[セッションレポート] コヤ所長が伝授する「特別な才能が無くてもヒット作品を産み出せる科学的企画開発手法 #1」 #devio2024_game

[セッションレポート] コヤ所長が伝授する「特別な才能が無くてもヒット作品を産み出せる科学的企画開発手法 #1」 #devio2024_game

Clock Icon2024.07.11

こんにちは、製造ビジネステクノロジー部の若槻です。

現在クラスメソッドは会社設立 20 周年イベントとして「DevelopersIO 2024」を 1 ヶ月間にわたって開催しています。
https://classmethod.jp/m/odyssey

今回は、そのうち 2024/07/05(金)の Game Special Day にてコヤ所長(小山順一朗氏)が登壇したセッション「特別な才能が無くてもヒット作品を産み出せる科学的企画開発手法 #1」の模様をお伝えします。

登壇者紹介

小山順一朗(コヤ所長)

日本大学理工学部精密機械工学科卒業後、1990 年に株式会社ナムコ(現バンダイナムコアミューズメント)入社。メカエンジニアとしてアーケードゲームに携わり、1992 年には海外の VR の業務用ゲーム機「VIRTUALITY」を日本向けに展開。VR 開発本部では、1995 年発売の「アルペンレーサー」など体感マシンを中心に開発。
『アイドルマスター』(2005 年)や『機動戦士ガンダム戦場の絆(2006 年)』など新しい形の体感型ゲームを手掛け、数多くのヒット作品を生み出す。

2015 年から VR 技術でエンターテインメントの新たな領域を開拓するプロジェクトを立ち上げ、屋内型テーマパーク「VR ZONE」や「MAZARIA」をプロデュース。
2024 年 3 月に株式会社バンダイナムコ研究所からの退社。同年 4 月に株式会社ホットスタッフ・プロモーション入社。同社が参画する学校法人片柳学園日本工学院八王子専門学校の教育革新プロジェクト VisionCraft のエグゼクティブプロデューサーに就任。

2024 年 6 月よりクラスメソッドの顧問に就任。

元バンダイナムコ研究所のコヤ所長こと小山順一朗氏、クラスメソッドの顧問に就任〜ゲーム開発・運用支援の体制を強化〜 | クラスメソッド株式会社 より

セッションレポート

コヤ所長、おなじみの白衣姿で登場

お馴染みの衣装である白衣をまとって壇上に現れた"コヤ所長"こと小山順一朗氏。導入では自己紹介として今までの経歴の紹介を行った。まずゲーム業界にいた 34 年間で 100 タイトル以上の商品を開発してきたとのこと。主に手掛けてきたのはアーケードゲームで、代表作としてはアンパンマン、太鼓の達人、湾岸ミッドナイト、アイドルマスター、機動戦士ガンダム 戦場の絆、釣りスピリッツ、VR Zone などがあり、戦場の絆に至っては日本初のリアルタイムオンライン対戦ゲームだったと語る。


当日の司会を務めた声優の古原さんの呼びかけで壇上に登場したコヤ所長


有名なヒット商品から知る人ぞ知るタイトルまで、多くのアーケードゲームを手掛けてきた


版権作品の画像は権利の関係で使えなかったという事情により、スライド中では手書きのイラストが多用されていた

そしてこの日のセッションで紹介するのは、一部の才能ある監督やプロデューサーによる武勇伝ではなく、タイトルの通り「特別な才能がなくても科学的で再現性のある手法でヒット作品を生み出す方法」についてだと前置きする。


講演のテーマ「特別な才能が無くてもヒット作品を産み出せる科学的企画開発手法 」

ゲーム開発で重要となるのは商品の「コンセプト」

まず、本題に入る前に自身が手掛けた「マリオカート アーケードグランプリ DX」を例に、ゲーム開発の流れをおさらいする。キャラクターデザイナーや CG モデラーなど 50 人以上の専門職の人が 2,3 年掛けて制作に携わり、さらに販売や宣伝なども含めると 20 種類以上の専門家が集まってチームから成り立っており、それぞれが協調してゲームを作り上げたという。


