サードパーティCookieなしでもマルチタッチアトリビューションは可能か?― Cookie廃止時代のマーケティング計測を考える

サードパーティCookieなしでもマルチタッチアトリビューションは可能か?― Cookie廃止時代のマーケティング計測を考える

2026.02.27

しがひです。Classmethod Europe GmbHでCookiebotのプラチナムリセラーとして日欧企業のプライバシー対応を支援しています。

先日のCookiebotパートナーニュースレターで紹介されていたUsercentrics社の記事 "Cookieless multi-touch attribution: the future of targeting" が、まさにいま多くのマーケティング担当者が直面している課題をよく整理していたので、日本語で解説します。

そもそもマルチタッチアトリビューション(MTA)とは何か

マルチタッチアトリビューション(MTA)とは、カスタマージャーニー上の複数のタッチポイントに対して、コンバージョンへの貢献度を配分する計測モデルです。

たとえば、あるユーザーが有料広告を見て、その後Googleで検索し、最終的に実店舗で購入したとします。ラストタッチモデル(最後の接点のみに成果を帰属)では実店舗での接触だけが評価されますが、MTAではこの一連のタッチポイントすべてに貢献度を割り振ります。つまり、広告を見たこと自体が購買に寄与していたという事実を可視化できるわけです。

これまでMTAは、サードパーティCookieに大きく依存してきました。Cookieは、ユーザーのブラウザに小さな情報を保存し、同じユーザーを複数のセッション、さらには複数のサイトにまたがって識別する仕組みです。ルックバックウィンドウ(過去の接点をどこまで遡って評価するか)の確保や、重複カウントの排除といったMTAの根幹を支えていたのがこのCookieでした。

サードパーティCookie廃止で「何が壊れる」のか

GDPRをはじめとするデータプライバシー法の厳格化を受け、主要ブラウザはサードパーティCookieの制限・廃止に動いています。SafariのITP(Intelligent Tracking Prevention)やFirefoxのETP(Enhanced Tracking Prevention)はすでにサードパーティCookieをデフォルトでブロックしています。Chromeもプライバシーサンドボックス技術の導入とユーザーコントロールの拡充を進めています。

ベルリンでのプライバシー対応を見てきた身としては、これは単なるブラウザの技術的変更ではなく、デジタルマーケティングの計測基盤そのものの構造転換だと感じています。具体的にMTAのどこが壊れるのか、4つの観点から整理します。

1. クロスサイト識別子の喪失

サードパーティCookieが使えなくなると、異なるサイト間で同一ユーザーを追跡する共通の識別子が失われます。その結果、カスタマージャーニーが断片化し、本来つながっているはずの訪問が孤立した別々のアクセスとして見えてしまいます。ラストタッチ(直接訪問やブランド検索クリック)だけに成果が偏りがちになるということです。

2. マルチデバイスの紐付けが不安定に

マルチデバイスステッチングとは、PCとスマートフォンなど複数デバイスのデータを統合し、同一ユーザーのジャーニーとして追跡する手法です。従来はサードパーティCookieと確率的マッチング技術の組み合わせで実現していましたが、ブラウザの制限によりこれが信頼性を失いつつあります。同じ人物のモバイルとデスクトップの行動が、別々のユーザーとして処理されてしまうわけです。

3. タッチポイントの時系列とルックバックウィンドウの崩壊

サードパーティCookieにより、複数セッションをまたいでユーザーのインタラクションを時系列で追えていました。Cookieのライフスパンが短縮されることで、初期のタッチポイントがアトリビューションウィンドウの外に落ちてしまいます。つまり、ファネル上部のチャネル(認知施策)が実際より効果が低く見えるという問題が生じます。

4. チャネル間の重複排除の破綻

重複排除(デデュプリケーション)は、同一ユーザーが複数プラットフォームを横断する際に二重カウントを防ぐ仕組みです。サードパーティCookieなしでは、各プラットフォームが独立してコンバージョンを報告し、互いに整合性を取れなくなります。結果としてコンバージョン数が水増しされ、ROAS(広告費用対効果)の正確な把握が困難になります。

ファーストパーティデータがCookieless MTAの基盤になる

ここまで読むと「もうMTAは使えないのでは?」と思われるかもしれませんが、MTAそのものが終わるわけではありません。サードパーティCookieに依存した従来のやり方が終わるだけです。

再構築の鍵はファーストパーティデータです。ユーザーから同意を得た上で直接収集したデータを基盤にすることで、ほとんどのブラウザ、プラットフォーム、プライバシー法が許容する形でMTAを継続できます。しかも、このデータは自社が保有・管理できるため、処理方法を自らコントロールできるという利点があります。

具体的には、以下のような**認証済みファーストパーティ識別子(FPID)**に切り替えることになります。

  • ログインベースのID
  • ハッシュ化されたメールアドレス
  • CRMと紐づいたレコード
  • ロイヤリティプログラムの参照番号
  • 自社サイトで設定するファーストパーティCookie
  • モバイルアプリのインスタンスID、モバイル広告ID、SDKで生成した識別子

