【レポート】Keynoteセッション『東京都副知事が考える行政におけるプロダクト開発とは?』 – プロダクトマネージャーカンファレンス2020 #pmconf2020
はじめに
2020年10月27日に開催された プロダクトマネージャーカンファレンス2020 ~見えない未来をリードするプロダクトマネジメント~ Keynoteセッション『東京都副知事が考える行政におけるプロダクト開発とは?』セッションのレポートです。
尚、この記事は私の拙い記憶とメモを頼りに書いているため、内容に一部抜け漏れ等あるかもしれませんが、ご了承ください。
概要
Keynoteセッション
東京都副都知事ご就任後、どのようなビジョンを掲げて行政サービスというプロダクト開発を推進されてきたのかをお伺いしていきます。
登壇者
宮坂 学 氏 / 東京都副知事
質問者
及川 卓也 氏 / 株式会社クライス&カンパニー顧問
セッション
東京都副知事という立場について簡単にご説明いただけますか?
- 東京都に4人いる副知事の一人
- 他の3名は公務員から上がった人で、民間企業出身は宮坂さんだけ
- 主に東京都の中の情報技術部門を統括している
東京都副知事として何をしてますか?
- 5G時代にそなえて3つの施策
- 1.鉄道、バス、学校などでの高速なインターネットは必要
- 『つながる東京』として取り組んでいる
- 2.建設局、環境局、福祉保健局などの事業
- いままでデジタル化してなかったこれらの分野を、デジタルでより良くしていこう
- 3.行政の職員のインフラが遅れている
- 日頃使うデジタルの道具がモダンでないとアウトプットが変わらない
- 少しでも職員の環境を良くする
- 1.鉄道、バス、学校などでの高速なインターネットは必要
- さらにもう一つ、上のレイヤーの施策としてデジタル組織をつくる
- デジタル人材があまりいないので、そういった組織を作ろういう取り組みをしている
いつからそういった取り組みを?
- 都庁に入ってすぐ
- なので、1月終わりくらいから
- 100%内製化とはいかないけど、及川さんが仰る「手の内化」のように、お互いプロ同士で話し合いながら作れるようにしたい
- 任期が3年なので、その中でなんとか実現したい
以前から行政に行くことを考えていた?
- まったく思っていなかった
- ヤフー株式会社をやめてから、次に何やろうか考えていたけど、公務員ということは頭になかった
- とにかく違うことをやりたかった
- 公務員という話を聞いた時に、「それは盲点だった!」と思った
- こんなに(いろんな事ができる)大きな世界があったのかという感じ
上記3つ(+1)の施策は、行政のDXという捉え方をして良い?
- そう捉えていいと思う
- より良い都民サービスを作っていくということ
- そもそも電波がなかったらどうしようもない
- 去年のラグビーの試合で、東京都のスタジアムでハーフタイムにネットに繋ごうとしたらwifiが落ちていた
- 昔なら仕方ないで済まされていたけど、この令和の時代にこの状況はかっこわるい
ここから、プロダクトマネージャーカンファレンスらしく、行政のDXというものをプロダクトとして捉えた場合の観点で質問したいと思います。プロダクトとしてミッション・ビジョン・コアバリューをお聞かせください。
- 東京都のミッション
- 都民の幸福を実現する
- QoLを実現する
- その中で、情報技術を使ってこれを実現していく
- 様々な人がいる中で、取り残すことなく実現できるように
- 誰もがここに住んで良かったと思える環境
- 自分の子供にもここに住んでもらいたいと思える環境
- 東京は大好きだけど、もう少しこうあってほしいと思う部分、都のサービスが民間に比べるとやっぱりという部分があるので、頼もしい
ミッションは抽象度が高いものだけど、想定されるユーザーをペルソナと仮定した場合、ペルソナは「都民」となると思うが、都民にとっての最大の課題は何でしょうか?
