
Nocobaseを使って面倒な棚卸し業務を自動化する方法(シンプル版)
「年に一度の棚卸し、担当者が全てのIT資産やライセンスをリストアップし、利用者一人ひとりに確認連絡を送る…」
多くの企業で当たり前のように行われているこの光景、実は大きな「見えないコスト」を抱えています。
担当者の膨大な作業時間、確認漏れや連絡ミスのリスク、そして進捗管理の煩雑さ。これらの課題を解決し、担当者をもっと創造的な仕事に集中させる方法があります。
それが、ノーコードツール「Nocobase」を使った棚卸し業務の自動化です。この記事では、手動の確認連絡から解放され、スマートな棚卸しを実現する具体的な方法をご紹介します。
手動棚卸しが抱える課題
現在の棚卸し方法に、以下のような課題はありませんか?
-
担当者の膨大な工数:
資産リストの作成、利用者との紐付け、個別の連絡、回答の集計、未回答者への催促…その全てが手作業の場合、担当者は本来の業務を圧迫するほどの時間を費やしてしまいます。
-
ヒューマンエラーのリスク:
手動でのコピペや連絡作業には、どうしてもミスがつきものです。「連絡先を間違えた」「確認項目を誤った」「回答を見落とした」といった小さなミスが、後々大きな問題に発展する可能性もあります。
-
業務の属人化と進捗の不透明さ:
「あの件の進捗は、担当者のAさんしか分からない…」といった状況に陥りがちです。担当者が不在の場合、業務が完全にストップしてしまったり、全体の進捗状況が誰にも分からなくなってしまいます。
全てが当てはまることはないと思いますが、これらの課題は、担当者の努力だけでは解決が難しい構造的な問題です。
ここで登場するのが、ノーコードで業務システムを構築できるツール「Nocobase」です。
なぜNocobaseが棚卸し業務の自動化に最適なのでしょうか。
- 柔軟なデータベース:
- PC、ソフトウェアライセンス、備品など、管理したい資産に合わせた台帳を簡単に作成できます。
- 自動化ワークフロー:
- 「特定の時期になったら」「ステータスが変更されたら」といった条件をトリガーに、Slack通知などのアクションを自動で実行できます。
- 外部サービス連携:
- Slackやメールと簡単に連携でき、利用者への通知を自動化します。
プログラミングの知識は不要です。管理画面から設定をしていくだけで、誰でも自社にフィットした棚卸しシステムを構築できます。
- Slackやメールと簡単に連携でき、利用者への通知を自動化します。
やってみる
弊社ではソフトウェアライセンスの従業員割り当てをNocobaseで管理し始めているので、ライセンスを例にします。
Step 1: 資産管理のデータベースを作る
まず、Nocobase上にIT資産やライセンスを管理するための「コレクション(データベース)」を作成します。
- 管理項目(例)
- 製品名(ライセンス情報と紐付け)
- 利用者(ユーザー情報と紐付け)
- 利用開始日
- 棚卸しステータス(未確認、開始、確認済み、問題ありなど)
- 利用状況(選択肢:未選択, 利用する, 利用しない) ← 回答内容の保存用
- 最終確認日(棚卸しの連絡を送った日)
(登録後の画面例)
Step 2: 利用者向けの「回答フォーム」を作成する
次に、利用者が回答を入力するフォームを作成します。
Googleフォームやslackのフォームを作成するということもできるかと思いますが、シンプル版ということでNocobaseで完結させるようにしたいと思います。
棚卸しの回答では、自分だけがアクセス、回答、編集できなければいけませんので、Nocobaseでこれを実現させるためにちょっとした工夫が必要です。
専用のカスタムページを作成
NocobaseのUIエディタを使い新規のページを作成します。
そしてこのページ内に棚卸しが必要なライセンス一覧を表示させてあげます。
Step1で作成したコレクションのデータブロックを追加しましょう。今回はテーブル表記にします。
表示させたい項目を設定したり、操作フィールドに編集リンクを置きます。
このままでは全データが表示されてしまうので、今回の肝である自分だけのデータにアクセスさせるようにしていきます。
それを行うためにテーブルブロックのデータ範囲の設定
という機能を使います。
条件を追加し、それにあったデータだけを表示させることができるようになります。
利用従業員のメールアドレス
が 現在のユーザーのメールアドレスと
同じ
これで自分だけのデータ(ライセンスを利用する従業員が自分)を表示することができます。
自分だけのフォームとして代用しています。
編集フォームの設定
棚卸しの回答は編集フォームを利用して行うようにします。
誰が・いつ・どのように回答したかが、元の資産データベースに正確かつ自動で記録されます。担当者が回答内容を転記する必要は一切ありません。
テーブルの編集リンクをクリックした先のページを作成していきます。
編集フォームのデータブロックを選択し、必要な項目を設定していきます。
利用状況の確認を必須にしています。
ステータスや最終確認日は固定値を入れたいのですが、この編集フォームではできないため別の方法で行うようにします(後述)
