デジタル広告配信のゲームチェンジャーになり得るか!?Brave Browser は単なるアドブロックブラウザではなかった、という話
最近、仮想通貨ブロックチェーンについて情報収集しているなかで Brave Browser という興味深いブラウザを見つけたのでご紹介したいと思います。
まずはこちらの動画をご覧ください。
ターゲティング広告について
近年のデジタル広告は個人の性別・年齢・居住地などの情報であったり、検索などの行動に基づき表示される広告が選別されているケースが多いかと思います。いわゆるターゲティング広告と呼ばれるものです。
ターゲティング広告は、より個人の趣味嗜好に合わせた広告を表示させることでコンバージョン率の向上を期待する戦略と考えられます(私の興味をひく広告が表示されているか疑問を感じますが、、)
一方で適した広告を表示するために Cookie などを利用してプライバシーをトラッキングしていることが問題視される傾向が強まっています。有名なところでは既にアップル社はユーザーの許可なくアプリが広告識別子(IDFA: Identifier for Advertisers)を取得することを禁止する方針を打ち出しており、まもなく開始されるのではないかと言われています。
Brave Browser はこのような広告トラッカーをブロックしてくれるブラウザですが、「広告が悪いなんて言っていない」とのメッセージのとおり Brave Browser はデジタル広告を否定するものではありません。
トラッキングによるターゲティング広告を排除し、よりユーザーフレンドリーなデジタル広告配信を提供するブラウザです。
Brave Browser の特徴
Brave Browser の特徴をいくつかあげるとすれば、以下のとおりです。
- 広告トラッカーの排除による高速化・省データ化
- 新しい広告配信モデル
広告トラッカーの排除による高速化・省データ化
ターゲティング広告の弊害は「トラッキングのために必要な Cookie」 や 「広告を表示するための Javascript といったプログラムなど」、私たちが期待したコンテンツ以外のデータを送受信されているということです。
そのためにサイトの表示は遅くなり、不要なデータ量が発生します。これらの時間と通信料といったコストを支払わされるのはユーザーです。
Brave Browser は広告トラックを排除することでコンテンツ読み込みの高速化、省データ化に寄与します。以下は某まとめ系サイトを表示した際のデータ量とロード時間の比較です。まずは通常の Chrome で表示した場合。
こちらが Brave Browser で広告カットした場合。このサイトの表示においては Brave Browser を使うことでデータ量は半分、ロード時間は 3 分の 1 に縮小されたことが判ります。
新しい広告配信モデル
従来のデジタル広告は広告配信事業者に富が集中するモデルであることは想像に難くありません。ざっくりとお金の流れを図にすると以下のようなイメージだと考えられます。
このような従来のトラッキングによるデジタル広告に対する課題を考えてみると、いくつか思い浮かんできます。例えば以下のような例です。
- クリエイター/パブリッシャーへの収益は広告配信の仲介によってどんどん目減りしていく(中抜き構造)
- 基本的にユーザーは広告を見たくないケースが多く、ユーザーは見たくもない広告に時間とコストを払いたくない
- スポンサーは↑のようにユーザーがネガティブに感じている場所・状態に広告を配信するしかない
Brave Browser では広告費を以下のようなフローに組み替えています。厳密なトランザクションのフローではありませんがイメージとして捉えてください。
大きく異るの点は、スポンサーの広告費がまずは広告を参照したユーザー報酬として支払われるという点です。Brave は広告費の 70% がユーザー報酬だと言っています。その後、Brave の運営費を差し引いた残りがクリエイター/パブリッシャーの報酬になります。
「ちょっと待って。これだとクリエイター/パブリッシャーの報酬が少なくない?」
と思われたかと思いますが、ここが Brave Browser の面白いポイントです。
ユーザーは広告閲覧によって得た報酬をクリエイター/パブリッシャーに「チップ」という形で報酬を贈ることができます。つまりユーザーがよく利用しているコンテンツ、応援したいクリエイターをユーザー自身が選んで報酬を再配分できるということです。
この仕組みによって得られるメリットは以下のように考えられます。
- ユーザーは広告を積極的に閲覧してくれる
- Brave 広告の CTR(クリック率)は 9%、ブランドによっては 15% になることもあるそうです。従来の業界平均は CTR 2% と言われていますので、かなり高いです
- 良質なコンテンツに報酬が集まる
- ユーザーからのチップ(応援)が得られにくいコンテンツ(注目を集めて広告収益だけを目的としたようなコンテンツ)は淘汰されていくでしょう
- 良質なコンテンツを提供し続けることで報酬があつまる、本来、あるべき姿だと言えます
- ユーザーにとっても広告収入目当ての悪質なコンテンツが淘汰され、良質なコンテンツが増えることは喜ばしいことです
- ユーザーフレンドリーな広告配信
- Brave にはトラッキングデータを送りません。すべてユーザーデバイス内の情報だけで完結しています
- ローカル機械学習を利用し、ユーザーが気を散らしたり他のことに集中したりしていない場合にのみ、最適な条件で広告配信されます。スポンサーにとっても従来の配信モデルよりも高い CTR とコンバージョンが期待できそうです
- ユーザーは 1 時間に配信される広告数(1〜5)を設定することができます
トークンエコノミー
広告費や報酬の流れをざっくりと理解いただけたかと思います。では、広告費や報酬といったトランザクションはどのような仕組みで処理されるのか気になるところです。
ここでようやくブロックチェーンの話が出てきます。
