
FinOps & クラウドコスト関連ナレッジ - 2025年3月
近年、クラウドコストに関する課題が注目を集めています。私自身も注目してキャッチアップしているテーマです。そんな中で、同じ関心ごとをお持ちの方のお役に立てればと思い、個人的に気になった記事をシェアしています。
早速、2025年3月頃に見かけた記事を紹介していきます。
FinOps Framework 2025
FinOps Framework が更新されました。先日公開されたレポート内にあった Cloud+ の時代として、Licensing と AI がスコープに追加され、定義や原則、ドメインなどが更新されています。
最新の FinOps Framework は こちら から確認できます。
また 4月3日 に FinOps Foundation による今回のアップデートをテーマとしたイベントが開催されるようです。(日本語同時字幕)
FinOps for Software as a Service (SaaS)
先日の FinOps for AI に続いて SaaS 向け FinOps に関するホワイトペーパーがリリースされています。
AWS Savings Plans: How to Implement an Effective Chargeback Strategy
(AWS 貯蓄プラン: 効果的なチャージバック戦略を実装する方法)
マルチアカウント環境下(同じ Organization 内)で SP 割引共有がされているケースにおいて、アカウント単位に SP 購入額(SavingsPlanRecurringFee)や適用額(SavingsPlanCoveredUsage)を確認するためのデータ準備(CUR2.0)や分析(Athena)、例が紹介されています。
共同利用方式で Savings Plans の割引が適用される額がコスト配分タグごとに確認できるのか検証してみた
こちらはガバメントクラウドでの共同利用方式(単一アカウントにあるサービスを複数の利用団体が利用する方式)内での配賦を目指して、まずはコスト配分タグ単位で SP の適用状況や額が確認できるかを検証された記事です。
ガバメントクラウドでの共同利用方式に限らず、単一アカウント内に、複数部門やシステムが混在しているケースでは類似する課題を抱えている方もいらっしゃるのではないかと思います。
またガバメントクラウドでのコスト管理に関する記事を他にも見かけました。性質上の制約に起因する面もあるかと思いますが、一筋縄ではいかない印象を受けます。
AWS NAT Gatewayの通信分析とコスト最適化
コスト分析をする中で「EC2-その他」の利用費が多い場合での定番の一つでもある NAT Gateway での通信の最適化に関する記事です。よく遭遇するパターンではありますが、現状分析から対策まで実施するのが大変という声も聞く中で、丁寧に紹介してくださっているので、同じ課題を解消されたい方にはお勧めです。
AWSコスト削減に継続的に向き合う技術と組織 - TechLovers#10
3月4日に開催された「AWSコスト削減に継続的に向き合う技術と組織 - TechLovers#10」での資料が公開されています。
Oracle Cloud Hangout Cafe 9 #6 開発者のための FinOps
3月5日に開催された「Oracle Cloud Hangout Cafe 9 #6 開発者のための FinOps」での資料が公開されています。
Microsoft Cost Management updates—March 2025
(Microsoft Cost Management の更新 - 2025 年 3 月)
Microsoft 公式のコスト管理に関するアップデートサマリー記事が公開されています。
3月サマリーでは5つのトピックが掲載されています。
- AKS (Azure Kubernetes Service) コストの最適化
- AWS (Azure Web サービス) コネクタの廃止
- Azure OpenAI サービスプロビジョニング予約の交換
- コスト報告の未来を形作る
- ドキュメントの更新
Split Cost Allocation Data for Amazon EKS
(Amazon EKS の分割コスト配分データ)
記事としては、分割コスト配分タグ(SCAD)や CloudWatch Container Insights を利用して、EKS の詳細なレベルでのリソース利用とコストの可視性を確保する内容ですが、冒頭のピザ屋「Tony's Tasty Pies」 を例に用いたユニットエコノミクスの記載がシンプルにわかりやすくて良かったです。
AWS Config を使用したコスト最適化ガバナンスの自動化を試してみた
私が断念したソリューションをきっちり検証してくれています。ありがとうございます!