- 人として身近に接するところは市区町村との関わりが多い
- 都が担当するのは、都民といっても企業法人などが多く、それも広義での都民と言える
- 例えば、ビジネスで東京に来ている人、旅行で来ている人など、住民票は無くても都のサービスを受ける人として対象となる
- そういった幅広いペルソナの視点を捉えなくてはと考えている
- その中で都の位置付けとしては、GtoBが多い
- GtoCもそれなりに多い
- 消防、水道なども都でやっている
- 緩やかに役割分担しながら都が成り立っている
GtoBにしてもGtoCにしても、中間の人たちがミッションに共感していなかったらうまくいかないという悩みは民間企業が抱える問題と同じ。一方で一般の人から見て、都からのサービスなのか、民間なのかはあまり関係ない。そんな中、都としての舵取りはどうされていますか?
- 良い質問、かつ難しい質問
- 正直難しいところもある
- 都民であり市民であり、でも人としては一人の同じ人間なので、レイヤー分けが難しい
- まずは一緒に話そうよ、というコミュニティーを作ったりしている
- ただ、コロナ禍でなかなか実現できなくなってしまった
- 都の担当と市の担当がフラットに繋がれる環境をこれからも作っていきたい
例えば、改革を行っていた担当職員が一年で担当が変わるなどで、なかなかノウハウが蓄積しない問題についてどう対処していきますか?
- デジタルを扱う部門としてICT職という職種を作ってみた
- 建設局、環境局、教育局などに行っても、同じICT職としてのポジションは変わらないようにしている
- 東京は水道などハードの部分ではエンジニアリングカルチャーが強い地域
- 技術をわかる人が結構いる
- だからできている部分がある
- 一方、情報技術部門にはまだエンジニアリングカルチャーがあまりなかった
- だから丸投げになっていたりしていた
- 都庁の中だと現在150人くらいがICT職として働いている
- でもエンジニアはまだ30人くらい
- ICTの組織の成長によって今後は外部のパートナーも仕事をしやすくなるだろうと思っている
従来ながらのインフラは得意だが、ただインフラを造るだけだとユーザー体験が抜けてしまう。例えば先ほど冒頭で話題に上がっていた5Gについて、ただの土管としてではなく、本来の様々な5Gの特性を生かしたバリューを出していくには今後どういったアプローチが必要だと考えていますか?
- いろいろ試しながらにはなると思う
- まずは身近なところで、「ホームページを見る」というのが都民にとって身近で必要な体験
- 災害時に落ちるとかは最悪なので、『話はホームページがちゃんと見れるようになってからだ』と
- CDN入れたり、そもそもデータを軽くするとか、解決できることはたくさんあるので、一部マニュアルを作って渡したりしている
- コロナ禍では一部のサービスに対してのアプローチを進めていた例も
- 飲食店の方が給付金を申請するサービスなど
- 店長さんのお店にいって、申請する環境で操作してもらって直すとか
- だんだんユーザーのフィードバックがよくなり、モチベーションが上がっている
- 地道に作ってはフィードバックを受けていくことで、より良くなっていくという成功体験を積み上げていく
- まずは作って、話しはそこからだという感じで進めている
仮説検証でやるケースが増えている一方で、古くからの行政のやり方だと、年間の予算の中でやるだったり、また予算が年度ごとに切れていたり、そういうしがらみの中で仮説検証型のプロダクト開発がやりにくい組織かなと。そこの課題についてはどういった改革をしていきますか?
- 非常に重要な論点
- 従来までは調達しておしまい、という考えでやっていた
- しかし行政サービスはサービスなので、継続できるということが大事
- 納品でおしまいだとサービスが継続できないので、それはできるようにしたい
- 制度や調達のありかたを改善するための改革を行っていく
仮説検証型と従来型のプロジェクトだと評価基準が異なるため評価が非常に難しいが、何をどう評価するのかなどのアイデアはありますか?
