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教えるという技術

2017.04.03

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渡辺です。

自分は「教える」ことにやり甲斐を感じます。 大学時代を思い返すと、家庭教師やサポートセンターのバイトをやってました。 ボードゲームをする時は、ルール説明などを行っていました。 ゲームのインストの一環としてインストカードやサマリを作ることもあり、プレゼン資料作りも得意になりました。 IT業界に入ってからは、勉強会の講師や資料作成・ハンズオンのチューターなどを行うようになりました。 技術書の執筆やIT系専門学校講師も経験しています。 最近では趣味のスノーボードで、インストラクターの資格をとり、スノーボードスクールで教えています。 「教える」ことが好きなんでしょう。

これまで、様々な分野で技術を教えてきました。 畑はまったく違ったとしても、解りやすく「教える」ための技術は大きく変わりません。 今回はそんな「教える」技術をまとめてみました。

なお、本エントリーの対象は、その分野に初めて学ぶ「初心者」から、最低限のことは教わり独り立ちできるレベルになる過程の「中級者」とします。 問題を指摘すれば自分で修正することができる「上級者」は対象としません。

優れたコーチになろう

結論から言えば、技術を解りやすく「教える」には、優れたコーチになることです。 コーチは、生徒とのコミュニケーションを重視した教え方を実践します。 コミュニケーションを重視したコーチの教え方は、コーチングと呼ばれます。

一方、コーチに対し、学校の先生はティーチャーと呼ばれます。 コーチングに対し、学校の授業に代表されるティーチャーの教え方は、ティーチングと言います。 勉強会などの講演はティーチングに近い教え方です。 学校の授業や講演では、質問時間などはありますが、一方的に技術を教えます。 この時、教科書や資料を使い、手順良く教えていくことが特徴です。 これは大人数を相手に効率良く技術を教えることに適した手法です。

しかし、学校の授業や講演では、生徒の一部が途中で理解できなくても進行します。 結果、生徒の理解度はバラバラとなってしまいます。

相互コミュニケーションを重視するコーチング

コーチングでは、少人数の生徒にコミュニケーションを重視して教えます。 コーチングでは、コミュニケーションを通じ、生徒それぞれに応じた方法で技術や知識を伝えます。 一方的にやり方や正解を教えることはしません。 生徒の自主性を尊重し、自然と目標に近づけるように誘導します。

コーチは生徒と対話し、ゴールを共有します。 その上で、出来ることと出来ないことを確認し、出来ない部分を出来るように導きます。 極端な話をすれば、生徒毎に教え方も変わります。 コーチは教え方に多くの引き出しを持ちます。

ゴールを共有し出来ないことを認識することは、技術を教える場合も大切です。

技術を教えること

技術を教えるにはコーチングが適しています。 すべてではありませんが、コーチングのテクニックを多く使います。 技術を教える時、特に自分が重視していることをまとめてみました。

「教える」ことはコミュニケーションから始まる

生徒、特に初学者は、なにが出来て、なにが出来ていないのかを解りません。 コミュニケーションを通して相手を知り、なにが出来て、なにが出来ないのかを見つけてください。 生徒と丁寧に会話をおこない、警戒心を解きましょう。 最初の話題は教えることと関係ない話題にすると効果的です。 これはアイスブレイクというテクニックでも知られています。 安心させ、やりたいことや不安なことを引き出してください。

教える技術以外での生徒が得意とすることを聞き出すのも効果的です。 データベース技術であれば、生徒の趣味を題材にすることで興味を持たせることができます。 専門学校講師をしていた時、生徒がブラウザゲームが好きと言うことを知り、ゲームのデータベースを課題としたことがあります。 スノーボードのレッスンでは他のスポーツ経験などを聞きます。

コーチングの基本はコミュニケーションです。

ほめて伸ばす

コーチングではコミュニケーションを重視するため、生徒のモチベーションを高く保つことが鍵となります。 このため、コーチングでは、生徒をほめて伸ばします。 ほめることで、生徒のモチベーションを高め、学習効果を高めることができます。

誰であっても、出来なかったことが出来るようになるのは嬉しいことです。 「できた!」「すごい!」とほめることで、コーチと生徒が喜びを共有できます。 ほめることは円滑なコミュニケーションにも繋がります。 ほめることは、特に子供を教える時に効果的です。

ほめるためにも、簡単なことからチャレンジしなければなりません。 簡単なことを、何回かのチャレンジで出来るようになることが理想です。 最初から難しいことにチャレンジさせて失敗ばかりではストレスになります。

ゴールを明確にする

特に限られた時間でハンズオンやレッスンをする場合、その時のゴールを明確にすることが大切です。 はじめに「今日はXXできるようにしよう」と明確なゴールを提示しましょう。 これから教えてもらうことが何のために必要かを知ることで、モチベーションを引き出すことができます。 「いいから、これをやろう」では、右も左も解らない生徒は、やる気を失うかもしれません。 例えば、はじめてスノーボードをやる人に対するレッスンでは「リフトに乗って降りてこられることが目標ね」と言えば、ゴールが明確です。 そのゴールのために必要なことを学ぶのです。

遠すぎるゴールを設定しないように注意してください。 その日のレッスンが、まったくゴールに到達できず終わってしまうと、次回へのモチベーションなくなります。 生徒が到達できそうなゴールにすることで、「もう出来たの、すごいね!それならば次はこれやってみようか」と、モチベーションをあげることもできます。