AMDベースEC2インスタンスへの移行ガイド
EC2 コスト最適化の検討項目に Intel から Graviton(ARM)への切り替えがありますが、Graviton が非対応な Windows を利用したワークロードやアプリケーションへの影響から検討を断念することもあります。そんな時には AMD への移行も検討するのがお勧めです。もちろん Intel から AMD への移行なら前述の課題への考慮不要というものではないため、本記事が参考になるかと思います。
Efficiently manage Amazon EC2 On-Demand Capacity Reservations (ODCRs) with split, move, and modify
(分割、移動、変更により Amazon EC2 オンデマンド容量予約 (ODCR) を効率的に管理)
昨年からオンデマンドキャパシティ予約(ODCR)に関するアップデートがいくつかリリースされていますが、わかったようでわかっていない状態な私にとって、図解の本記事は理解を助けてくれる記事でした。もし私と同じような状態の方には、お勧めです。
Amazon S3 reduces pricing for S3 object tagging by 35%
(Amazon S3 が S3 オブジェクトタグ付けの料金を 35% 引き下げ)
定期的な値下げは、ありがたいですね!
A Step-by-Step Guide to Optimizing Amazon DynamoDB Costs with CUDOS Dashboard
(CUDOS ダッシュボードを使用して Amazon DynamoDB コストを最適化するためのステップバイステップガイド)
CUDOS v5.5 を利用して DynamoDB の利用状況を確認して、容量モード切り替えの可否を判断するケースなどが紹介されています。CUDOS Dashboard を含む Cloud Intelligence Dashboards(CID) は英語表記なこともあり、初見でユースケースを把握しづらい面もあるため、ガイドが紹介されるのはありがたいですね。
また CUDOS Dashboard 以外に CUR と QuickSight を組み合わせた可視化に関する記事が他にも掲載されていました。CUR と QuickSight を利用したダッシュボードカタログのようなものがどこかで一元管理・公開されると嬉しいですね(祈り)
- Improve cost visibility of an Amazon RDS multi-tenant instance with Performance Insights and Amazon Athena(Performance Insights と Amazon Athena を使用して Amazon RDS マルチテナントインスタンスのコスト可視性を向上させる)
- Amazon QuickSight の利用状況分析とライセンスコスト最適化の方法
セキュリティやコスト通知の暫定ソリューションとしてDevinを活用
専用サービス導入やきっちりとした準備(戦略作成や整備)を実施する前の暫定的な位置付けで、セキュリティ通知やコストレポート報告などのタスクを巷で噂の AI エージェントの Devin でやってみたという記事です。AWS コスト最適化詳細レポートの例を見ると良さそうな印象です。
Unlocking AWS Cost Efficiency Secrets: Lessons from Amazon's FinOps Journey
(AWS のコスト効率の秘密を解き明かす: Amazon の FinOps の取り組みから学んだ教訓)
AWS の顧客でもある Amazon(小売や Prime Video、Ads など)での FinOps に関する取り組みが紹介されています。Amazon だからといって特別なツールやソースがあるわけではなく、他の利用顧客と同様の取り組みやアプローチを実施していると話されていました。その中で、興味深かったのが「Credit Score」と言われる健全性を測る KPI があるそうです。リソースの利用状況、予測との差異、効率性の観点から評価されるとのことです。
Optimising Microservices Communication Costs Using Amazon X-Ray
(Amazon X-Ray を使用したマイクロサービスの通信コストの最適化)
AWS が提供する APM サービスである X-Ray を利用してマイクロサービスでの可観測性を高めて、パフォーマンスのボトルネックや非効率性を特定して、改善することでパフォーマンスの向上、コスト最適化するためのステップガイドが紹介されています。
Well-Architected Framework の各柱はトレードオフな側面があり、コストは他の柱との相反する面が多い印象ですが、個人的にパフォーマンスとは密接な関係にあると思っています。現状を定量的に評価して、非効率な部分を改善することで利用するリソースが最適化されるため、結果としてコスト最適化することができると考えても良いかなと思います。
そのため、コストの文脈においてもシステムの健全性を測るためにオブザーバビリティを高めることは大切です。
僕のSLOとNew Relic by NRUG Vol.13に参加しました!
