AWS Deadline Cloud の CMF + UBL で 3ds Max を動かしてみた
はじめに
3DCG / VFX 制作で利用する DCC (Digital Content Creation) アプリを、複数のレンダーノードに台数分インストールする構成では、ノード台数に応じて DCC のライセンス契約数も増えていきます。
AWS Deadline Cloud には、ジョブ実行時間に応じた従量課金でライセンスを利用できる UBL (Usage-Based Licensing) という仕組みがあります。 SMF (Service-Managed Fleet) では既定で利用できますが、自前で用意した EC2 を Worker に登録する CMF (Customer-Managed Fleet) でも、License Endpoint という AWS PrivateLink 経由のエンドポイントを作れば UBL を利用できると公式ドキュメントに記載されています。
本記事では、この CMF + UBL の組み合わせで Autodesk 3ds Max のレンダリングが実機で成立するかを試した結果と、検証中に得られた知見を 2 点共有します。
AWS Deadline Cloud とは
AWS Deadline Cloud は、3DCG / VFX 制作向けのレンダーファームをクラウド上に構築できるマネージドサービスです。 Worker のオートスケーリングやジョブ管理、ライセンス供給などレンダーファーム運用に必要な機能を備えています。
対象読者
- AWS Deadline Cloud で CMF を構築している、もしくは検討している方
- Autodesk 3ds Max のレンダーファームを AWS 上で構築したい方
- DCC のライセンス費を従量課金で運用する選択肢を比較検討したい方
参考
- AWS Deadline Cloud Developer Guide: Using software licenses
- AWS Deadline Cloud Developer Guide: Connect customer-managed fleets to a license endpoint
- AWS Deadline Cloud User Guide: Autodesk 3ds Max
- aws-deadline/deadline-cloud-for-3ds-max
- aws-deadline/deadline-cloud-samples / 3ds Max 用 host configuration スクリプト群
検証ゴールと構成
検証は次の 3 点をすべて満たすことをゴールとしました。
- Submitter から投入したジョブが Worker EC2 上で SUCCEEDED まで完走すること
- ジョブ実行中に Worker 上で 3ds Max が起動し、License Endpoint 経由でライセンスを取得できること
- レンダリング結果の画像が S3 経由で取得できること
検証構成は次の通りです。Submitter ホストと Worker ホストはどちらも Windows Server 2022 の EC2 で、License Endpoint を作成し、同一 VPC 内に AWS PrivateLink のインターフェイス VPC エンドポイントとして配置される構成にしました。検証では 3ds Max 2026 を使用しています。
Submitter 側には Deadline Cloud Monitor をインストールし、Identity Center 経由でサインインしておきます。3ds Max の Submitter プラグインは Monitor のサインインで得られる AWS 認証情報を利用してジョブを投入します。
検証してみた結果
検証用シーンとして、3ds Max にティーポットを 1 つ配置しただけのミニマルな構成を作り、Submitter プラグインからジョブを投入しました。

ジョブのステータスは READY から STARTING、RUNNING を経て SUCCEEDED まで遷移しました。

所要時間は約 2 分で、内訳は S3 同期が 4 秒、3ds Max の起動が 1 分 40 秒、Scanline レンダラでの 1 フレームレンダリングが 6.8 秒です。 ジョブの出力は deadline job download-output でローカルに取得でき、次のような PNG 画像が得られました。

