[レポート] 小島英揮氏『【未来予想図】マーケティング視点でクラスメソッドの次の一手を考える』#devio2024
クラスメソッド設立20周年を記念し、オフラインイベント、オンラインイベントを複数日にわたって展開するイベント「Classmethod Odyssey」を2024年07月現在、絶賛開催中です。
当エントリでは、2024年07月12日(金)に開催されたオフラインイベント「DevelopersIO 2024 TOKYO」における小島英揮氏のセッション「【未来予想図】マーケティング視点でクラスメソッドの次の一手を考える」の内容についてレポートします。
セッション概要
イベント公式サイトに記載のセッション概要情報は以下の通りです。
- セッションタイトル
- 【未来予想図】マーケティング視点で、クラスメソッドの次の一手を考える
- 登壇者
- 小島 英揮 氏 (コミュニティマーケティング推進協会 代表理事)
- セッション概要
- コミュニティに貢献することで、市場からの「第一想起」を創り出し、AWS御三家とよばれるポジションを確立したクラスメソッド社の次の成長エンジンは何か?コミュニティマーケティング推進協会の代表理事であり、クラスメソッドのビジネスを18年以上ウォッチしてきたスピーカーが、クラスメソッドの次の一手をマーケティング視点で大胆に予想します!
コミュニティマーケティング推進協会 代表理事 小島 英揮 氏
セッションレポート
ここからはセッション本編の内容をお届けします。登壇資料はこちら:
自己紹介
- 冒頭行ったパネルディスカッションを受ける形の内容になる予定。
- 横田さんの『次はどうすればいいですか?』に対して、明確な答えがあるわけではないが、こういう考え方、こういうフレームでやると良いんじゃないか?というのを僕なりに勝手な未来予想をしてみた。
- ほぼ30年以上、BtoBの世界でマーケティングを担当。
- 文系理系採用が主だった30年前に職種採用をしている会社があり、マーケティングで新人を採っていた。そこからマーケターとしてのキャリアが始まり今に至る
- 一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会 代表理事
- Amazon(AWS)を辞めてからは色々な会社を支援するパラレルマーケターとして活動
- 先日、ヌーラボの社外取締役から中の取締役(CRO:Chief Revenue Officier)になった。色々数字を見るようになり、いかにクラスメソッドがすごい会社なのかを把握
コミュニティマーケティング推進協会
- 一般社団法人としてコミュニティマーケティングを当たり前のものにしていこう、と設立
- 5年の時限活動を表明、2029年解散予定。
- 伸びしろがある分野だなとは思っている。
- ドメイン(CommunityMarketing.jp)が取れちゃった。いかにまだこの分野が知られていないかということでもある
- 協会主催で大規模イベントを主催、参加者数300、X投稿数は3000+
- このイベントに横田さんも登壇、さくらインターネット田中社長との対談が実現。
- 最も応募のあったセッションだった。
コミュニティマーケティングとは?
- コミュニティに参加されている方々のお話を傾聴・観察することで、顧客を理解し、お客様同士が話すことで製品の良さなどを自覚的に言語化し、その言葉で周り(お客様同士)を説得させる。
- 『推し活』とイメージすると分かりやすい。これはビジネスの世界でも良くある話。
- 推し活の結果、上手く行っているという話が世の中に漏れ出てくる。『どうもあれを使うと上手く行くらしい』→これが顧客創造。
- マーケティングで大事なのは『顧客創造』。
- お客様同士が『これ良いじゃないか』となる方がはるかにインパクトがある。
- お客様同士の会話こそが消費者行動を促す。
- 世の中のマーケティング本の殆どは『直接』企業がターゲットに働き掛けて行動変容を起こせる、かのように書いている。
- 実際は違う。企業からのDMだけでモノを買ったりするというのは殆ど無く、周りからのインフルエンスがある
- 自分が信頼している筋(この件だったらあの人が詳しい、とか)が第一想起になる。
- お客様同士の会話を通じて知って頂く、という形にシフトすべき。
- ...というのがコミュニティマーケティング推進協会を作った経緯。
マーケティングを因数分解すると...
- Objective:目的達成のために
- Who:誰に
- What:何を
- How:どう伝えるか
コミュニティマーケティングはこの「How」の部分が大事。
コミュニティが大きくなることで、適切な相手に良い情報を伝わるようにする。
大事なのは「想起」という考え方。
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マーケティングをやっていると「認知が大事」だという話をよく聞くが、それは本当か?