Step 3: Slackへ自動で確認依頼を送信するワークフローを設定する
データベースと回答フォームが準備できたら、利用者への通知を自動化するワークフローを設定します。
- トリガー:
- 「年に一度、4月1日になったら」や「棚卸しステータスが"未確認"のレコードに対して」のように設定します。
- スケジュールイベントにし、ステータス確認のチェックをノードに入れると良い
- 「年に一度、4月1日になったら」や「棚卸しステータスが"未確認"のレコードに対して」のように設定します。
- アクション:
- Slack通知アクションを作成し、資産の利用者にメンション付きで確認依頼メッセージを自動送信するように設定します。
- NocobaseのワークフローでHttpリクエストを構築することができる
- Slack通知アクションを作成し、資産の利用者にメンション付きで確認依頼メッセージを自動送信するように設定します。
例)
- 棚卸し対象のライセンス紐付けデータのステータスを変更(ここでは開始)
- ステータスが開始のデータを取得する
- Loopを使って一つ一つ処理する
- Loopの中でslack IDの取得とメッセージ送信を行います。
- Emailからslack IDを取得する
- APIリクエストの作成
- 結果を下のノードで使えるようにJSONにマッピング
- APIリクエストの作成
- Emailからslack IDを取得する
- エラーじゃなければメッセージを送信
- chat.postMessage APIのリクエストに通知内容とメッセージを送るslack IDをセットすることで送信できます。
前のステップで作成したページのURLを含めると良いでしょう。
- chat.postMessage APIのリクエストに通知内容とメッセージを送るslack IDをセットすることで送信できます。
- Loopの中でslack IDの取得とメッセージ送信を行います。
Step 4: フォームから回答された時の固定値を保存するワークフローを設定する
利用者がフォームから回答したとき、ステータスや最終確認日は固定値を入れたいのでワークフローを作って対処します。
コレクションイベントをトリガーにすることで、データが更新された時に動かせるようになります。
- トリガータイミング
- レコードの更新時
- フィールドが変更された時
- 利用状況
上記のように選択したフィールドの1つが変更された場合にのみトリガーする設定にすれば余計なワークフローを動かさずに済みます。
最後にトリガーされたデータが更新されるように条件を設定し、更新したいフィールドと値を挿入します。
Step 5: 未回答者へ自動でリマインドを送信する
「依頼を送ったけど、回答してくれない…」というケースも自動化できます。
新しいワークフローを作成し、以下のように設定します。
- トリガー:
- 「期限日の1週間前で棚卸しステータスが"開始"のままだったら」 スケジュールイベントでやると楽。
- アクション: 再度Slackでリマインド通知を送信する。
ワークフローのノードはStep 3のものとほぼ同じです(ステータスを開始にする を削除している)。
これにより、催促の連絡も自動化され、確認漏れを防ぐことができます。
自動化による期待できる効果:回答後のアクションも迅速に
Nocobaseで棚卸しを自動化するメリットは、単なる工数削減だけではありません。収集したデータを即座に次のアクションに繋げられる点も強力です。
例えば、棚卸しが完了した後、Nocobaseのフィルター機能を使えば、
- 「利用状況」が『利用していない』と回答されたライセンス
- 「備考」に『故障』と入力されたモニター
といった特定の条件の資産だけを瞬時に抽出し、一覧表示できます。このリストを元に、ライセンスの登録解除、PCの回収や修理の手配といった次の業務へスムーズに移行できます。これは、回答内容が正確にデータとして蓄積されているからこそ可能になることです。
まとめ
今回ご紹介した方法はシンプル版として用意してみました。
- メリット: 設定が簡単で、すぐに始められる。
- デメリット: 過去の利用状況が追えない。Nocobaseにログインできるユーザーのみしか利用できない。
- おすすめなケース: 「とにかく今年の棚卸しを楽にしたい」という短期的な課題解決を優先する場合。
これまでの手作業による棚卸しは、Nocobaseのようなノーコードツールを活用することで、驚くほど効率化・自動化できます。
今後
これ以上の管理を求められる場合も出てくることもあると思います。
そこで考えられる案としては、棚卸しの履歴を持つことです。
たとえば棚卸しの履歴コレクションを作成し、そこに保存していく。
- メリット: 資産の利用履歴が正確に蓄積され、長期的な資産管理や監査に強い。
- デメリット: 初期の設計・設定が少し複雑になる。
- おすすめなケース: IT資産のガバナンスを強化し、将来にわたって堅牢な管理体制を築きたい場合。
履歴を残す仕組みは、初期設定に少し手間がかかるものの、その価値は非常に大きいです