ビジネスモデルを3つの視点で捉える(「ビジネスモデルYOU」出版記念セミナーに参加してきました:前編)
昨日12/11(火)、代官山の蔦屋書店さんで開催された「ビジネスモデルYOU」出版記念セミナー参加してきました。(会場の蔦屋書店さんは建物のデザインや書籍のレイアウトが素晴らしいので、是非、一度行ってみることを強くオススメします。)
全体の構成としてはは、最初に小山龍介さんがビジネスモデルキャンバスの基礎的なところを紹介し、それからティム・クラークさんが「ビジネスモデルジェネレーション」から「ビジネスモデルYOU」を執筆される背景を紹介し、ビジネスモデルYOUに登場するパーソナルキャンバスの解説をする、という流れでした。 セッション中はお二人の発表を指が追いつく限りメモをとりましたので、本エントリーでは、前半の小山さんの発表内容をご紹介します。尚、一部の表現は文章向けに編集してありますので、何かおかしな記述があったらそれは小山さんの問題ではなくて責任は私なのであしからず。
セッション1「ビジネスモデルジェネレーションの基礎的な説明」小山龍介さん
- はじめに
現場だけをみていてもわからないことがあり、モデルを作ることでみえてくることがあります。 例えば、車は、実際に走らせる前にモデルを作って、流体力学などの検証を行ったりします。 今日は、モデルをつくるメリットとして、3つの設計的な視点をご紹介します。
(※ この図は、発表時に使われていたスライドをなんとなーく真似したもので、実際の図ではありません)
- 1. 構造設計
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスに関連する情報を9つのブロックに整理して考えるフレームワークです。ビジネスモデルは建築物と似たところがあり、一番下の土台がしっかりしていることが必須です。ビジネスモデルで言えば収益とコストになります。これがしっかりしていると、上にのっかるモデルが多少良くなくてもなんとかなったりします。 真ん中にある価値提案( Value Proposition )はビジネスにおける大黒柱。柱がしっかりしていることで、ビジネスの構造がしっかりしてきます。 価値提案の左右にあるリソースとチャネルは小さな柱になります。その上に主な活動と顧客との関係が乗っかります。ただし、リソース・チャネルと主な活動・顧客との関係は相互作用するので、活動によってリソースが増えることがあります。例えば、研究開発をすると知的財産が増えますし、マーケティング活動をすると顧客が増えます。
このように、ビジネスモデルキャンバスはビジネスモデル全体の設計をするものです(ホール設計)。 ホールアプローチとは、関係者が一堂に集まり、対話をして解決をしていく手法のことです。私が、クライアント先でコンサルティングを行うときはビジネスモデルキャンバスのワークショップを、ビジネスに関わる人をなるべく多く集めて行うことをすすめています。部署を超えて、企画・営業・製造・経理等々の人が一同に集まって話しあうことで、お互いに関係しあっていることがわかります。そうすることで、全体を見ながらみんなで解決を考えることができるようになるのです。 これまであったフレームワークと比べて良いところは、ビジネスモデルキャンバスは全体のエコシステムを表現していることです。そのようになっていることで、議論が建設的になります。お互いの関係性を理解しながら議論が進むわけです。 全体を表現しつつ関係性をあらわすことをオントロジーといいます。全体の中で自分の存在はどういう意味があるのかを考えることです。 もともとビジネスモデルキャンバスとは、これの前身にビジネスモデルオントロジーというモデルがあってそれをブラッシュアップしたものです。
- 2. デザイン設計
デザインが難しいのは、細部がちょっと違っただけでも台無しになってしまうからです。細部と全体が上手く調和していないとダメ。更に重要なのは、デザインから見た人がどんな印象を受けるのか、つまり体験が重要になります。例えば、「ビジネスモデルジェネレーション」の本を手にとった人は、それに対してどういったことを思うのでしょうか。これは哲学的には現象といいます。 ビジネスモデルキャンバスは全体を設計しながら、そこにどんなライフスタイルがあるのかを想像できます。ビジネスモデルキャンバスを描くことで、経験のある人は「これは営業の人が大変だな」「製造が上手くやっているな」とか、リアルなビジネスの現象が見えてきます。経験があると、構造からどんな現象がおこっているのかを読み取ることができます。ただしこれはかなり経験のある人ならできますが、若手の人は構造からどういう現象があるのかをイマジネーションしていくのが難しいことも事実です。 キャンバスは要素間の関係を上手く表現されているので、これがおきるとどんな現象がおきるのか、そこから得られる結果をイメージすることが容易です。 (実はデザインも設計なので、設計・設計って言っててちょっと気持ちがわるい日本語なのだけど…) これをさっきの構造の話と組み合わせると、ハード(構造)の面と、ソフト(デザイン)の面でこういう現象がおきるだろうとイメージできるようになります。 究極の細部と全体像をいったりきたりすることができるようになるのです。
- 3.システム設計
