SwiftのAnyObjectとAnyについて
最近業務でObjective-Cを使ってプロダクションのコードを書くことが増えてきました。Objective-CからSwiftへの移行を進めつつも相互にコードを利用することも多く良い勉強になっていたのですが、AnyとAnyObjectの違いをなんとなくIDEのエラーメッセージなどからなんとなく理解したまま使っているだけできちんと理解していない気がしたのでこの機会に改めて調べてみることにしました。
AnyObject
あらゆるクラス、またはClass only protocolの具象型として利用でき、型付けされていないオブジェクトの柔軟性が必要な時、ブリッジされたObjective-Cのメソッドとプロパティを使用する場合にAnyObjectを使用します。
型付けされていないオブジェクトとして利用したり
class ClassCat { let name: String init(_ name: String) { self.name = name } } let classCat = ClassCat("たま") let anyObj: AnyObject = classCat print(anyObj.self) // "__lldb_expr_28.ClassCat\n"
Objective-Cクラスにブリッジする型のインスタンスの具象型としても使用したりします。
let i: AnyObject = 100 as NSNumber
キャストはas(as!, as?)やオプショナルバインディングを使って行います。
AnyObjectはクラスの任意のインスタンスを参照し、Objective-Cのidと同等です。 Swiftの構造体または列挙型のいずれも使用できないため、参照型を特に使用する場合に便利です。 AnyObjectは、クラスでのみ使用できるようにプロトコルを制限する場合にも使用されます。
またメソッドの動的ディスパッチをサポートしているので@objcを付与したメソッドを動的に呼び出せます。
class ClassCat { let name: String init(_ name: String) { self.name = name } @objc func cry() -> String { return "にゃー" } } var anyObject: AnyObject anyObject = ClassCat("たま") let s = anyObject.cry?() // Optional("にゃー")
AnyObjectはClass only protocolの宣言にも使われます。
protocol ClassOnly: AnyObject {} class C: ClassOnly {} struct S: ClassOnly {} // Non-class type 'S' cannot conform to class protocol 'ClassOnly'
as AnyObjectの挙動
AnyObjectは構造体としては振る舞えません。Swiftで提供されているオブジェクトは構造体で実装されているものが多くSwiftで数値リテラルのdefault typeになっているInt型も構造体で実装されています。そのためAnyObjectの配列の要素としてInt型の値を挿入しようとするとコンパイルエラーになります。
let i: Int = 1 let anyObjArray: [AnyObject] = [i] // Cannot convert value of type 'Int' to expected element type 'AnyObject'
ですが、as AnyObjectを使ってキャストすると
let i: Int = 1 let anyObjArray: [AnyObject] = [i as AnyObject]
コンパイルエラーは回避できます。この動きからSwiftで定義されている値型のオブジェクトがクラスのインスタンスに変換されていることが想像できます。
また、isなどを使って値型に戻せます。
anyObjArray[0] is Int // true anyObjArray[0] as? Int anyObjArray[0] as! Int
実際にその変換が行われていることを確認するためにSILを取り出してみます。最適化の過程を見たいわけではないのでraw SILを取り出します。SILを取り出す元になるswiftファイルの実体は以下です。
let i: Int = 1 let anyObj: AnyObject = i as AnyObject
以下のコマンドでraw SILを取り出します。
$swiftc -emit-silgen hoge.swift -o hoge.sil
取り出せるSILは以下です。
// main sil @main : $@convention(c) (Int32, UnsafeMutablePointer<Optional<UnsafeMutablePointer<Int8>>>) -> Int32 { bb0(%0 : @trivial $Int32, %1 : @trivial $UnsafeMutablePointer<Optional<UnsafeMutablePointer<Int8>>>): alloc_global @$s4hoge1iSivp // id: %2 %3 = global_addr @$s4hoge1iSivp : $*Int // users: %11, %8 %4 = metatype $@thin Int.Type // user: %7 %5 = integer_literal $Builtin.IntLiteral, 1 // user: %7 // function_ref Int.init(_builtinIntegerLiteral:) %6 = function_ref @$sSi22_builtinIntegerLiteralSiBI_tcfC : $@convention(method) (Builtin.IntLiteral, @thin Int.Type) -> Int // user: %7 %7 = apply %6(%5, %4) : $@convention(method) (Builtin.IntLiteral, @thin Int.Type) -> Int // user: %8 store %7 to [trivial] %3 : $*Int // id: %8 alloc_global @$s4hoge6anyObjyXlvp // id: %9 %10 = global_addr @$s4hoge6anyObjyXlvp : $*AnyObject // user: %16 %11 = load [trivial] %3 : $*Int // user: %13 %12 = alloc_stack $Int // users: %17, %15, %13 store %11 to [trivial] %12 : $*Int // id: %13 // function_ref _bridgeAnythingToObjectiveC<A>(_:) %14 = function_ref @$ss27_bridgeAnythingToObjectiveCyyXlxlF : $@convention(thin) <τ_0_0> (@in_guaranteed τ_0_0) -> @owned AnyObject // user: %15 %15 = apply %14<Int>(%12) : $@convention(thin) <τ_0_0> (@in_guaranteed τ_0_0) -> @owned AnyObject // user: %16 store %15 to [init] %10 : $*AnyObject // id: %16 dealloc_stack %12 : $*Int // id: %17 %18 = integer_literal $Builtin.Int32, 0 // user: %19 %19 = struct $Int32 (%18 : $Builtin.Int32) // user: %20 return %19 : $Int32 // id: %20 } // end sil function 'main'
%3から%7で数値リテラル1
から数値型のインスタンスを生成してます。%14で関数ss27_bridgeAnythingToObjectiveCyyXlxlF
への参照を作成しています。命名からわかりますがこれが値型をObjective-Cでも利用できる型の値にブリッジしている関数です。マングリングされているのでちょっと読みにくいです。
実際にas AnyObjectでObjective-Cでも利用できるようなオブジェクト型への変換が行われていることはわかりました。どのような操作が実際に行われているのかですが、Swift Evolutionの0116-id-as-anyによればimmutableはclassでboxingされます。また、_ObjectiveCBridgeable
にconformしている型はこのprotocolの実装を流用してas AnyObjectが行われます。
この辺りに興味がある人はSwift Evolutionの内容を元に具体的なコードからas AnyObject を説明している以下の記事をご覧ください。これ以上の説明ができる気がしないのでこちらに譲ります。
Any
Anyは、クラス、構造体、または列挙型のすべてのインスタンスを指します。これには関数型も含まれます。AnyObjectよりも広く利用できます。
let values: [Any] = [1, 2, "Fish"]
Swift2まではObjective-Cのid型がSwiftのAnyObjectにマッピングされていました。この記事の冒頭からずっとAnyObjectの話をしていましたがAnyObjectはクラス(オブジェクト型)としてしか振る舞えません。また、NSString、NSArray、またはNSString、NSArrayを使うCocoa APIでネイティブのSwift型を簡単に使用できるように、String、Array、Dictionary、Set、およびいくつかの数値などのブリッジ値型のAnyObjectへの暗黙的な変換も提供されていました。
Swift3ではObjective-Cのid型がSwiftのAnyにマッピングされました。Anyは構造体でも使用できるのでこれによりSwiftで定義された値型をObjective-Cの APIに渡してSwift型として取り出せるようになりました、この変更によりSwiftでObjective-C APIがより柔軟に使用できるようになりました。
この辺りについてはAppleのSwift BlogのObjective-C id as Swift Anyという記事が詳しいです。
Objective-C id as Swift Any - Swift Blog - Apple Developer
まとめ
Swiftではこれらを使わずに済むことがほとんどなのでIDEの警告から振る舞いを想像してコーディングしていれば十分でしたが随分前に作られたObjective-Cの資産がまだまだ残るアプリケーションコードに取り組むタイミングでこの辺りを整理しておきたかったのでこの記事を書くことが良いモチベーションになりました。
知れば知るほどSwiftは面白いのでもっとSwiftらしいコードが書けるようにインプットとアウトプットを続けたいと思います。