
【セッションレポート】 組織全体で AWS コスト最適化を加速する(AWS-06)#AWSSummit
こんにちは!クラウド事業本部のおつまみです!
本記事は 2025 年 6 月 25 - 26 日の 2 日間開催された AWS Summit Japan 2025 のセッションレポートとなります。
セッション概要
組織における AWS コスト最適化には「リーダー」が必要です。リーダーはコスト最適化活動の推進役であり、活動のためには、コストや最適化余地の可視化と、具体的な実行手段、そして継続的に活動を維持するための KPI 設定と効果測定が不可欠です。本セッションでは、Cloud Intelligence Dashboards によって状況を可視化し、Cost Optimization Hub で最適化余地・実行方法を特定する方法を解説します。さらに、コスト最適化活動を継続するアイディアとして、KPI の設定とダッシュボードを使う方法をご紹介します。
スピーカー
石王 愛
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
技術支援本部 エンタープライズサポート シニアテクニカルアカウントマネージャー
レベル
Level 300: 中級者向け
アジェンダ
- 組織全体でのAWSコスト最適化を加速する方法
- CFM(Cloud Financial Management)フレームワークの4つの柱
- コスト最適化リーダーの役割と必要性
- 実践的なコスト可視化・最適化手法
- 継続的なコスト最適化活動の仕組み化
本セッションの3行まとめ
- 組織全体でのコスト最適化には、エグゼクティブの支援を受けた「コスト最適化リーダー」の存在が不可欠
- CFMフレームワークの4つの柱(可視化・最適化・計画予測・FinOps実践)を体系的に実行することが重要
- ビジネス指標を用いたユニットメトリクスで共通認識を作り、定期的なサイクル化でモチベーションを維持する
セッションレポート
組織のコスト最適化でよくあるお悩み
本セッションでは、まず組織でのコスト最適化において多くの企業が抱える課題が紹介されました。
- ビジネス拡大が理由なのに、役員や上席からコストが増加していると言われる
- 組織全体でどのくらいの削減余地があるかわからない
- どのように優先度を決めたらいいのかわからない
- 現場でのコスト最適化のモチベーションが低い
これらの課題は技術的な問題というより、組織内のステークホルダー間の視点のズレが根本原因となっています。
なぜ「コスト最適化リーダー」が必要なのか
組織には様々なステークホルダーが存在し、それぞれ異なる目的と視点を持っています
- エグゼクティブ: 組織全体のクラウド投資を適切に行いたい
- CCOE: クラウドの活用を推進したい
- 購買担当: サービスやソフトウェアを適切な価格で購入したい
- 財務担当: 組織全体の予算と実績を正確に管理したい
- アプリチーム: ビジネスの拡大を目指したい
- インフラチーム: アプリを支えるインフラ基盤を安定運用したい
このような異なる目的や視点を理解し、共通認識を作る組織横断的なコスト最適化リーダーが必要です。また、各ステークホルダーをまたがった調整を円滑に進めるためには、エグゼクティブスポンサーシップも不可欠となります。
CFMフレームワークの4つの柱
AWSが定義するCFM(Cloud Financial Management)フレームワークでは、コスト最適化が推進されている状態を「4つのアクティビティが継続的に回されている状態」と定義しています
1. 可視化(Visibility)
コストおよびコスト効率が可視化され、コストの責任所在が明確になっている状態
実践方法
- コストダッシュボードの構築: 全ステークホルダーが必要とする情報を一つの画面で表示
- Cloud Intelligence Dashboardの活用で、複数AWS Organizationのコスト情報をまとめて可視化
- ビジネス指標を使ったユニットメトリクスの導入
ユニットメトリクスの効果
例として、APIサービスを提供するアプリの場合
- 全体のコストは増加(2万ドル→3万ドル)
- しかし1APIコール当たりのコストは減少(2ドル→1.8ドル)
- ビジネス成長に対してコスト効率は改善していることが明確に
2. 最適化(Optimization)
Savings Plansの購入、適切なサイジング、アーキテクチャ変更などのコスト最適化活動
実践方法
- Cost Optimization Hubの有効化で組織全体の削減余地を確認
- 各施策の効果と難易度を評価し、優先度付けを実施
- チームごとのコスト削減目標値を設定
具体的な枠組み作り
- コストダッシュボードで大部分を占めるサービス・アカウントを特定
- Cost Optimization Hubで組織全体の削減余地を確認
- 施策の効果と難易度を評価して優先度決定
- アプリチームごとの目標値設定と共有
3. 計画予測(Planning & Forecasting)
クラウドの予算や予測のメカニズムがあり、予算と実績のモニタリングを行う状態
実践方法
- 運用コストも含めたクラウド支出全体のTCO予測
- 予算プロセスのクラウド適応(柔軟な対応を可能にする)
- AWS Budgets alertsやCost Anomaly Detectionでの監視設定
4. FinOps実践(FinOps Practice)
上記3つのアクティビティを継続的に行っていける組織体制や文化の醸成
実践方法
- 年間サイクルの確立:
- 毎月のコスト分析・報告会
- 四半期ごとの最適化状況分析・報告会
- 年次の予算計画・最適化計画
- 定期的なトラッキングと共有:
- チームごとのコスト削減目標達成状況の可視化
- 達成率の高いチームへのエグゼクティブからの表彰
- エグゼクティブスポンサーのもと、各ステークホルダー代表者の参加コミット
実践のポイント
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共通指標の設定: ビジネス指標を使ったユニットメトリクスで、エグゼクティブとアプリチーム間の認識齟齬を解消
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優先度の明確化: Cost Optimization Hubを活用して「難易度が中程度以下、効果が中程度以上」など明確な基準で施策を選定
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継続的なモチベーション維持: 定期的な報告会での達成状況共有と、エグゼクティブからの表彰制度
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全ステークホルダーの巻き込み: 各代表者に活動への参加をコミットしてもらい、組織一丸となった取り組みを実現
感想
このセッションを通じて、組織のコスト最適化は単なる技術課題ではなく、組織マネジメントの課題であることが明確になりました。
特に印象的だったのは、ユニットメトリクスです。「コストが増加している」という事実も、ビジネス指標で割ることで「実際はコスト効率が改善している」ということがわかります。これは、エグゼクティブとアプリチーム間でよくある認識のズレを解決する非常に実践的なアプローチだと感じました。
また何より、エグゼクティブスポンサーシップの重要性を改めて認識しました。CCOEの立ち上げ時と同様、トップダウンの支援なくして組織横断的な取り組みは難しい。コスト最適化リーダーの確立も、まずはこのスポンサーシップの獲得から始める必要がありそうだと思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました!
どなたかのお役に立てれば幸いです。
以上、おつまみ(@AWS11077)でした!