PM視点で読み解く 基幹システム運営録 2:終わらない運営を年度設計で管理する

PM視点で読み解く 基幹システム運営録 2:終わらない運営を年度設計で管理する

基幹システム運営は、明確な完了が存在しない“終わらないプロジェクト”です。この特性を通常のプロジェクト管理の枠組みで扱うと、計画と現実の乖離が生じやすく、運営の持続性が損なわれます。 本記事では、この構造的な課題に対して、会計における「ゴーイング・コンサーン」の発想を応用し、年度単位で区切る運営設計を紹介します。One Term, One Issue の考え方、現実を前提としたバッファ設計、そして継続性を重視したPM視点を通じて、終わらない基幹システム運営を管理可能なフレームに落とし込む方法を解説します。
2026.02.15

情シスで働いていると、「今日も何も終わらなかった」という感覚を抱く日がありませんか?

情シスや基幹システムの運営は、不思議な仕事です。
プロジェクトのように明確な「完了」がありません。止めるわけにもいかないし、終わらせることもできない。常に動き続け、変化し続ける前提で管理しなければならない仕事です。

こうした終わらないプロジェクトを、普通のプロジェクト管理の発想で扱おうとすると、どこかで無理が生じます。進捗や成果の評価軸が曖昧になり、「何をもって良しとするのか」が見えにくくなるからです。その結果、チームは常に追われている感覚を抱きやすくなります。

ここで役に立つのが、「会計」の発想です。
会計は、組織が永続することを前提に設計されています。会社は来年も存在する。その前提のもとで、あえて年度という区切りを設け、成績を確認し、次の計画を立てる。この人為的な区切りがあるからこそ、終わらない営みを管理可能な単位に変換できるのです。

基幹システムの運営も同じように考えられます。
永続することを前提にしつつ、年度単位でテーマや重点施策を設定する。そして重要なのは、計画をすべて予定で埋めないことです。現実の運営では、想定外の対応や投資判断が必ず発生します。そのため、あえて4〜5割程度のバッファを確保し、「計画外」を織り込んだ運営設計にしておく。

これは計画の甘さではなく、終わらないプロジェクトを現実的に管理するための構造です。年度という区切りを持ちながら、変化を前提とした余白を残す。この両立が、長期運営を安定させる鍵になります。

本記事では、この年度決算型の発想を使って、終わらない基幹システム運営をどう設計し、どう振り返るかをPM視点で整理していきます。

終わらないプロジェクトという現実

情シスの仕事は家事のようなもので、日々発生し、終わることがありません。
そのため、通常の開発プロジェクトのように要件や機能単位で管理しようとすると、オーバースペックだったり、無理がかかったりします。

通常のプロジェクト管理は、「始まり」と「終わり」が明確であることを前提に設計されています。要件を定義し、スコープを決め、期限までに成果物を完成させる。そして完了すれば一区切りです。評価もしやすく、進捗や成功の定義も比較的明確です。

一方で、基幹システムの運営にはこの「完了」がありません。改善、保守、調整、問い合わせ対応といった活動は連続して発生し続けます。スコープを固定することも難しく、想定外の対応が日常的に入り込みます。つまり、通常のプロジェクト管理の枠組みをそのまま当てはめようとすると、現実とのズレが生まれてしまいます。

このズレが、情シスの疲弊につながります。計画は立てたそばから崩れ、優先順位は頻繁に変わり、終わりが見えない仕事が積み重なっていくなか、「管理できていないのではないか」という疑念すら生まれやすい構造になっているのです。

しかし実際には、これは個人の能力や努力の問題ではなく、仕事の性質そのものが“終わらない運営”であることに起因しています。つまり、管理の方法を変えない限り、同じ疲弊を繰り返すことになります。

ゴールがない仕事は管理できるのか?

ゴール(完了)がない仕事を人間は上手く扱えません。なぜなら、人間は有限の存在であるため、無限を上手くイメージできないためです。始めも終わりもない仕事は人間の手に余ります。

何より、終わりがないと評価ができません。これは別に他者評価が必要ということではなくて、仕事を自己評価する区切りすら持てないということです。評価するためには時間的な評価範囲の区切りが必要なのです。そして、当然ながら、評価できなければ、進捗も感じ取れないわけで、「進んでいる感」は失われていくのです。進捗がない作業の苦痛には人は耐えられません。これは賽の河原積みを永遠に行うことを想像してみてもらえればすぐに辛さがわかるかと思います。

基幹システムの運営は、ですのでプロジェクトという有限の取り組みの概念で扱うことが非常に難しいのです。無理に扱えば、疲弊者続出になるでしょう。

会計の発想を持ち込むという考え方

さて、実は身近に永遠に続く想定を持ちながら管理を回している世界があります。それが、企業の経営活動です。企業活動はその成績を財務諸表からなる会計で評価します。その際、会計では企業は永遠に存続するという仮定をおきます。

これはゴーイング・コンサーンと呼ばれる考え方で、なぜ必要かというと、例えば建物などの固定資産は、事業活動の継続を前提とすれば減価償却によって費用化することが可能ですが、会社の倒産を前提とすると処分価値で評価することになり、場合によってはゼロになってしまうこともあり得ることになってしまうという問題が生じるからです。

ちなみに、日本円などの通貨も同じです。通貨が価値を持つのは、その通貨が未来永劫、価値を持ち続けるという信憑が共有されているからです。これは、明日、日本円が紙屑になるかもしれないという状況下で日本円に元の価値を感じられるか?と想像すればわかりやすいでしょう。

