#DevRelJP [レポート] KT( @DATA_Saber )氏基調講演『DevRelこそ、プロダクトが愛され発展する源泉』 - DevRel/Japan CONFERENCE 2024
2024年09月14日(土)、docomo R&D OPEN LAB ODAIBAで日本唯一のDevRel(Developer Relations)に関するカンファレンス「DevRel/Japan CONFERENCE 2024」が開催されていました。個人的には最近コミュニティ活動やDevRel(が持つ側面)に関わることが多くなってきていたので、何らかの知見や情報が得られるのではと思いイベントに参加してきました。
まる1日(述べ10時間以上)掛かりとなったイベントでしたが、個人的にはセッション内容やネットワーキング、スタッフの皆様の振る舞いやおもてなしクオリティのどれもが素晴らしく、非常に満足感の高いものとなりました。
当エントリではその中で行われたKT氏(Snowflake合同会社 / @DATA_Saber )による 『DevRelこそ、プロダクトが愛され発展する源泉』 のセッション内容をお届けします。
イベント及びセッション概要
イベント公式サイトに記載のセッション概要は以下の通り。
テクノロジーの進化の中で、何をするのも簡単な世界になりました。発信すること、自分のコンテンツを持つこと、そして製品を作ること。あらゆる人に門戸が開かれたことで、多様な製品が生まれ、反面として使う側は何を選ぶべきか迷うようになりました。どの製品も人の課題や想いを写し、ユーザーの意見を聞き、努力を重ねて作られてきたものであり、そこに機能差と呼べるものは少なくなってきているからです。
そんな今こそ、プロダクトの思想や世界観、生まれた意義、向かうべき未来を共有し、それがユーザーに受け入れられ、愛されることが必須となっています。愛したユーザーは、プロダクトの目指す世界を実現する仲間になるのです。
プロダクトが目指す世界は、文化となって人々に浸透します。プロダクトの機能差が重要なのではなく、それを扱って変化した人々こそが重要なのです。
DevRelは製品を取り囲む人と人との関係性を形づくり、「ここが私たちのホーム」と感じさせる極めて大切なファクターです。本基調講演は、DevRelに携わる、あるいはこれから取り組もうと考えているみなさんの北極星が示せるようなセッションを目指します。
また、このイベントではセッション概要の情報に「インタビュー」も公開されていましたので合わせて共有(引用)させて頂きます。
セッションレポート
ここからは当日のセッション内容を振り返る形で適宜言及していきます。
登壇資料は以下の形で既に共有されています。(ハイパーリンクまたは画像をクリックすることでCanvaのプレゼンテーションに遷移できます。)
はじめに
- 現職はSnowflakeだが、今日お話するのは会社の話というよりはこれまで関わってきたコミュニティ、DevRelという立ち位置で、KT個人の視点でここ数年間についてお話出来ればと思う。
- DevRelの中で重要な位置を占めている「コミュニティ」。DevRelは今の時代、最も重要な取り組みであることは個人的にも信念として持っている
- 身の回りの人に、DevRelが大事な要素であるということを説得できるか、納得させることができるか。
- なぜ重要なものであるのにまだまだ知られていないのか、関係性というものの評価が難しいというのが側面としてある
- 自身はデータの世界に生きてきたが、コミュニティの中には「データを超えた何かがある」と考えている
- DevRelを信じる人をもっと増やしていきたい。
DevRelは今の時代最も重要な取り組み
- 製品機能差はほぼなくなってきており、すぐに追従される状況になっている(すぐに真似される)
- 「コミュニティのあるなし」で、人は明確に製品やサービスを選んでいる
- KT氏自身、そういうコメントを幾度となく聴いてきた
- みんなが愛していてみんなが使っているものであれば「間違いない」という判断
- 人は誰しも「自分の選択を誰かに認めてもらいたい」という側面があり、コミュニティがあることでその側面が補われている
- 製品自身がコミュニティの存在によって使い手と繋がり、強くなっていく
- 信念とビジョンを共有したユーザーが出してくる建設的な意見によって強化されていく
製品の成長を支えるコミュニティの存在
- Tableau/Snowflake、皆さん知っていますか?使ったことはありますか?