先の図ではわかりやすくお金で表現していますが、実際には「トークン」を利用します。トークンは企業や団体が発行する暗号資産(仮想通貨)で、多くの場合 Ethereum プラットフォームが使われています。(仮想通貨として認識されている ETH も正しくは Ethereum プラットフォーム上のトークンの 1 つです)
Brave Browser を提供している Brave は BAT(Basic Attention Token) と呼ばれるトークンを発行しており、広告費・報酬は BAT を利用して行われます。ちなみに BAT も Ethereum プラットフォームで稼働する ERC-20 の規格に則って発行されているトークンです。
Brave 広告のスポンサーはまず仮想通貨取引所などで BAT を購入し、BAT で広告費を支払います。ユーザーは広告閲覧により BAT で報酬をもらい、クリエイター/パブリッシャーに対して BAT でチップを贈ります。
BAT トークンは仮想通貨取引所で現金化することも出来ますし、BAT を売って BTC を購入するといった取引も勿論できます。または BAT の将来性に期待して保持してキャピタルゲインを狙うのもいいでしょう。
ただし日本ユーザーは…
「おぉ、ブラウザーを利用するだけで仮想通貨が貰えるんか!」
と期待されたことかと思いますが、残念ながら日本では BAT を報酬としてもらうことはできません。日本の法規制を遵守するために、BAT ではなく BATポイント(BAP) として支払われます。。
BAP は BAT と価格連動していますが、BAT のように仮想通貨取引所で売買することは出来ません。現状はクリエイター/パブリッシャーにおくるチップとしてしか利用価値がありませんが、Brave では BAP を決裁に利用できるパートナーを開拓しているとのことですので今後の展開に期待しましょう。
ゲームチェンジャー
このように Brave Browser は単なる広告ブロックブラウザーではなくトークンエコノミーを活用して現在のデジタル広告配信の在り方を再定義するプラットフォームだと考えられます。
ご存知のとおり昨今の IT 市場を席巻しているのは GAFA です。そのうち Google と Facebook 2社で世界のデジタル広告の 6 割弱を占めるといわれています。(最近、Amazon もデジタル広告事業が伸びていますね)
(引用元:Google’s US Ad Revenues to Drop for the First Time)
言わずもがなこれらの巨大企業の成長を支えている源泉はデジタル広告です。もし、Brave が目指すデジタル広告の新しいプラットフォームが市場で受け入れられ、キャズムを越えたとき Brave はゲームチェンジャーになり得るかもしれませんね。
おすすめポイント
動画コンテンツが超便利
Web ページのトラッキングに基づく広告がブロックされるのは勿論のことですが、Youtube や Twitch といった動画広告もブロックされます。また、PC 版はピクチャー・イン・ピクチャーを利用することも出来ます。
スマートフォン版であればバックグラウンド再生が利用できますので、スリープ状態でも Youtube を聴くこともできます。(正直、トークンとか関係なくこれだけでも Brave Browser を使う価値があると思ってます)
Chrome との高い互換性
Brave Browser は Chrome のオープンソース版 Chromium をベースに開発されているので、Chrome と高い互換性があります。ブックマークのインポートや Chrome 拡張機能の移行もスムーズです。私が普段利用している Chrome 拡張機能(AWS Extend Switch Roles など)も問題なく利用できます。
Brave の CEO は Javascript の生みの親であり元 Mozilla CTO である Brendan Eich です。その他にも元 Mozilla 、元 Netscape といったエンジニアがチームに参画されているようですので、ブラウザとしての期待値も高そうです。
データ使用量と時間の節約
Brave Browser を使用して 1 日程度の結果ですが、このようにサマリーが表示されます。月に換算するとそれなりの節約が期待できそうです。右側に表示されているのが報酬の BAP です。
クリエイター登録は簡単
「クリエイターいうても、ブログもサイトも持ってへんしなぁ」
と思った方に朗報です。クリエイターとして登録できるコンテンツは多数あります。ブログやサイトがなくても Twitter や Github アカウントも登録可能です。
クリエイターの登録方法も簡単です。
連携しているサービスはログインしてサービス連携するだけです。ブログ等の Web サイトを持っている方は、特定の場所にファイルをアップロードしたり、WordPress のプラグインを利用したり、AWS の無料証明書のように検証用の TXT レコードを登録するなど、いくつかの方法でサイトオーナーであることを証明することができます。
クリエイター認証が完了すると、以下のように Brave 認証クリエイターとして Brave Browser に表示されるようになります。
さいごに
Brave Browser は単なる広告ブロックブラウザーではなく、現在のデジタル広告配信モデルを再定義するためのプラットフォームとしてブロックチェーン(トークンエコノミー)を採用した、非常におもしろいユースケースとしてご紹介しました。
ターゲティング広告についての風当たりはキツくなる一方で、アップル社などが無断での広告識別子の利用を禁止する方針を打ち出しています。既存のデジタル広告配信事業者がそのまま指をくわえてまま衰退していくことが考えにくく、新たなモデルを打ち出すことも勿論考えられますので、今後のデジタル広告配信は注目度が高まりそうですね。
普段はテクノロジーの狭い部分ばかりを見ている気がしますが、ときおり俯瞰してそのテクノロジーがビジネスとどのように関わるのか、どのように未来を変える可能性があるのかを想像するのも楽しいものですね。
以上!大阪オフィスの丸毛(@marumo1981)でした!