macOS版OBS Studio 31.1でAmazon IVS Low-Latency StreamingのMultitrack Video機能を使ってみた!
はじめに
清水です。昨年2024年の11月、Amazon IVS Low-Latency StreamingにMultitrack Videoという興味深いアップデートがありました。通常のIVS Low-Latency StreamingではABR用の各レンディションの映像をIVS Channel(サーバ)側でトランスコードして視聴者に配信しますが、このMultitrack Video機能を使用するとBroadcast Software(クライアント)側であらかじめ各レンディションの映像をエンコードしてIVS Channelにまとめて打ち上げます。IVS Channel側ではトランスマックスのみ行い配信に使用するというかたちです。詳細については以下ブログエントリにまとめていますのでご参照ください。
このIVS Low-Latency StreamingのMultitrack Video機能、使用するにはBroadcast Software側でもMultitrack Videoに対応しているという必要があります。具体的には、上記ブログエントリ執筆時の要件としてWindows版のOBS Studio 30.2以降であり、またNVIDIA GTX 900、GTX 10、RTX 20シリーズ以降もしくはAMD RX 6000シリーズ以降のGPUを搭載している、というものです。
筆者は日常でmacOSを使用しています。上記ブログエントリ執筆の際にはWindowsかつGPU搭載の環境が準備できなかったため、Multitrack Videoの動作検証は見送りとなりました。Windows環境を準備するか、もしくはmacOS版のOBS StudioでMultitrack Video機能が使えるようにならないかなぁ、などと考えていたところ、OSB Studio 31.1にてApple Silicon版macOS環境でのMultitrack Videoサポートが行われることを知りました。
上記で引用したスクリーンショットは2025/05/30時点のコメントで、この段階ではOBS Studio 31.1 Beta 1だったのですが、Beta 2、さらにRelease Candidate 1とリリースされ、そして晴れて2025/07/08、OBS Studio 31.1.0がリリースされました!
本ブログエントリでは、このリリースしたてのOBS Stuido 31.1.0をmacOSで動作させ、Amazon IVS Low-Latency StremaingのMultitrack Video機能を使ってみたのでまとめてみます。
OBS Studio 31.1でIVSのMultitrack Videoを使うための事前準備
まずはOBS Studio 31.1でIVSのMultitrack Videoを使うための事前準備として、OBS Studio最新版31.1.0のダウンロードや動作環境についてまとめます。またAmazon IVS側の準備としてLow-Latency StreamingでMultitrack Video機能を有効にしたChannelの作成方法についても記します。
OBS Studio 31.1のダウンロード
まずはOBS Studioの最新版、31.1.0をダウンロードしましょう。本ブログエントリ執筆時点の2025/07/09 18:00の段階では、OBS Studioのトップページ(Open Broadcaster Software | OBS)からダウンロードしようとすると、まだバージョン31.0.4を案内される状態でした。
引用元: Open Broadcaster Software | OBS (2025/07/09 18:00)
OBS Studio 31.1 Betaを案内している公式のForums記事によると、OBS Studioのアプリケーション上で更新を確認してアップデートするか、GitHubのリンクからダウンロードするように案内があります。今回はGitHubからダウンロードする方法を採りました。以下のリリースページを参照します。
できたてホヤホヤの31.1.0を確認しつつ、Assetsの箇所まで下にスクロールします。macOS環境ですのでOBS-Studio-31.1.0-macOS-Apple.dmg
をダウンロード、SHA-256のハッシュ値がsha256:cc631294c08ce867ac127a351c615dc4388cac2aaaec5fcaa249ce8c183962bc
であることを確認しておきます。
% shasum -a 256 ~/Downloads/OBS-Studio-31.1.0-macOS-Apple.dmg
cc631294c08ce867ac127a351c615dc4388cac2aaaec5fcaa249ce8c183962bc /Users/User/Downloads/OBS-Studio-31.1.0-macOS-Apple.dmg
あとは通常のOBS Studioと同じですね。dmgファイルをダブルクリックで開き、OBS.appをApplilcationsフォルダにコピーしてインストールしましょう。インストールしたら通常と同じ手順でOBS.appを起動、必要に応じてソースなど各種設定を行います。