CMF Fleet 上の 3ds Max が、License Endpoint からライセンスを取得してレンダリングできることを実機で確認できました。
検証で得た知見
知見 1. 3ds Max は Trial 状態のままインストールしても UBL ライセンスを取得できる
検証当初は、Worker EC2 の 3ds Max を NETWORK License モードに切り替え、環境変数 ADSKFLEX_LICENSE_FILE で License Endpoint を指す経路を想定しました。これは Autodesk Network License Manager の一般的な利用方法だからです。
ところが実際には、Autodesk の PIT config file (C:\ProgramData\Autodesk\Adlm\ProductInformation.pit) によって STANDALONE ライセンスタイプが強制され、AdskLicensingInstHelper change --lm NETWORK を実行しても切り替わりません。 GUI から切り替えようとしても安定しません。
正しい経路は、AWS 公式の SMF サンプルスクリプト (deadline-cloud-samples の 3ds Max 用 host configuration スクリプト群) に倣う方法でした。本記事の執筆時点では、3ds Max のバージョン別にスクリプトが提供されています。これらのサンプルはライセンスタイプの切り替え処理を含んでおらず、3ds Max は Trial 状態のままインストールしておきます。 deadline-cloud-for-3ds-max の Adaptor がジョブ実行時に License Endpoint からライセンスを取得するため、環境変数 ADSKFLEX_LICENSE_FILE を Machine スコープで設定するだけで、Trial 状態の 3ds Max が UBL 経由でアクティベートされてレンダリングできます。
[System.Environment]::SetEnvironmentVariable(
"ADSKFLEX_LICENSE_FILE",
"2704@<license-endpoint-dns>",
"Machine"
)
ライセンスタイプを切り替える発想で進めると Autodesk 側の制約に阻まれて時間を溶かしやすいので、Trial 状態のまま Adaptor に任せる方針を最初から採るのが近道です。
知見 2. CMF Fleet Worker Role には CloudWatch Logs 権限を手動で付与する
CMF Fleet を新規作成するときに指定する Fleet Worker Role に、AWS マネージドポリシー AWSDeadlineCloud-FleetWorker のみをアタッチした場合、CloudWatch Logs への書き込み権限は不足します。マネージドポリシーには Deadline Cloud 系の権限のみが含まれており、CloudWatch Logs 系の権限は含まれていないためです。
その結果、Worker EC2 上で Worker Agent サービスを起動すると、ログ送信に必要な API 呼び出しが拒否されて次のエラーで失敗します。
AccessDeniedException: User does not have sufficient access to perform CreateLogStream
SMF Fleet が自動生成するロールには相当ポリシーがインラインで付与されているため、SMF と同じ感覚で進めると初回の Worker 接続でつまずきます。
対応として、Fleet Worker Role に次のようなインラインポリシーを手動で追加します。Worker Agent が利用するロググループは /aws/deadline/<farm-id>/<fleet-id> の形式で作成されるため、実際のロググループ名に合わせて Resource を調整してください。
{
"Version": "2012-10-17",
"Statement": [
{
"Effect": "Allow",
"Action": ["logs:CreateLogStream"],
"Resource": "arn:aws:logs:ap-northeast-1:<aws-account-id>:log-group:/aws/deadline/<farm-id>/*",
"Condition": {
"ForAnyValue:StringEquals": {
"aws:CalledVia": ["deadline.amazonaws.com"]
}
}
},
{
"Effect": "Allow",
"Action": ["logs:PutLogEvents", "logs:GetLogEvents"],
"Resource": "arn:aws:logs:ap-northeast-1:<aws-account-id>:log-group:/aws/deadline/<farm-id>/*"
}
]
}
インラインポリシーを追加してから Worker Agent サービスを再起動すると、Worker が IDLE 状態で Fleet に参加し、ジョブを受け取れるようになります。
UBL の適用範囲
なお UBL は Deadline Cloud Worker がジョブ実行時に利用するライセンスを従量課金化する仕組みであり、Submitter 端末でアーティストが行う通常の DCC 利用ライセンスを置き換えるものではありません。また、対応製品や対応バージョンは更新される可能性があるため、採用時は公式ドキュメントおよび aws deadline list-available-metered-products の出力で確認してください。
まとめ
AWS Deadline Cloud の CMF + UBL で 3ds Max のレンダリングが成立することを実機で確認でき、Worker 台数分のライセンス契約を従量課金で運用する構成への移行が現実的であることが分かりました。
今回の検証は Scanline での 1 フレームのみのため、V-Ray や Arnold などの追加レンダラ、複数フレームでのレンダリング、Fleet のスケール動作の確認は次のステップとなります。
本記事が、AWS Deadline Cloud で CMF + UBL の構成を検討する際の参考になれば幸いです。





