Amazon CloudFront の定額プラン選択時はデータ転送量よりもリクエスト数と機能に注目しましょう
ウィスキー、シガー、パイプをこよなく愛する大栗です。
Amazon CloudFront で定額プランが発表されました。有料のプランだと月間使用量が 50TB となっており配信データ単価がかなり低価格になっています。しかし詳細を確認すると 50TB という数字だけで判断すると実際のコストを少し勘違いしてしまうと思ったので、内容をまとめてみます。
要約
- CloudFront の定額料金プランは 50TB のデータ量よりもリクエスト数に注目してプランを選択すべし
- プランごとに使用できる機能に大きな差があるので、使用したい機能を元にプランを検討すべし
- CloudFront の料金を削減する手段は定額プラン以外にもあるので検討すべし
Amazon CloudFront の定額料金プラン
定額プランの概要は以下のエントリを御覧ください。定額料金プランには Free、Pro、Business、Premium があり使用できる機能が分かれており、月間使用量が定められています。
月間使用量
定額プランには月間の使用量が定められており、以下の表の内容となっています。使用量がプランごとの上限を超えた場合、AWSはパフォーマンスの低下や料金体系の変更などを含む適切な措置を講じる場合があります。安いからと言って Free プランを適用するとアクセスが多くなったときに問題が発生するかもしれませんので注意しましょう。
ここでデータ転送の 50TB に目が行きがちなのですが、実は リクエスト数が重要なファクター なのです。
| Free | Pro | Business | Premium | |
|---|---|---|---|---|
| 料金 | $0 | $15 | $200 | $1,000 |
| 月間使用量: リクエスト数 |
1 M | 10 M | 125 M | 500 M |
| 月間使用量: データ転送 |
100GB | 50TB | 50TB | 50TB |
月間使用量のリクエスト数でデータ転送量を使い切る場合の平均リクエストサイズを考えてみると以下になります。
| Free | Pro | Business | Premium | |
|---|---|---|---|---|
| データ転送量を使い切れる 平均リクエストサイズ |
100KB | 5MB | 400KB | 100KB |
ここで一般的な Web サイトの平均リクエストサイズがどの程度か調査してみいます。Internet Archive 傘下の The HTTP Archive で出している State of the Web というレポートを確認します。
ページあたりのデータ量は以下の通りです。
- デスクトップ: 2923.1 KB
- モバイル: 2608.8 KB

ページあたりのリクエスト数は以下の通りです。
- デスクトップ: 76
- モバイル: 72

つまり 1 リクエスト当たりの平均データ量は以下のサイズとなります。
- デスクトップ: 38.5 KB
- モバイル: 36.2 KB
1 リクエスト当たりの平均データ量を元に、実際のどの程度のデータ量を使用するのかを見てみると、データ転送で月間使用量を使い切るのは難しそうです。
| Free | Pro | Business | Premium | |
|---|---|---|---|---|
| 料金 | $0 | $15 | $200 | $1,000 |
| 月間使用量: リクエスト数 |
1 M | 10 M | 125 M | 500 M |
| 月間使用量: データ転送 |
100GB | 50TB | 50TB | 50TB |
| 実効データ量 (デスクトップ) |
38.5 GB | 385 GB | 4.8125 TB | 19.25 TB |
| 実効データ量 (モバイル) |
36.2 GB | 362 GB | 4.525 TB | 18.1 TB |
ここで月間使用量を使い切った場合と実効データ量の想定データ単価をまとめてみます。大きなファイルを配信する場合などでは Pro プランが極めて安価に利用できそうですが、一般的な Web サイトの場合は通常の CloudFront の単価に比べて安価ですが現実的な料金設定となっています。
| Free | Pro | Business | Premium | |
|---|---|---|---|---|
| 料金 | $0 | $15 | $200 | $1,000 |
| 月間使用量ベースの データ単価 |
― | $0.0003/GB | $0.004/GB | $0.02/GB |
| 実効データ量ベースの データ単価 (デスクトップ) |
― | $0.0389/GB | $0.0415/GB | $0.0519/GB |
| 実効データ量ベースの データ単価 (モバイル) |
― | $0.0414/GB | $0.0441/GB | $0.0552/GB |
Web サイトのトラフィックをリクエスト数で把握していることは少ないかもしれません。PV を元に考えると、ページあたりのリクエスト数(デスクトップ: 76、モバイル: 72)を元に以下のような想定の PV 数が出てきます。
| Free | Pro | Business | Premium | |
|---|---|---|---|---|
| 実効データ量ベースの PV (デスクトップ) |
13,157 PV | 131,578 PV | 1,644,736 PV | 6,578,947 PV |
| 実効データ量ベースの PV (モバイル) |
13,888 PV | 138,888 PV | 1,736,111 PV | 6,944,444 PV |
実効データ量ベースの数字は目安ですので、ご自身のサイトの状況を確認してプランを選択しましょう。
プランごとに使用できる機能
定額プランでは、プランごとに利用できる機能が決まっています。それ以外の機能を利用する場合には、プランをアップグレードするか従量課金制にする必要があります。例えば Free プランのディストリビューションを見ると、以下のように機能を有効化するためにはプランを変更するように促されます。

機能詳細: パフォーマンスと配信
CDN の基本機能について、個人的には以下の機能を使用するかどうかを検討したほうが良いと思います。
- カスタムキャッシュルール
- 自動オリジンフェイルオーバー
- カスタムオリジンリクエストルール
- カスタムレスポンスヘッダールール
| パフォーマンスと配信 | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| グローバル CDN | Yes | Yes | Yes | Yes |
| コンテンツキャッシュ | Yes | Yes | Yes | Yes |
| 高速キャッシュ無効化 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| スマートルーティング | Yes | Yes | Yes | Yes |
| 階層型キャッシュ リージョンエッジキャッシュ |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| デフォルトのキャッシュルール | Yes | Yes | Yes | Yes |
| カスタムキャッシュルール | Yes | Yes | ||
| 高速オリジンルーティング Origin Shield |
Yes | |||
| オリジン負荷軽減 Origin Shield |
Yes | |||
| 自動オリジンフェイルオーバー | Yes | |||
| デフォルトのオリジンリクエストルール AWS マネージドオリジンリクエストポリシー |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| デフォルトのレスポンスヘッダールール AWS マネージドレスポンスヘッダーポリシー |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| カスタムオリジンリクエストルール オリジンリクエストポリシー |
Yes | Yes | ||
| カスタムレスポンスヘッダールール レスポンスヘッダーポリシー |
Yes | Yes | ||
| キャッシュ動作の数 | 5 | 10 | 50 | 100 |
機能詳細: セキュリティと保護
セキュリティ系機能では以下の機能を使用するかどうかが判断のポイントかなと思います。
- 高度なDDoS対策 (AntiDDoS AMR)
- ボット管理と分析 (AWS WAF Bot Control)
- VPC 内のプライベートオリジン
| セキュリティと保護 | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| 常時稼働のDDoS防御 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| 高度なDDoS対策 AntiDDoS AMR |
Yes | Yes | ||
| Webアプリケーションファイアウォール(WAF) | Yes | Yes | Yes | Yes |
| WAF ルールの数 | 5 | 25 | 50 | 75 |
| WordPress、PHP、SQLデータベースの保護 | Yes | Yes | Yes | |
| IPベースのレート制限 5分間に設定可能なリクエスト数を超えるIPアドレスを自動的にブロック |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| 地理的トラフィックのブロック | Yes | Yes | Yes | Yes |
| ヘッダーベースの脅威フィルタリング | Yes | Yes | Yes | |
| 正規表現ベースの脅威フィルタリング | Yes | Yes | ||
| JavaScriptチャレンジ | Yes | Yes | ||
| ボット管理と分析 AWS WAF Bot Control |
Yes | Yes | ||
| カスタム WAF レスポンス | Yes | Yes | Yes | |
| ヘッダー挿入 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| リクエストボディの検査 AWS WAF が検査できる HTTP リクエストボディコンテンツの最大サイズ |
16 KB | 16 KB | 64 KB | 64 KB |
| VPC 内のプライベートオリジン | Yes | Yes | ||
| オリジンアクセスコントロール (OAC) | Yes | Yes | Yes | Yes |
| 無料の TLS 証明書 AWS Certificate Manager による自動更新 |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| 署名付きURL | Yes | Yes | Yes | Yes |
機能詳細: エッジコンピューティング
CloudFront Functions で KeyValueStore を使用する場合には Pro 以上か従量課金制を使いましょう。
| エッジコンピューティング | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| サーバーレスエッジコンピューティング CloudFront Functions |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| エッジ Key-Value ストア CloudFront KeyValueStore |
Yes | Yes | Yes |
機能詳細: ネットワークとプロトコルのサポート
プランごとに機能差はありません。
| ネットワークとプロトコルのサポート | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| IPv6 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| HTTP/2 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| HTTP/3 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| TLS 1.3 | Yes | Yes | Yes | Yes |
| WebSocket | Yes | Yes | Yes | Yes |
機能詳細: ログ記録と監視
アクセスログと WAF リクエストログで Amazon CloudWatch Logs の取り込みの追加料金が発生しないのはかなり重要だと思われます。Free ではログを出力できないので、必要な場合は Pro 以上にしましょう。
| ログ記録と監視 | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| アクセスログ Amazon CloudWatch Logs の取り込みは追加料金なしで利用できます。 |
Yes | Yes | Yes | |
| WAF リクエストログ Amazon CloudWatch Logs の取り込みは追加料金なしで利用できます。 |
Yes | Yes | Yes | |
| セキュリティダッシュボード Pro以上のプランには、ログを照会することなくトラフィックパターンを迅速に把握できる視覚的なログアナライザーが搭載されています。 |
Yes | Yes | Yes | Yes |
機能詳細: DNS
DNS のレコード数に応じて検討しましょう。
| DNS | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| Amazon Route 53 DNS | Yes | Yes | Yes | Yes |
| ホストゾーンあたりのレコード数 | 50 | 100 | 1000 | 5000 |
| DNSSEC | Yes | Yes | Yes | Yes |
機能詳細: ストレージ
S3 のクレジットなので料金に含まれることは魅力的ですが、機能的な差はなさそうです。
| ストレージ | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| Amazon S3 ストレージ Amazon S3 標準ストレージ料金ストレージクレジット |
5 GB | 50 GB | 1 TB | 5 TB |
機能詳細: サポートと信頼性
稼働時間の SLA は Business 以上が対象となります。現時点では Amazon CloudFront Service Level Agreement にプランの差は記述されていないようです。(Last Updated: May 5, 2022 の内容)
| サポートと信頼性 | Free | Pro | Business | Premium |
|---|---|---|---|---|
| 24時間365日対応のアカウントおよび請求サポート アカウントと請求に関するご質問に個別にお答えします。 有料サポートプランにご加入の場合は、すべての定額プランでサポートをご利用いただけます。 |
Yes | Yes | Yes | Yes |
| ドキュメントとAWSサポートフォーラム | Yes | Yes | Yes | Yes |
| 稼働時間SLA Amazon CloudFront、AWS WAF、Amazon Route 53、Amazon CloudWatch のサービスレベルアグリーメント (SLA) は、サービスの可用性に関するコミットメントを定めています。AWS が関連する SLA のコミットメントを満たさない場合、お客様はサービスクレジットを受け取ることができます。 |
Yes | Yes |
定額料金プラン以外の選択肢
定額料金プランは事前に決まったコストとなり、使い方によっては大変安価に使用できるプランですが、使用したい機能や利用量の変動などで従量課金制となることも多いかと思います。その場合は他の割引料金もあるので検討できるかと思われます。
CloudFront Savings Bundle
1 年間の月額使用量を一定にすることと引き換えに、CloudFront の請求額を最大 30% 節約できます。CloudFront リソースを保護するための AWS WAF の使用量 (確約プラン量の最大 10%) が追加料金なしで含まれています。
CloudFront Security Savings Bundle
カスタム料金
12 か月間以上、1 か月あたり最小 10 TB のデータ転送量をお約束いただけるお客様は、カスタム割引料金でご利用いただけます。
リセールパートナー割引
各リセールパートナーが独自の CloudFront の割引を出している場合があります。手前味噌ですが、弊社クラスメソッドの場合は AWS請求代行の EC2・CDN割引プラン において Amazon CloudFront はアウトバウンド通信を最大約 65% 割引($0.0399/GB)、GETリクエスト料 100% 割引(2025年11月19日現在)となっております。使用量の確約も不要です。
まとめ
- CloudFront の定額料金プランは 50TB のデータ量よりもリクエスト数に注目してプランを選択すべし
- 単純な料金だけでなく、実際の利用状況を確認しましょう。
- プランごとに使用できる機能に大きな差があるので、使用したい機能を元にプランを検討すべし
- プラン対象外の機能を使用するためには、プランのアップグレードや従量課金制への切り替えが必要になります。
- CloudFront の料金を削減する手段は定額プラン以外にもあるので検討すべし
- 利用料の確約による割引や、リセールパートナーの割引などもあります。
さいごに
50TB に目が行きがちな定額料金プランですが、使い方で実際に使用する量が変わってきます。ご自分の環境がどのような使い方になっているかを確かめてプランを選択したり、それ以外の選択肢を検討したりが必要です。






