  • 200名に配布し、約100名が継続利用中
  • アンケート結果:75%のユーザーが生産性向上を実感

効果:

  • ヘビーユーザーは明らかに生産性が向上
  • 上位2割のユーザーはPR作成数が約30%向上
  • しかし全体で見るとPR作成数の明確な増加は見られない
  • コスト:約$2,000/月(GitHub Copilotと同程度)

Clineに対する反応:

  • 生産性の高さを評価する声が多い
  • 認知負荷はあまり変わらないという意見も

コーディング体験は随一であり、VibeCoding(AIとの対話的なコーディング)を体験するのに最適なツール。入門としても優れているとのことでした。ただし、実際に効果が出るかどうかは今後も継続的に検証が必要だと強調されていました。
意外だったのがコスト面です。Clineでは各LLMのトークンの消費しすぎによる「LLM破産」なんてことも良く耳にしますが、登壇者によると利用者全体で均してみると、Clineの月額コストはGitHub Copilotとあまり変わらないとのことでした。

Cursor

速度や補完のレベルがGitHub Copilotよりも優れているという評価がありますが、コスト面ではCopilotより不利という判断だそうです。約40名が利用しているとのことでした。

GitHub Copilot

コスト面で有利であり、Microsoftがバックにいる安心感もあって手堅い選択肢という評価だそうです。全社導入されており、基本的なAIコーディング支援ツールとして定着しているとのことでした。

レガシーコードとAIツールの相性

セッションでは、レガシーコードとAIツールの相性の悪さについても言及がありました。このあたりは実際に使ってみた方ならでは知見という感じで特に文字コードの部分等はなるほどと思いました。

  • AIはUTF-8しか対応していないため、Shift-JISで書かれたプログラムを破壊してしまう可能性がある
  • レガシーコードから脱却したいからこそ生成AIを使いたいのに、レガシーコードには生成AIが使えないというジレンマが存在

セキュリティへの配慮

AIツールの導入にあたってはセキュリティ面での評価もされているとのことでした。評価の基本路線として、従来のセキュリティリスクに加えて、「学習で社内コードが外部に流出する」というリスクにも注意を払っているとのことです。

生成AI開発ツールを導入すべき理由

セッションでは、生成AI開発ツールを導入すべき理由として、以下の2点が挙げられました。自分もまだまだ試せていないツールがあるので、「とりあえず試すべき」という言葉が印象に残りました。

  1. 不可逆なトレンドであり、成果を出せる可能性が高いため、とりあえず試すべき
  2. 導入ハードルが非常に低く、お金を払えば誰でも始められる

今後の取り組み:レガシーシステムの救済

モノタロウは創業25年を迎え、古いコードベースも存在するのでレガシーコードをどうやって移植するかが課題とのことでした。そのために、AIを活用した効率化を模索しているそうです。

具体的には、「LLMを活用したリバースエンジニアリングとコード生成」というアプローチを検討中とのこと

  1. リバースエンジニアリング+LLM:人間が行っていたソースコード理解をLLMに任せることで効率化
  2. ソースコード理解することで生成させたドキュメントを、更に生成AIへのinputとすることで新しいコードを生成する

このアプローチにより、レガシーコードの移植を効率化することを目指しているとのことでした。

将来的な構想と展望

セッションの後半では、モノタロウの将来的な構想と展望について語られました。

AIとの共進化

重要な視点は「人間がAIを使いこなす」ことではなく、「AIが自律的に価値を生む環境を整える」とのことでした。これを「AIとの共進化」と呼んでいるそうです。

例えば、高性能なロボット掃除機が登場したことで部屋を片付けるようになったという例が紹介されました。同様に、AIが効率よく働ける環境をどう作るかが重要だと登壇者は説明していました。AIと人が共に進化しながら開発プロセスを変えていく必要があるとのことです。

AIとの共進化のために大事なこと

AIとの共進化を実現するために最も重要なのは「チェンジマネジメント」だと登壇者は強調しました。AIをどう使うかよりも、人と組織がAIの進化にどうついていけるかが重要とのことです。

そのために、モノタロウでは検証・実験などを組織的に実施しているとのことです。

まとめ

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セッションのまとめとして、モノタロウでは、AIの活用により生産効率を2倍にすることを目標としているそうです。新規開発であれば2倍以上の効率化も可能ですが、レガシーコードも含めた全体で2倍を目指しているとのことでした。
また、そのために、AIとの共進化・チェンジマネジメントが重要との言葉で締めくくられていました。

所感

冒頭でモノタロウさんでは、データサイエンティストを多数抱えておりデータ活用も進んでいるという話があったのですが、生成AIツールの活用においてもデータをちゃんととって成果を計測しているのが印象的でした。アンケート等も実施して定量的に評価しようと工夫されていました。
また、「AIを単なる流行ではなく、世の中に大きな変革をもたらす不可逆な変化と捉えている」というメッセージも印象に残りました。これからは生成AIツールをいかに使いこなせるかだと再認識したので、私も積極的に活用していこうと思います。

以上、とーちでした。

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