脱線しました。ともかく、企業経営は終わりがないという仮定をおきます。そんな企業経営を上手くコントロール、評価するための仕組みとして会計があり、その会計は会計年度という人工的なゴールを設定します。つまり、やること(活動内容)で区切るのではなく、時間範囲で区切ってしまうのです。

年度設計という運営フレーム

時間範囲で区切ってしまう運営フレームであれば、範囲自体はなんでも良いのですが、経営計画と合わせて年度で区切るのがおすすめです。というのは、情シスの活動は経営計画の中で年度で予算が組まれているはずだからです。そこは同期しておいた方が何かと便利です。もちろん、年度で区切った上で、さらに四半期ごとに区切っておくのも良いです。

時間範囲を区切ったら、その範囲の中で何を達成するかを決めていきます。この時、重要なことは「One Term, One Issue(一つの期間に一つの取り組み)」にすることです。現実には、細々としたことも含めて、行いたいことは山ほどあると思います。しかしながら、経験上、それらを満足に対応することはできません。何度も述べている通り、情シスの仕事には終わりがなく、タスクレベルの仕事は日々流入してきます。そんな状況下で、あれもこれもと考えていると必ず全てが中途半端な状態に陥ってしまいます。

したがって、年度に設定する施策は一つが理想。多くても3つまででしょう。そして、四半期毎には各々の施策に対するマイルストーンをこれは一つ限定でおきます。一つの文で表現することを意識すると良いです。実際は、複数のメンバーで一つの施策を分担して進めるでしょうから、各メンバーにはそれぞれの施策からさらに分割した目標を立ててもらうことになります。その際も、なるべく少なく、一文で表現してもらうようにすると良いです。

バッファ設計が現実を救う

物事は計画通り進みません。これは人間が未来予測をできない以上逃れられない真実です。では、先ほど立てた年度目標や四半期目標は意味がないでしょうか?答えはYesでもあり、Noでもあります。計画、目標というものは目印なのです。実行フェーズにおいて、様々に発生する計画外のイベントやトラブルの渦中において、それでも目指すべき場所を見失わないためのものなのです。だから、やたらめったら沢山たてるものではないのです。目印が多すぎると迷います。

さて、何が起こるかわからない、計画通りにはいかないことがわかっている状況下で、それでも目標をなんとか達成しようと考えるなら、どうするのが最適解でしょうか?

答えは、余裕(バッファ)を持つ、です。

例えば、自動車で絶対に遅れられないデートに行くなら、

  • 早めに余裕を持って家を出る
  • 事故が起きないように車間距離に余裕を持つ
  • いくつかの経路を前もって余裕をみて考えておく

といったことをするでしょう。これと何も変わることはありません。

ではバッファはどの程度とるべきなのでしょうか?

経験上、情シスの仕事においては最低4〜5割のバッファが必要です。
常に細々としたタスクも含めてタスクが流入してくる情シスにおいて、本来の目標に5割も使えたらちょっとした「奇跡」です。これは、家事を切り盛りしながら旅行の計画を立てることを考えると想像がしやすいと思います。この場合だと2割も旅行計画にとれたら御の字ではないでしょうか。その意味でも、計画や目標の数は絞らなくてはいけません。

運営を回し続けるためのPM思考

通常プロジェクトのPMとは異なり、情シスのPMが意識しなければいけないことは、プロジェクトを「運営」することではなく、「運営し続ける」ことです。端的に言えば、最適化よりも継続性ということになります。

最高の食材、最高の調理、最高の味と栄養バランス、家族の健康状態にも配慮した最適なメニュー・・・無理です。毎日、食事を提供する立場では無理です。食事の用意以外にもやること盛り沢山な立場では無理です。そんなこと(?)よりも明日も食事を提供し続けられることが大事です。そういう話です。

これは最適を絶対に目指すなということではありません。そうではなくて、短期的に最適であることは長期的な継続より優先しないということなのです。少しずつ、改善し続けることはもちろん取り組みます。しかしながら、そうした取り組みもまずは継続ありきなのです。

おそらく情シスのエンジニアが結構な確率で嫌う言葉があります。

「一から全部作り直せばいいじゃん?」

あのね?止められないの。色んな理由があってこうなってるの。全部って、全部の仕様が見極められる状態じゃないの。最適じゃないことなんて重々承知しているけれど、なんとかやってきて今があるの。

貴方は、家庭でもそんなことを言うんですか?と。そんな発言、なんか最適じゃないから家族を一から全部作り直せばいいじゃんと言っているに等しいってことわかってる?・・・離婚案件ですよ?

情シスのPMは継続性を優先しながら、期首に立てた目標にも目を配りつつ、少しずつ身の回りを改善していくといったことが求められます。繰り返しになりますが、通常の開発案件のPMとは全く異なる能力が求められるのです。具体的には、改善をコントロールすることが第一手になります。なぜなら、継続性を保ちつつ何かを行うには改善しかなく、改善を行うことで目標に振り分けるリソースの確保が望めるからです。

まとめ:終わらない仕事に区切りを作る

情シスの仕事は終わらない仕事という話をしてきました。そのため、やることで区切るのではなく、時間範囲で区切ることが有効であること、バッファが重要であること、継続性に重きおいたPMの発想が大事であることを述べました。

年度設計はゴールではなく、「管理可能にするためのフレーム」です。終わらない運営を、見える単位に切り分ける。その積み重ねが、結果として安定した改善サイクルとなっていきます。

次回は、この「回し続ける設計」が実際の基幹システム構成にどう現れるのかを見ていきます。現在の構成は偶然できたものではなく、過去の意思決定と現実的な制約の積み重ねです。その背景をひも解きながら、「なぜ今この形なのか?」をPM視点で整理していきます。

あなたの運営は、「終わらない前提」で設計されていますか?

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