ゲーム制作はチームで作り上げる仕事である

しかし、もしそれぞれの専門家がそれぞれの考えを持って勝手に仕事をしたら、2,3 年という開発期間の中で様々な流行りのアイデアを盛り込もうとしてゲーム制作が迷走してしまい、失敗作ができあがってしまう。


それぞれの専門家がそれぞれの考えを持って勝手に仕事をしてしまったら

そこでゲーム制作が迷走しないようにするためには面白さの軸となる羅針盤が必要で、それは企画書の元となる「商品コンセプト」だという。商品コンセプトとはゲームを作る上での方向性を示すもので、ゲームの企画書の中で最も重要な部分だと説明する。この商品コンセプトを描くことによりゲーム制作の方向性が明確になり、実際にチームの利益に繋がったとのこと。


商品コンセプトを決めて開発の方向性を明確にする

「産業廃棄物」を量産してしまった若手時代

先ほどまでの話は「商品コンセプト」を定めることにより成功に至った例であったが、さらに遡ると失敗作を量産してしまった若手時代があったと振り返る。PlayStation 2 が発売された 1999 年頃は家庭用ゲーム市場がゲームセンター市場の規模をついに上回るというゲーム業界にとっては変化の時期だったが、その中で当時小山氏が所属していたゲームセンター部門では「下剋上アイデアコンペ」という社内コンペを行うこととなった。このコンペは他社のヒット商品を 120 % 上回るアイデアを企画できれば誰の提案であっても採用して商品化するという制度。当時まだ若手だった小山氏はチャンスだと考え多くのアイデアを提案して商品化までこぎ着けたが、その結果は惨憺たるものでいくつもの「産業廃棄物」を量産してしまったと語る。


産業廃棄物を量産してしまった


壇上から参加者に問いかけをするコヤ所長

伝説のマーケターたちと出会い、マーケティングを学ぶ

そのような業界動向の変化や経営戦略の失敗を受け会社では構造改革がはじまるべくしてはじまった。リストラにより仲間や意思決定者がいなくなり、拠り所となる判断軸が消えてしまったが、その状況下で小山氏が出会ったのが、元ユニ・チャーム長井和久氏や、M.I.P 理論の梅澤伸嘉氏、元 P&G 西口一希氏ら伝説のマーケターたちである。彼らからマーケティングを学ぶことによりヒット作品をいかに作るかを考え始めた。


マーケティングと出会った

彼らによると世の中のプロダクトを「欲しい」と「珍しい」の軸で評価した時に、ロングセラー、ほっとくと短命、一発屋芸人、穀潰しの 4 象限で表現できるという。そしてロングセラーに当てはまる商品はそのジャンルでの第一想起を獲得しており、それは「インプラントと言えばきぬた歯科が真っ先に思い浮かぶようなもの」だと小山氏は例えた。


プロダクトを「欲しい」と「珍しい」の軸で評価


プロダクトをロングセラー、ほっとくと短命、一発屋芸人、穀潰しの 4 象限で表現

アイデアとニーズを切り分けて「未充足ニーズ」をゲットし、コンセプトを導き出せ!

ヒット商品になる条件は分かったが、それでは「多くの人が欲しがる珍しい商品を提供する」というシンプルなことを実践できていない人が多いのはどうしてだろうか?それは多くの人が未だ満たされていない欲求である「未充足ニーズ」をゲットできていないからであり、アイデアや技術は未充足ニーズを実現するためのものだと小山氏は説く。


