【書籍紹介】 TBM ITファイナンスの方法論
最近、クラウドコスト管理(クラウド財務管理)に関する考え方、方法論である FinOps(Finance と DevOps の造語) を見聞きする機会が増えている印象を受けます。
円安の影響によるコスト削減への対応が求められる中で、一方で市場の中で優位性を得るために、今後もクラウド利用(投資)は進んでいく傾向にあるという 調査レポートも出ています。結果として限りある資源(お金)をより的確にアサインする(最適化)ことの重要性が一層高まっていることが一つの背景にあるのではないかと思います。
以前は、コストや財務管理といったテーマは特定部門や一部のマネージャーに留まっていましたが、IT サービスの利用形態やコストモデルが固定費から変動費に変わることで、その主体はよりエンジニアリングチームや利用部門にも広がっています。 そのため、コスト(利用実態)に関する 明確さ と 説明責任 が必要とされ、対象 IT サービスの状態を把握した上での適切な判断・アクションや、関係者間での合意形成を取りながら前進することが必要となってきます。
と、語るのは簡単ですが、実践するのが難しいテーマです。
今回ご紹介する書籍では、クラウドに限定せず企業における IT ファイナンス(投資)の視点から、『テクノロジーによって生み出されるビジネス価値の最大化を目的とした IT ファイナンス高度化のための方法論』 である TBM(Technology Business Management の略称、Apptio, Inc. が提唱する方法論) を用いて、どのように仕組みを構築し、実践するかを説明されています。
概要に記載された書籍を通して得られる4つの項目に課題や関心をお持ちの方以外にも、IT コスト管理に関わる方、ステークホルダーとの交渉や説明を行う方や、財務管理に関するコンサルティングやアドバイスをされる方、FinOps に関心がある方にもお薦めです。
書籍紹介
概要
Apptio, Inc.(日本法人は Apptio 株式会社) が企業で複雑化し、ブラックボックスとなり、コントロールが困難となっている IT ファイナンス(IT 投資)をより高度に、鮮明なものとするための方法として確立している Technology Business Management(以降、TBM) に関する書籍です。(一部 Apptio 製品の優位性に関する記載もありますが)方法論(考え方、フレームワーク)について紹介されているため、製品紹介本ではなく広く多くの方に参考となる情報が得られる書籍です。
ITファイナンス高度化の方法論「TBM」の国内初の解説書
「これはCIOにとっての『ザ・モデル』 だ」 (『THE MODEL』 著者 福田康隆氏推薦)この本は、「ITファイナンスの高度化」の方法論であり、フレームワークとしての「TBM(Technology Business Management)」の国内初めての解説書。
CIOや企業のIT導入やデジタル戦略の策定を行う担当者が、IT投資を投資効果や事業価値をどう高めるか、会計と経営の指標の中でどう考えるかの方法を解説します。• IT投資の優先順位付けを改善する
• ビジネスに必要なITコストを最適化し、変革のための取り組みを加速する
• ITの支出や効果について、最適な形で可視化し、意思決定を迅速化する
• 社内外のビジネスパートナーやステークホルダーと共通認識をもって議論を行なう引用: TBM ITファイナンスの方法論
目次
本書は、4部10章で構成されています。
第2部がメインになりますが、TBM や IT ファイナンスなどのテーマに馴染みがない方は、第1部を先に読むことをお薦めします。
第1部 TBMとは何か IT投資の課題とそのソリューション
第1章 ITファイナンスマネジメント IT 導入をめぐる「分断」という課題を解決する
第2章 TBMの歴史と概要 TBM という方法論とTBM カウンシルが生まれた背景
Column…TBMカウンシルジャパン
第2部 TBMの詳細
第3章 TBMの全体像
第4章 TBMフレームワーク
Column…Apptioの代表的なコスト最適化シナリオ
第5章 TBMタクソノミー
第7章 TBMメトリクス
第8章 TBMシステムとApptio
Column…配賦ロジックを高める3ステップ
第3部 対談編 TBMの導入企業の事例に学ぶ
第9章 実践者と語るTBM活用
富士通のDXの現在地とTBMをめぐって
資生堂「IT」×「ファイナンス」を共通言語でつなぎ、変革する
第4部 日本企業への貢献とビジョン ── Apptio、そして多くのリーダーとの出会い
第10章 マイクロソフト、そしてApptio との出会いで学んだもの
引用: TBM ITファイナンスの方法論
所感
ここからは書籍を読む中で、調べたことや気になったキーワードを少しだけ紹介します。
IT ファイナンス(IT Finance, IT Finance Management, ITFM) とは?
知っているようで、知らない言葉 -その1-
直訳すると IT 金融、IT に関するお金の投資や経費、それらの管理。
IT投資とは、業務効率化、コスト削減、システムの安定化、セキュリティの向上、ITを活用した新ビジネスの提案・開発などへかける費用のことをいいます。
IT 投資のポートフォリオ
知っているようで、知らない言葉 -その2-
ITポートフォリオとは、金融業界におけるポートフォリオの考え方をIT投資の分野に応用したものです。 ポートフォリオとは、国債のようにリスクは低いがリターンも低い金融商品と、株式のようにリスクは高いがリターンも高い金融商品を複数組み合わせて運用することによって、資産運用全体としてリスクとリターンのバランスの両立を目指す手法のことです。
引用: ITポートフォリオ
IT ファイナンス を高度化するには何を実施するのか?