- この2つはコミュニティがあったからここまで成長したというのもあるが、ここまで成長するのには色々あった
- 呼び方からして誤解されてたという時期も勿論あった
- コミュニティでつながった事例:Snowflakeコミュニティで育った人が主催している「datatech-jp」というコミュニティの「みんなが考えた最強のデータ基盤アーキテクチャ」シリーズ
- データエンジニアが集まるコミュニティ
- 毎回1000人規模で参加者が集まる盛況ぶり。
- このイベントの存在で、Snowflakeはちゃんと勉強しないといけないんだな...という認知を確実に得ている。
- コミュニティが認知獲得に大きく貢献しているという事実。
- 良く「自分の製品のコミュニティを作りたいのだが、TableauもSnowflakeも元々イケてたんでしょ?」と言われる
- それは違う。イケてる製品だからコミュニティがあるのではなく、コミュニティがあるからイケてる製品なのだ。
- イノベータ的なユーザーを引き止めておくのは「熱いコミュニティ」の存在。
- プロダクトを支え、育み、強くするのがコミュニティの役目。
コミュニティが製品の成長を支えた事例(1):Tableau Data Saber
- 90日でTableauのスキルとビジョンを学び、同じ志を持つ仲間と出会うプログラム
- 師弟制の形を取っており、師匠がいなければ挑戦することが出来ない仕組みになっており、コミュニティよる完全セルフドライブなプログラム
- 公式認定資格でないにも関わらず、名だたる企業で人事制度に組み込まれている
- なぜこの制度が生まれたのか?
- 話は2016年に遡る...当時エクスパンションに苦しんでいた。Land(組織内で小さく始める)は良かったがその後のExpantion(拡大)施策に苦しんでいた
- 全社展開している企業を見ると、チャンピオン(その製品を良く理解していたり広めてくれる人)の存在があった
- スキルの高い人、推進力がある=ビジョンがある人、どちらかは居る。でもどちらかだけだとコケる
- 自然発生しないなら育てよう!ということでスキルとビジョンの双方を学ぶプログラムとして誕生。
- 想定以上の結果が生まれる事に
- また、制度卒業生から「参加者同士の繋がりがかけがえのないものになった」という感想も
- 最初からビジョナリーで無くてもいい。Tableauも最初は女子会集まったら楽しそう!から始まった
- 継続していくと...
- 1年位すると事例が出来てくる
- 卒業生が社内で旗振り役として振る舞い、営業が格段にしやすくなる=共に歩む仲間になる
- 卒業生の事例発表のクオリティが段違いに高いと評価される
- 継続はいつまでやるか?
- KT氏だけの奮闘では展開にも限界がある
- じゃあみんなでやろうという流れに、卒業クライテリアをみんなで決め、メンバーで協力してシステム化。
- 運用開始から5年、
- 卒業生は2285名にまで増え、組織内展開のリーダーであったり、ユーザーグループ等外部コミュニティのリーダーに。
- ソーシャルメディア・コンテンツが爆増。
- 海外の認定プログラムで選出される日本人も増えてきた。
- 起業や新規プロダクト開発にも展開。
- 書籍の出版等も多数展開
- [学び1]:強いコミュニティを造る3つの柱
- スキル
- ビジョン
- コネクション
- [学び2]:仕組みと情熱の継承
- みんなで展開するには仕組みと情熱を高いレベルで継承することが大事
- 以前、KT氏が「私はこのプログラム、自分で育成するつもりがない」と宣言。その際に周囲は「KTが教えないと多分続かない」と反対意見が挙がった
- そこは押し切った。なので押切も重要。以降の状況を見ると、Data Saberが属人的なプログラムでなかったということが分かる
コミュニティが製品の成長を支えた事例(2):Snowflake ・Snowvillage
- Tableauの事例は奇跡だったのか?それを確かめるために2020年06月、Snowflakeに転職
- Snowflake自体はKT氏入社当時、Tableauよりも遥かに無名だった
- 入社当時「コミュニティを作ります」と宣言、社長の東條氏に「まだ早いんじゃない?」と言われるも「いや、早い時期に作ったほうが良いですよ」と宣言し設立
- スキルとビジョンとコネクションの実証実験として「Data Polaris」という取り組みも進めている
- Data Polaris Bootcamp 参加報告 - TECHSCORE BLOG
- SnowflakeのData Polarisに認定されました
- こちらは現在、Data Saber程スキルの体系化が出来ていない状況。
- Snowflakeの機能進化が早すぎるというのがその理由。
- ビジョンを共有した強いコミュニティメンバーによる立ち上げは出来ている
- ビジョンをコミュニティから波及させていく段階
- 「仕組みを渡す」タイミングはまだ。情熱がReadyのコミュニティに仕組みを渡す実証実験はまだ最中
- SnowVillage(Slack)の入り方を公開した
- 元々はプライベートなものだったが、公開に踏み切った
- なぜ公開しなかったのか?
