[レポート] 株式会社Momentor 坂井風太氏登壇!『組織はなぜ衰退するのか 〜自社愛が招く悲劇性について〜』#cm_odyssey
クラスメソッド設立20周年を記念し、オフラインイベント、オンラインイベントを複数日にわたって展開するイベント「Classmethod Odyssey」を2024年07月現在、絶賛開催中です。
当エントリでは、2024年07月10日(水)に開催されたオンラインイベント「Classmethod Odyssey ONLINE(HR)」における株式会社Momentor 代表取締役 坂井風太氏のセッション「組織はなぜ衰退するのか 〜自社愛が招く悲劇性について〜」の内容についてレポートします。
セッション概要
イベント公式サイトに記載のセッション概要情報は以下の通りです。
- 登壇者
- 株式会社Momentor 代表取締役 坂井風太
- タイトル
- 組織はなぜ衰退するのか 〜自社愛が招く悲劇性について〜
- セッション概要
- 「かつて輝いていた組織が衰退していくのはなぜか?」古くは平家物語からはじまり、「盛者必衰」は組織談義の中核テーマのひとつでもあります。「どうすれば企業は伸びるのか?」という問いと同じくらい、「どうすれば組織が衰退していかないのか?」という問いは本来的には重要で、予防策を打つためにも知っておいて損はないものとなります。本セッションでは、理論と生々しい話と共に、構造と回避方法を解説していきます。
セッションレポート
ここからはセッション本編の内容紹介となります。冒頭、下記表紙にあるように「講演版」と題してセッションがスタートしました。
企業紹介・自己紹介
- 株式会社Momentor:
- 人材育成・マネジメント基盤の構築に特化した企業。地上戦施策施策の領域に強み
- 坂井風太氏
- さかいふうた(@fuuuuuta21)さん / X
- DeNA入社後、事業責任者、組織マネージャー、子会社代表等を歴任
- 現場マネジメントを担いつつ人材育成責任者として人材育成/マネジメント基盤を構築。また多数の企業にプログラムを提供
- 紹介動画多数。
- Momentorの特徴
- 学術論文を横断的に読み込んでおり、現場に当てはめて具体的にどういう手法になるのかを考え、作り上げている
- 設立の経緯
- 人材育成やマネジメント理論に於いて『なぜそれが正しいのか?』の疑問に耐えうるものが存在していないのでは?
- 理論や手法について『こうあるべき!』と言い切ったほうが良いのかなと思いつつも『本当か?』という疑問
- 提唱したマネージメント理論が『本当に正しいのか』というのをずっと考えていた
- なぜ『講演版』なのか
- 本日話す内容を簡略化したものは既にnoteに公開済み。公開から半年経っているのもあり、今日話す内容が『完全版』とも言える。
- 今日はこのnoteでも書ききれていないところを話す。
- 坂井氏の関心事項
- なぜ途中まで『時代の寵児』とされていたような企業が急に失速していくのか?(盛者必衰の理とは何か)
- この謎を解き明かすために今は関連する書籍や論文を毎日ずっと読み続けている。
組織/会社における機能不全
企業/組織における『盛衰』とは
- 『企業が盛衰するのでは無く、企業の中の事業が盛衰する』というのが正しい。企業はある事業が下火になる前に次の事業を興し盛り上げていかねばならない
- この事業の波に乗れないと『負のループ』に陥ってしまう。事業ポストがなかなか増えず、人材を育成出来ないジレンマに
- 利益の低減→成長投資の鈍化→人と事業の成長を待てない→事業が作れない/育たない→....
- 組織が経営不全に陥る流れ/坂井氏も子会社を経営していて『何でこの戦略が出てくるのか』と疑問に思っていたが、やりやすい戦略をやっていたり、そもそも市場を見ない癖が付いているところに『なるほど』となった
- 経営次元:権力の集中と"裸の王様"化
- マネージャー次元:忖度・やり過ごし文化の慢性化
- メンバー次元:学習性無気力の慢性化
なぜ『組織の機能不全』が起きるとまずいのか
- 外部環境の変化(これは必ずある)を察知し、それに合わせて内部環境の適応(事業や組織のマネジメント)をさせることができなくなる
- 結果、いつまで経っても"次の収益"の柱が立たない
『組織の機能不全』を加速させる人事リーダーシップの喪失問題
- 構造的な問題ではあるが、良く見るケース。
- 抽象的なバズワード、根拠の無い自信、人事の良くわからない施策導入 → 事業部の"しらけ"が生まれ、今後の巻き込みコストが上がってしまう
- 長期的には組織に負債を残す形となってしまう(次の人事担当者が"不信頼"な状態からスタートしなければならなくなる)
- 決める覚悟もリーダーシップもないのに『情報収集』ばかりしている人事責任者・担当者問題
『組織の機能不全』を加速させる経営陣のの現場軽視問題
- 経営への当事者意識を社員に求める一方、『現場情報把握の当事者意識』が存在していない
- 実態は一部のメンバーが必死に食い止めている状況(ボランティアで人材育成やマネジメントを支えている)。
- 危機感はあるが変革の覚悟がない経営陣
- 経営層『自分たちは問題ない。マネージャー陣だけ変えておこう』←これは良くない
- 経営層の背中を見てマネージャーは動いている。その背中を見てマネージャーの意欲は削がれる
- 結果、『言っても無駄』が蔓延
- 自分から変わる覚悟もないのに社員に『危機感が足りない』と言っている経営層問題
結果どうなる?
