AWS Cost Explorerの集計コスト指標の違いと使い分けについてまとめてみた

AWS Cost Explorerの集計コスト指標の違いと使い分けについてまとめてみた

AWSのコスト指標(非ブレンド、ブレンド、償却コストなど)の違いをまとめてみました。目的に合ったコスト指標でコストを分析しましょう!
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こんにちは!クラウド事業本部のおつまみです。

みなさん、Cost Explorerを利用する際に、「非ブレンドコスト」「ブレンドコスト」「償却コスト」などの言葉を目にしたことはありませんか?

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これらの違いがわかりにくく、どのコスト指標を使うべきか迷ったことがある方も多いのではないでしょうか。
私は時折、記憶喪失になり、これらの違いを忘れてしまいます。

もう2度とググりたくないという思いから、今回は各コストの違いを整理してまとめました。
実際に、Cost Explorerをご利用の方のお役に立てればと思います!

3行まとめ

  • AWSには5種類の主要なコスト測定基準がある(ブレンド、非ブレンド、償却、非ブレンド純、償却純)
  • 「非ブレンドコスト」でコストを把握することが一般的であり、その他はユースケースに応じて利用する
  • 「非」は平均化されていない個別コスト、「純」は割引後の最終コストを意味する

AWSコスト測定基準の種類と計算方法

基本要素の定義

まず各コストの意味を説明する前に、各コストの計算に使われる基本要素を定義します。

  • 通常利用料金: 標準的な従量制課金(オンデマンドインスタンスなど)
  • 前払いRI/SP: リザーブドインスタンス/Savings Plansの前払い金額
  • RI/SP月額料金: リザーブドインスタンス/Savings Plansの月額料金
  • 割引: 各種割引額(ボリューム割引、企業割引、クレジットなど)

各コスト測定基準の詳細解説

非ブレンドコスト

非ブレンドコストは、実際の使用コストをそのまま表示します。割引がある場合は別項目として表示されます。
これは、請求書ページに表示されるコストデータであり、Cost Explorerではデフォルト値として使用されています。

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計算式:

非ブレンドコスト = 通常利用料金
※割引は別項目として表示される

:
EC2インスタンスを10時間使用して10ドル、さらに2ドルの割引を受けた場合、10ドルと-2ドル(割引)が別々の明細項目として表示されます。

償却コスト

償却コストは、リザーブドインスタンスやSavings Plansなどの前払い費用と月額料金を契約期間全体に均等に分散させて表示します。これにより、月ごとのコスト変動が緩和され、より安定した予算管理が可能になります。

計算式:

償却コスト = 通常利用料金 + (前払いRI/SP ÷ 契約期間) + RI/SP月額料金

:
1年契約で前払い金額が365ドルのRIを購入した場合、償却コストでは毎日約1ドル(365÷365)として均等に分散されます。これにより、大きな前払い費用が1ヶ月目に集中することなく、月ごとの費用が平準化されます。

ブレンドコスト

ブレンドコストは、AWS Organizationsの一括請求(コンソリデーティッドビリング)環境で使用される平均コスト指標です。複数のメンバーアカウント間でRI/SPの割引を共有する場合に利用します。

このブレンドコストは計算方法が少しややこしいです。

計算方法:

  1. サービスごとに組織全体の総コストを計算 (RIやSP割引適用後)
  2. そのサービスの総使用量を計算
  3. 平均単価(ブレンドレート)を算出(総コスト ÷ 総使用量)
  4. 各アカウントのコスト = 各アカウントの使用量 × ブレンドレート

計算式:

ブレンドレート = (組織全体の特定サービスの総コスト) ÷ (組織全体の特定サービスの総使用量)
ブレンドコスト = アカウントの使用量 × ブレンドレート

この説明だけだと、わかりにくいので具体例をみてみましょう。

:
組織内に3つのアカウントがあり、EC2使用状況が以下の通りとします

  • Aアカウント:t3.large(通常料金$0.10/時)を100時間使用 = $10
  • Bアカウント:t3.xlarge(通常料金$0.20/時)を100時間使用 = $20
  • Cアカウント:リザーブドインスタンスが適用されたt3.large 100時間(50%割引)= $5

非ブレンドコストではAアカウント$10、Bアカウント$20、Cアカウント$5となりますが、ブレンドコストを使用すると次のようになります

  1. 組織全体のEC2総コスト = $10 + $20 + $5 = $35
  2. 総使用量(単純化のため)= 300時間
  3. ブレンドレート = $35 ÷ 300時間 = 約$0.117/時
  4. 各アカウントのブレンドコスト:
    • Aアカウント = 100時間 × $0.117 = 約$11.7
    • Bアカウント = 100時間 × $0.117 = 約$11.7
    • Cアカウント = 100時間 × $0.117 = 約$11.7

このように、ブレンドコストでは組織内のすべてのアカウントに割引メリットが分散されます。ただし、Cost ExplorerではAWS組織のメンバーアカウントを比較する際、デフォルトでは非ブレンドコストが使用されるようになっており、ブレンドコストの使用は 現在ではあまり一般的ではありません 。

非ブレンド純コスト

非ブレンド純コストは、すべての割引が適用された後の最終的な支払コストを表します。実際の支出を最も直接的に反映するメトリクスです。

計算式:

非ブレンド純コスト = 通常利用料金 - 割引

:
10ドルの使用料に対して2ドルの割引が適用された場合、非ブレンド純コストは8ドルとなります。これは、実際に支払う最終的な金額を示しています。

償却純コスト

償却純コストは、前払い費用を契約期間に均等に分散させつつ、さらにすべての割引も適用した後の最終コストです。長期的な実質コストを把握するのに最適なメトリクスです。

計算式:

償却純コスト = 通常利用料金 + (前払いRI/SP ÷ 契約期間) + RI/SP月額料金 - 割引

:
1年契約で前払い金額が365ドルのRIを購入し、さらに月10ドルの割引がある場合、日次の償却純コストは約0.67ドル((365÷365)-(10÷30))となります。これにより、長期的な視点での実質的なコストが明確になります。

簡潔な関係式

これまでの説明からブレンドコスト以外をまとめてみると以下のように表すことができます。

  • 償却コスト = 非ブレンドコスト + 前払いRI/SPの償却分 + RI/SP月額料金
  • 非ブレンド純コスト = 非ブレンドコスト - 割引
  • 償却純コスト = 償却コスト - 割引

「非」と「純」の意味を理解する

AWS特有の用語である「非」と「純」について理解しておくと、コスト測定基準の違いがより分かりやすくなるので、理解しておきましょう。

「非(ひ)」がつく場合

「非ブレンド」の「非」は 「平均化されていない」「個別の」 という意味です。

具体的には:

  • 「非ブレンドコスト」は、複数アカウントでの平均化(ブレンド)を行わず、個別アカウントの実際の使用コストをそのまま表示します
  • 複数アカウントをまとめて管理している場合、「ブレンド」だと平均化されますが、「非ブレンド」だと個々のアカウントの実際のコストが把握できます

「純(じゅん)」がつく場合

「純コスト」の「純」は英語の「Net」に相当し、「割引適用後の」「最終的な」 という意味です。

具体的には:

  • 「非ブレンド純コスト」は、割引を適用した後の最終支払額を表します
  • 「償却純コスト」は、リザーブドインスタンスの前払い費用を期間で分散させた上で、さらに割引も適用した最終的な実質コストを表します

コストメトリクス別のユースケース

AWSの各コスト測定基準は、それぞれ異なる状況で活用できます。どのコストメトリクスを使用すべきか迷った際のガイドとしてご活用ください。

コストメトリクス 説明 適したユースケース
非ブレンドコスト 使用時に請求される実際の請求書に表示されるコスト(割引別) ・個々のアカウントの正確な請求金額の表示
・リソースごとの実コスト把握
・使用量ベースの分析
償却コスト 前払い費用を期間全体にわたって均等に配分したコスト ・月ごとの一貫した予算計画
・前払いコストの影響の平準化
・長期的なコスト分析
ブレンドコスト 一括請求における平均使用コスト ・組織全体のコスト平準化
・アカウント間の公平なコスト配分
・共有割引の効果把握
非ブレンド純コスト すべての割引とクレジットを適用した後の実際のコスト ・実際のキャッシュフローに基づく予算管理
・月ごとの実支出額の監視
・短期的な財務計画
償却純コスト すべての割引とクレジットを適用した上で前払い費用を期間全体に均等に配分したコスト ・長期的なコスト傾向分析
・前払いコストの影響の平準化
・実質的な月間コスト把握

実際のケーススタディ

では、具体的なシナリオでこれらの違いを見てみましょう。

シナリオ: リザーブドインスタンス購入の影響

あるチームが以下のリソースを使用しているとします

  • EC2インスタンス t3.large: 通常時間単価 $0.10
  • 1年分前払いRI: $700(約20%割引)
  • 月間使用時間: 730時間(1ヶ月)

このシナリオにおける各コストメトリクスの表示は以下のようになります。

非ブレンドコスト(1ヶ月目): $773

  • EC2使用料: $73($0.10 × 730時間)
  • 前払いRI: $700
  • 合計: $773(前払い分が1ヶ月目に集中)

償却コスト(1ヶ月目): $131.33

  • EC2使用料: $73
  • 前払いRIの償却分: $58.33($700 ÷ 12ヶ月)
  • 合計: $131.33(前払い分が平準化)

非ブレンド純コスト(1ヶ月目): $763

  • $773 - 割引(例: $10のエンタープライズ割引があると仮定)= $763

償却純コスト(1ヶ月目): $121.33

  • $131.33 - 割引($10)= $121.33

このように、選択するコスト測定基準によって、同じリソース使用でも表示される金額は大きく異なります。目的に応じて適切なメトリクスを選択することが重要です。

まとめ

今回はAWSのさまざまなコスト測定基準について解説しました。

重要なポイントは、単一の「正しい」コスト測定基準は存在せず、組織の目標とニーズに合わせて適切なものを選択することです。

  • 短期的なキャッシュフローを重視: 非ブレンド純コストを使用
  • 長期的な計画と平準化されたコスト: 償却コストまたは償却純コストを使用

正しいコスト測定基準を選択することで、より効果的なクラウドコスト管理が可能になります。それぞれのメトリクスの特性を理解し、自社のニーズに合わせて活用してください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

以上、おつまみ(@AWS11077)でした!

参考

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