【セッションレポート】 日本企業の DX 成功への道 - デジタルの前線化と それを支えるデジタルプラットフォームの構築 (AP-43) #AWSSummit

【セッションレポート】 日本企業の DX 成功への道 - デジタルの前線化と それを支えるデジタルプラットフォームの構築 (AP-43) #AWSSummit

AWS Summit Japan 2025 のセッション 「日本企業の DX 成功への道 - デジタルの前線化と それを支えるデジタルプラットフォームの構築(AP-43)」に関するレポートです。
Clock Icon2025.06.27

はじめに

遅まきながら、AWS Summit Japan 2025 に参加した際のレポートとなります。

「日本企業の DX 成功への道 - デジタルの前線化と それを支えるデジタルプラットフォームの構築」 のセッションレポートです。

調査結果から見たDX先進企業の特徴や、デジタル基盤の重要性について語られており、クラウドの運用を企画・提案する上で、大変ためになる内容でした。

資料はAWS Summitのサイトからダウンロードが可能です。
また、7/11 までセッション録画も閲覧可能になっています。
📄 参考資料:
セッション資料(PDF)

PwC が昨年実施した「DX 意識調査‐IT モダナイゼーション編」によると、日本で DX に成功している企業は約 4 割にとどまっています。成功している企業は、デジタル技術を活用し、顧客への価値提供と変化への迅速な対応を実現しています。これを達成するためには、従来の組織構造を見直し、デジタル機能を最前線に配置し、事業の中核にデジタル技術を据えることが重要です。そのためには、リスクを抑えつつ利用者の利便性を高めるデジタルプラットフォームの整備が不可欠です。本セッションでは、DX 成功のための組織のあり方とプラットフォーム構築のポイントを解説します。

登壇者
鈴木 直 氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター


サマリ

本セッションでは、PwCによる大規模なDX意識調査を軸に、「成果を出す企業」と「そうでない企業」の違いが、構造的・数値的に示されていました。特に次の3点が重点に見受けられました:

  1. DX先進企業とその他の企業で成果の差が歴然
  2. デジタル人材の育成・内製化は避けて通れないテーマ
  3. 運用者の負荷を下げ、現場で“使われる”プラットフォームの構築が必須

冒頭の調査結果、中盤の先進企業共通項、そして後半の“現場を支えるプラットフォーム”について解説されました。順に見ていきたいと思います。


IT変革の必要性:DXは“やり方”だけでなく“あり方”の再定義から

セッション冒頭で語られたのは、「日本企業のITがいま根本的な変革を迫られている」という点です。
本セッションでは、IT変革の必要性を次の視点から整理していました:

  • 組織:部門と役割の再定義
  • テクノロジー:クラウドネイティブ化、自動化など
  • プロセス:承認、管理、開発プロセス
  • 人材:スキル定義や育成

ITトレンドの変化、クラウドや生成AIの登場と浸透により、変化への対応が特に必要となっているという前提のもと、
上記の4つは相互に補完しあいながら成長する循環構造として捉えるべきだという点が強調されていました。

特に、「やり方を変える」だけではなく、「ITの“あり方”を問い直す」必要があるというメッセージは非常に印象的でした。つまり、単なるツールやプロセス導入ではなく、組織・人材・仕組みを含めた包括的な再構築が求められているということです。

この“あり方の再定義”という視点は、**AWSが提唱するCloud Adoption Framework(CAF)**とも強く親和性を感じました。
CAFでは、ビジネス・ピープル・ガバナンス・プラットフォーム・セキュリティ・オペレーションの6つのパースペクティブから、クラウド導入を全社的な変革と捉えています。セッションで紹介されたアプローチもまた、技術主導ではなく“ビジネス変革を技術がどう支えるか”という順序で整理されていたのが印象的でした。

さらに、技術中心の論調である、やることを変えるという点に加え、内製化やプラットフォームの在り方といった、やり方を変えるという点の掛け算、2つの視点が必要とも述べられていました。

企業のIT部門が「従来のシステム運用部隊」から「事業の成果を支える変革のドライバー」に進化していくには、まさにこのような視座の転換が不可欠だと感じました。

DX意識調査における調査結果

PwCでは、2024年から2025年にかけて約400社を対象にDXに関する大規模な意識調査を実施。その中で、企業の“DXの本気度”によって成果に大きな差が生まれているという点が明らかになったとのことでした。

調査では、企業のモダナイゼーション成熟度を、以下の観点から3つのステージに分類しています。
(アジャイル開発手法の活用 / パブリッククラウドの活用 / クラウドネイティブ技術の活用)

  • 先進企業:3つすべてにおいて、全社的に活用中
  • 準先進企業:3つすべてにおいて、一部ではあるが本番で活用中
  • 後進企業:どちらでもない

成果の“非対称性”が示す、行動の差

調査では、前項の3点のモダナイゼーション成熟度は、2022年から2023年にかけて、準先進の企業の割合がぐっと上がっており、おおよそ50%に。そして2024年ではそのまま定着した状態とのことでした。
なお先進企業の割合は微増の8%→9%に。ここはこの5年で大きな増加がなく、一定のハードルが存在することを感じさせます。

そしてその後紹介された内容では、「先進企業」と「後進企業」の間で成果に明確な非対称性があることが示されていました。

たとえば以下のような違いが見られました:

項目 先進企業 後進企業
DXによる業績改善を実感している割合 約96% 約20%以下
DX推進/業務/IT部門の連携度合い 約90%が密に連携 連携は約30%以下
デジタル人材の成果・効果 約80%が期待以上 わずか2%
システム開発における内製化割合 90%以上 約20%以下

この結果から読み取れるのは、単に「クラウドを導入している」「データを活用し始めている」といった、“点での取り組みの有無”ではなく、どれだけ積極的に技術や手法を取り入れ、変革に全面で向き合っているかが、成果の有無を分けている、という点だと感じました。

「技術導入」ではなく「組織変革」が鍵

調査から見えてきたのは、DXの成果を出している企業は、単に新しい技術を導入しているわけではないと感じました。むしろ、以下のような“構造的なアプローチ”を取っていることを見て感じました。:

  • DX推進体制の明確化(経営直下の専任部門など)
  • 技術導入だけでなく、業務プロセス・人材育成も同時に変革
  • 小さな成功体験を部門横断で共有し、成功パターンを再現
  • 現場・経営・ITが連携しながら推進する“自律型の文化”の醸成

こうした企業文化や体制整備が、結果としてビジネス成果に直結していることが、紹介されたデータから示されていました。


DX先進企業における共通項

続けて本セッションでは、DXに成功している企業に共通する要素として、明確な4つの成功ポイントが整理されていました。それは文頭の通り、ポリシー・プロセス・組織・プラットフォームという多面的なオペレーティングモデルの整備が不可欠であることが示されました。

以下は、セッション内で強調されていた各ポイントです。


① 徹底した顧客起点(ポリシー)

顧客の体験価値を高めるために、仮説・検証を高速に繰り返す継続的な改善の姿勢が求められている。

DX先進企業では、単に業務効率化を目的とするのではなく、常に“顧客にとっての価値は何か”という問いを出発点に据える点が強調されていました。


② データに基づいた仮説検証(プロセス)

変革の方向性を決める上で、データに基づく意思決定と継続的なフィードバックループの仕組みが重視されている。

具体的には、顧客の行動や反応から得られたデータをもとに仮説を立て、施策を実施 → データを確認して再設計、といった実証重視型の業務プロセスが設計されているという点が述べられていました。
変化の激しい時代ゆえに、高速で仮説検証サイクルを回し、マーケットへのフィットを検証していく必要があると解釈しました。


③ 業務とITが一体かつ内製化(組織)

ここがDX成功企業とその他の企業を分ける重要なポイントであり、セッションでは、「業務とITが一体となって動ける組織構造」を重視しており、実際に成果を出している企業では以下の特徴があるとされていました。

  • KPIを共有しながらアジャイルに活動できる体制を整備
  • 組織の境界を越えた共創が起こる設計
  • 差別化領域では、自社のエンジニアによる内製開発・運用を実現

つまり、ITは支援部隊ではなく、業務そのものを動かす一体の存在になっており、それを実行できる組織力が土台にあるとのことでした。

利用者は特定の部門だけではなく、全ての部門がそれぞれ利用、そのためにはガバナンスを利かせた、標準化され運用効率のよい、品質やコスト効率面も考慮したプラットフォームが必要。
これはAWSのWellArchモデルにも共通した事項と捉えることができると聞いていて感じました。


④ デジタル前線化を支えるプラットフォーム(テクノロジー)

そこで最後に強調されていたのが、“使える”プラットフォームの整備です。ここでいうプラットフォームは、単なる基盤技術ではなく、非エンジニアでも現場で使えるように工夫された仕組みも存在していると解釈しました。

  • デジタル技術やデータが、事業現場の最前線で活用されること
  • 開発者・運用者・業務部門の連携を支援するための共通基盤としての役割
  • 部門ごとの拡張性・柔軟性を備えたマルチテナント型設計

このようなプラットフォームによって、組織全体が“自走”できるデジタル運用体制が実現されているとセッションでは説明されていました。


成功の本質は「モデル化された変革プロセス」

この4つのポイントで共通する点は、「変革を属人化させない仕組み化の視点」と私は捉えました。
セッションでは、DXとは単なる技術導入ではなく、ビジネス成果につながる運営モデルの再構築であり、それをモデル化・再現可能にすることが重要であると繰り返し強調されていました。

セッションを通して感じられたのは、DXに成功している企業には明確な型(=オペレーティングモデル)があり、その設計と運用を支える基盤が戦略的に整備されていることが重要という点でした。


おわりに

今回のセッションを通じて改めて感じたのは以下の点です:

  • DX先進企業には明確な“勝ち筋”があること
  • その勝ち筋には 人的基盤(育成・内製化)技術基盤(プラットフォーム自動化) が欠かせない
  • 特に「運用者の負荷をどこまで下げるか」は中核的価値である

DXに取り組むすべての組織にとって、人をどう育て、どんな仕組みをどう使える形で整備するかが今後の成果を分ける鍵だと感じました。

私自身もAWS運用を担う立場として、現場の負荷軽減とデジタル人材の育成を両輪で推進できるプラットフォーム構築支援に、より一層注力していきたいと思います。

今回のレポートは以上となります。どなたかのご参考になれば幸いです。

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