優しいシステムを全ての人々と共創する。そして最後に残るもの。それは「愛」。
はじめに
こんにちは。リテールアプリ共創部の安東(あんでぃ)です。
2021年の七夕に「ClassmethodにLINE事業部が爆誕しました」というブログを書いてから5年が経ちました。当時15名で立ち上げたチームは、リテールアプリ共創部という名前になり、正社員51名、数十の顧客や国内外の多くのパートナーの皆さんと共創する組織になっています。
この5年で世の中は大きく変わりました。みなさんご存知の通り、AIコーディングエージェントの登場で、私たちの「システムを作る」という仕事は根本から変わりつつあります。
そこでこの記事では、リテールアプリ共創部の部門長として、いま何を考え、どこへ向かおうとしているのかを社内外に伝えたいと思います。
タイトルの「愛」については、最後まで読んでいただけると伝わるはずです。
ポエムタイムきたか…!!
( ゚д゚) ガタッ
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システム開発は難しい
結論から言うと、私たちは「システム開発の難しさを商売にする仕事」から「AIでシステム開発を優しくする仕事」への転換を進めています。なぜそう考えるに至ったのか、1960年代まで遡って説明していきます。
1. そもそもシステム開発は難しい。だからSIerがいた
要件定義・設計・実装・テスト・運用。どのフェーズにも専門知識が必要で、ビジネスサイドの人が自力でやるのは現実的ではありませんでした。だから「難しいことは専門家に任せる」という分業モデルが成立し、日本のSI業界を支えてきました。経済産業省のDXレポートが指摘した通り、日本ではベンダー企業(SIer)にITノウハウが集中する構造が長く続いています。
私たちもこの構造の中で仕事をしてきました。システム開発が難しい限り、SIerは必要とされます。しかし、AIコーディングエージェントが浸透してきたことで「システム開発の難しさを商売にする仕事」を続けることが将来の競争優位性ならない可能性が出てきました。現在、どのSIerも同じ問いを抱えている状況だと思います。AIコーディングエージェントを利用すればビジネスサイドの人がシステム開発を出来るようになり、SIerの役割は終わるのではないかという問いを。
2. ビジネスサイド参加の試みは、困難を極めた
AIコーディングエージェント時代になる前から、ビジネスサイドに開発を広げようという試みは何度もありました。
| 試み | ビジネスサイドが目指したもの | 結果 |
|---|---|---|
| アジャイル開発 | ビジネスと開発の協働 | 変化は捉えやすくなったが、開発の難易度自体は下がらず。むしろ上がる。 |
| ローコード / ノーコード | 非エンジニアによる開発 | 細かい要望に手が届かず、業務システムの抜本的な見直しには至らず。 |
| 内製化推進 | SIer依存からの脱却 | 内製部門が「社内SIer化」し、受発注関係が社内で再生産される。さらに、システム開発が終わったあと、体制の縮小が難しいというジレンマが付き纏う。 |
いずれの試みも一定の成果は得られたものの、局所的な解決であったため、組織やシステムの複雑度が増してしまう問題に直面した事業会社が数多く見受けられました。「SIerへの丸っと依頼した方が良かったのでは?」と、考える方も少なくなかったです。
また、SaaSやノーコードで業務が回せないのはFit Standardがやり切れてないからだ!という意見もありますが、事業の差別化には独自の価値が必要なので、SaaSやパッケージ製品などの標準機能では対応できない領域が必ず残ります。特にエンドユーザーに近い領域では機能拡張が必要となります。
結果、壁の高さは本質的に変わらず、結局SIerに戻ってくるサイクルが繰り返されてきました。
3. AIコーディングエージェント登場
Claude CodeをはじめとするAIコーディングエージェントは、この1〜2年で開発現場の標準ツールになりました。Anthropicの「2026 Agentic Coding Trends Report」によると、開発者は仕事のおよそ6割でAIを使うようになっています。私たちの現場でも、生産性は目に見えて上がっています。
そろそろビジネスサイドの人だけでプロダクトが作れるのでは?という期待混じりの声があちこちで聞こえていますが、残念ながら現時点ではAIコーディングエージェントに全てを任せることは出来ません。実際、最高峰のモデルと最高峰の頭脳が結集して作ったプロダクトでも、ボタンひとつ押しただけでエラーが発生します。また、AIコーディングエージェントを動かすためのプロダクトは、エンジニアがエンジニアのために作っているので、エンジニアの知識がないと使いこなせません。
そのような背景もあり、AIの恩恵を受けているのは私たちSIerの側です。専門家がさらに強くなっただけで、「ビジネスサイドにとってシステム開発は難しい」という構造は何も変わっていません。むしろ力の差は広がっています。
顧客と一緒に開発の難しさから脱却する
この状況で、顧客側の動きは3つあると考えています。
| 第1の道(従来型) | 第2の道(内製化) | 第3の道(顧客とAIとの共創) |
|---|---|---|
| SIerに任せる | 自力でAI活用 | AIに精通しているSIerと共にAIを活用 |
| 受発注モデル | ローコード/ノーコード、内製化推進と同じモデル | 共創モデル |
