[セッションレポート] 労働力不足の現場を救う!「京セラロボティックサービス」を支えるクラウド基盤の開発ストーリー #AWSSummit

AWS Summit Japan 2024の弊社クラスメソッドのパートナーセッションにて、弊社が長年ご支援させていただいている京セラ株式会社のロボティクス事業部の巽様にご登壇いただきました。セッション内容をレポートします。
2024.06.26

セッション概要

労働力不足の現場を救う!「京セラロボティックサービス」を支えるクラウド基盤の開発ストーリー

京セラ株式会社では協働ロボットを AI で知能化するクラウドサービス「京セラロボティックサービス」を開発し、昨 2023 年 11 ⽉にローンチしました。本サービスではロボットをクラウドに接続することで、段取り替え作業の短縮や作業品質の維持/改善、リモートサポートなどを実現しています。また、ロボットへの接続、及び、お客様の現場環境データをお預かりすることから、AWS Organizations などのサービスを⽤いて複数アカウントの統合管理を⾏い、セキュリティとプライバシーを重視して環境構築に努めています。このセッションでは、ローンチまでの 4 年間に渡るプロジェクトの概要とサービスを⽀える技術を紹介します。

スピーカー

  • 京セラ株式会社 ロボティクス事業部 サービス技術開発センター アプリケーション開発チーム 責任者
    巽 健人
    tatsumisan
  • クラスメソッド株式会社 代表取締役 横田 聡
    • ※ 横田のパートのセッションレポートは割愛します。

先にまとめ(レポーターの感想)

本セッションでは、京セラ株式会社が開発した「京セラロボティックサービス」の裏側にある技術と開発プロセスが詳しく紹介されています。

「協働ロボットの知能化」という革新的なサービスの実用化に向けた取り組みは、多くの企業にとって参考になるはずです。AIやクラウドといった最先端の技術を扱ったサービスですが、実用化のためにはやはり高レベルでのセキュリティやプライバシー保護の実現は必要不可欠であり、この部分での徹底したこだわりはどの企業も見倣うべき点であると感じました。特にAWS Organizationsを活用したシングルテナント構成についてはぜひチェックいただきたいです。

また、弊社クラスメソッドとの協業姿勢も素晴らしいと思います。私自身、このプロジェクトに長年携わる中で、単なる発注者・受注者の関係を超えた、互いの専門性を尊重し合うパートナーシップを実感してきました。
京セラ社は我々のスキルを信頼し、高い裁量を与えてくださいます。そのため、未経験分野への挑戦など、チャレンジングながらもやりがいのあるタスクに取り組む機会が多くあります。
本セッションで紹介された「WIN-WIN の関係性を築く」という協業方針は、このような良好な関係性の根拠となっています。これは、様々な立場の方々との協業において、関係性構築のヒントになるのではないでしょうか。

セッションレポート

会社紹介

京セラ株式会社は、1959年に創立、セラミックの焼成から始まり、電子部品やソリューションなど多岐にわたる事業を展開する多角経営企業として成長してきました。創業時のベンチャー精神を大切にし、常に新しい分野への挑戦を続けています。

その精神は今日も脈々と受け継がれており、新規事業への積極的な取り組みが行われています。その一例が、本題材で取り上げる京セラロボティックサービスです。

「京セラロボティックサービス」紹介

ロボットを知能化することで活用シーンを増やす

京セラロボティックサービスは、協働ロボットを活用した革新的なソリューションを提供しています。協働ロボットとは、人間と同じ作業空間で安全に協力して働くことができる産業用ロボットのことで、近年、様々な産業分野での導入実績が急速に増加しています。

しかし、多品種少量生産の現場では、協働ロボットの導入にいくつかの課題がありました。具体的には、部品登録や変更に伴う手間とコストの増大、そして不規則な工程や不定形部品への対応の難しさが挙げられます。

これらの課題に対し、京セラはAIと3Dビジョンによる「ロボットの知能化」というアプローチで解決策を提示しています。このシステムでは、京セラの貸与しているAIコントローラー(エッジコンピュータ)を介してロボットがクラウドに接続しており、サブスク形式で簡単にご利用いただけます。 お客様は専用のクライアントアプリケーションを通じて、ロボットに簡単に作業をオーダーすることができます。さらに、ロボットの状態や稼働状況をリアルタイムで確認することが可能となり、生産管理の効率化にも貢献します。

加えて、京セラのエンジニアによる専門的なサポートも提供されており、導入から運用まで一貫したサービスを受けることができます。このように、京セラロボティックサービスは、最新のテクノロジーと専門知識を組み合わせ、製造業の課題に対する包括的なソリューションを提供しています。クラウドやAIを活用することによって、最低限の手間やコストでお客様の現場に協働ロボットを導入することが可能です。

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ロボティクスを “クラウドサービス” として提供するために

本新規事業は 2019年に着手開始し、2023年11月にローンチとなりました。ローンチに至るまでの4年間にわたるプロジェクトの概要と、サービスを⽀える技術を紹介します。

