
Zendesk オートアシストの文章生成速度検証および生成AIによる軽量化提案
はじめに
Zendesk の AI 支援機能 オートアシスト は、プロシージャやヘルプ記事をもとに、チケット対応の文案を自動提案する機能です。一方で、運用現場からは「提案文章の表示に時間がかかる」 「チケットによって応答にばらつきがある」といった声も聞かれます。その原因として、参照されるプロシージャの件数やテキスト量が影響している可能性があり、今回はこの点を定量的に検証しました。
対象読者
- Zendesk のオートアシスト機能の導入や活用を検討しているカスタマーサポート担当者・マネージャー
- すでにオートアシストを運用していて、提案生成速度や品質に課題を感じている方
- プロシージャやヘルプ記事など、Zendesk 内ナレッジの設計・管理を担当しているナレッジ管理者
参考
オートアシストの仕組みと検証動機
Zendesk のオートアシスト機能は入力補助として機能する AI 支援ツールです。チケットの文脈に応じて適切な返信文案を自動で提示します。これにより、対応品質の均一化や対応時間の短縮といった効果が期待されます。
オートアシストが参照する情報源
オートアシストが提案文章を生成する際には、主に以下の情報源が参照されます。
- プロシージャ:Zendesk 管理画面上で作成された、対応手順や判断基準などの社内ナレッジ
- ヘルプセンター記事:公開・非公開を問わず、Zendesk Guide に登録されているナレッジベース
- 過去のチケットやメモ:類似ケースにおける対応履歴(ただし今回の検証対象外)
プロシージャ量と応答性能の関係
実際の運用現場では、プロシージャの数が数十件~数百件に増加していくことが一般的です。内容の充実化を図るあまり、1 件あたりの文章量が 1,000 文字を超えるケースも珍しくありません。このようなナレッジの「量的増加」に伴って、オートアシストの動作に以下のような兆候が見られました。
- オートアシストの提案文章が表示されるまでに数秒のラグがある
- 速度感がチケットや問い合わせ内容の種類によってばらつく
これらの現象は、参照対象が増えることによる処理負荷増加が原因である可能性があります。そこで今回の検証では、「プロシージャの数」や「1件あたりの文字数」の変化によって、オートアシストの提案文章の生成速度がどのように変化するのかを定量的に測定し、ボトルネックの実態を明らかにすることを目的としました。
検証環境と方法
本検証では、Zendesk オートアシストの提案文章の生成時間がプロシージャの量に応じてどのように変化するかを確認するため、複数の条件でプロシージャデータを用意し、画面操作とレスポンス時間の計測を行いました。
検証環境
- Zendesk アカウント:Sandbox 環境を使用
- オートアシスト:管理画面から有効化済み
検証パターン
以下の 4 通りの条件で検証を行いました。プロシージャは日本語で作成しました。
プロシージャ 1 件あたりの文字数 | プロシージャの件数 | 合計文字数 |
---|---|---|
200 ~ 300 | 5 | 約 1,600 |
200 ~ 300 | 30 | 約 8,900 |
1,000 ~ 1,500 | 5 | 約 6,000 |
1,000 ~ 1,500 | 30 | 約 40,600 |
計測方法
- プロシージャリストの読み込み時間:Zendesk コンソールのプロシージャ一覧の UI 表示にかかる時間をブラウザの開発者ツールで計測
- 提案文章の生成時間:メッセージの送信後、オートアシストの提案が UI 上に表示されるまでの時間を録画し計測
検証結果
各条件におけるレスポンス時間の平均値は以下の通りです。
プロシージャ 1 件あたりの文字数 | プロシージャの件数 | 合計文字数 | プロシージャリストの読み込み時間(秒) | オートアシストの提案文章の生成時間(秒) |
---|---|---|---|---|
200 ~ 300 | 5 | 約 1,600 | 1.3 | 8.9 |
200 ~ 300 | 30 | 約 8,900 | 1.1 | 21.6 |
1,000 ~ 1,500 文字 | 5 | 約 6,000 | 1.5 | 16.4 |
1,000 ~ 1,500 文字 | 30 | 約 40,600 | 1.3 | 25.0 |
プロシージャリストの読み込み時間については、件数や文字数による大きな影響は見られませんでした。一方、 オートアシストの提案文章の生成時間は明確にプロシージャの合計文字量に応じた増加が見られました。特に「文字数が多く、件数も多い」パターンでは、最小構成と比較しても生成時間が約 3 倍にまで増加しており、体感上の遅延として無視できない差といえます。
改善方法の例:生成 AI によるナレッジ軽量化
今回の検証により、オートアシストの提案生成時間は、プロシージャの合計文字量に比例して増加することが確認されました。
応答性能の改善に向けた現実的な方法としては、たとえば既存の長文ナレッジを、生成 AI を用いて要点を抽出・再構成し、コンパクトな文章に置き換える方法が有効であると考えられます。これによって、ナレッジの本質を損なわずに応答速度を向上させる効果が期待できます。
一方、詳細な手順や例外処理などが省略されることで、個別ケースへの対応精度がやや低下するリスクもあります。ナレッジの軽量化に取り組む際は、全体の応答性能と内容の精度がトレードオフの関係であることを踏まえた調整が求められます。たとえば、詳細な手順を含むフルバージョンは別途ドキュメントとして保持しつつ、オートアシスト用には軽量版を提供する、という運用も選択肢の一つです。
まとめ
Zendesk のオートアシストは、社内ナレッジを活用してチケット対応を支援する有用な機能ですが、その提案生成速度は参照するプロシージャの合計文字量に影響を受けることが、今回の検証により明らかになりました。プロシージャの件数や記述内容が増えるにつれて応答が遅くなる傾向があるため、パフォーマンス改善にはナレッジ設計の見直しが重要です。今後オートアシストを活用していく上では、ナレッジの網羅性だけでなく、応答性能と実用性のバランスを意識した運用設計が求められると考えられます。