未充足ニーズを手に入れる

そこで例えば「超美麗なグラッフィクのゲームで遊びたい」という消費者の声がある場合に、それに対してアイデアとニーズを切り分ける必要がある。切り分けを行うことで「超美麗なグラフィックのゲームで」というアイデア部分と「遊びたい」というニーズ部分に分解できる。さらにアイデア部分に対して「それは主として、なんのため?」というマジックワードを適用することにより「現実のような臨場感を味わいたいから」という、消費者の隠れている言葉を掘り起こすことができる。このように普段からニーズを抽出する癖を身に着けることが重要だと訴える。


「超美麗なグラッフィクのゲームで遊びたい」という消費者の声


ニーズは格納されてしまっている


それは主として、なんのため?」というマジックワードを適用


普段からニーズを抽出する癖を身に着ける

そしてこのように消費者の声に対して切り分けを行うことには大きく 2 つのメリットがあるとのこと。1 つ目が「未充足ニーズに加工できる」ことによりまだ世の中に出ていないニーズを見つけやすくなることで、これにより先ほど分解した「現実のような臨場感を味わいたいから」というニーズに対して「子どもの頃に戻った」や「ヘッドホンが欲しい」などの付け足しをする加工を施すことにより「未充足ニーズ」を見つけやすくなる。2 つ目は「アイデアが出しやすくなる」こと。アイデアというのはニーズという目的を達成するための手段として存在しているのであり、ニーズ単体は評価可能だがアイデア単体では評価不可能であるため、質の良いアイデアを出したければ未充足ニーズを導き出すべきである。これはチームで達成するプロジェクトにおいても同様であり、そのプロジェクトにより生み出されるプロダクトがどんな未充足ニーズを満たすのかをハッキリと言語化できないリーダーはメンバーから信用されず、またそのようなリーダーが率いるプロジェクトはデスマーチに陥りかねないと、自身の経験をを踏まえて警告した。


アイデアとニーズに分解するとどう良いのか?


①未充足ニーズに加工できるから


②アイデアが出しやすくなる


目的を達成するために手段は存在している

さらに「未充足ニーズ」を明確化するためには、ニーズを立体構造で捉えることがコツであると続ける。人間が自分でも気付けないニーズは上流にありその最も源流には幸福追求ニーズ(Be Needs)がある。縦の構造としては上流から Be(人生ニーズ)〜Do(生活ニーズ)〜Have(商品ニーズ)というピラミッド型となっており、下流での「◯◯を買う」などの具体的な"手段"となる消費行動は Have ニーズ、中流での「◯◯したい」という"生活の課題"は Do ニーズ、上流での「◯◯でありたい」という"人生の目的"は Be ニーズに該当する。これはプロジェクトの組織構造と似ていて、ゲーム開発においてはどんなに面白いアイデア=手段が提案されても最上位の「未充足ニーズ」に繋がらなければ取り入れないということを徹底するべきだという。


源流のBeニーズは10個ある


ニーズ層構造図


最上位の「未充足ニーズ」に繋がらないアイデアは取り入れない


重要なポイントを力説するコヤ所長

最後に、顧客側の言葉であるニーズを提供側の言葉である"ベネフィット"と表した時に「C=I+B:コンセプト=アイデア+ベネフィット」という定義が成り立ち、冒頭で触れた商品の「コンセプト」はこのようにして導き出せると締めくくった。


アイデアとニーズからコンセプトを明確化する


C=I+B がヒット作品のための定義

所感

この日に行われたセッションの中では 90 分という最も長丁場の講演でしたが、それを感じさせない非常に濃密な内容でした。講義内容が参考になったのはもちろんのことですが、笑いを誘う冗談がたびたび飛び出したり、参加者に理解度を試すためのクイズを出題されたりとコヤ所長のお茶目さが所々に垣間見える楽しいセッションでした。一方で「技術・手段を可愛がるな!」という普段から技術に目が行きがちなエンジニアとしては耳の痛い言葉もあり、こちらも非常にためになりました。また今回のセッションは #1 というナンバリングタイトルとなっており続編に含みが持たされていたので、次回作にも大いに期待したいと思います。ご登壇お疲れ様でした。

以上

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