PowerShellでTerraformの入力補完(Auto Complete)を有効にする
しばたです。
最近Terraformを使う機会が増えておりその実行環境は様々なのですが「そろそろ入力補完が欲しいなぁ」と思う様になったので調べた内容を共有します。
現時点で最新のTerraform 1.0.7、PowerShell 7.1.4の環境で動作確認をしています。
terraform -install-autocomplete コマンド
Terraformでは標準で入力補完のためのterraform -install-autocomplete
コマンドが提供されています。
このコマンドはBashおよびZsh環境を対象としており、実行すると~/.bashrc
および~/.zshrc
に独自の設定を追記します。
# BashおよびZsh環境で実行
terraform -install-autocomplete
Bash環境の場合は以下の様なcomplete -C
の設定を追記します。
# Ubuntu 20.04 on WSL2のTerraformで terraform -install-autocomplete した後の .bashrc より抜粋
complete -C /usr/bin/terraform terraform
残念ながらこのコマンドはPowerShellには対応しておらず、PowerShell環境で実行するとエラーとなってしまいます。
C:\> terraform -install-autocomplete
Error executing CLI: Did not find any shells to install
Terraformの入力補完を読み解く
で、このterraform -install-autocomplete
と同等のことをどうにかしてPowerShellで実現したいわけですが、そのために設定された
complete -C /usr/bin/terraform terraform
が何をしているか調べてみることにします。
complete
コマンドはBashの内部コマンドで様々なオプションで入力補完の設定を追加するものです。
このうち-C
オプションについては指定されたコマンド(上記例では/usr/bin/terraform
)の実行結果を補完内容とするものになります。
これだけ見ると引数なしでterraform
コマンドを実行した結果をterraform
の補完に使うことになります。
私は初見ではこの意味が全く理解できなかったのですが、調べてみるとBashでは入力補完の際にCOMP_LINE
やCOMP_POINT
といった特別な環境変数を設定し、これらの環境変数と合わせて使うことが分かりました。
Terraformのソースを見てみると確かにCOMP_LINE
環境変数に対応した処理が入っていました。
- 参考 : main.go
COMP_LINE
環境変数が設定されている場合は通常のサブコマンド実行をスキップしてるのがわかります
この機能はPowerShell環境でも利用可能で、例えば以下の様に手動でCOMP_LINE
環境変数を設定してterraform
コマンドを実行してみると良い感じに補完文字列を返してくれます。
# 手動で COMP_LINE 環境変数を設定してみる
$env:COMP_LINE="terraform v"
terraform
ここまで分かればあとはPowerShellの入力補完機構に組み入れてやるだけで良さそうです。
Register-ArgumentCompleter コマンドレット
PowerShellではPowerShell 5.0からRegister-ArgumentCompleterコマンドレットが追加されておりユーザー独自の入力補完処理を追加することが可能です。
このコマンドレットでは-Native
パラメーターを指定するとネイティブコマンド(外部コマンド)用の補完処理を記述可能で、ざっくり以下の様に記述します。
Register-ArgumentCompleter -Native -CommandName "<補完対象となる外部コマンド>" -ScriptBlock {
param($wordToComplete, $commandAst, $cursorPosition)
# 入力補完処理をスクリプトブロックの形で記述。引数は以下の通り
# 第1引数 $wordToComplete (String) : 補完処理を呼び出した時のワード (例えば "terraform v" で補完処理を呼ぶと "v" が設定される)
# 第2引数 $commandAst (System.Management.Automation.Language.CommandAst) : 補完処理を呼び出した時のAST
# 第3引数 $cursorPosition (Int32) : 補完処理を呼び出した時のカーソル位置
# 戻り値は System.Management.Automation.CompletionResult 型のオブジェクト
# 以下の4つのパラメーターをコンストラクタに持つ
[System.Management.Automation.CompletionResult]::new(
"<completionText>", # 補完に使われる文字列
"<listItemText>", # リスト形式の補完に使われる文字列
"<resultType>", # 文字列の種別。'ParameterValue'以外の種別を使うことは無いと思う
"<ToolTip>" # ツールチップ表示に使う文字列
)
}
ここまでの内容を踏まえTerraform向けには以下の様にすれば最低限の要求を満たせます。
# completer for Terraform
Register-ArgumentCompleter -Native -CommandName terraform -ScriptBlock {
param($wordToComplete, $commandAst, $cursorPosition)
$env:COMP_LINE=$commandAst.ToString()
terraform | ForEach-Object {
[System.Management.Automation.CompletionResult]::new($_, $_, 'ParameterValue', $_)
}
Remove-Item Env:\COMP_LINE
}
スクリプトブロックを呼び出している間だけCOMP_LINE
環境変数の値を設定しterraform
コマンドの実行結果を返してやります。
スクリプトブロックの終わりでCOMP_LINE
環境変数を削除してやります。
これをプロファイルに設定しPowerShellの起動時に呼び出す様にします。
すると下図の様に良い感じに入力補完が利きます。
(terraform v
までキー入力して補完を実行した場合。validate
とversion
が候補に挙がってくれている)
補足 : 偉大なる先人AWS
設定としては以上となりますが、この実装に至るまでには先人のヒントがありました。
去年AWS CloudShellがリリースされた際にCloudShell内のPowerShellに類似の実装があることに気が付き、これが本記事の実装の元ネタとなっています。
# AWS CloudSHellに初期実装されている処理。AWS CLIの入力補完用
Register-ArgumentCompleter -Native -CommandName aws -ScriptBlock {
param($commandName, $wordToComplete, $cursorPosition)
$env:COMP_LINE=$wordToComplete
$env:COMP_POINT=$cursorPosition
aws_completer | ForEach-Object {
[System.Management.Automation.CompletionResult]::new($_, $_, 'ParameterValue', $_)
}
Remove-Item Env:\COMP_LINE
Remove-Item Env:\COMP_POINT
}
AWS CLIでは入力補完にaws_completer
コマンドを使っており、PowerShellで有効にするために上記の様な実装となっています。
今回の実装とほぼ同じですね。というかほぼ丸パクリです。
ただ、この実装は古い間違ったドキュメントをベースにしてるためスクリプトブロックのパラメータ指定が間違っています。
(間違ってるのですが動作に支障はありません)
あとでAWSへフィードバックしようと思いますが、上記実装の厳密に正しい形は以下となります。
# スクリプトブロックの引数を正しい形に修正
Register-ArgumentCompleter -Native -CommandName aws -ScriptBlock {
param($wordToComplete, $commandAst, $cursorPosition)
$env:COMP_LINE=$commandAst.ToString()
$env:COMP_POINT=$cursorPosition
aws_completer | ForEach-Object {
[System.Management.Automation.CompletionResult]::new($_, $_, 'ParameterValue', $_)
}
Remove-Item Env:\COMP_LINE
Remove-Item Env:\COMP_POINT
}
この補完設定はWindows環境でも利用可能ですので併せて利用してみてください。
(Windows環境でもAWS CLIの入力補完は可能)
最後に
以上となります。
内容としてはシンプルですが応用範囲は広いと思います。
本記事ではTerraformとAWS CLIの例を出していますが他のコマンドでも使えますのでみなさんがお使いのコマンドで試してみると良いでしょう。