- 組織は硬直化の一途を辿り、組織内に無力感が蔓延していく
- ここで坂井氏の疑問
- 事業戦略はなぜ歪むのか?
- なぜ他人の話を聞かなくなったり、市場から学ばなくなったり、外部環境への適応をやめてしまうのか?
なぜ組織は硬直化するのか?
- ここからが本題。
- 組織衰退のメカニズムは大きく以下3つの観点がある
- 1.「ダブルループ学習」を回さなければいけないのに「シングルループ学習」で排他的カルトカルチャーを作り上げるため
- 2.「企業ブランド」がエリート主義を生み出し「硬直マインドセット」を生み出してしまうため
- 3.「人材育成・マネジメント」に対する反知性主義が蔓延し「自社流の方法」に過度に執着するようになるため
1.強いカルチャーの企業が成功する...?
- 本当か?
- そもそも組織カルチャーとは何?良く使われているが定義が曖昧だったりする
- 組織内信念を変えたとしても口癖が変わっていない
- 行動を「観察」してそれが良いと「模倣」し、それを見た人たちが「増殖」していく、という流れが組織文化となる
- 自社の行動指針としてどういう行動を「当たり前化」すれば自社が勝てるのか、というところが重要。
- この問いが不在で設計されているカルチャーは危険というかお飾り
- とりあえずMVVだけ作って終わり
- カルチャーと事業が合致していない
- 組織カルチャーが狂気に染まる時
- カルチャー原理主義者の登場
- 見直しが出来ない状態になり、カルト化
- 「自社の当たり前」を見直す見直すダブルループ学習が発生しなくなってしまっている
- この問いが不在で設計されているカルチャーは危険というかお飾り
2.企業ブランドとエリート化
- 企業のブランド化が進むことにより、いつの間にか硬直マインドセット寄りの文化になっている可能性がある
- 成長マインドセット:学習そのものに焦点を置き、失敗したとしても**「努力の量/方法」が問題だったと解釈**
- 硬直マインドセット:成果そのものに焦点を置き、失敗した場合は**「自分の才能」が問題だったと解釈**
- 後者のマインドセットを持つ人が増えることにより、失敗したくない人が組織に溢れかえり、外部環境への積極適応をしない会社になっていく
- 「間違わない人が偉い」となると、誰も試行錯誤しなくなる
- GAFAに後塵を拝していたMicrosoftは「成長マインドセット」を組織文化改革の中核概念にして成功した
3.人材育成・マネジメントの反知性主義
- 反知性主義:知識人及び知的活動活動への敵対的で嫌悪的な感覚を指し、また実際的解決と現実理解において知力と理由は重要ではない、という信念 ※米国の原義と日本の定義は異なるので要注意
- 学術理論を噛み砕くのが難しいのは分かるが、大概同じパターンで自滅している
- その割に空中戦施策はやたら好き
- 現場を作るのは「空中戦施策」では無く「地上戦施策」である
- 対話会を開催するも、特に組織が変わらない
- そもそも同じようなことを同じような人だけで話していたところで組織のダブルループ学習が回ることはない
- とりあえずコーチングやろう!でも何も変わらない
- 「手段が目的化」した状態で使われている可能性
- マネジメントは「現場」で起きているのに「現場と遊離した思想/手法」で組織が混乱
- 「組織的な生存者バイアス」と組織衰退プロセス
- 自社流ではなく、体系的な人材育成・組織基盤構築の手法が必要である(「◯◯Way」「◯◯最強神話」に拘泥しない)
- 理論がちゃんとないと、どれが正しいか正しくないかの選択ができなくなる
ではどうすれば良いのか?
- 「実効性」という意味では3つめが最も重要。
- マネジメントの民主化の確立により「管理職の負荷」を下げる。メンバーが自分で理論を理解し、使えるようにすることが重要。
- まずは経営層・人事・現場マネージャーの「変える覚悟」が必要
- 現場マネージャ、人事、メンバーがそれぞれ同じもの(人材育成マネジメント理論)を見る。
- そもそも人材育成・マネジメントの理論自体は存在している
- 理論と実践知があれば対話会も変わるはず
- 実際に職場がどう変わっていくのか(支援先企業の好例の紹介)
- メンバーが理論を知っておくメリット
- 「人材育成理論」は裏を返せば「自己成長理論」。自分で論理を使えば「無駄に悩む時間」も減っていく
まとめ
- そもそも「反知性主義」はオススメしない。
- 人材育成・組織マネジメント理論を体系化しておくことをことを推奨
- そうでないと、知らぬ間に「組織衰退ルート」に乗っている可能性がある
- 理論の共通認識+対処法を整備しておくことで「自社が陥っているパターン」に皆が気付くことが出来る
質疑応答
本編終了後は寄せられた質問に坂井氏が答えていくパートへと進みました。Qの部分が寄せられた質問内容、Aの部分が坂井氏の回答となります。
Q.変革を進めた時に、昔から居る「変わろうとしない人達」にはどのように接すれば変わってくれる可能性が高まるのでしょうか?
