[ゼロから始めるプロジェクトマネジメント] 会話から始めるチーム作り 〜コミュニケーションが苦手なPMの視点から〜
情報システム室の進地@日比谷です。
20代の頃の私には、「おしゃべりばかりしている人たち」の行動が本当に理解できませんでした。「もっと黙々と仕事すればいいのに...」と思っていたものです。特に、自分自身が内向的な性格だったこともあり、そう感じていたのかもしれません。
でも、プロジェクトマネジメントの経験を重ねていくうちに、考えが大きく変わりました。実は、人間関係とコミュニケーションこそが仕事の成否を分ける重要な要素だったのです。今回は、プロジェクトにおける「会話」の重要性について、私の経験を交えてお話ししたいと思います。
なぜ「会話」が重要なのか
実は、プロジェクトのタスクの内、一人で完結するものは全体の30%程度しかないのです。残りの70%は、誰かと協力しながら進めていく必要があります。これはプロジェクトマネジメントの名著「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」にも書かれています。つまり、人間関係の質がプロジェクトの成果に直結してくるわけです。
コミュニケーション不全がもたらす影響
私が以前経験した職場での出来事をお話しします。
チーム内での会話がほとんどなく、隣の席に座っている同僚とさえ、常にメッセンジャーでのやり取りを強いられる雰囲気がありました。皆が「忙しそう」に振る舞っていて、各自がバラバラのプロジェクトに携わっていました。直接話しかけることには本当に(少なくとも私には)勇気が必要な環境だったのです。
その結果として起きたのが、「車輪の再発明」です。既に同僚が別プロジェクトで経験済みの機能を、私たちのチームが一から作ってしまいました。たった一言、「似たような機能を作ったことありませんか?」と聞くだけで避けられた無駄な作業だったのです。でも、その一言を発することがとても難しかった。今でも良い教訓として覚えています。
会話がもたらす「気づき」の連鎖
一方で、会話を意識的に増やすことで、チームは大きく変わっていきます。
例えば、私が預かる情報システム室コアシステムチームでは商品管理と請求管理をそれぞれ担当するメンバーがいます。一見すると別々の業務領域に見えますが、実は密接に関連しているのです。日々の会話を通じて、これらの領域を担当するメンバー間で関心事が重なり合うようになると、面白い変化が起きてきます。
- お互いの業務が及ぼす影響を素早く検知できるようになります
- 異なる視点からのレビューが可能になり、より安全なシステム変更が実現できます
- 問題が発生した際の対応がスピーディになります
つまり、「会話」は単なるおしゃべりではなく、チームの「センサー機能」として働いているのです。
心理的安全性の本質
「心理的安全性が大切です」という言葉をよく耳にします。私は、その本質は「会話を生み出すため」にあるのではないかと考えています。そして面白いことに、この会話の量は、要求の質や仕様の精度、設計の完成度、そして最終的な成果物のクオリティに直接的に比例するのです。なぜなら会話の量はすなわちフィードバックの量であるからです。
なぜ会話が生まれにくいのか
先ほどお話しした「忙しそうに振る舞う職場」の例でもわかる通り、会話を妨げる要因は意外とたくさんあります。
- 「あの人、忙しそうだから話しかけちゃダメかな...」という雰囲気
- 「質問したら、できない人だと思われそう...」という心配
- 「効率重視」を掲げすぎて、対面での会話を避けがちな風潮
これらの障壁を取り除くことが、実はプロジェクトマネージャーの重要な役割の一つなのです。
効果的なコミュニケーションの実践
シンプルに「頼む」「謝る」
意外かもしれませんが、私たちは「頼む」というシンプルな行為を十分に行えていないことが多いのです。
「〜していただけませんでしょうか」「もし可能でしたら〜」といった遠回しな言い方ではなく、時には「これをお願いできますか?」とシンプルに頼むことで、かえってコミュニケーションがスムーズになることがあります。私自身、この方法で随分と助けられてきました。
また、「頼む」と同様に「謝る」も強力なソリューションです。これは活かした方が良いです。
支援の申し出方
「あなたがベストを尽くせるようにするには、私はどんな支援をしたら良いでしょうか?」
PMからメンバーに投げかけるこの質問には次のような要素が込められています。
- 相手の成功を心から願う気持ち
- 具体的な支援を提供する意思
- 相手の意見をしっかり聞く姿勢
ただし、この質問をした際の大切なポイントがあります。それは、その場でメンバーに即答を求めないことです。考える時間を与えることで、より本質的なニーズを引き出すことができます。それにあまり他者の助けを必要としないメンバーもいるため、そういったメンバーは適切に放っておくことも大切です。ただし、ここで誤解してほしくないのは、「あまり」他者の助けを必要としないメンバーはいても、「全く」他者の助けを必要としないメンバーはいないということです。
少なくともPMは常に、メンバーの助けに対して胸襟を開いておく必要があります。
プロジェクトマネージャーの実践すべきこと
対話を促進する環境づくり
MBWA(Management By Walking Around:歩き回るマネジメント)の実践
実は、私は今でも実際にメンバー間を「歩き回る」ことを大切にしています。メールやチャットだけでは伝わらないことがたくさんあります。
- 定期的にチームメンバーの元へ足を運ぶ
- 雑談を含めた自然な対話の機会を作る
- 表情や声のトーンから、言葉には出てこない問題を見つける
- etc...
