
DevRel/Tokyo #100 参加レポート:コミュニティ運営の舞台裏と実践知
はじめに
DevRel(Developer Relations)は、Amazon、Google、Facebook、GitHubなど多くの技術企業が取り入れているマーケティング手法です。外部の開発者とのつながりを形成し、製品やサービスの認知向上と、開発者からのフィードバックを製品改善に活かす双方向のコミュニケーション活動です。
DevRelは、旧来のエバンジェリストやアドボケーターに代わる役回りであり、IT版のインフルエンサーのような役回りといえるでしょう。
今回のDevRel/Tokyoイベントでは、コミュニティ運営の裏側や、長年DevRel活動を続けてきたプロフェッショナルの経験から、実践的な知見が共有されました。特に、コミュニティ運営における課題とその解決策、長期的に活動を続けるためのモチベーション維持の方法など、DevRel実践者にとって価値ある情報が満載でした。
イベント概要
- イベント名: DevRel/Tokyo #100
- 開催日: 2025年3月5日(水)
- 会場: オフライン(参加者約10名)
- 形式: 自己紹介セッション + パネルディスカッション + 懇親会
- イベントページ: connpassイベントページ
イベントの流れ
自己紹介セッション
会場提供者による会場と会社の説明後、参加者一人ひとりの自己紹介ターンに。「10年前、何をしていましたか?」というテーマに沿って、各参加者が30秒程度で自己紹介を行いました。参加者は仕事の話や当時注目していた技術について、小さな笑いを交えながら紹介する手慣れたスタイルが印象的でした。
このアイスブレイクは、その後のディスカッションの場を和やかにする効果があり、コミュニティイベントの基本でありながら重要な要素であることを再認識させられました。
パネルディスカッション:DevRelの舞台裏
パネルディスカッションでは、Slidoを使って事前に集められた質問をもとに、ゲストスピーカーが経験を共有しました。運営側があらかじめ匿名で投稿を準備していたため、進行はスムーズでした。
主な議論ポイント
1. 「話せるエンジニア」の役割と見つけ方
- キーポイント: 技術的知識を持ちながらコミュニケーション能力も高いエンジニアは、DevRelにとって貴重な存在
- 発見方法: 登壇者の発掘方法は組織によって異なる
- 社内勉強会での発表者から見つける
- 技術ブログの執筆者をチェックする
- コミュニティイベントでの発言者に注目する
2. デモ失敗への対応策
- 業界あるある: 技術デモの失敗は業界でよくある出来事
- 現代の対策:
- 事前に動画を撮影しておく
- バックアップ環境を用意する
- 失敗した場合のストーリーも準備しておく
3. DevRel活動での困難とその対策
- 課題: 粘着性の高い参加者への対応
- 実践的対策:
- セッションでは質問を受け付けず、専用の「Ask the speaker」コーナーに誘導
- グループディスカッション形式にして、一対一の対応を避ける
- オープンな場での議論を促し、コミュニティ全体で対応する雰囲気を作る
4. 効果測定の難しさ
- 課題: DevRel活動の成果を数値化することの難しさ
- 現実: 認知度が上がっても、必ずしも直接的な引き合いや売上につながるわけではない
- 測定方法:
- コミュニティ参加者数の推移
- コンテンツエンゲージメント(記事閲覧数、動画視聴時間など)
- 長期的な関係構築の質的評価
5. 長く活動を続けるための秘訣
- 個人的モチベーション維持:
- 「新しいことを何かしら続ける」習慣を持つ
- 興味の持続が重要
- 仕事時間内で取り組める環境を作る
- 実践的アプローチ:
- ハンズオン資料の作成など、誰かの行動を刺激する可能性のある活動に注力
- 特定のテーマ(例:アクセシビリティ)について継続的に発信
- コミュニティ視点: 求心力のあるコアメンバーが継続して活動することの重要性
DevRel活動を効果的に続けるためのヒント
イベントで共有された知見から、DevRel活動を長期的に続けるための実践的なヒントをまとめました:
1. コミュニティ運営の工夫
-
オープンさとコントロールのバランス
- コミュニティはオープンであるべきだが、適切な場の設計が重要
- 質問タイムの設計や、グループディスカッションの活用で対応を分散
-
イベント設計のポイント
- 事前に質問を用意しておく(Slidoなどのツールの活用)
- 参加者が自由に発言できる雰囲気づくり
- アルコール・ノンアルコールの準備など、細かい配慮
2. 個人のモチベーション維持
-
継続のためのアプローチ
- 自分自身が楽しめる活動を見つける
- 業務時間内で取り組める部分を増やす
- 小さな成功体験を積み重ねる
-
アウトプットの習慣化
- 定期的な情報発信(ブログ、SNSなど)
- ハンズオン資料など、他者の学びにつながるコンテンツ作成
- コミュニティへの定期的な貢献
3. 組織としてのDevRel活動の継続
-
効果測定の工夫
- 短期的な数値だけでなく、長期的な関係構築も評価
- コミュニティの成長指標を設定
- 定性的なフィードバックの収集と分析
-
活動の可視化
- 定期的なレポーティング
- 成功事例の社内共有
- 経営層への価値説明
イベント運営の実践ポイント
DevRel/Tokyoのイベント運営からも学べる点が多くありました:
-
コミュニケーションの円滑化
- 冒頭で今後の大きなイベント(DevRel Kaigi)の告知
- 関連イベント(DevRel Rings)の紹介
- ソーシャルメディア(X、Slack、Facebook)のフォロー促進
-
参加者体験の向上
- 事前支払い(PayPay)による円滑な受付
- 入場時からの飲み物提供
- Slidoを活用した質問収集
まとめ
およそ10年前に始まったDevRel/Tokyoの記念すべき100回目のイベントは、DevRel活動の舞台裏と長期的な継続のコツについて、実践者ならではの貴重な洞察が得られる場となりました。特に印象的だったのは、「継続の秘訣は個人の興味と、コミュニティの求心力」という点です。
DevRel活動は、単なるマーケティング手法ではなく、開発者コミュニティとの長期的な関係構築であり、その成果は即座に現れるものではありません。しかし、継続的な活動によって築かれる信頼関係は、企業と開発者双方にとって価値あるものとなります。
今後DevRel活動を始める、あるいは強化したいと考えている方は、まず小さな一歩から始め、自分自身が楽しめる形で継続することが重要です。そして、10月2日〜4日に開催予定のDevRel Kaigiなど、コミュニティイベントに参加して、実践者の生の声を聞くことも大きな学びとなるでしょう。
DevRelの世界は、技術と人をつなぐ魅力的な領域です。このレポートが、皆さんのDevRel活動の一助となれば幸いです。
参考リンク: