新規事業をAIで事前に仮説検証してみた 〜事業企画担当者のためAIアプローチ〜
こんにちは。リテールアプリ共創部で事業企画を担当しているかめだです。
先日、tsumikiというClaude CodeのAI支援型テスト駆動開発フレームワークがリリースされましたね。
このTDDという概念を勉強していて、「小さく分けること」の大切さを学びました。新規事業もステップを踏みながら検証、ピボットを繰り返すので、同じようなアプローチができるのではないかと考えてみました。
なぜ事業企画にAI支援フレームワークが必要なのか
新規事業の成功率は約10%と言われています。その主な原因は以下の通りです。
- 顧客課題の誤解 - 自分が解決したい課題と顧客が抱える課題の乖離
- 検証不足 - 仮説を立てたまま実装に走ってしまう
- バイアス - 確証バイアスによる客観性の欠如
- リソース不足 - 限られた時間と予算での検証
特にBtoBtoCプラットフォームビジネスでは、企業側と消費者側の両方の課題を同時に解決する必要があり、検証の複雑さが増します。
作ったもの:BizDev-step - AI支援型事業開発フレームワーク
ソフトウェアを提供する新規事業のプロセスはものすごく単純化すると以下の流れになります。
CPF(Customer Problem Fit) - 特定したユーザーに課題はあるか
↓
PSF(Problem Solution Fit) - 解決策で課題は解決できるか
↓
V0プロトタイプデモ作成 - 顧客への具体的価値提案
↓
プロダクト開発・市場投入
顧客の課題からソリューションまでを見極めるためのAI支援型事業開発フレームワーク「BizDev-step」を作ってみました。
BizDev-stepの3ステップ検証プロセス
1. CPFフェーズ - 顧客課題適合性の検証
事業アイデアを簡単に入力するだけで、AIがルールに沿って検証を開始します。
bizdev-cpf.md
# プロンプト例
# 事業領域:フィットネス・ヘルスケア
# プラットフォーム利用企業(B):小規模ジム・個人トレーナー・新規開業フィットネス
# 最終消費者(C):20-30代会社員・運動習慣を始めたい人・継続困難な人
# 企業側の課題:会員数増加困難・設備稼働率低下・退会率高い・差別化困難
# 消費者側の課題:ジム選び迷い・継続モチベーション維持困難・時間調整・効果実感できない
# 初期仮説:AI駆動パーソナル化トレーニング推薦で継続率向上
CPFフェーズで自動生成される成果物 |
---|
BtoBtoCモデルの初期仮説構造化 |
企業側・消費者側の詳細ペルソナ作成(各1名) |
企業側・消費者側のユーザー像作成(各5名) |
エンパシーマップの作成 |
カスタマージャーニーの作成 |
企業向け・消費者向けインタビュースクリプト作成 |
両セグメントのインタビュー実施(各5名をシミュレーション) |
BtoBtoC統合CPF分析とスコアリング(100点満点) |
CPFフェーズでは、まず詳細なペルソナ(理想的な顧客像)をAIで設定し、そのペルソナに近い特徴を持つユーザー像をAIで5名分作成します。次に、これらのユーザーに対してAIがインタビューを行い、実際にその課題が存在するかどうかを検証します。
インタビューの結果や得られたインサイトをもとに、AIが総合的にスコアリングを行います。80点以上なら次のステップへ進み、60〜79点の場合は顧客像や課題を少し修正して再検証、59点以下なら大きく方向転換(ピボット)して再チャレンジする、という流れです。
AI同士のインタビューなので現実の確度は高くありませんが、改善を重ねることで顧客像や課題の内容はより具体的・明確になっていきます。
また、インタビュースクリプトも自動で作成するため、実際に人間が定性調査を行う際にもそのまま活用できます。各ユーザーのインタビュー結果も出力されますが、全て読むのは大変なので、スコアリングまでの要点をまとめた要約(marp形式)も自動で出力され、全体の流れやポイントを簡単に把握できるようになっています。
CPFスコア80点以上で次のフェーズに進みます。
2. PSFフェーズ - 課題解決適合性の検証
CPFフェーズで固めた顧客と課題に合わせて、解決策を考えて適合性を検証します。
PSFフェーズで自動生成される成果物 |
---|
BtoBtoCプラットフォームソリューション仮説構築 |
企業側・消費者側の継続ユーザー像(CPFから継続、各5名) |
スクリーニング設問付きPSFインタビュースクリプト作成 |
両セグメントのPSFインタビュー実施(各5名をシミュレーション) |
プラットフォーム統合PSF分析とスコアリング(100点満点) |
PSFキャンバス作成(BtoBtoC改訂版) |
V0プロトタイプデモ作成のためのプロンプト |
ここでもAIによるユーザー生成、インタビュー、改善を重ねます。
PSFスコア80点で終了となります。
終了後に、詳細なレポートが出力されます。
3. Solutionの具体化
V0でPSFフェーズで出力されたプロンプトを用いてプロトタイプを開発します。
顧客・課題・解決策の具体イメージが揃いましたので、提案書(仮)が作成できます!
実際の使用例
実際に先程書いたフィットネスで試してみた例を実行した結果をご紹介します。
bizdev-stepを経て精緻化された顧客と課題と解決策
【企業側ペルソナ】
- 小規模ジム経営者
- 個人トレーナー
- 新規開業フィットネスオーナー
【企業側主要課題】
- 新規顧客獲得コストの上昇・獲得困難
- 既存顧客の継続率低下・退会率増加
- 競合との差別化困難・価格競争激化
- デジタル化・AI導入への不安とROI要件
【消費者側ペルソナ】
- 運動習慣を始めたい会社員
- 継続困難経験者
- 時間制約のある管理職
【消費者側主要課題】
- ジム選びや継続モチベーションの維持が困難
- 過去の挫折経験・孤独感・効果実感の難しさ
- 時間制約・高品質サービス志向・価格感度
【解決策】
- AI駆動のパーソナライズトレーニング推薦と継続支援
- 企業向けにはROI明確化・段階的導入プラン・業界特化サポート
- 消費者向けには継続モチベーション支援・最適マッチング・コミュニティ機能
- BtoBtoCモデルでネットワーク効果と収益性を両立
解決策をV0で生成した消費者向けUIイメージ
検証結果
AIによるCPFスコアは企業側87点、消費者側79点、統合スコア84点という結果となりました。
企業側では「会員継続率の向上」や「新規顧客獲得」が主要課題として明確化され、消費者側では「継続支援機能」や「個人最適化」への期待が強く確認されました。
PSFフェーズでは、企業側82.6点、消費者側83.8点、統合スコア83.1点となり、Product-Market Fitフェーズへの進行が可能と判定されました。
企業側では「ROI算出可能性」や「無料トライアル効果」が高評価につながり、消費者側では「時短・品質志向層」や「継続困難層」で特に高い受容性が見られました。一方で、ヨガスタジオ等の業界特性やIT不安への配慮、小規模事業者向けプランの必要性など、今後の改善課題も明確になりました。
事業企画担当者にとっての価値
AIアプローチを活用することで、バイアスを排除した検証手法と定量的なスコアリングで客観的な評価が可能となり、顧客情報や課題に対して多角的な視点で精緻化できます。
また、AI同士の複数パターンのインタビューシミュレーションを通じて様々な視点からの検証も行えます。
TSUMIKIのように小さいタスクにすることで、長大な結果を一気に出すプロンプトに比べて、精度や粒度も高まっています。
さらに、実際に使えるインタビュースクリプトが自動生成され、Marp形式の要点サマリーやV0プロトタイプデモも出力されるため、すぐに実践で活用できる点も大きな価値になると思います。
ただ、気をつけなければいけないのは、AIで簡単に新規事業ができるわけではないことです。
検証の段階では客観的なデータを重視して慎重に進めることが重要です。
AIが生成したインタビュースクリプトは実際の定性調査でも活用でき、そこに一次情報を追加することで検証の精度をさらに高めることができます。チームで取り組む場合は、客観的な判断基準をもとに合意形成を図り、役割分担することでより効果的にプロジェクトを進められます。
おわりに
最初のふわっとした課題からプロダクトまで進めることができていますが、もちろんこれはAIが欲しいと思ったものでしかありません。
しかし、こんな感じで検証は進むんだろうなという概要を理解し、出力されたインタビュースクリプトを使って実際にインタビューを実施し、一次情報を追加していけば、顧客課題にマッチしたプロダクトを開発できると思います。
BizDev-stepフレームワークの最大の価値は、事業企画担当者が「AIによる高速検証プロセス」を身につけられることです。
新規事業の成功率向上に向けて、ぜひ一度お試しください!
おつかめ!