話を肯定する

特に初学者を教えるとき、間違ったことを言ったとしても、否定してはいけません。 生徒は教わる段階にいるので、間違ったことを言うのは当然です。 言葉を否定してしまうと、生徒は間違ったことを言うことを避けることになります。 結果、コミュニケーションがうまく行かず、必要な情報を引き出せなくなってしまうのです。

例え間違ったことを言ったとしても、頭ごなしに否定しないでください。 正しいやり方の方が良さそうだと自主的に考えるように誘導します。 コーチは正しいことを教えるのでは無く、生徒に正しいことを気付かせます

技術を体系化する

技術を教えるときには、簡単なことから難しいことに順番に教えていくことが必要です。 これは当たり前のことかもしれません。 しかし、ステップバイステップで教えるためには、技術の体系化が前提となります。

ある技術を行うためには、前提となる技術があります。 それらの相関関係を整理することで、ある応用技術を最短で習得する道筋を考えることができます。

また、ひとつの技術が、幾つかの要素の組み合わせとなっている場合があります。 いきなり全部の要素を教えるても破綻します。 簡単にできる要素に分解してください。 簡単に出来ることは教えるのも容易です。 出来たならば、ほめて、次のことを教えます。 最終的に、目標の技術ができるようになればいいのです。

スノーボードを始めてやる人にターンのやり方を教えることはないでしょう。 SQLがはじめての人に相関クエリの使い方が理解できるわけありません。 基礎技術から応用技術にかけて段階的に教える必要があります。

サポートを控え、独力で出来ることを優先する

生徒によっては、なかなか上手く出来ないこともあります。 そんな時、すぐにサポートすることは避けてください。

例えば、スノーボードで立つことができない場合、すぐに手を引いて立ち上がらせません。 ユニットテストのハンズオンで、書き方が解らないと言っても、すぐに手本を見せません。

サポートを行うことで、生徒は出来るようになります。 しかし、それは独力で出来たのでは無く、コーチのサポートで出来たにすぎません。 独力で出来た時にこそ達成感があります。 達成感はモチベーションに直結します。 ただし、体力や時間といった制約がある場合は積極的にサポートしてください。

考えさせて正解を導く

優れたコーチは、コミュニケーションを取りながら、生徒に考えさせます。 生徒は考えた結果、独力で正解へとたどり着くことが理想です。 これは最短で正解を教えるティーチングとの大きな違いです。 回り道かも知れませんが、生徒自らがたどり着いた正解は忘れることはありません。

コーチが生徒に考えさせることで、生徒一人でも考える習慣に繋がります。 生徒は疑問点などを考え、理解を深めます。 技術であれば、自分で検索できるようになるでしょう。

引き出しを多くもつ

複雑なことであっても、簡単なことであっても、教わったことが出来ないと生徒のテンションは下がります。 当たり前ですが、生徒を怒ったとしても、出来るようにはなりません。 優れたコーチは別の方法を試します。 別の方法で生徒ができなかったならば、また別の方法で教えます。

優れたコーチは「教え方」の多くの引き出し持ちます。 「ちょっと難しかったかな、じゃあこうしてみよう」と、生徒を落ち込ませる前に、別の方法で、出来るように導きます。 結果的に、ゴールに到達できれば、過程のひとつが出来なくても問題ありません。

引き出しを多く持つには試行錯誤と経験しかありません。 時には生徒と一緒に考えます。 慣れてくると、レッスン中に「こんな風に教えてみよう」とひらめきがでてきます。 コーチ仲間に相談することも有効です。 「今日、こんな生徒がいて上手く出来るようにならなかった」と相談し、ヒントを貰ってください。

また、優れたコーチのサポートにつき、引き出しを盗んでください。 自分の知らない教え方を見つけるとわくわくします。 優れたコーチは、教え方を盗んでも怒ることはありません。 なぜならば、盗まれた教え方で別の生徒が出来るようになれば、教え方を盗まれたコーチにとっても嬉しいことだからです。

生徒をリスペクトする

コーチは生徒にとって技術をもった上の存在に映ります。 しかし、コーチが上から目線のままでは、円滑なコミュニケーションを行うことはできません。 なるべく対等の立場を心がける必要があります。

そのためにも、生徒をリスペクトしてください。 コーチにとって当然なことも、生徒にとっては難しいことです。 それを出来るようになることはリスペクトされることです。 自分も昔は出来なかったと思い出し、生徒の視線で一緒に学ぶことが必要です。

コーチが楽しむ

コーチは生徒と一緒にチャレンジし、どうすれば出来るようになるかを考えます。 生徒が出来るようになれば、生徒は嬉しいと感じるでしょう。 その喜びをコーチは一緒に喜びます。 一緒に喜ぶことでコーチングはより楽しいものとなります。

「教える」ことが楽しいことです。 優れたコーチは「教えること」を楽しんでいます。

まとめ

自分がどのように「教えて」いるのか、なぜ教えているのかを書いてみました。 結局、教えることが好きなのは、それが楽しいコミュニケーションだからです。 効率良く出来るようになれば相手も嬉しいですし、その過程で生まれるコミュニケーションが好きなのです。 これはスノーボードでもIT技術でも変わりません。

名著「ソフトウェア職人気質」には、技術者は職人の師弟制度で育つものと書かれています。 はじめて読んだ時、衝撃を受けたことを覚えています。 しかし、言い換えれば師弟制度こそコーチングであり、コミュニケーションを通じた技術の継承なんだなと感じます。

こんな経験のまとめが現場での教育に役立てれば幸いです。