先ほど、エコシステムという表現をしましたが、エコシステムと言った場合は構造だけでは足りません。周囲との調和が大事です。例えば、個々の代官山の蔦屋書店は低層設計で周囲と調和がとれています。ビジネスモデルも、周りの環境と調和ととるような設計が必要です。そこまで考えると、継続性・持続性を備えたエコシステムの設計となります。 顧客セグメントは、半分中の人で、半分外です。これはパートナーも同様です。これを「ビジネスの縁側」と呼んでいます。こういうビジネスの縁側をもったフレームワーク、一言であらわすとオープンシステムになっているわけです。オープンシステムは昔から考え方はありましたが、経営学の分野では2000年以降になって注目されるようになりました。例をあげるとソニーのPlayStatyion。プラットフォームをオープン化し、ソフトメーカーが参入しやすいようにした結果、大きな成功をおさめました。当時のPlayStatyionを手がけていた平井さんがソニーの社長となったことは、ソニー全体がプラットフォームビジネスをやっていくことのあらわれだと思います。 プラットフォームやオープンの大切さが言及される前、70年から80年代にかけては、コアコンピタンスが重要視されていました。しかし、そういった企業は周囲の環境変化に対応しきれなくなっりました。90年代は外部環境の変化に対応していくために自己組織化が重要であると言われました。IBMはその好例で、PC事業をやめてサービスを強く打ち出していきました。 コアコンピタンス、自己組織化といった時代を経て、オープンなプラットフォームビジネスを展開していかないと成り立たない時代になりました。キャンバスはそういったビジネスモデルを表現するのに適しています。実は「ビジネスモデルジェネレーション」で紹介されているビジネスモデルのパターンはすべてプラットフォームビジネスです。オープンシステムとしてのビジネスモデルというのがあるので、プラットフォーム型の、もうちょっと言えば、顧客・パートナーと一緒にビジネスを作っていくと考えるときに便利なフレームワークです。 会社本体も重要ですが、周囲と結ぶ縁側も重要なのです。
そういった3つの要素、「構造」、「デザイン」、「システム」を考えていくと、今日のテーマである「ビジネスモデルYOU」は個人のビジネスについて考えるものですが、それは組織であっても個人であっても共通することが多いことがわかります。自分のビジネスを構造設計し、どのような生活になるのか(構造から出てくる現象として)、どう他人と関わっていくのか(お客さんや家族・友人といったパートナーをイメージしながら)、設計するのです。
最後に、コンサルティングとコーチングの違いを紹介します。 コンサルタントは答えをもっているけど、コーチングは答えはクライアント自身がもっているというスタンスです。答えを引き出すために問いかけます。ただし、質問には構造があって、こういう質問をしていくと人生の問題にぶつかるといったことがあります。ビジネスモデルキャンバスの登場によって、私のコーチングの活動が楽になった。これが企業全体のホールシステムを表現してるいからこそ、お客さんから答えを導き出せるのです。注意点としては、コンサルタントがこれが答えですと言うためのツールではない。自分の中に眠っている答えを導き出すためにあります。 パーソナルキャンバスを使って問いかけることによって答えがでてくる、それが今日のビジネスモデルYOUのテーマであり、そういった活用ができるのではないかと思います。
小山さんの発表は以上です。次回は「ビジネスモデルYOU」の著者である、ティム・クラークさんの発表内容を紹介します。
後編はこちら
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【12/15(土)・12/16(日)】 「DevLOVE Conference 2012」 http://devlove2012.devlove.org/ 日時 2012年12月15日(土)11:00〜21:10・12月16日(日)11:00〜19:00 場所 株式会社サイバーエージェント東京本社
1日目の12月15(土)11:00-15:00から「勝手にワークシフト(仮) 〜4人の達人開発者と未来について語ろう〜」というディスカッション形式のセッションでファシリテーターを担当します。組織からの独立や起業について、よそでは聞けない話を高江洲 睦さん(@takaesu0)、中村 薫さん(@kaorun55)、綿引 琢磨さん(@bikisuke)、梶浦 毅一さん(@shirokappa)の四名のみなさんにしてもらいます。
【1/15(火)・1/16(水)】 「Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013」 http://scrumgatheringtokyo.org/2013/ 日時 2013年1月15日(火)10:00~18:00、1月16日(水)10:00~18:30 場所 秋葉原UDX
2日目の1/16(水)の午後の部「[2E-3][ワークショップ]The New New Product Development with Lean Canvas 角征典氏」で、アシスタントを担当します。その他にも豪華ゲスト陣による豪華セッション・ワークショップが目白押しなので、良かったら是非、ご参加ください。