例えば、あるメンバーの元を訪れた際、何気ない会話から「実は似たような機能を以前作ったことがある」という情報を得られたり、画面の表示がおかしいと悩んでいるメンバーの横で、別のメンバーが「あ、それ私も経験しました」と声をかけるような場面が生まれたりします。
こうしたアクションは実際にはコロナ禍を経てオフラインで徹底するのは難しくなりました。
ただ、MBWAは決してオフラインでなければできないものでもありません。
- 雑談のチャンネルを用意し、メンバー同士の雑談も奨励します
- 1on1 を気楽に入れてMeetなどで会話します。時には2on1 や 3on1、 2on2 なども活用します
- ただし、各メンバーとのコミュニケーションにあまり隔たりが生じないように留意します
- 毎日チーム全員がオンライン/オフラインを問わず顔を合わせる時間を作ります
- リモート飲み会やオンラインゲームを一緒に楽しむなど工夫します
さまざまな工夫をすることで、オンラインの高い生産性を活かしつつ、コミュニケーションを醸成することができます。
1on1の効果的な活用
1on1は単なる定例ミーティングではありません。むしろ、以下のような機会として活用すべきだと考えています。
- 業務上の課題だけでなく、キャリアの話もゆっくりできる場
- 相手のペースに合わせた対話の時間
- 普段言えないことも話せる機会
当たり前の話ですが、人間、あまり話したことのない人と話すのは気が引けますし、緊張するものです。1on1はそのタイミングそのもので効果があるものではなく(あってももちろんいいですが)、その後、会話をしたい状態に陥った時に素早く、気軽に会話ができるようにするためにも行う価値があるのです。
ただし、矛盾するようですが、私は定例Mtg自体はあまり好みません。
目的が形骸化した定例はやめましょう。
「見える化」の工夫
面白いことに、仕様や設計の長所・短所の一覧を目立つところに掲示しておくだけでも、自然と会話が生まれやすくなる効果があります。
- 「これ、こういう意味だったんですね」という気づきが生まれます
- 「ここの短所、こうすれば改善できそうです」というアイデアが出てきます
- 「似たような課題、以前にも経験がありまして...」という知見の共有が始まります
このような会話が自然と生まれ、チームの知恵が集まっていきます。WIP(Work In Progress)のドキュメントやメモもその意味ではチーム全員が参照可能な状態にしておくことは大事です。
チーム文化の醸成
私は最近、こんなことをよく考えています。「強い人」を作ろうとすることは、実は目標として適切ではないのではないか、と。
なぜなら、本当の意味で「強い人」など何処にも存在しないからです。強く見える人がいるだけなのです。
「強い人」を「優秀な人」と読み替えてもいいかもしれません。
大切なのは、こんな環境を作ることではないでしょうか。
- お互いの得意分野を活かせる場所を作ります
- 苦手なところを自然とカバーし合える関係を築きます
- 失敗しても、それを学びに変えられる雰囲気を醸成します
そして、チーム全体として結果を出すことが大切だと考えています。
まとめ
プロジェクトの成否は、実はチームメンバー間の会話の質と量に大きく依存しています。そして、その会話を生み出す土台となるのが心理的安全性なのです。
プロジェクトマネージャーの実力は、まさにチームメンバーとの人間関係で評価されると私は考えています。なぜなら、良好な人間関係があってこそ、活発な会話が生まれ、それが直接的にプロジェクトの成果につながっていくからです。
人間関係とコミュニケーションは、決して「後回しにしても良いこと」や「時間があれば取り組むこと」ではありません。むしろ、プロジェクトの成功に直結する最重要要素の一つなのです。
私の20代の頃の考えは間違いでした。「おしゃべり」に見えた会話の中に、実は重要な価値が隠れていたのです。皆さんのプロジェクトでも、ぜひ「会話」を大切にしていただければと思います。
著者からの補足:コミュニケーションが苦手な方へ
こんな記事を書くと、進地はさぞかしコミュニケーションが好きでコミュニケーション強者と勘違いした人がいるかもしれませんが、そんなことは全くありません
。はっきりいって、コミュニケーションに苦手意識がある人ですし、おとなしいですし、口数も少ない。誰に聞いても外交的とは程遠い人間です。とてもとても内向的です。しかしながら、仕事上必要な会話ぐらいはできますし、こんな自分が話しやすいぐらいの安全性が職場にはあって欲しいと常に思っています。そしてそれを作る努力をしているつもりです。
それでも、話すことが苦手な人に一つだけコメントすると、話さなくても「その場にいる」ことの力(Power)ってすごいってことは伝えておきたいです。コミュニケーションって言葉だけじゃないんです。その場にいることによるインパクトって本当に馬鹿にできませんし、見たことがあるだけでその人に話しかけやすくなる経験をした方は多いのではないでしょうか?それにその場にいればそのうちなにかを話す時がきます
。大丈夫です。
誤解のないように言っておくと、これはオンラインでも可能です。ただし、オフラインの方が強力であることは否めません。オフラインの方が存在のインパクトが強力なんです。ですので、実はコミュニケーションに苦手意識がある人ほど(私とか)、人がいる場所に苦痛にならない範囲で(大事)
行くようにしてみると良いと思います。