
AIに任せること、人がやること——製造業デザインの現場から
クラスメソッド発 製造業 Advent Calendar 2025 4日目のエントリーです。
AIの活用シーン
デザイン業務全体を通して生成AIを活用していますが、特によく使う場面について利用する生成AIツールと合わせて、いくつかご紹介します。

業務理解を深める
まず業務理解のために、わからない単語はひたすら生成AIに聞きます。製造業では専門知識や業界用語が多く登場します。顧客が変わるたびに別分野の知識を習得する必要があるため生成AIを活用しています。ただし生成AIの情報を鵜呑みにしないよう、分野ごとの専門書を読みながら進めることが大切です。
また信頼性の高い情報ソースから確実な情報を得たい場合はGeminiのDeep Researchを活用します。Webサイト上からソースを提示して回答をくれるので信憑性は高いです。またWebサイトのURLを提示してくれるのでWebサイト自体に信憑性があるか確認することも容易です。
記録を振り返る、分析する
日々の会議議事録を生成AIに取らせることは定着しているかと思います。弊社の場合はGoogle Meetで行うため、Geminiの議事録機能を活用しています。
さらに会議の議事録をNotebookLMに読み込ませて、用語の確認や検討内容の振り返りに活用しています。製造業の顧客との会議では業界用語の解説をお願いしたり、会社独自のルールを確認することもあり、Webサイト上の情報ではなく、議事録をソースに回答してくれるのでとても便利です。
NotebookLMはユーザーインタビューでも同様に活用しています。ユーザーの議事録を読み込ませて分析に活用しています。インタビュー分析でよく用いるKA法の分析をAIに依頼しています。最終的に出た回答は人が精査します。

NotebookLMは複数のユーザーのKA法分析結果を集約できるのでおすすめです。またソースを絞って議事録だけでの分析を行ったり、人の気づきをソースに加えて分析したりと、パターンを変えての分析が容易です。
初回の画面作成
最初のワイヤーフレームや、初回のUI画面を作成する際は生成AIを活用しています。ゼロから作るときはFigma Makeを活用しています。Figma Makeで作成した画面をFigmaでコピーして編集が可能です。以前はv0も使用しましたが、Figmaへインポートできる点やFigma Make自体の精度が上がっている点、Figmaアプリで使用できる点で現状はFigma Makeに軍配が上がっています。
また細かい使い方として、作成したデザイントークンをまとめてもらったり、フレームに適切な命名を行ってもらうなどしています。
人の力が必要な領域
生成AIを活用すればするほど人にしかできない分野が鮮明になってきました。

現場を知ること
例えば工場に訪問すると、照明の具合で画面の色を変える必要が出たり、アプリを使用しながら行う作業内容を間近で見ると操作のしづらさに気づいたりと、現場でしかわからないことは多くあります。もちろん実際のシーンを撮影した映像を読み込めば生成AIも情報を取得できますが、どこをどのタイミングで、どの画角で撮影するか、観察して記録すべき点を判断するのは人です。毎日工場にいる顧客が気づいていない点を発見するのも我々にしかできないことです。
ヒアリング
ヒアリングでは時に相手の様子を見て質問を変えたり、相手の言葉の裏を読んだりする必要があります。例えば、ベテランが「なんとなくやっている」ことを言語化しなくてはいけません。その場の状況を判断し対応を変えていく行動は、まだAIにはできません。
ただ上記のことを行うのは人にもそれなりのヒアリング力が必要です。ヒアリング力を分解すると聞く力(傾聴する) 質問(適切な質問で深掘りし本質を引き出す)観察(言葉以外の情報を得る)整理(内容を構造化し要点をまとめる)共感(理解を示し信頼関係を築く)という5つの要素が見えてきます。
仕様を反映した画面、文脈を理解して作る画面
生成AIは汎用的な画面デザインを素早く生成することは得意ですが、細かな仕様への対応や部分的な修正にはまだ対応しきれていないようです。実際、生成AIにごく一部の文言修正を指示したところ、レイアウトが崩れてしまうこともありました。
また、デザインシステムとの整合性を保ちながら、顧客独自のルールやビジネスロジックを反映させることも人間の仕事です。変更意図の文脈を理解した上での判断が求められるためです。例えば工場の作業者が他の作業をしながらでも押せるサイズのボタンが必要な場合、AIが提案する「正解」と、現場で本当に使われる「最適解」は異なることを理解しておく必要があります。
生成AIとデザイナーの役割分担
生成AIは製造業のデザインにおいても強力なパートナーです。専門知識の習得、議事録の作成、分析、初期画面の作成など、時間のかかる作業を大幅に効率化してくれます。
しかし、AIが得意なのはあくまで「情報の整理」と「パターンの提案」です。現場の空気を読み取ること、相手の本音を引き出すこと、文脈を理解した上での判断——これらは依然として人間にしかできません。
重要なのは、AIに任せられることは任せ、人は人にしかできないことに集中することです。AIで作業時間を削減した分、現場訪問やヒアリングに時間を使う。AIが生成した画面を、現場の文脈に合わせて最適化する。この役割分担により、生成AIとデザイナーの協業体制が整うと考えています。
生成AIは日々進化していますが、それと同時に「人の価値」もより明確になってきました。AIを使いこなしながら、人にしかできない価値を磨き続けていきましょう。










