
Zendesk 権限制御周りの整理と複数コールセンター環境での実装例
はじめに
昨今、複数のコールセンターやサポート拠点を企業が運営するケースが増加しています。同一ブランドの下で地域別・製品別に異なる組織を持つ場合、各組織が扱うチケットの適切な権限制御が重要な課題となります。本記事では、 Zendesk が提供する権限制御機能 (組織・グループ・ブランド・カスタムロール・プライベートチケットグループ・ブランドメンバーシップ) を整理します。また、機能の活用例として同ブランド内に複数コールセンターがある環境での実装方針を提案します。
Zendesk とは
Zendesk は、カスタマーサービス業務を統合的に管理するクラウド型プラットフォームです。チケット管理、ナレッジベース、コミュニティフォーラム、ライブチャット、電話サポートなどの機能を提供し、企業の顧客サポート業務を効率化します。
対象読者
- 社内システム開発部門、 IT 部門、カスタマーサポート部門の管理職
- Zendesk の設定変更権限を持ち、組織全体のサポート体制を設計・運用する管理者
- Zendesk の基本操作を理解しており、高度な権限制御や複数拠点運用の課題解決を求める方
Zendesk の権限制御周りの全体像
Zendesk の権限制御機能は、契約プランによって異なります。以下に主要な機能をプラン別に整理します。
Enterprise 未満のプランで利用可能な機能
- 組織 (Organization): 顧客グループ化
- グループ (Group): エージェント担当制御
- ブランド (Brand): 顧客セグメント分離
Enterprise 以上のプランで追加される機能
- カスタムロール (Custom Role): 詳細権限設定
- プライベートチケットグループ (Private Ticket Group): 可視/不可視の制御
- ブランドメンバーシップ (Brand Membership): 横断的アクセス管理
権限制御の基本概念
Zendesk の権限制御は、以下の 3 つの側面で構成されます。
- 可視性権限: どのチケットを閲覧できるか
- 編集権限: チケットの内容を変更できるか
- 管理権限: システム設定や他ユーザーの管理ができるか
組織 (Organization)
組織は、顧客を論理的にグループ化する仕組みです。同一組織に属する顧客同士は相互にチケットを閲覧できるため、企業顧客や部門単位でのチケット管理に活用できます。
- 組織メンバー間でのチケット共有可否
- 組織外からのチケット閲覧制限
- 組織固有のフィールドやタグの適用
グループ (Group)
グループは、エージェントを機能別・地域別に分類し、チケットの担当範囲を制御する仕組みです。各グループには複数のエージェントが所属し、グループ単位でチケットがアサインされます。
- チケットの自動割り当てルール
- グループ内でのチケット共有設定
- エスカレーション先グループの指定
ブランド (Brand)
ブランドは、異なる製品・サービス・地域ごとに独立したサポート環境を構築する仕組みです。各ブランドは独自のヘルプセンター、メールアドレス、デザインを持ち、顧客とエージェントの接点を分離できます。
- チケット生成時の自動ブランド振り分け
- ブランド固有のワークフローやトリガー適用
- レポーティングでのブランド別集計
カスタムロール (Custom Role)
カスタムロールは、標準の Admin, Agent, End-user 以外に、組織固有の役割を定義できる仕組みです。各ロールに対して、機能単位での細かい権限設定が可能です。
- チケット編集権限の詳細制御
- 管理画面へのアクセス範囲指定
- レポートやダッシュボードの閲覧権限
- 他エージェントのチケット可視/不可視の制御
プライベートチケットグループ (Private Ticket Group)
プライベートチケットグループは、特定のグループに所属するエージェントのみがチケットを閲覧・編集できる仕組みです。機密性の高いチケットや、特定チームでのクローズドな対応に活用します。
- グループ外エージェントからの完全不可視
- グループ間でのチケット移管時の可視性変更
- 管理者権限でもアクセス制御対象となる設定
ブランドメンバーシップ (Brand Membership)
ブランドメンバーシップは、エージェントがアクセス可能なブランドを制御する仕組みです。複数ブランドを運営する組織で、エージェントの担当範囲を柔軟に設定できます。
- 管理者の全ブランド横断アクセス
- 専門エージェントの特定ブランド限定アクセス
- 品質管理者の監査目的での限定アクセス
ユースケース例: 複数コールセンターでの権限分離
要件と設計方針
今回は例として、 1 つのブランドの下に複数のコールセンターがある場合を考えます。以下の要件に基づいて、実装方針を策定します。
基本要件
- 各センター間でのチケット相互不可視
- スーパーバイザーの横断監督機能
設計方針
Enterprise プランの利用を前提とし、プライベートチケットグループとカスタムロールを組み合わせた権限設計を採用します。各コールセンターを独立したグループとして構成し、横断監督用の特別ロールを設定します。
実装手順
プライベートチケットグループ設定
各コールセンターに対応する 5 つのプライベートチケットグループを作成します。
- 管理センター > メンバー > チーム > グループ を選択し「グループを追加」
- 任意のグループ名を設定し プライベートにする にチェック
- 右メニュー「グループメンバーを追加」からエージェントを追加し保存
カスタムロール設定
横断監督用のスーパーバイザーロールを作成します。
- 管理センター > メンバー > チーム > ロール を選択し「ロールを作成」
- 任意の名前を設定し、以下の項目を設定します
- 権限 > チケット > アクセス可能なチケット:
プライベートグループ内も含む、このロールのブランドメンバーシップ内のすべてのチケット
- メンバー > エンドユーザーへのプロフィールへのアクセス:
すべてのエンドユーザーの追加、編集、削除
- レポートと分析 > レポートの権限 >
表示、追加、編集可能
- 権限 > チケット > アクセス可能なチケット:
動作確認
「コールセンターA」に割り当てたチケットを作成し、検証用アカウントのロールを変更して動作を検証します。
通常ロール
検証用アカウントのロールを「ライトエージェント」としました。
- 「コールセンターA」グループに所属しているとき、一覧にチケットが表示されました
- 「コールセンターA」グループの所属から外すと、一覧にチケットが表示されなくなりました
カスタムロール
検証用アカウントのロールを「コールセンター横断用アカウント」としました。
- 「コールセンターA」グループに所属しているとき、一覧にチケットが表示されました
- 「コールセンターA」グループの所属から外しても、一覧にチケットが表示されました
まとめ
本記事では、 Zendesk の権限制御周りの機能を整理し、複数コールセンター環境での実装方針を提案しました。 Enterprise 未満のプランでは組織・グループ・ブランド機能による基本的な権限制御が可能である一方、 Enterprise 以上のプランではカスタムロール・プライベートグループ・ブランドメンバーシップにより、より厳密で柔軟に権限を設定できます。今回挙げた例として、同一ブランド内で複数のコールセンターを運営し、各センター間でのチケット相互不可視と横断監督機能を両立させる場合には、プライベートグループとカスタムロールの組み合わせが有効です。