- A. 坂井のプログラムを受けて頂ければと。なぜなら、「そういう人達」にズバズバ切り込んでいくスライドをプログラムの中に入れているからです。要は「うちの会社が変わらないので」「自分は変わらないので」と言っている人たちが組織の硬直マインドセットを作っていないですか?とか、知的謙虚さと知的傲慢さというのがありますが、知的謙虚さ(自分の限界を認めて新しいことを積極的に取り入れること)、忘れてないですか?みたいなことを投げ掛けています。(次の質問の回答でも述べていますが)いきなり全社を変えようとする必要はないです。小さく始めて展開していくというのが現実的ですね。
Q.社内で上も下も自らをJTCと卑下し、事なかれ主義が横行しています。このような「言っても無駄、居ても無駄」な状態から変革は可能なものでしょうか?やりようはありますでしょうか?また、個人で行える「半径3mのゲリラ戦」は何かありますでしょうか?
- A.可能だと思います。全社を変えようとするから辛くなるのであって、ちゃんと同志は居ると思います。例えば私のプログラムが「新卒8年目の人」とか「役職者じゃない人」が導入してくださるんですが、自分の上長に言ってもダメ だとか、人事に言ってもダメだった、けれども懇意にしていた昔のマネージャーに当たったらマネージャーがすごい興味を持ってくれてそこから前進する...というのもあったりします。簡単に諦めないほうが良いです。より簡単に諦めないためには同志が必要ですが、全員が全員的ではないはずです。パトロンをちゃんと見つけることが大事です。ただ、どうしても「変わらないぞ」と思ったら、それは自分のキャリアが埋没してしまうことになるので退職というのも手ではないでしょうか。
Q.マネージャー層が若手の離職を軽視していることが気になっています。「いま転職流行っているからね、若手は辛抱が足りない」という解釈をしているようです。私には若手が離職するということは組織・企業に対して「ここに居る価値がない」と思われているのではないかと解釈しているからです。坂井さんは若手の離職と組織衰退の関係についてどのようにお考えでしょうか?
- A.質問者さんの認識は正しいと思います。なぜなら、「キャリア安全性」という概念が一番近いと思いますけれど、終身雇用でもない時代において「この会社に居続けると安心だよね」と思わない限りは、怖くてその会社からは居なくなるわけですね。これ面白いのが「キャリア自立施策」というものが昔流行りましたけど、これやると市場価値認識がが高い層がむしろ離職していくっていうことがある...というのもあるんですね。これに関しては抑制因子が他にもあるのかなとは思いますけれど。なので若手の離職と組織衰退の関係は勿論あると思います。論文的には「キャリア焦燥感」が離職要因になりうるかなと思うんですが、「この会社に居ちゃダメだ」という思いはあるのではと思います。
Q.組織基盤の強化を経営トップに提案する時、費用対効果の説明を求められた時に有効な提案方法や話法はありますでしょうか?経営トップも何となくマネジメント不全が発生している感じは認識している状態です。
- A.(有効な提案方法や話法は)あります。2パターン位あると思うんですけれども、組織における離職防止の観点が1つ。費用対効果の観点からも行けるのではと思います(金額等の情報が出ていましたが詳細は割愛します)
Q.メンバーから出来る働きかけはまずどこから始められるでしょうか?自己流のマネジメントスタイルに酔っているマネージャが上司の場合、これらを説明しても「あーそうだよね」と口では言いつつ何も変わらないことがありました。メンバー層がロジックでぶん殴るみたいなことは悪手のような気もしますし難しいなと。
- A.このあたりは第三者が言ってくれた方がありがたい部分ではありますね。メンバーが言っても「それって感想ですよね」となりがちなので、私(坂井)のような第三者がロジックで言うから聞く、みたいなのはあると思います。マネージメント層の「知的謙虚さ不足」を刺しに行くというのは有効だと思います。
坂井氏の「論文の探し方、読み方」
セッション内で坂井氏が「論文を読んている」旨言及していましたが、質疑応答のタイミングでも「論文をどのように探しているのか、読んでいるのか」という旨の質問が挙がっていました。そのあたりの回答になり得るであろう内容が坂井氏のXで展開されていましたので合わせて紹介します。
全体まとめ
という訳で、Classmetho Odyssey ONLINE(HR)トラックにおける坂井風太氏のセッション「組織はなぜ衰退するのか 〜自社愛が招く悲劇性について〜」のレポート紹介でした。今回坂井氏が説明・展開されていた内容はクラスメソッドについても決して他人事では無く、むしろ大小様々な形で直面している状況でもあると思っています。(坂井氏の言葉を借りるのであれば)「知的謙虚さ」を忘れずに物事に取り組んでいく必要性を痛いほど感じたセッション内容でした。