-
知ってるだけで買ってくれるなら苦労はしない。
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◯◯をする時に、この人この会社、このサービス...この第一想起を取ると非常に強い。
- 例)
- すぐ欲しい!→Amazon
- 連絡したい!→LINE
- 売りたい!→メルカリ
- 例)
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この第一想起がないと、そもそも問い合わせ自体が来ない状態。
- 十分な想起やUGCがない→「見えない失注」の増加
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想起を作る上で、企業ビジネスにおけるコミュニティ「参加」の効果を考える
- 普段コミュニティマーケティングの話をするときは、自分がコミュニティを作ってお客様との関係を作ろう、としている
- コミュニティを通じて知られることで...
- 正しいターゲット(=見つけて欲しい人たち)に、
- 正しいイメージで(=見つけて欲しいコンテキストで)
- 見つけてもらいやすくなる
- クラスメソッドを例に取って考えてみる
- クラスメソッドは実は自社のコミュニティが存在しない。
- JAWS-UG等を筆頭にコントリビュータとして入って上手くインフルエンスを引き出している
- クラスメソッドがこんなお客様、こんな企業に知られたいなと思っているターゲットがあるはず。その方に技術力はちゃんとしている、こういうことに経験がある任せて安心そうだ、という想起を作っている
- これは勿論クラスメソッドが色々なアウトプットをしているからこそ。アウトプットが直接それらを形作っているというよりはそのアウトプットを見た人が「これを頼むならクラスメソッドが良いんじゃない?、これクラスメソッドなら知ってそう」という周りの評判が作り上げている
- もしコミュニティがちゃんとAWS界隈に無ければ、クラスメソッドがDevelopersIOでたくさんコンテンツを生成しても流通する先が無かったのではないか。
- オーディエンスがあるところにコンテンツが提供されているクラスメソッド対読者、ではなく、読者間で「この記事良いよね」とか「これ探してるんならDevelopersIOのこの記事を読むと良いよ」みたいなのをオーディエンスの方で情報流通することで想起が生まれたのでは。
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これはコミュニティマーケティングですごい大事な仕組み。
- コミュニティの中で見つけられるためにはコミュニティに「売る」のではなくコミュニティに「満足」してもらうのが大事。
クラスメソッドの歴史をコミュニティマーケティングで紐解く
- 直接「売り込む」方法ではスケールしない。コミュニティを通じてスケールさせる
- 小島さんと横田さんがFxUG(FlexUsersGroup)をやっていた頃、会場キャパシティは50人入るかどうかというサイズ。100人来たとしてもそこ止まり。それよりも色々なタイミングで様々な人達に「推し活」をしていくことでより大きな展開が可能となる。
- クラスメソッドの成長は正にそれを具現化したものと言える。当時コミュニティマネージメントをすごく上手くやった。非常にフラットな環境を作り上げており、伊藤かつらさんも褒めていた。
- コミュニティマネジメントだけ上手くいってもダメで、どこのエリアでそのコミュニティに貢献するか、ビジネスを考えるうえでは大事。
Before / After AWSでの成長の違い
- 10期目くらいまでがBefore AWSな時代。
- 停滞時期を経て一気に130億、そして760億。この760億という数字がどういう規模のものなのか。国内SaaS企業との比較をしてみると、ARR:200億円超えは数社しかない。
- この成長が実現出来たのは、やはり成長するマーケットの中で想起が取れていた、というのが大きい。
- そこにいくまでは大変だったと思う。最初の10年は成長エンジンを模索する時代
- Java → Flex(RIA) → AWS(Cloud)
- 直近10年はパーツが噛み合い始め、AWSが成長エンジンに。
- 想起集合 x 成長エリア x 収益モデル
- JAWS-UGへの貢献(Contribution)とアウトプットが、AWSエコシステム内でのクラスメソッド社の「想起」を形成
情報の内容 < 想起
- ある時の会話:
- 小島さん「そんなにどんどんブログに新しい知見を公開してネガティブなことは無いんですか?普通コミュニティとか勉強会でせっかく得た知見を知られちゃったら良いこと無いじゃないですか」
- 横田さん「情報は賞味期限がどんどん短くなっている。特にクラウドは。皆さわることが出来る。皆アウトプット出来る。そして情報は知られないと意味がない。知られても賞味期限は短い。どんどん出し続けて、常に一番先に触っている、一番分かっているという第一想起を取るのが大事なんです」
