ユーザーエクスペリエンス(UX)って何?

2012.03.27

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■はじめに

これまでのシステム開発の現場では、多機能化や高機能化といった点に重点がおかれてきました。その為、機能が非常に多くなったり学習しなければ使えないような製品やサービスが増え、ユーザーの使い勝手や生産性、モチベーションを下げる原因にもなっています。それらを改善する目的で、近年アプリケーション開発の現場に「ユーザーエクスペリエンス」という考えが普及・浸透しつつあります。

「ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)」は、2005年に認知心理学の第一人者であるD.A.ノーマン博士によって提唱されました。ノーマン博士はUXの第一要件は「混乱や面倒なしで顧客の的確なニーズを満たす事」、第二要件として「所有する楽しさ、使用する楽しさを生み出す『簡潔さと優雅さ』」を定義としています。※1

では具体的にどういったものがUXとされているのでしょうか。今回は私たちの身近な日常生活の中でUXを提供しているものをご紹介していきます。

 

■携帯電話のUX

内閣府の調べによると2010年の日本における携帯世帯普及率は90%を超えました(ただし単身世帯を含まない)。携帯電話は登場してからたったの15年で我々の生活の必需品としての地位を獲得したのです。この15年の間に機能面も豊富になり、メールやインターネット、更にアプリやGPSといった機能までが追加されました。なぜ携帯電話がここまで急激に需要を伸ばすことができたかというと、その理由の一つにUXがあると考えられます。

~平日の朝の出来事~

『平日の朝、携帯電話のアラームで目が覚め、急いで支度をし、小走りで最寄り駅まで辿り着く。急ぎ過ぎて朝食を抜いてしまった事をふと思い出し、売店で携帯電話をセンサーにかざしシリアルバーを購入した後、自動販売機に向かい同様の操作でホットコーヒーを購入。その後改札機に携帯電話をかざして駅のプラットホームに入る。電車が来て、乗車。シートに着席し一息ついたところで、日課としているEメールのチェックをする。友人から「来週末の食事会の予約をとってほしい」という内容のメールが届いていたので、インターネットでレストラン予約サイトを検索する。空席があり雰囲気の良さそうなレストランを見つけたので、サイト内にある予約フォームから予約を行う。すぐにレストランから予約完了のメールが届いたので、食事会参加者の友人全員に一斉メールでお店の情報とスケジュールを送る。目的地までまだ時間があるので、ゲームアプリを立ち上げゲームを楽しんだ。』

以前は時間と手間のかかった商品やサービスの購入予約も、今や携帯電話ひとつ短時間のうちに実現出来るようになりました。

図:レストラン予約が成立するまでのステップ【情報収集】

 

■レコードショップの店内在庫検索システムのUX

大抵レコードショップには莫大な数の商品が陳列されています。店内に入って目的の商品を探し当てるのも困難を極めます。そこで頼れるツールの一つとして商品在庫検索システムがあげられます。簡単に言えば目的の商品を検索すると、目的の商品の配置場所まで誘導してくれるというツールです。ユーザーを直接商品に誘導することによりユーザーの購入意欲を促す結果が生まれるのです。それはまさにUXが大きく影響していると考えられます。

~通勤帰りの出来事~

『通勤帰りのある日、好きなアーティストの新曲アルバムを購入するため、自宅近くの新しくオープンしたばかりのレコードショップに向かう。そこで時計を見ると19時30分。そこでふと20時から自宅で観たいテレビ番組があった事を思い出し、急いでそのレコードショップに入る。どこに何が陳列されているのか分からないので、入口近くにある商品在庫検索システムで目的の商品を探す事にする。画面にある「CDを購入」というボタンを選択し、続いて表示される検索ボックス内に目的のアーティストの名称を入力。アーティスト名を入力している最中からあいまい検索が行われ、目当てのアーティストをタッチするとそのアーティストが出している曲一覧が表示されたので目的の曲を選択してそこにあるバーコードに携帯電話をかざすと、携帯電話上に目的地までの地図が表示される。携帯上の店内マップの誘導に従えばすぐに目的の商品に辿り着いた。目的の商品を手に取り、レジで会計を済ませる。レコードショップに入ってから購入まで5分程度。これで自宅に帰れば半ば諦めていた観たい番組も最初から観る事ができる。』

従来は目的のCDの場所が分からなければ店員に声をかけようとしているうちに時間が経ってしまっていました。しかし現在では自分で商品を検索してすばやく目的地まで辿りつける=すぐに目的(=商品の購入)を達成できるようになりました。

図:CDの購入までのステップ

 

■現金自動預払機(ATM)のUX

私たちの生活に定着しているものの中の一つとして、現金自動預払機(ATM)があります。30年ほど前に登場して以来、ATMの銀行間提携がスタートし、どの店舗でも現金の引き出し/預け入れができるようになりました。現在では、レスポンスも早くストレスのない操作、いわゆる「快適な操作」が可能になりました。これはUXに必要なキーワードと考えられます。

~休日の出来事~

『休日の昼下がり、夜食用の食材を購入する為自宅からスーパーマーケットに向かおうとしたところ、財布の中には現金が数百円しかない。そこで現金をおろす為、自宅近くのコンビニエンスストアに立ち寄り店内にあるATMに向かう。ATMの前に立ち、財布の中から銀行のキャッシュカードを取り出しATMのキャッシュカード挿入口に入れる。まず「取扱銀行」を選択した後、現金を引き出したいので「お引き出し」ボタンをタッチ。「暗証番号入力」画面が表示されたので暗証番号を入力。次に「金額入力」が表示され、引き出したい金額を入力した後、「確認」ボタンに触れる。最後に紙幣を受け取りコンビニエンスストアを後にし、目的であるスーパーマーケットに向かう。』

もしこういった緊急時にATMの存在がなければ、スーパーマーケットで購入ができなかったでしょう。なぜなら銀行は平日しか営業していないので休日は現金を引き出す事ができないからです。以前に比べ、現在は「いつでもどこでも」自分の口座から必要な現金を受け取れるようになったのです。

 

図:現金を引き出すまでのステップ

 

■まとめ

これらはすべて私たちの周りで活躍しているユーザーエクスペリエンス(UX)の例です。もちろん今回ご紹介したのは一部にしか過ぎません。私たちを取り巻く全てのものがUXの向上に「より生活をより豊かに、より快適に」しているのです。皆さんももし機会があれば、身近なものをUXを意識して観察してみてはいかがでしょうか。

※1:ノーマン博士によるUXの定義は「ニールセン・ノーマングループ」のWebサイト内で紹介されています
“User Experience: Our Definition.” Nielsen Norman Group. 2005

【関連記事】

Usability 101: Introduction to Usability
ニールセン/ノーマンによるユーザーエクスペリエンスの定義」Website Usability Info
技術の連携・融合で進化し続けるATMの世界」Hitachi, Ltd. 2004, 2011