テクニカルサポートを最大限活かすための問い合わせ文の作り方
この記事はアノテーション株式会社 AWS Technical Support Advent Calendar 2021のカレンダー | Advent Calendar 2021 - Qiita 19日目の記事です。
気付けば4年間テクニカルサポートをしていました
アノテーション・テクニカルサポートチームの m.hayakawa です。
元々はソフトウェア開発エンジニアでしたが、ひょんなことからテクニカルサポートの業務を始めて 4 年以上、様々な問い合わせ文と向き合ってきました。
せっかくなので今回は 4 年間の仕事の中で身に着けた暗黙知を「テクニカルサポートへ問い合わせを行う際の文章作成」という題材にて、ブログ化していきたいと思います。
テクニカルサポートだけでなく、一般的な「カスタマーサポート」に関連するような、なるべく平易な内容を心がけます。
これを実践することで、テクニカルサポート側にも要件が伝わりやすくなり、結果としてお客様のビジネスが良い方向へ進むようになれればいいと考えています。
なお、本稿は「伝わりやすくする」という観点で記述しております。筆者は日本語教師ではないので、多少の日本語の誤りについてはご容赦ください。
1. 相手を苦しませない文章にする
急いでいると以下のような問い合わせをしてしまいがちです。
異なる二つのサーバーのハードデスクのデータをcopyしたいのですが遅いのでRCAを教えください。解決するための大体簡単にできる手法とまたかなりサーバをデーター量が多いので何か別にコピーする方法をするという事があればこちらも何か教えください。
では、具体的にどうすることで読みやすい文章となるでしょうか。
誤字・脱字を修正する
基本的な部分となりますが、送信前におかしな部分がないかは一度チェックをすることが望ましいです。
誤字・脱字
- ハードデスク → ハードディスク
-
教えください。 → 教えてください。
表記ゆれ
-
サーバ/サーバー → サーバ に統一
-
データ/データー → データ に統一
-
copy/コピー → コピー に統一
不適切な助詞などを修正する
細かい部分ですが、助詞をひとつ誤ると意味が全く変わってしまうことがあります。
正しい日本語になるように修正しましょう。日本語ネイティブでない場合は、問い合わせ前に上司に日本語の誤りがないか、レビューを依頼することをお勧めします。
- サーバをデータ量が多い → サーバのデータ量が多い
また、細かい点となりますが、「する」と「方法」という言葉は重複しがちなので、不要な言葉がないかもチェックしましょう。
- 何か別にコピーする方法をするという事があれば → 何か別のコピー方法があれば
一般的ではないアルファベットの略語の使用は控える
RCA という3文字アルファベットがあります。
Google で検索したところ、赤と白と黄色のケーブルという結果がトップでした。
「RCA 略語」で検索すると、「Root Cause Analysis」といった意味であることが分かります。
文脈上、当てはめると意味が分かりますが、認識の齟齬が発生する可能性があるため、できる限り略語は使わないことが望ましいです。
漢数字は算用数字に変換する
「一石二鳥」などの熟語でない限りは、算用数字を用いることが望ましいです。また、個人的には数字の前後に半角スペースを入れると可読性が増すと考えています。
一文を短くする
一文で 1 つの意味となるように、文章を「。」で分割します。
適宜「、」で文節を作り、改行すると可読性が増します。
ここまでの修正を適用すると以下になります。
異なる 2 つのサーバのハードディスクのデータをコピーしたいです。 しかし、遅いので根本原因を教えてください。 解決するための大体簡単にできる手法と、また、かなりサーバのデータ量が多いので、 何か別のコピー方法があれば、こちらも何か教えてください。
2. 誰が読んでも同じ意味になるようにする
いったんは文章が整いました。しかし、問題の全体像は見えましたが、具体性に欠けています。
物事を具体的に伝えるにはどのような配慮が必要でしょうか。
副詞は使わない
副詞は動詞や形容詞について、性質や状態を修飾するために用います。
文中では「大体」「かなり」「何か(厳密には副詞+助詞)」が該当します。
定性的・感覚的には伝わる部分がありますが、定量的な情報が欠けているため、認識に齟齬が発生することが多いです。
試しに「大体」「かなり」「何か」を除いても、ほとんど意味が変わらないことに気付くはずです。
異なる 2 つのサーバのハードディスクのデータをコピーしたいです。 しかし、遅いので根本原因を教えてください。 解決するための簡単にできる手法と、また、サーバのデータ量が多いので、 別のコピー方法があれば、こちらも教えてください。
混乱のもとになるため、基本的には副詞の使用は控えましょう。
形容詞は具体的な数値に変換する
形容詞は物事の状態や性質を表す言葉です。
文中では「遅い」「簡単に」「多い」が該当します。
形容詞は副詞と違い、文から除いてしまうと意味が成り立たなくなります。
副詞と同様に定性的・感覚的には伝わる部分がありますが、これを定量的な情報に変換すると、より具体的になります。
また、形容詞を使って表現する場合は、その背景があるはずです。
形容詞を定量的にしつつ、問い合わせの背景を混ぜるとより良くなると思います。
異なる 2 つのサーバのハードディスクのデータをコピーしたいです。 しかし、通信速度が 100 kbps です。明日までにデータコピーを完了する必要があるため、根本原因を教えてください。 また、サーバのデータ量が 1TB あるので、コピーする別の方法があればこちらも教えてください。 担当者がサーバーに関する知識が乏しいため、理解しやすい手法が望ましいです。
分かりやすい文章になりましたね!
