なぜそれをやってるの?「太陽と祈祷師」の寓話にみる因果関係の話

なぜそれをやってるの?「太陽と祈祷師」の寓話にみる因果関係の話

「太陽と祈祷師のジレンマ(あるいはパラドクス)」という話を聞いたことはあるでしょうか。だれもその理由を覚えず、だれもその止め時を知らない、歴史的な経緯に基づいて行われているある儀式。そんなものは貴方の周囲にもないでしょうか。
Clock Icon2020.04.13

この記事は公開されてから1年以上経過しています。情報が古い可能性がありますので、ご注意ください。

むかしむかし、あるところに…

とある王国がありました。その王さまのもとに、ある時ひとりの旅の祈祷師が現れます。

「王よ。私は毎晩、明日も太陽が昇るように祈りを捧げています。今日も太陽が東の地平線から昇ったのは、祖先から代々受け継がれているこの儀式が毎晩続けられているからです」

王さまは祈祷師に尋ねます。
「それは本当か? 試しに止めてみたことはあるのか?」

「太陽が昇らなければ、この世界は滅んでしまいます。どうして儀式を止められましょう。王さまはこの世界の終焉がお望みなのですか?」

これには王さまも反論できません。
王さまは祈祷師を国に招き入れ、住むところと儀式が出来る場所を与え、毎日の食事に困らないように手配しました。

王さまは実はそんなに信じてはいませんでしたが、王にとってひと一人喰わせるくらいなんてことはありません。ウソだと分かったら切り捨てれば良い、そのくらいの軽い感覚でした。

ところがある時、大変なことが起きました。昼間だというのにみるみる太陽が暗く欠けていったのです。

さらなる儀式が必要だ! はやく、はやく生け贄を捧げるのだ!」

祈祷師は叫び、王さまは部下に命じてその通りにさせました(R.I.P)。その間も祈祷師は祈り続けます。するとしばらく経って、また再び太陽はもとの明るさを取り戻したのです。
この出来事があってから、王さまは祈祷師を疑うことをやめ、祈祷師の言うとおりにするよう国の法律に書き加えました。

祈祷師は末永く、その王国で暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。

・・・・

本当に?

…という、「太陽と祈祷師」という話をみなさまご存じでしょうか。


https://flic.kr/p/QBkGSj CC-BY 2.0 画像はイメージです)

もう何年も前に聞いた話なので、細部は違っていたり、ぼくの創作が入っていたりもしますが、概ねこんな話だったと思います。

賢明なる現代人のみなさんならご承知の通り、もちろん太陽は地球の自転によって昇ってきますし、日食は単なる月の陰です。どれも人間の営み・儀式とは無縁の、物理的な天体運動によって引き起こされる現象です。
ですがこの話では、王さまはすっかりだまされてしまっています。祈祷師は王さまをだましているのかも知れませんが、もしかしたら祈祷師自身も、「先祖代々行われているから」という理由だけで子供の頃から儀式を続けているのかも知れません。

だって誰も、「太陽が昇らなくなる」というリスクを冒してまで因果関係を究明したいとは思わないでしょうから。

天動説が否定された現代においてはまあ、例え話かなとは思いますが、一方でカーゴ・カルトなんて話もあるので、あながち非現実的でもない気がしています(余談ですが)。

転じて

非現実的でない?
そうです。話自体は例え話でも、似たような話はあちこちに転がっていますよね。

「この手順って何故必要なの?」
「さあ、引き継ぎ資料に書いてあったので…そんなに手間でもないですしチェックリストにいれて定期実行してます」

「この設定って何故必要なの?」
「さあ、構築時から設定ファイルに書いてあるので…べつに負荷が上がるわけでもないし、残しておいてよいのでは?」

「このルールって必要なんですか?」
「さあ…でも止めると困るひとがいるかも知れないし、そんなに面倒でもないので、念のために守るようにしています」

とたんに胃が痛くなってきましたね!
あなたも身に覚えはありませんか??

まとめと教訓

「太陽と祈祷師」という寓話を紹介しました。
もしかしたら以前は正しかったことでも、今の時代には意味がないものなのかも知れない。あるいはまったく正しくなかったとしても、その止め時が見つからない。そんなお話です。

この話から得られる教訓はいろいろあると思います。いま風にかっこよく「常識を疑え」みたいなものでもいいし、「何かをはじめるにあたってはその理由を書き記しておくこと、定期的に見直すこと」みたいな運用あるある話にしてもいいです。

ぼくはといえば、この話を知ってから事あるごとに「(ああ、完全に『太陽と祈祷師』だわ…)」みたいに独りごちるのに使ってます。とても大好きな寓話です。

ちなみに「木こりのジレンマ」も、心温まるお話なので合わせてお読みください。

ちなみに

ぼくはこの話を、おそらく 1990年〜2000年頃に知ったと思います(それすらおぼろげです)。ただ残念ながら、出展を失念してしまいました。
そして悲しいことに、ググってもまるでヒットしません。。。

何かの物理本か、あるいは小説やマンガなどの創作物の中なのか。。。どなたか出典をご存じの方いましたら、こっそり教えて頂けますと幸いです。

Share this article

facebook logohatena logotwitter logo

© Classmethod, Inc. All rights reserved.