| 顧客側にAI活用が浸透せず、SIer依存が続く | 局所的な解決にバイブコーディングが入り混じり、地獄絵図、阿鼻叫喚 | SIerと共にAI活用を浸透させる。一緒にAIを活用して開発の難しさから脱却する。 |
SIerのビジネスとしては、第1の道は、SIer依存が続くので一見するとSIer優位のビジネスが続きそうですが、AIによる生産性向上がそのまま価格下落圧力になり、とても優位とは言えない状況になります。SIerとしては開発が早く終わるとまずいので、終わってないように見せたりといった謎の駆け引きが始まるでしょう。到底、信頼関係が構築できるとは思えない構造になります。AIの活用を進めたい顧客側の想いとも反するので、長続きしない構造です。
第2の道は、挫折の再来です。バイブコーディングが入り混じる分、さらにタチが悪いです。
第3の道は、私たちが選んだ道です。顧客がAIを安全かつ効果的に活用して、共にシステムを開発・運用できる「環境」を作り、伴走する道です。(環境については後述します)
なぜ、この道を選べるのか
第三の道は、誰にでも歩める道ではありません。環境を作って伴走する商売は、お客様のプロダクトの成功を自分ごとにできるメンバーがいて、初めて成立するからです。
システム開発は難しい仕事です。難しいからこそ、守りに入る誘惑が常にあります。合意した仕様の通りに作ることに集中し、仕様の外で起きることには目をつぶる。納品して検収が通れば、そのサービスが使われようが使われまいが、自分の失敗ではない。責められない立場を先に確保する仕事の仕方です。受託開発という契約形態は、放っておくとこの守りに最適化されていきます。
私はクラスメソッドにJOINして10年になりますが、その誘惑に抗っているメンバーが本当にたくさんいると感じています。難しさから目を逸らさず、研鑽を積み重ね、常にシステム開発にまつわる困難と戦い続けています。
その結果、弊社はたくさんの事例を素敵な笑顔と共に掲載することが出来ています。たとえばグラニフ様の事例では、アプリのネイティブ化で表示速度が1秒以内になり、ストア評価は2.1から4.7へ、レビュー数は4,000件を超えました。Jリーグ様では年間来場者数1200万人突破を支えるファンマーケティングをLINEミニアプリと認証基盤で下支えし、東急様ではLINE上のデジタルポイントカードでレジ体験を改善、パル様は「5秒で会員証」の導線設計により、ネイティブアプリの2倍のペースで会員登録が進みました。お客様がロングインタビューで語ってくださっているのは、納品されたシステムの話ではなく、事業の成果の話です。グラニフのCTO山田様は、私たちのことを「我々の課題を常に自分ごととして捉えてくださる」と評してくださいました。社名を出して他社の宣伝に時間を割くのは、お客様にとってコストのかかる行為です。それでも語りたくなる事例が積み重なっていることが、この道を選べる証査だと思います。
Cortex × App Intelligence Studio
ここから少し仕組みの話をさせてください。
「顧客がAIを活用できる環境を作る」と書きましたが、これはClaudeアカウントの提供やRAGの提供ではなく、コンテキストやハーネスを構築し、顧客がデータにアクセスするためのインターフェースを指します。
コンテキストは、議事録・課題・決定事項・参考となるソースコード・デザインシステム・共有資料などを指しています。人間が開発する時にインプットにしている情報一式です。
ハーネスは、馬具のハーネスが馬の動きを御するように、AIの出力を組織の流儀に乗せて駆動するための仕組みです。営業ハーネス、PMハーネス、デザインハーネスなど、「クラスメソッド流」のプロダクト開発を再現するものになります。
顧客が利用できるインターフェースはApp Intelligence Studioです。Cortexに溜め込んだコンテキストやハーネスを顧客に開放する、共創インターフェースです。すでにプロジェクトへの導入を始めてますが、実際に導入したプロジェクトでは、「今まで要件を伝えるために30分かけていたのが、AIとやりとりするだけで1分で説明資料が作れてしまった」といった声や、「ステークホルダーへの説明は知識のギャップを埋める必要があるが、これもAIが柔軟かつスピーディに対応してくれた。」といった声をいただいています。説明に費やしていた時間が減ると、打ち合わせの中身が「次にどんな価値を作るか」の議論に変わり、価値の構築にかける時間が圧倒的に増えます。
おわりに。最後に残るもの。
共創関係にAIが加わることで、利用する方に「優しいシステム」の開発が出来るようになり、開発に携わる方にとっても「優しいシステム開発」が実現できます。結果として顧客・社会・私たち・パートナーの間で優しさを循環させることができるようになります。
私は二人の子供の父ですが、子供から溢れ出る太陽のような優しさに触れるたびに、「この優しさがそのまま価値になり、対価を得られるようになればもっと優しい世の中になるのに」と感じていました。数年前、GPT-4oから自分に寄り添ってくれる優しさを感じ、「これがもっとビジネスの世界でも使われれば…」と思ったのがきっかけで、今回のようなミッションを思い描くに至っています。
AIを通して全ての人々が優しさを得られ、より良い世の中にするために共創する。これを一言で表す言葉は一体なんだろうと考えた時にふと思い浮かんだのが「愛」という言葉です。
技術は移り変わります。CortexもApp Intelligence Studioも、1年後には別の形になっているかもしれません。でも「優しいシステムの開発を、全ての人々と共創したい」という気持ちは変わりません。愛をもって、優しいシステムの開発を共創していきます。