そんなオブザーバビリティをプラットフォームとして提供する New Relic さんのユーザー会のレポートと新機能アップデートスライドが公開されています。
その中で、クラウドコストとの連携機能がアップデートされてリアルタイムな分析が出来る Cloud Cost Intelligence が提供されるようです。(3/19 時点は限定プレビュー)
助けて! CloudWatch Logs のコストが急上昇!! ログ管理の最適化でコストを 1/3 にした話
キャッシュを導入したことでログそのもの量が減った点とログの保管先を直接S3へ出力するように変更することで CloudWatch Logs のコスト最適化を実現された記事です。後者については同じ課題をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。
記事の中でも紹介してくださっていましたが弊社メンバーが同様の課題への対策を JAWS DAYS 2025 で発表してくれています。
読み取り専用 DB を Aurora から SQLite に移行してコストを 1/8 に削減した話
(元の金額にもよりますが)1/8 削減はすごいですね!まとめに書かれているように DB に手を入れるのは大変なことではありますが、リターンも大きい。まさに 「Elephant in the room」 ですね。
A CTO’s Guide to Measuring Software Development Productivity
(CTO によるソフトウェア開発の生産性測定ガイド)
組織で FinOps を実践するために、重要なプレイヤーでもある開発チームにおける生産性を測る4つの観点が紹介されています。
クラウドコストの多寡やシステム面でのメトリクスに留まらず、関連するプレイヤーの KPI やビジネスとして KGI と組み合わせて、現状を評価することが出来れば、より高度で優れたコミュニケーションとなり、まさに文化的実践と言える状態になるのではないかと思うので、このような指標や観点を把握しておくことも大切だなと思います。
Data-Native FinOps: Why Your Data Stack Deserves Specialized Cost Management
(データネイティブ FinOps: データ スタックに専門的なコスト管理が必要な理由)
この記事の中で、面白いなと感じたのは、よりワークロードやドメインの専門性を持った FinOps ソリューションが必要だと紹介されていた点です。
確かに、例えば「(類似するシステムのデータ等からユーザー数に対するコストの平均は大体これくらいだから) 現在のコストは妥当ですよ」「(この手のシステムでは月次の定期処理があるため、それらを加味した上で、評価をしたら) このリソースは最適化が可能です」といったコンテキストや専門性を含めた推奨事項の提供や見るべき指標がデフォルトでUIに反映されているようなソリューションがあれば、より優れたコスト管理の実践が可能となりそうだなと思います。
Q-Bits:Cost allocation tag strategies with Amazon Q Developer
(Q-Bits:Amazon Q Developer によるコスト配分タグ戦略)
タグ戦略(ここではコスト)に必要なタグ定義やポリシー、チェックスクリプトの作成をAmazon Q Developer を利用して実施する例が紹介されています。
コスト以外にも Amazon Q Developer を利用したユースケースを紹介する Q-Bits というシリーズがあるようです。
Optimizing Cost for Generative AI with AWS
(AWS による生成 AI のコスト最適化)
AWS でワークロードへ生成 AI を利用するパターン(SageMaker, Bedrock, Amazon Q)とそれぞれへの購入オプションによるコスト最適化方法、生成 AI 利用に対する CFM の導入アプローチの概要が紹介されています。この記事はシリーズで続編があるようです。早速、第2弾が公開されています。
Managing the cost of AI: Leveraging the FinOps Framework
(AI のコスト管理: FinOps フレームワークの活用)
こちらは Azure での AI 利用したワークロードに対するコスト軸での導入や管理のアプローチやフレームワークが紹介されています。
AWS や Azure といったクラウドベンダーによる FinOps for AI に関する記事が公開されていることからも関心の高さが伺えます。
AWSコスト 春の総決算2025
3月27日に開催された「AWSコスト 春の総決算2025」での資料やレポートが公開されています。
- 【イベントレポート】「AWSコスト 春の総決算2025」を開催しました
- マルチアカウント環境での、そこまでがんばらない RI/SP 運用設計
- 【イベントレポート】AWSコスト 春の総決算2025 ##AWSコスト総決算2025
Amazon ElastiCache for RedisからAmazon ElastiCache Serverless for Valkeyへ移行した話
運用コストとクラウドの利用費のどちらか一方の削減に留まらず、両方で良い効果が得られていて、素晴らしいですね!
さいごに
3月は勉強会や書籍が豊富でした(主催者・著者の方々に感謝)。インプットしながらまずは FinOps Certified Practitioner を目指していきたいなと思います。
また 3月14日に開催された Japan FinOps Meetup#4 の中で、6月18日に FinOps X Day Tokyo 開催予定とアナウンスがありました。今から楽しみです!