これはGDPRの「正当利益」やePrivacy指令の考え方にも通じるアプローチです。同意を得た上でのファーストパーティデータ活用は、欧州でも日本でも、そしてCCPA下の米国でも、今後のマーケティング計測の共通基盤になるでしょう。

Cookieless MTAを実現する5つのステップ

Usercentrics社の記事では、実務的なロードマップが示されています。順を追って見ていきましょう。

ステップ1:同意に基づくファーストパーティデータの収集

まず必要なのは、CMP(同意管理プラットフォーム)の導入です。CookiebotやUsercentricsのようなCMPは、Cookieポップアップやバナーを通じてユーザーからきめ細かい同意を取得し、構造化された形で記録します。分析への同意が得られていないユーザーに対しては、サードパーティトラッカーの実行を自動的にブロックします。

以前の記事でも書きましたが、Cookie棚卸しには想像以上の時間がかかります。外部タグの追加により、Cookie数が170個から900個に膨れ上がっていたケースも実際にありました。CMPなしで正確な同意管理を行うのは、事実上不可能です。

ステップ2:サーバーサイドタギング・トラッキングの実装

トラッキングをユーザーのブラウザからサーバー側に移すことで、データの処理フローを自社のインフラ上でコントロールできるようになります。ブラウザベースのスクリプトブロッキングによるコンバージョンの可視性低下リスクを軽減でき、CMPと連携することで同意を得たデータだけを後続のプラットフォームに渡す仕組みが構築できます。

Usercentrics社のデータによると、サーバーサイドトラッキングの採用率は2020年以降急速に伸びており、中小企業でも20〜25%が導入済みとのことです。2027年までにはデータドリブン組織の70%が標準的に採用すると予測されています。

ステップ3:サーバーサイドイベントをアナリティクス・広告プラットフォームに接続

サーバーサイドのセットアップから、顧客インタラクションのデータをアナリティクスプラットフォームに送信します。このとき、ファーストパーティ識別子をハッシュ化してから共有することで、ユーザープライバシーのリスクを最小限に抑えられます。たとえば、購入イベントを送信する際に顧客名やメールアドレスをハッシュ化するといった処理です。

Meta Conversions API(CAPI)やLinkedIn Conversion APIとの連携もこのレイヤーで行います。

ステップ4:モデリングとデータクリーンルームの活用

ファーストパーティデータだけではカバーしきれないカスタマージャーニーもあります。その場合は、確率的データに基づくモデルドアトリビューションデータクリーンルームを活用して、集計データを安全に分析します。たとえば、広告キャンペーンのクリック数が十分でない場合に、有料広告がカスタマージャーニー上にまだ存在しているかどうかを確認する、といった使い方です。

ステップ5:インクリメンタリティテストとMMM(マーケティングミックスモデリング)での検証

最後に、アトリビューションモデルの精度を定期的に検証します。インクリメンタリティチェックでは、特定チャネルの有無によるユーザー行動の変化を分析します。一方、MMMは個々のユーザーレベルではなく、チャネル全体のマクロレベルで貢献度を統計的に評価する手法で、長期的な予算配分の意思決定を支えます。

2026年のベストプラクティスは、MTAとMMMを組み合わせた統合マーケティング計測(UMM:Unified Marketing Measurement) です。MTAは短期・ユーザーレベルのデジタル最適化に、MMMは長期・チャネル横断の戦略策定に、それぞれの強みを活かすハイブリッドアプローチが推奨されています。

日本企業にとっての示唆

2026年の個人情報保護法改正により、日本でも個人関連情報(Cookie IDを含む)の規制が強化され、課徴金制度が導入されます。つまり、欧州企業だけでなく日本企業も、「同意なきトラッキングからの脱却」を迫られるタイミングに来ています。

「サードパーティCookieがなくなったらマーケティング計測ができなくなる」のではなく、「同意に基づくファーストパーティデータとサーバーサイド計測で、より正確で持続可能な計測基盤を構築する」という発想の転換が求められています。

CMPの導入はその第一歩です。Cookiebotは、GDPRやCCPAはもちろん、日本の個人情報保護法にも対応した同意管理を提供しており、サーバーサイドタギング環境との統合もサポートしています。

何から始めればいいか分からない、複数サイトの対応が追いつかない、といったお悩みがあれば、cookiebot.jpまでお気軽にご相談ください。

まとめ

課題 サードパーティCookie時代 Cookieless時代の代替手段
ユーザー識別 サードパーティCookie ファーストパーティ識別子(FPID)
クロスサイト追跡 Cookie同期 サーバーサイドタギング+CMP
マルチデバイス 確率的マッチング 認証ID(ログイン、ハッシュメール)
重複排除 共通Cookie ID データクリーンルーム
長期分析 ルックバックウィンドウ MMM+インクリメンタリティテスト
法的基盤 暗黙的(多くは無同意) 明示的同意(CMP経由)

MTAは終わりではありません。むしろ、同意を起点にした、より信頼性の高い計測モデルへの進化の過程にあります。ファーストパーティデータ、サーバーサイドトラッキング、CMP。この3つを軸にした再構築が、これからのマーケティング計測の標準になるでしょう。


元記事: Cookieless multi-touch attribution: the future of targeting (Usercentrics, 2026年2月13日)

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