現場に口を出さないマネージャーの作り方

現場に口を出さないマネージャーの作り方

Clock Icon2019.06.25

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はじめに

最近、僕の一つのTweetについて、たくさんの反響を頂きました。

すっかりマネージャー色が強くなってしまった僕ですが、基本的にはセルフマネジメントだーって言ってるだけで
・口は出さない
・金は出す
・相談には乗る
を徹底していたらいつの間にか組織が大きくなって100人弱の部下がいる状況になりました。本当に何もしてないおじさんなんです。

— すもけ (@smokeymonkey) June 20, 2019

この記事はその補完です。

Who are you?

クラスメソッド株式会社でAWS事業本部長を努めております、佐々木 大輔と申します。

目次

なぜマネージャーは現場に口を出してしまうのか?

ITに限らず、企業のマネージャー(管理職)が、現場の業務に口を出すことはよくあります。口だけじゃなくて手を出すこともよくあります。これには以下のような理由があると思います。

自分のほうがうまく出来ると思っている

マネージャーというのは最初からマネージャーなわけではなく、現場の業務を経験してからマネージャーになることがほとんどです。現場の業務で高いパフォーマンスを出したことが認められてマネージャーの役割を与えられているので、現場の業務に対し高いプライドを持ちがちです。この結果、現場のメンバーより自分のほうがうまく出来る、自分のほうが早く確実に完遂できる、と思っているマネージャーは少なくないのではないかと思います。

自分がやらないとうまくいかないと思っている

上記の通り高いプライドを持っているので、失敗したら現場のメンバーのせい、自分がやればうまくいったはずだ、いや自分がやらないとうまくいかない!と思い込んでしまう人がいます。

現場を信頼していない(できない)

マネージャーがメンバー全てを指示して業務を遂行させている場合、メンバーは指示の無い形で業務をした経験がないわけで、口を出さずに現場だけで仕事をさせることが出来ると信頼するのは難しいです。またコミュニケーションが少ないとメンバーの考え方や仕事のやり方を理解出来ませんので、やはり信頼できなくなります。

現場の失敗が怖い

もっと言えば「現場の失敗により自分が責任を負うのが怖い」です。マネージャーなんだから責任を負うのは当たり前なはずなんですが、保身に走った結果現場に失敗させられないというのはよくある話です。

これはもう論外です。マネージャーが暇なはずは無いのですが、本来自分がやるべきことをしていないがゆえに暇で、だから現場にアレコレ口を出す。よくドラマに出てくる無能な上司がこのパターンですね。

マネージャーが現場に口を出してしまうことで、どのような弊害が発生するのか?

モチベーションの低下

現場のメンバー考えたことがマネージャーによって否定されたり、現場の方針がマネージャーによって朝令暮改で変更されたりするので、メンバーの「自分たちでやっていくんだ」というモチベーションが低下します。あるいはそもそもモチベーションなんて持ってないことも多々あります。

成長機会の損失

前述の通りマネージャーは豊富な経験を買われてマネージャーになっているので、マネージャーの指示や方針が間違いで無いことは多くあります。しかし、そのマネージャーの豊富な経験の中には、少なからず失敗経験があるはずです。逆に言えば失敗経験が無いとそれは「豊富な経験」とは言えません。しかし、マネージャーがいちいち詳細に指示を出すことで現場に失敗する経験をさせることが出来ず、結果的に現場のメンバーが経験を得る機会を失ってしまうことになります。

逃げ場

マネージャーがあれやこれや口出すことで、現場のメンバーとしては、仕事がうまくいかなかったとしても「マネージャーのせいだ」「マネージャーの言う通りにやったから失敗した」という気持ちの逃げ場が出来てしまう。つまり責任感が消失します。

マネージャーが現場に口を出さないほうが良い理由

現場のメンバーのほうがマネージャーより現場に詳しい

マネージャーが現場の経験を持っていたとしても、それは過去の話。実際に現在の現場については、現在の現場のメンバーが一番詳しいに決まっています。どのような業務であれ効率化や改善は少なからず行われており、マネージャーが古いやり方を現場に押し通すことで、混乱を生んでしまいます。

マネージャーは自分よりも優秀なメンバーを採用しなくてはならない

組織のマネージャーのミッションの一つに採用がありますが、採用するときに自分より能力が低い、あるいは自分と同程度の能力の人を採用していると、組織のビジネスはスケールしません。自分より優秀なメンバーを如何に採用するのかは、マネージャーの重要な仕事の一つです。そしてメンバーが自分より優秀なのであれば、マネージャーが現場に口や手を出すのはナンセンスです。

マネージャーは自分よりも優秀になるようにメンバーを育成しなくてはならない

採用と同じく、マネージャーの重要なミッションは教育です。メンバーを教育しても自分よりパフォーマンスが劣るのであれば、その教育は失敗です。自分よりも優秀に育つように教育をするのがマネージャーの責務です。

マネージャーはメンバーに失敗させなくてはならない

今やイノベーションの先駆者として名高いダイソン社、その創業者であり発明家であるJames Dysonの有名な言葉で「失敗を楽しみ、失敗から学べ。成功からは学べない」(Enjoy failure and learn from it. You can never learn from success.)という言葉を借りるまでもなく、「失敗は一番の学び」とは良く言われる言葉です。成功体験はその人のあり方を形作るのに重要ですが、同様に失敗経験も重要です。マネージャーの重要なミッションの一つが教育であると前述しましたが、であればメンバーに程よく失敗させるのもマネージャーの仕事です。