3. その他の配慮事項
社内共通語を使わない(文脈依存性のない言葉を使う)
文例 | |
---|---|
× | アノテPPCP案件が止まりました。ステ環は動きます。 |
〇 | お客様へ提供している本番環境でエラーが発生しました。検証環境では問題なく動作しております。 |
社内共通語を使ってしまうと、背景の読み取りが困難になります。
なお、「アノテPPCP案件」は架空の案件です。
5W1Hを書く
文例 | |
---|---|
× | 何もしてないのに止まりました。なんとかしてください。 |
〇 | サーバー名: abc が 2021/12/19 05:00 JST に停止しました。当社では特にサーバーに対する設定変更は行っていません。復旧方法を教えてください。 |
必ずしも 5W1H をすべて埋める必要はありませんが、「いつ誰が何に対して何をした」といった情報を含めると伝わりやすくなります。
修飾語と被修飾語は近づける
文例 | |
---|---|
× | 短時間で簡単に大量のデータをコピーするために、できる方法を教えてください。 |
〇 | 大量のデータを短時間でコピーするために、簡単にできる方法を教えてください。 |
修飾語が文頭に固まってしまっており、どれが何を修飾しているのかが分かりにくくなることがあります。
修飾語がどちらにかかっているかを明確にするために、修飾語と被修飾語は近くに配置しましょう。
感情を含めない
文例 | |
---|---|
× | どうして削除したファイルが復旧できないんですか!?手段を用意できない理由は何ですか?今すぐ復旧してください!!復旧できないと困ります・・・ |
感情を含めてしまうと、本当に解決したい事柄がかえって伝わりにくくなる可能性があります。
「!」「?」の使用も控えることが望ましいです。
「・・・」はビジネスでの使用は向いていないとお考えください。
五月雨式で情報を小出しにしない
文例 | |
---|---|
× | (問い合わせ送信数分後に)五月雨式で失礼します。ちなみにもうひとつの案件でエラーが起こっていますが、関係はありますか? |
問い合わせ前に情報の取りまとめをしてください。
または、問い合わせ範囲をひとつの環境の範囲に留めると、対応を迅速化できる場合があります。
(基本的には「五月雨式で失礼します。」というシチュエーションにならないようにしましょう)
「~たく」という語尾を避ける
文例 | |
---|---|
× | 本事象の原因についてお教えいただきたく。 |
〇 | 本事象の原因についてお教えいただけますでしょうか。 |
〇 | 本事象の原因についてお教えいただきたく存じます。 |
「~たく」を語尾として使うことは、日本語として誤用とまでは言いにくい点がありますが、できれば避けることが望ましいでしょう。
言葉としては「いただけますでしょうか。」という表現がより適切です。
どうしても使いたくなった場合は、「~たく存じます。」という言葉を使うと良いでしょう。
「急ぎ」の場合はビジネス上の影響や理由を書く
文例 | |
---|---|
× | 大急ぎで対応しなければいけません。至急対応をお願いします。 |
〇 | EC サイトのサービスが停止しているため、1 時間停止ごとに 100万円を売り上げ損失が発生します。そのため、緊急度の高い対応をお願いいたします。 |
慌てていると「急ぎ」「至急」という言葉を使いがちですが、ビジネス影響を記載するとスピード感が伝わりやすいです。(各サポートセンターとの契約や SLA(Service Level Agreement) は必ず確認してください。)
スクリーンショットを添付する
文例 | |
---|---|
× | 「Error: Incorrect なんとか」というエラーが起こりました。スクリーンショットは取っておらず、再現もできません。 |
〇 | 「Error: Incorrect parameter. Please check the document https://~」というエラーが起こりました。スクリーンショットも併せて添付します。 |
問題発生時はスクリーンショットを取りましょう。それをサポートセンターへ添付できるとベストです。
文字情報がコピーできるのであれば、メッセージ全文をコピーして、テキストファイルにペーストして提供すると、対応を迅速化できる場合があります。
まとめ
テクニカルサポートへ問い合わせを行う時点で、冷や汗が出るような問題が発生していると思います。
ですが、そんな精神状態で文章を書いてしまうと、分かりにくい文章を作ってしまい、結果として解決から遠ざかってしまうことになりかねません。
そんな時には、このブログの内容を参考に、冷静に丁寧に問い合わせ文章を作成してみてください。迅速な解決につながる可能性が増すかもしれません。
最後に
テクニカルサポートはお客様の問題解決を力添えする存在であり、敵ではありません。
共に問題を解決するよう、最大限お手伝いいたします。
AWS に関するサポートをご依頼の場合は、クラスメソッドメンバーズ・メンバーズサポートへお気軽にお問い合わせください。
参考資料
技術的なお問い合わせに関するガイドライン | AWS サポート
【社内資料公開】40歳中堅サポートエンジニアが文章作成時に気をつけている5つのキーワードを紹介します | DevelopersIO