- 民間だといろいろ統計のとり方はあるが、行政だと対象範囲が広くなかなか適用が難しい
- まずは原始的なアンケートとか、アナリティクスを使うなど
- 確立した方法論を地道にやっていく
- ホームページを愚直にちゃんと運用していくというのは、いろいろな大事な要素が詰まっているなと改めて感じる
- 改善して数字が動くかというのを日々見守るということが大事
- まずは地道にホームページを改善している
作って終わりじゃなくて、使ってみてどうかということが大事だけど、そうしていないケースが多い。行政というサービスの性質上あまねく公平に、となるが、とはいえまずはターゲットを決めないといけない部分もある。そうすると情報弱者の切り捨てと言われることもある。どうやってターゲットを絞っていますか?
- なかなかいい答えが見つからない状態
- 民間のようにマーケットの2割3割が取れればいいという世界ではない
- ペルソナごとにデジタルでやりたい人、紙でやりたい人それぞれオムニチャンネル化しながら、両方を疎かにしないようにやっている
紙にこだわる人は、デジタルをしらないだけの場合もあり、デジタルの世界に誘導する役割もプロダクトにはある。デジタルの魅力を伝えることでユーザーを育てたりもできるのでは?
- デバイドも角度によっていろいろある
- 言葉が違ったり、目や耳が不自由な人など
- 難易度が高い開発にはなるが、そういうサービスになればなるほど、デジタルはみんなが使えるようになっていくと考えている
組織文化も大事になる、そのためにやっていることはありますか?
- 先程のICT職がそれにあたる
- 現地感がある人と、デジタルの知識のある人をどうやってチームにするか
- それができればかなりいい方向に進んで行きそうだと考えている
日本ではプロダクトマネージャーがまだ浅いが、ビジネスとエンジニアリングの間を取り持つポジションにある。都もそういうPM的なポジションをとっていくという理解で良いですか?
- エンジニアであっても公務員であっても、どっちのバックボーンでも都と民間の間に入ってどんどんやっている人はいて、そういう人たちが実際に改革を進めている。今後もそういう感じでやっていければいいと考えている
プロダクトマネージャーという名前は付かないかもしれないが、そういう立ち回りをすることでより良くなりそう?
- 3つのトライアングルとして考えている
- 行政のエキスパート
- 行政にいてICTもわかる人
- 大学や企業で技術をしっかりやっている人
- そういう人が協力してやっていけるのがいい
- 行政の人が、エンジニアと画面に映るグラフを見ながらああでもないこうでもないと言いながら開発しているのを見て、いい兆候だと思った
最後にカンファレンス参加者にメッセージをお願いします
- 東京都に来ていただきたいと心から思っている
- 今は未開の地という感じでできることに溢れている
- チャレンジ精神に溢れた人は参加するといいんじゃないかと思う
- 他の自治体でもいいので
- やっていると、まちを守るためにいろいろと活動して参加している人たちがいることが見える
- 行政だけでなく、市民や民間と一緒にやっていることを実感している
- もっと民間の人たちが行政に参加できる間口を作っていきたい
感想
東京都副都知事としての宮坂氏と言えば、OSSで作られた新型コロナウイルス感染症対策サイトが発表された時に注目を集めたのが記憶に新しいですが、そんな宮坂氏が東京都副知事として今現在どういう都構想を進めているのか、今回の基調講演を個人的にとても楽しみにしていました。
ガチエンジニアが行政で手腕を振るうなんてことは、10年前20年前にはとても考えられなかったなと。
そしてその内容についても、めちゃくちゃ聴き応えのある基調講演でした!
現在進めている3+1の改革や、民間と行政の違いの中での舵取り、『話はホームページがちゃんと見れるようになってからだ』などのパワーワード、アンケートや統計などの地道かつ重要な積み重ねについて、行政におけるプロダクトマネージャーライクな立ち居振る舞いについても、とても頼もしさを感じるものでした。
そして及川さんによる、「都をプロダクトとして捉える」という質問の角度もまた絶妙でした。
次々と聞きたいことを深堀ってくれる質問力は圧巻でした。
新型コロナウイルス感染症対策サイトが立ち上がった後、札幌を始め各地方でOSSを使った対策サイトが複数立ち上がったように、こういった取り組みやマインドセットが各地に広がるのも、そう遠くはないんじゃないかと思わせてくれた基調講演でした。