- 今ならこれがどれだけ正しい戦略だったのかををちゃんと説明出来るが、当時はこれをやりきるのはスゴイな、という感想
- 第一想起を取るには大量の情報投入が必要
- ブログを書くためだけに人を雇っている(投資)
- ブログを書ける人を集めて「ブログを書け」とやっていた。それはこれ(想起を取る)をやるため。
FxUGとJAWS-UG、何が違ったのか
大きくはこの2点。
- 市場の成長性 x エコシステムの大きさ
- 市場そのものが成長していても、胴元だけが儲かっているビジネスは入りにくい。
- コアのテクノロジー、プラットフォームは大きくなっている
- 周辺にも色々なニーズが存在している、それをお金で解決したいお客様もいる。これがエコシステム
- そこに更に新しいソリューションを作りたいという人も現れる
- この流れが圧倒的にAWSとFlexで異なっていた
- 技術の継続性
- Flashが使えなくなるのではどうにもならない
成功要因
- 下記の要素が揃って初めて「想起集合」に入る形となる
- コミュニティへの貢献
- 成功市場&エコシステム
- 収益モデル
- "クラウド御三家"としてクラスメソッド、サーバーワークス、クラウドパック(アイレット)の名前が挙がる事がある
- 実際はもっとたくさんSI企業は存在するが「想起集合」が3社で出来上がってしまっている。この中に「第4の勢力」として名前を入れるのはとても難しい。
- なので初期にこのポジションを取ったのはすごい活きている。複利がビジネスの成長に大きく貢献している
The Next Decade:「クラスメソッドの次の10年」の未来予想図
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答えがあるわけではない。考え方を述べたい。
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「クラスメソッドの次の10年」の未来予想図を皆さんと一緒に考えてみたい。
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歴史に学ぶ。クラスメソッドの20年に渡るコミュニティとの関わり、歴史が数字の裏付けと共にある。
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どれをトレースしてどれを「過ちを繰り返さない」材料とするか。
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ちなみに今クラスメソッドは皆さんにとってどういう会社なのか?クラウド、AWS、開発、ブログの会社...
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10年後、どんな時にクラスメソッドが思い出されるようにしたいか?基本設計としてはここが大事。
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クラスメソッドがお客様にどんなバリューを出しているか、というところでいくと「オンボーディングカンパニー」かな、と思っている。
- クラウドというテクノロジーで「こういうことをしたい」というケースがあった時の信頼出来るアドバイザーであり、(技術やサービスを)上手く使うのを支援するオンボーディング、代わりに作って「どうぞ」とするのとはちょっと違う。お客様が成長する限り、ずっとオンボーディングをし続けられる、そばに居て欲しくなるというポジションがあるのではないか。
- 僕はこれは10年後も変わらないのではと思う。分野や想起する言葉は違うけど「イネーブラー(あることの目的達成を実現するための要素をそろえたり、プロセスを促進したりすること)」「オンボーディングカンパニー」というポジションは非常に大事なのかなと考える。
-
今後更なる成長を遂げるためには、ある分野、成長する分野で第一想起を新しく取ることが必要。
成長エリアは?
- クラウドが面白かったのは「過去の成功者がその力を発揮できない環境を作った」ということ。
- 当時、システムを発注して構築しようとなった場合、サーバーを調達出来る会社がないといけなかった。そしてそこに常駐するエンジニアがいて、システムを構築出来るスキルが必要とされた。技術や設計能力の前に資本力が必要だった。
- これがクラウド以降ガラリと変わった。サーバもデータセンターもクラウド上にある。必要なのは設計能力と構築能力。最近だとオペレーションスキル。
- 伊藤かつら氏のコメントに「昔はエンジニア・デベロッパーの価値が低く見られていた」というものがあった。これは本当で、デベロッパーの価値を投入する前のハードルが高過ぎた。ハードウェア調達、保守...このアドバンテージがまるっと消えたのがクラウド。
- 同じように今の強みが通用しなくなるようなパラダイム・シフトとなるテクノロジーは何か?