- 人数規模で言えば数百〜数千人クラスのものはあるが、「空っぽ」のチャンネルが多かったり、いつも同じ人が発信しているのを良く見ていたから
- SnowVillageはアクティブな投稿、ユニークユーザーの自発的な発言が活発化されている
オマケ:本来的には「コミュニティの人数」を測ることは難しい
- 正直なところ、「どれが人数を正しく表している」?Slack?YouTube?
- 本来はコミュニティの人数は測れないものだと思っている。
- この辺をわかった上で設定するというのはアリ
- 誤解しないようにしなければならないのは**「何某かの数値目標を持つことは良い。ただそれは一時的なものであり、何かの目標を達成するために数字を計測しているのであり、それがコミュニティの本筋だったり真髄である...という風に感じてしまうと間違った方向に進んでしまう」**ということ。
完全セルフドライブへの軌跡
- このやり方で実現したのが、2024年09月に開催されたコミュニティコンテンツ。
- [学び3]:コミュニティはいつか帰るところ
- [学び4]:コミュニティの真の評価軸は『どれだけたくさんの人の人生を変えることができたか』
- 前述のKPIはコミュニティのゴールではない
- SnowflakeもTableauも「この製品に出会ったことで私の人生が変わった」といってくれる人が何人もいる。それがコミュニティの資産
- 最初は小さなお礼から。そこからメンバーによる発信とサポートする仕組みの相互作用が生まれ、コミュニティメンバーのプレゼンスが向上
- コミュニティのプレゼンスが上がり、ブランド力が高まる「正のサイクル」に入っていく。そして自ずと人が集まってくるようになる
- そして自らの人生を切り開くきっかけと言われるようになる
おさらい
- なぜビジョンが必要なのか?ビジョンの共有が無いと...
- 誤った使い方をされた挙げ句「使えない」と言って切り捨てられる
- コミュニティメンバー同士で悲しい諍いが起きる
- コミュニティを育むのに必要な役割。KT氏は「コミュニティマネージャー」「エヴァンジェリスト」「コミュニティリードメンバー」を兼務している。分解してみて、自分がどの役割として振る舞いたいか、考えてみよう
- コミュニティマネージャー(仕組みのクリエイター)
- エヴァンジェリスト(情熱の伝道師)
- コミュニティリードメンバー(仕組みと情熱の継承者)
- 経営者、マネジメント(最強のサポーター)
- コミュニティマネージャー(仕組みのクリエイター)
- KT氏自身、今やっている仕事はいずれ「次」に渡すつもりでいる
- 元々KT氏自身が継承者でもあった
- 人任せではない、「私が受け継ぐのだ!」という強い覚悟
- だから継承者は育つ:ホームを守り、あなたが受け継がなければ失われてしまう...という衝動的な気持ち
- 人はそれを「自分ゴト」化と呼ぶ
まとめ
というわけで、「DevRel/Japan CONFERENCE 2024」基調講演、KT氏による 『DevRelこそ、プロダクトが愛され発展する源泉』 のセッションレポートでした。
KT氏の情熱の凄まじさは勿論のこと、数々の取り組みを再現可能な形に落とし込むべくアクションを起こし続けているその行動力の凄まじさにも只々感嘆するばかりでした。実践面においても様々なトピックで参考になる部分が多く得られたので自分の活動にも取り入れていこうと思った次第です。KTさん、ありがとうございました!
KT氏といえば 以前時間切れで全てを聞くことが叶わなかったセッション の完全版が2024/10/03(木)に聴ける事になりました。こちらもめっちゃ楽しみです!