OBS Studioの動作環境(macOS環境)について
OBS Studioの最新版31.1.0のダウンロードについてまとめてきました。ここで、本ブログエントリでこのOBS Studioを動作させる環境についてもまとめておきます。冒頭より、macOSを用いることはお伝えしてきました。ダウンロードした最新版のOBS Studio 31.1.0もmacOS版でしたね。
実際に本ブログエントリで検証に用いたMacはMacBook Pro (14インチ, 2021)
です。以下、Apple公式ページの技術仕様となります。
なおチップはデフォルトのApple M1 Proチップではなく10コアCPUと24コアGPU搭載M1 Max
、メモリは32GBとなっています。
IVS Low-Latency StreamingでMultitrack Video機能を有効にしたChannelの作成
続いて、Amazon IVS側の準備もしておきましょう。具体的にはIVS Low-Latency StreamingでMultitrack Videoを有効にしたChannelを作成しておきます。こちらの手順はIVS Low-Latency Streaming Multitrack Video機能リリース時のブログ(Amazon IVS Low-Latency Streamingで新たにサポートされたMultitrack Videoについて確認してみた | DevelopersIO)にも記載していますが、改めてまとめおきます。
AWSマネジメントコンソールを開き、Amazon IVS Low-latency streamingのChannels一覧画面から (Create channel)ボタンで進みます。Channel nameを適切に設定し、Custom configuration
を選択します。Channel typeはStandard
、Video latencyはLow latency
としました。 Multitrack encoding の項目で Enable multitrack inpout を有効にします。設定項目が表れるのと同時に、Contaner formatについてはFragmented MP4 (fMP4)
に変更されることを確認しておきましょう。
Multitrack policy について、今回は Require
としクライアントからのIngestがMultitrack Videoを使用することを必須としましtあ。Multitrakc maximum ressolutionはデフォルトの Full HD (1080p)
としておきます。
そのほかの項目はデフォルトのまま、(Create channel)ボタンを押下してChannelを作成します。
IVS Low-Latency StreamingでMultitrack Videoを使ってみた
macOS用の最新版OBS Studio(バージョン31.1.0)のダウンロード、そしてMultitrack Video機能を有効(必須)にしたIVS Low-Latency Streaming Channelを作成しました。いよいよ、OBS Studio 31.1からMultitrack Video機能を使ったライブ動画配信をしてみます!
OBS Studio 31.1からIVSにMultitrack Videoで配信
OBS Studioの配信設定を行います。OBS Studioの映像ソースなどは準備済みとして、Multitrack Video機能部分の設定項目を取り上げていきます。
OBS Studioでの[設定]ボタンを押下して設定画面を開きます。 配信 の項目に進み、サービスで「すべて表示…」から Amazon IVS を選択します。宛先のサーバーの項目は自動 (RTMPS, 推奨)
としました。ストリームキーの箇所には、マネジメントコンソールで確認できるStream keyを入力します。
ここまでは通常のOBS StudioをBroadcast Softwareとして使ったIVS Low-Latency Streamingの手順と同じですね。ここからMultitrack Video特有の設定を行います。といっても、OBS Studio側の設定はシンプルです。マルチトラックビデオの項目で、Multitrack Videoを有効にする にチェックをつけて有効にしましょう。最大配信帯域幅、最大ビデオトラック数の設定も可能ですが、今回はデフォルトの自動
のまま試してみました。その下にある詳細プション、「配信サービスの推奨設定値を無視する」の項目はデフォルトの無効のまま進めます。
なお出力の項目はデフォルト値から特に変更していません。(例えば映像ビットレートは2500 Kbpsですが、これはUser Guideにも記載があるようにMultitrack Videoによって自動調整されます。)
映像の項目、出力(スケーリング)解像度は1920x1080としています。
設定画面を閉じ、通常と同じように[配信開始]ボタンを押下しましょう。IVS Channelへの配信がはじまりました。OBS Studioのステータスバー部分(最下部の表示)に注目してみると、送信ビットレートがおよそ10000 kbps(10 Mbps)となっています!