- 恐らく、AI関係は大きな可能性があると考える。コードを書けない人でも使うことが出来る。マーケの世界でもChatGPTを使っていない人はいないくらいの状況。とにかく壁打ちが早い。思考のスピードがどんどん早くなる。 昔はスタッフを抱えてやる気のある人をホワイトボードを介してオフラインでやらないといけなかったものが、1人のちょっとしたアイデアと生成AIでどんどん形になっていく。
- ただし、AIの周りに一定のエコシステムがないといけない。それがどこ(何)になるのかは私もまだ良く分からない。AIの中で様々なエコシステム、プレイヤーがビジネスを想像するエリアが出来た時にそこはすごくベットしやすいものになるのではないかと思う。
収益モデルは?
- クラスメソッドの現状を見ると、上場しないとはいえあの状況がフラットになる、というのは考えにくい。成長し続けないといけない。
- 今のお客様には極力残って頂きつつ、次々に新しいお客様を作らなければならない。
- イネーブラーカンパニーのような、色々な会社にオンボーディングで寄り添うというポジションはアリなのではないかと思う。
- 合わせて、生成AIの分野でいかにポジションを確保するかも大事。
- 最近聴いた言葉で「LLMOps」というものがある。生成AIを上手く使う、寄り添うという部分に多くのお客様がお金を払っている。寄り添い、モノを作り、更にそれらをブラッシュアップする。そういうところでパートナーが必要だとなる事はあるかもしれない。
- 一方でAIの存在はクラスメソッドに頼らなくても出来ることが増える、ということも指しているので、オンボーディングカンパニーであることも大事だし、パラダイムシフトのテクノロジーにベットすることも大事なんだけれども、果たしてシステムを作ったり、そのアドバイスをするというのがこれからの収益モデルとなるかどうかはまだ分からない。もしかしたら大きくドメインチェンジをしないといけないのかもしれない。アイデアベースでもっと、それこそ人的資本の方に、もっとアイデアの方に寄り添いのリソースを持っていかないといけないのかもしれない。
どのような想起を?
- そして想起。もしマーケットが出来て、収益モデルが分かってきたら、そこでどんな想起を取れば、こんなに営業が少ない会社で売上を伸ばしていけるのか、インバウンドが増えていくのか。そういった部分を考えていく必要がある。
- 恐らく「新しいAI周りのテクノロジー、新しいユースケースを相談する、二人三脚する相手はクラスメソッドだ」という想起を作ることになるんだと思う。結局それを作るのはお客様、世の中がなんと言っているかにもなるので、いち早く事例をどんどんブログに出して行き、お客様同士の会話する場を作っていかなければならない。ということだと思う。
どんなコミュニティで?
- ...ということは、それにピッタリなコミュニティが無かったら再び横田さんは想起が生まれるためのコミュニティを作るかもしれない。横田さんが、というかクラスメソッドがホストするかもしれない。
- 横田さんはAdobeの時に「コミュニティのホストをしてみたけれども、それとビジネスとのリンクは難しかった」というのを見ている。成長産業であればコントリビュータであっても十分"果実"が得られることも分かっている。
- 想起を得るのにピッタリのコミュニティがもし無いんだとしたら、オペレーションのナレッジが20年前からあるわけだし、色々なコミュニティを支援している自分(小島氏)からすると、胴元が一番得られる利益が大きい。
- という事で、僕の勝手な未来予想図は、クラスメソッドが「◯◯◯◯◯◯コミュニティ」的なものを自分でホストするんじゃないか?」というのが予想です。そうなるかどうかは分からない。でもゴールへの近道を...と考えると結構良いアプローチなんじゃないかなと思います。
- 横田さんがやっていた20年前のコミュニティマネージメントと今のやり方、どれくらい違うのか?気になった方はコミュニティマーケティング推進協会にお問い合わせ頂ければと、まずはワークショップを受けて頂ければと思います。是非10年後もこういう場に呼んで頂いて、僕の予想が大外れだったか、結構当たってたかを振り返り出来ればと思います。
まとめ
という訳で、小島英揮氏のセッション『【未来予想図】マーケティング視点で、クラスメソッドの次の一手を考える』視聴レポートの紹介でした。直ぐ側で弊社代表の横田、及びクラスメソッドのこれまでを見てきた小島さんならではの知見や示唆が得られた、非常に意義ある内容だったと思います。小島さん、ありがとうございました!