事業を取り巻く環境

事業立ち上げにあたり、どのように開発を運用していくか?という点が課題に挙がりました。前述の通り、協働ロボットの導入事例は増加傾向にあるものの、ロボットを知能化するソリューションはプロジェクト開始当初はまだ他社も展開しておりませんでした。我々が先駆者として道を切り開く必要がありました。

さらに、クラウドやAIなどといった、急速に進化する技術を常にキャッチアップし、プロジェクトに反映させていくことも求められます。

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このような不確定要素が多くかつ変化の激しい環境下では、内製化とアジャイル開発の採用が不可欠だと判断しました。

アジャイル開発では、各イテレーションで提供できる価値が開発チームの実力に直結し、それがサービスの品質を左右します。そのため、まずは強固な内製化体制の構築に注力しました。

一方で、社内リソースのみに依存すると既知の技術や知見に固執する「技術のサイロ化」のリスクがあります。これを避けるため、外部の知見も積極的に取り入れ最適化を続けていきたいとも考えていました。

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また、本ロボティクスサービスには様々な重要な要件が存在します。

たとえば、セキュリティは安全性に直結するため最重要事項です。なぜなら、このサービスではロボットのハードウェアがクラウドに接続されており、万一セキュリティの脆弱性がロボットの誤動作を引き起こすと重大な事故につながる可能性があるからです。

さらに、情報漏洩は絶対に防がなければなりません。本サービスは顧客の工場内の機密情報を扱うため、仮に漏洩が発生してしまうと、顧客のビジネスに甚大な損害を与えるだけでなく、当社の信頼性も著しく損なわれる可能性があります。

このような要件から、AWS Organizations を活用し1 顧客につき 1 AWS アカウントのシングルテナント構成を採用することとしました。AWSにおいては、アカウントの境界がデフォルトのアクセス許可の境界となるためです。また、テナントアカウントではマネージドサービスを積極的に活用することで、運用負荷軽減、コスト最適化を図っています。

加えて、各テナントアカウントに同構成のリソースを展開する、ログの集約化、セキュリティの設定など、サービスを運用するにあたり様々な業務が必要になります。これらを可能な限り自動化、省力化していくことも必要だと考えました。

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これらの要件を満たすためにはAWSの高度なナレッジが必要になります。専門性の高い開発パートナーを探していたところ、AWSから紹介いただき、クラスメソッド社との協業が実現しました。

クラスメソッド社との協力体制

クラスメソッド社との協業にあたり、以下 3つの方針を策定しました。

1. 一緒にチームとして開発する

前述の通り内製化が前提のプロジェクトのため、クラスメソッド社員が作成したコードも必ず京セラ社員がレビューを行ない、承認後にマージするプロセスとしています。時には我々が書いたコードをクラスメソッドの方にレビューいただくといった逆のパターンを採ることもあります。

2. 効率的なコミュニケーション体制

基本的にはSlackやチケットを介した非同期コミュニケーション中心に行ない、同期的なコミュニケーションは週一回のオンライン定例ミーティングのみとしています。これにより、集中して作業に取り組むことができる環境が実現されています。プロジェクトが開始したのがコロナ禍真っ只中だったことと、クラスメソッド社の社員が全国各地から参加していることもあってこのような方法を採っています。

3. WIN-WIN の関係性を築く

プロジェクトの都合上どうしても難しい場合もありますが、できる限り各メンバーの関心のある技術領域に関するチケットを担当いただき、成長につなげていただきたいと思っています。ブログの会社でもあるクラスメソッドなので、「ブログに書ける」タスクの依頼を意識するようにしています。これは、我々がクラスメソッドに求めているのは単なる開発ではなく、本ロボティクスサービスに新たな技術や知見を取り込みたいと考えているためでもあります。

構築例1: ユーザー管理者向け Web サービス

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構築例2: SecOps

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構築例3: CI/CD パイプライン

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ビジネスのスケールに向け

京セラロボティックサービスは2023年11月にローンチし、現在社内外にて導入やマーケティングを進めています。グローバルで数千台規模へのスケールを目指して日々開発を行なっております。ローンチに伴い、開発のフェーズも変わります。サービス開発に適用できる工数が減る一方、実運用に伴い、優先度の高い要件が増えていきます。クラスメソッドと構築してきた統合運用や DevOps の仕組みを活かし、ユーザーニーズに沿った対応を進めていきます。今後も京セラロボティクス事業部のミッションである「共に働き、共に考え、共に成長する 人と機械が共存する未来の現場を創る」の実現に向け、クラスメソッド社とともにより良いサービスの提供を目指してまいります。

スライド

現在 AWS Summit Japan 2024のポータルで登録を行なうと、本セッションのスライド資料をダウンロード可能です。以下より登録を行なってください。

あわせてどうぞ

京セラロボティックサービスのホームページです。

以前、京セラの巽様に弊社オンラインイベントにて登壇いただいた際のセッションレポートです。主にマルチテナント戦略についてお話いただいています。

弊社サイトの、京セラ様事例ページです。AWSに加えてGoogle Cloud分野でのご支援についてもお話いただいています。