IVS側でMultitrack Videoとなっていることの確認
OBS StudioからIVSへMultitrack Video配信を開始しました。送信ビットレートからMultitrack Videoとなっているように見受けられますが、IVS側から実際にMultitrack Videoとなっているかを確認してみましょう。
AWSマネジメントコンソールからIVSの該当Channelの詳細ページに進み、Stream sessionsの項目でLive中のStreamの詳細ページを確認します。以下のようにStream metricsのグラフ、Video bitrateで複数の映像ビットレートが確認できますね。(なお下記Stream sessionの詳細画面、Channel configurationのDetails、Multitrack encodingがDisabledとなっていますが、Channel詳細画面ではしっかりとEnabledになっていました。表示の一時的な不具合などではないかと思います。)
Stream metricsでFrame rateやKeyframe intervalの項目も確認してみましょう。1080p30、720p30、480p30、360p30、160p30の5つのレンディションの映像を受信しているのが確認できます。なお、当然ながらAudio bitrateの項目は1種類です。
さらに画面を下にスクロールして、Stream metrics detailsの項目も確認してみましょう。映像については1080p30、720p30、480p30、360p30、160p30の5種類となっていますね。
Encoder settingsの項目も確認してみましょう。5つのレンディションとなっていることと、各映像レンディションごと解像度やTarget bitrateなどが確認できます。
実際にIVS Channel経由で視聴できるライブ配信動画についても確認してみます。今回はシンプルにマネジメントコンソール上のPlayerで視聴確認をしました。Channel詳細画面のPlaybackや、Stream詳細画面のWatch streamの箇所ですね。Playerの右下にABR選択メニューがありますが、クリックしてみるとMultitrack Videoを無効にしたときと同様、デフォルトのautoのほか、1080p、720p30、480p30、360p30、160p30と、5つのレンディションから選択できることが確認できます。
Multitrack Videoを有効にしていない場合のStream metricsの表示を復習
macOS上のOBS Studio 31.1.0からMultitrack VideoでIVS Channelに配信、IVSのマネジメントコンソールから1080p30、720p30、480p30、360p30、160p30の5つのレンディションの映像を受信していることをStream metricsやEncoder settingsの項目で確認してきました。
ところでMultitrack Videoを無効にした状態だと、これらStream metricsやEncoder settingsの項目はどのような表示になっていたでしょうか。視聴時のABR選択で5つのレンディションから選択できるところはMultitrack Video無効の状態でも変わりません。(サーバ(IVS Channel)側かクライアント(OBS Studio)側か、どちらで複数レンディションを生成しているかの違いですね。)「あれ?Multitrack Videoを使用していない場合、Stream metricsやEncoder settingsで表示される映像の情報は1つだけだったよな」、ということで、これを実際に確認したのが以下のスクリーンショットです。
Multitrack Videoが無効の状態では、IVS Channelが受信する映像Streamは1種類のみ、この例では1080p30だけですね。Stream metricsのグラフでは、Video bitrate、Frame rate、Keyframe intervalの各項目の折れ線グラフはAudio bitrateと同様、1種類のみです。またStream metrics detailsやEncoder settingsの項目も映像は1080p30の1種類のみで、Multitrack Video有効時のように720p30などの表示はありません。
Multitrack Video使用時の挙動をいろいろと検証してみた
macOS上でOBS Studio 31.1.0を用いて、IVS Low-Latency StreamingでMultitrack Video機能を使ったライブ動画配信をしてみました。IVS ChannelのStream情報で、実際にIVS側で複数レンディションの映像を受け取っていることが確認できました。
さて、このMultitrack Video機能を使って配信を行った際、設定などの違いでどのようが影響があるか、OBS Studioの出力解像度と、動作させるハードウェアのスペックを変更した場合の挙動を確認してました。
OBS Studioの出力(スケーリング)解像度による違い
まずはOBS Studio側で出力(スケーリング)解像度を変更してみるとどうなるか、確認してみました。OBS Studioの[設定]から 映像 の項目、一般の出力(スケーリング)解像度を、これまでの1920x1080
から1280x720
に変更します。
