
【GDC2024セッションブログ】 Shipping Diablo IV(ディアブロ4 を予定通りリリースした経験談)
Diablo IVのローンチを支えた「退屈なゲームリリース」哲学
2024年のGDCにて、Diablo IVチームのTiffany Wat氏とMichael Bybee氏は、『Diablo IV』のゲームリリース(Shipping)とLive Service体制の舞台裏を詳細に語りました。AAAクラスのゲーム開発と聞くと、徹夜続きの追い込みや混乱したローンチを想像する人も多いかもしれません。しかし、Diablo IVチームは違いました。
彼らの哲学は非常にシンプルで、かつ強力です。
「Shippingを退屈にせよ(Make Shipping Boring)」
これはつまり、混乱を防ぎ、予測可能で落ち着いたプロセスを作ることで、巨大プロジェクトであっても、確信と余裕を持ってリリースを迎えられるという思想です。
本記事では、このセッションを4つの主要な柱に分けて解説していきます。
チームの拡張(Scaling the Team)
『Diablo IV』の開発が進む中で、チームも大きくなりました。しかしDiablo IVチームは、単なる人数増ではなく、文化のスケーリングに力を入れていました。
文化の可視化
たとえば、Lilithというキャラクターが「女王の姿から悪魔の姿にどう変化するか?」というアイデア出しでは、全チームメンバーがオンラインホワイトボード上でアイデアを自由に出し合っていました。
小さなアイデアが共有文化の土台を作っていくのです。
オープンな対話文化
毎週のチームミーティング、マイルストーンレビュー、ディレクターズレビューなど、フィードバックと反省、そして未来の展望を話し合う文化が徹底されていました。
透明性のあるリーダーシップ
GM(General Manager)やGame Directorが毎週AMA(Ask Me Anything)を行うなど、経営陣との距離が非常に近い体制が取られていました。
多様性と心理的安全性
チームメンバーの性格傾向(DiSCモデル)を理解し、衝突解決や建設的な対話に役立てていました。
意図的な採用と育成
若手や大学生の採用、面接パネルの多様性確保など、構造的にダイバーシティを取り入れていました。
Diablo IVチームは、「効率」だけでなく、人間中心のチームビルディングを優先したのです。
持続可能な開発と成果のバランス(Balancing Delivery with Sustainability)
Live Service型ゲームは短距離走ではなく、長距離マラソンです。Diablo IVチームはこれをしっかりと認識し、燃え尽きない開発体制を築いていました。
「チームに地図を与えるのではなく、コンパスを与えよ」
この考え方のもと、現場に裁量を委ねつつ、共有の目的地に向かう仕組みが用意されていました。
Tierリスト(優先度リスト)
アートやストーリーポイントの重要度をPlatinum, Gold, Silver, Bronzeに分類し、焦点を明確にしました。
Game Directorの週次アップデート
チームに方向性と透明性を提供するため、定期的に情報を共有しました。
Leads & Producersの協働
スケジューリング、Pipelineの維持、リスク管理、スコープ調整を共に担いました。
プロダクトトライアングル(Scope / Cost / Time)の図が示すように、品質を保つにはトレードオフが必要です。全員がそのバランスを理解していたことが、安定した開発に繋がったのです。
予測可能なProduction体制(Predictable Production)
Diablo IVチームは、Productionの予測可能性を最大の武器としました。混乱や炎上を防ぐには、見える化と標準化が不可欠だったのです。
JIRAを単一の情報源(Source of Truth)に
すべてのタスクをJIRAに記録し、全項目に見積もりをつけ、Sprintのリズムを全チームで統一しました。
可視化されたDashboard
Dungeonチームでは、開発者数、消化時間、スコープ追加・削除、Velocity(5.7)などが明確に可視化されていました。
Pipelineの標準化と反復化
初期アイデアからゲームリリースまでのワークフローがすべてマッピングされ、開発者が迷うことなくステップを進められる仕組みが整備されていました。
このような仕組みにより、Production全体が予測できるリズムで動くようになっていたのです。
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Live Ops体制の立ち上げ(Standing Up Live Ops)
最後に、Diablo IVチームが強調していたのは、「ゲームリリースを退屈にせよ」という哲学を最も体現したのがLive Opsチームの存在でした。
彼らが自信を持ってローンチに臨めたのは、以下のように11回にも及ぶテストゲームリリースを積み重ねたからです:
- Tech Alpha ×2
- Internal Alpha ×3
- Closed Beta ×3
- External Beta ×3
これにより、本番ゲームリリース前にあらゆる問題を洗い出し、「既に経験したことしか起きない」状態を作り出しました。
- Runbook、トラブル対応マニュアル、エスカレーション手順の整備
- 社内外ステークホルダーとの信頼関係構築
- 失敗を恐れず、振り返り(Retrospective)で改善を積み重ねる文化
また、Playbookや詳細なカレンダーで、誰が・いつ・何をするかが一目でわかる状態にありました。
Live Serviceチームは次の3点を信条としていました:
- Conservativeなスケジュール構築
- 障害の深刻度に基づくSLA(サービスレベル合意)の定義
- 人間中心のリーダーシップとワークライフバランス重視
まとめ:退屈なゲームリリースこそ、最高のゲームリリース
『Diablo IV』のゲームリリースは、ただゲームを完成させることではありませんでした。
それは、「人を中心に置いた文化」「予測可能な制作リズム」「Live Opsの積み重ね」によって、確信と平穏の中でリリースすることを意味していたのです。
カオスではなく、冷静さで。
直感ではなく、透明性で。
焦りではなく、準備で。
「退屈なゲームリリース」は、実は最もプロフェッショナルなゲームリリースなのかもしれません。