現場に口を出さないマネージャーの作り方

失敗のリスクと教育のコストを見積もる

「失敗は一番の学び」だからといって、好きなだけ失敗して良いわけではありません。マネージャーとしては失敗のリスクと、その失敗によってメンバーが得る経験=教育のコストを天秤にかけて、コストパフォーマンスが高い手段を選択する必要があります。つまりリスクが少ない失敗であれば(ある程度)ガンガン失敗すればいいし、リスクが高い失敗はリスクを最小限にする、あるいはリスクに見合うだけの教育ベネフィットを検討しておかなくてはなりません。事前にコストを把握しておくことで、リスクを背負う組織のマネージャーの負担を軽減することが出来ます。

失敗時のアクションを事前に検討しておく

そこにリスクがある以上、リスクが発生した場合のアクションは明確にしておく必要があります。失敗を放置して良いのか、リカバリの必要があるのか、ステークホルダーは誰かを把握しておけば、失敗しても慌てずに行動することが出来ます。

ショートスパンとロングスパンを意識する

例えば失敗で発生するリスクがショートスパンなのかロングスパンなのかを意識しておけば、ショートスパンのリスクはリカバリが簡単だし、ロングスパンのリスクはリカバリが長期的になることが分かります。あるいは失敗によって学べる経験がそのメンバーにとって短期的な意義しか持たないのか、長期的に積み重ねられる経験なのかを知っておくと、教育コストを算出するのに役立ちます。細かい期間は必要ありませんが、そこで発生する影響がショートスパンなのかロングスパンなのかを意識しておくと、マネージャーとしての判断に役立ちます。

感情のコントロールを身につける

「なぜマネージャーは現場に口を出してしまうのか」で前述したとおり、現場に仕事を任せることが出来ないマネージャーのベースは不安や恐れです。そして多くの場合感情とはショートスパンであるものです。マネージャーは、物事をロングスパンで捉えて、ショートスパンな事象に感情を左右されないよう、感情のコントロールを身に着けておくべきです。

補完資料

マズローの動機づけ理論

人間性心理学の第一人者であるアブラハム・マズローの有名な理論で「自己実現理論」というものがあります。

ざっくり言うと、人間にはまず生理的欲求がある。生理的欲求が満たされると安全性欲求がある。それが満たされると社会的欲求と愛の欲求があり、次に承認要求がある。それら全てが満たされると、自己実現の欲求が生じる、というものです。

ここで重要なのは承認欲求と自己実現の欲求です。マネージャーからあれこれ指示されてばかりのメンバーには自己実現の欲求は生まれません。仕事を任せられ、信頼されることで承認欲求が満たされれば、次に自己実現の欲求が生まれます。自己実現の欲求を持つメンバーが揃うことで、自分で考え、自分で学び、自分で業務を遂行し、高い向上心を持つ、完全なセルフマネジメント組織は成り立ちます。

川喜田二郎の組織開発論

川喜田二郎は日本の文化人類学者で、KJ法という発想法によって有名ですが、その著書の一つに「組織開発論」があります。ざっくり言うとこんな感じです。

  • 仕事を部下に依頼するときには、何をやってもらうのかという課題を明確に示す。
  • また、何故その仕事をやってもらうのかという背景についてもできるだけ親切に説明する。
  • 上司の仕事は仕事を渡すことと、結果を受け入れること。その中間は信じて任せる。
  • 仕事を達成する手段や方法は聞かれたら答えるが教えない。
  • 部下に、仕事の最初から最後までやってもらうこと。それが信じて任せるということだ。

まさにこの記事のお題ですね。この本は1996年に発刊されたものですが、残念ながら現在は絶版です。Kindle版が待たれますね。

ティール組織

めちゃくちゃ売れたので読まれた方も多いのではないでしょうか。ティール組織で書かれた多元型組織(グリーン)になるには、この記事で書いたような権限の移譲が必要となります。

しかし同様に、この本に書かれていたように、全ての組織に権限移譲が必要なわけではなく、目的達成が至上である、例えばスタートアップのような組織であれば、仕事を任せるのではなく統制したほうが早くゴールに達成出来る場合があります。そういう意味で、マネージャーが現場に口を出さないのが必ずしも正だとは僕も考えていません。それは組織のビジネスや性質によって異なります。

英国海兵隊

「英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方」という本は僕に大きな影響を与えていて、ここに書かれていた「夢があるビジョンを、簡潔かつ明確なミッションにして、部下に任せる」というのはとてもわかりやすいアクションだなと思います。

現在のビジネスはどんどんスピードが求められるようになっていて、フットワークを軽くするためにはセルフマネージメントの徹底が必要で、そのためにはセルフマネージメントしやすいミッションを与える必要があるんだなぁ、というのを再認識した本でした。

デール・カーネギー

自己啓発で有名なカーネギーですが、彼の本にもいかに部下に仕事を任せるかという内容が出てきます。自己啓発というと胡散臭いと思われる方も多くいるかも知れませんが、カーネギーは誰もが一読すべき作家だと思います。

最後に

多くのマネージャーの皆さんは既に知っていることばかりだったかも知れませんが、僕の考えを述べさせて頂きました。少しでも皆さんの一助になれば幸いです。

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