[配信開始]ボタンを押下します。ステータスバーの下部、送信ビットレートはおやそ6000 kbps(6 Mbps)と、出力解像度が1920x1080
のときの約10 Mbpsと比べて減少していますね。
マネジメントコンソールからStreamの詳細情報についても確認してみましょう。Stream metricsの項目を確認してみると、720p30、480p30、360p30、160p30と4つの映像レンディションが表示されています。OBS Studioの出力解像度1920x1080
で確認したときにあった1080p30の項目がなくなっていますね。
Encoder settingsの項目は下記のようになっていました。1080p30がなくなったかたちですね。
視聴Playerで確認しても、当然ながら1080pは出てきません。
OBS Studioの出力(スケーリング)解像度を1920x1080
から1280x720
に変更することで、OBS Studio側から送信する映像の最大解像度は720p(1280x720)となることが確認できました。各映像レンディションのビットレートなどはMultitrack Video設定によって決まっているようですが、最大解像度についてはMultitrack Video機能を使わないときと同様、この出力(スケーリング)解像度の設定で制御されている点を抑えておきましょう。
ハードウェアスペックとMultitrack Video機能
さて、ここまでの検証は「OBS Studioの動作環境(macOS環境)について」でも述べた通り、10コアCPUと24コアGPU搭載M1 Maxチップを積んでいる14インチのMacBook Proで行いました。このハードウェアは会社支給のものです。さて、Multitrack Video機能はクライアント側(OBS Studioが稼働するコンピュータとソフトウェア)の情報をAmazon IVSに送信し、自動で最適な映像レンディションを決定します。ちょうど私の手元には私物のM1 MacBook Airがあります。会社支給のM1 Max MacBook Proと比べるとスペック的には劣ってしまうこのM1 MacBook AirでMultitrack Video機能を使うと、どのようなレンディションになるのでしょうか。
MacBook Airのスペック詳細について、まずは確認しておきましょう。Apple公式ページの技術仕様は以下です。
チップはApple M1で4つの高性能コアと4つの高効率コアを 搭載した8コアCPU
、8コアGPU
、メモリは16GBです。
OBS Studioの設定はM1 Max MacBook Proでの検証と同一にしました。IVS Channelも同じものを利用しています。いざ、配信を開始してみます。OBS Studioの送信ビットレートは9000 kbpsほどで、10000 kbpsを超えることはありません。M1 Max MacBook Proのときと少し異なりますね。
それでは、IVSのマネジメントコンソールで受信している映像レンディションを確認してみましょう。以下のように1080p30、720p30、360p30と、映像レンディションは3つとなっていました。M1 Max MacBook Proのときは1080p30、720p30、480p30、360p30、160p30の5種類だったので、480p30と160p30がなくなったことになります。
Multitrack Video機能を使っていると、IVS Channel側でのトランスコーディングは行いません。そのため、PlayerでのABRの選択はデフォルトのautoのほか、1080pと720p30、360p30の3種が選べるのみ、となります。
OBS StudioでのMultitrack Video機能の利用についてはGPUの利用が必須である認識です。Apple SiliconのSoCではGPUが内蔵されていますが、今回検証したM1 Max(MacBook Pro)は24コアGPU、M1(MacBook Air)は8コアGPUと、そのコア数に大きな違いがあります。GPUコア数の違いにより、送信するレンディションの数にも差がでたのでは、と考えています。
まとめ
macOSでのMultitrack Videoをサポートした版OBS Studio 31.1.0を用いて、Amazon IVS Low-Latency StreamingのMultitrack Video機能を試してみました。Multitrack Video機能リリース時、サーバサイドトランスコードに感動した身としてこのMultitrack Video機能に少し懐疑的だったのですが、実際にOBS Studioで使用してみると非常に簡単に使えたという印象です。OBS Studioと非常にシームレスに連携できている点が強いのかなと思います。IVSでMultitrack Video機能を使う際のメリットとして上げられるコストメリットがこれで享受できるのであれば、ぜひ使いたいなと思いました。ただ、送信側ネットワーク帯域には要注意というところでしょうか。長時間の配信時の安定性も確認してみたいところです。
またMacのハードウェア(M1 Max MacBook ProかM1 MacBook Airか)の違いで、Multitrack Videoの映像レンディションに違いがでたのが大変興味深い挙動でした。今回は検証できませんでしたが、Multitrack Video機能の利用ではサーバ側のデコードやスケーリング、再エンコードの処理が省かれるためレイテンシを抑えることにもつながるといいます。こちらも機会があれば検証してみたいと思います。