まずは 可視化 からスタートする点は、類似する他手法と同様のようです。測れないものは管理できない。大事ですね。
確かに、今までより多様なステークホルダーと会話するには、特定の人がわかる特殊な方法ではなく、明瞭で再現性があり同じもの(共通言語)を見て会話ができる状況にするには、そのプロセスにはより高度で、裏付けされた明確さが必要になりそうですね。
テクノロジー支出によるビジネス価値最大化のために、IT ファイナンスプロセスを改革し、洗練させるには、次の4つを実施する必要があります。
・ 「(最適な形で)可視化」
・ 「IT 予算と統制」
・ 「(IT)コスト最適化」
・ 「(ステークホルダーとの)関係性改善」引用: 書籍 p.62
TBM を構成する5要素
TBM フレームワークが実践する内容で、フレームワーク以外が支援する機能という関係になります。
経営を支えるテクノロジー投資判断 - Enterprise Zine で入門ガイドとして概要が解説されています。
TBM タクソノミー、モデル、メトリクスは実践するには悩ましいポイントなため、方法論として標準化されているのは凄いことですね。
- TBM フレームワーク(TBM のコア、原則)
- TBM タクソノミー(データを分類する項目)
- TBM モデル(配賦ロジック)
- TBM メトリクス(KPIなどの指標、レポート)
- TBM システム(上記 TBM を実現するプラットフォーム)
TBM フレームワークの概要
TBM ではフレームワークとして活動と、それを支える機能が定義されています。
こういった管理や可視化の取り組みでは、手段が目的へと変化してしまいがちですが、全体像が具体的に定義されているため、どこに向かって何を取り組むのか、それに必要なことをイメージすることが出来ます。
注) 下記は、書籍内で図として紹介されている部分を抜粋しています。図だと分かりやすいので是非ご覧になってほしいです。
・ IT 部門が目指すべきゴール
・ 可視化の次に取るべきアクション
・ ゴール / アクションのために必要な4つのKPI
・ 初めにとるアクション=可視化引用: 書籍 p.83
TBM の大きな流れ
TBM 実践の流れとしては、以下のようです。
独自に作り上げることも可能ではありますが Apptio, Inc. が提供するシステムを利用することでより簡便で、類似データ(他社)とのベンチマーク比較など付加価値が得られるようです。
- 事前定義
- 各データを TBM システムに取り込む
- TBM タクソノミーで定義された分類に紐付け
- TBM モデルにより組織に配賦される
- TBM メトリクスとして可視化された状態を把握(ショーバック)、場合によっては課金(チャージバック)
- ステークホルダーとコミュニケーションを取り、IT 投資判断・実行
参考情報: ATUM ポスター
IT 部門の段階モデル
書籍内で、IT部門の立ち位置(関係性)を4つに定義し、TBM フレームワークを通して、より上位に向かうことを推奨しています。これは企業内における IT 部門だけではなく、BtoB でサービスを提供する企業にとっても置き換えて考えるべき部分だと思います。
- ビジネスドライバー
- バリューパートナー
- サービスプロバイダー
- エクスペンスセンター
TBM タクソノミー
TBM タクソノミー(取り込まれたデータを分類する項目)を事前に定義したホワイトペーパーが公開されています。全てを踏襲せずとも、多くの企業の実績からの最適解のため、参考となり得る情報です。
TBM カウンシルとイベント
カウンシルは TBM に関するコミュニティで、日本法人向けもあります。大きなイベントは会員でなければ参加出来ないものもあれば、非会員でも OK なのものがある。次回の 「ジャパン TBM サミット」 には参加したいです。
2012年Apptio IncがTBM Councilを発足し、現在テクニカルアドバイザーを務めるNPO法人。 11,000名以上のCIO・CFOを中心とする会員が参画しており、ITコスト管理の課題や進化するテクノロジー投資を含めたIT部門マネジメントについて知見の共有を世界中で行っています。
引用: 世界11,000名以上のCIO、ビジネスリーダーが集うNPO法人TBM Councilが日本支部として『TBM Council Japan』を設立
TBM カウンシルが主催するオープンなグローバルイベントは年に1回、「TBMカンファレンス」という名で毎年秋に開催されます。 TBM カウンシルジャパンが Apptio 株式会社と共済するイベントも同様に年に一回、これも秋に「ジャパン TBM サミット」として開催しています。
引用: 書籍 p.59
[参考情報]
まとめ
今回 Apptio, Inc. が提唱する IT ファイナンスを高度化し、「運用費の継続的削減」 と 「新規開発投資の最適化」 を実現する方法論である TBM に関する書籍を紹介しました。 私自身は、ファイナンスとは無縁な世界に佇んできましたが、非常にわかりやすく読み進めることが出来ました。
本書の中で、個人的に強い共感があった言葉として下記があります。
定量的に状態を可視化し、同じものを見ながら、コミュニケーションを取るのは、基本的なものかもしれませんが、内外の曖昧なものに左右されず、自分たちで自信を持ってサービスのハンドルを握り、アクセル・ブレーキをコントロールするためには重要なことだと再認識しました。
IT 部門が提供する IT サービスの 「コスト」、「利用状況」、「パフォーマンス」を可視化し、共通言語でビジネス部門と対話することで、新しい協業関係が生まれてきます。
引用: 書籍 p.31
また TBM には既にこの領域において多くの実績と知見が蓄積されていることに加え、TBM Council というコミュニティにより更新されているという点は大きなメリットではないかと感じます。
実践するには、もう少し事例や詳細を把握する必要があるとも感じましたが、そのためのリソースが Apptio 株式会社サイトにナレッジとして公開されています。(FinOps との関係性やAWSなどのクラウドに対するナレッジ等、個人的に興味深いものがあります)
今後ナレッジを読み進めることで、理解を深めていきたいです。