PostgreSQLの制約検査を遅延させるとリストア時間が早くなるか検証してみた
MAD事業部@大阪の岩田です。
PostgreSQLでは制約を利用する際の動作として
- ステートメント実行毎に制約を検査するIMMEDIATE
- トランザクションコミット時に制約を検査するDEFERRED
の2パターンが存在します。
https://www.postgresql.jp/document/13/html/sql-set-constraints.html
また、ドキュメントでは大量データ投入時の外部キー制約に関して以下のように記述されています。
インデックスの場合と同様、外部キー制約は一行一行検査するよりも効率的に、「まとめて」検査することができます。 従って、外部キー制約を削除し、データをロード、そして、制約を再作成する方法は有用となることがあります。 繰り返しますが、データロードの速度と、制約が存在しない間のエラー検査がないという点とのトレードオフがあります。
https://www.postgresql.jp/document/13/html/populate.html
上記の記述はデータ投入前に外部キー制約を削除しておき、データ投入後に外部キー制約を再作成する手法を紹介していますが、制約検査のタイミングをDEFERREDに設定することで高速化は期待できないのでしょうか?DEFERREDな制約検査は
一行一行検査するよりも効率的に、「まとめて」検査
に該当しないのでしょうか?実際に試してみました。
環境
今回検証に利用した環境です
- OS: Amazon Linux2 (5.10.109-104.500.amzn2.x86_64)
- インスタンスタイプ: m5.large
- PostgreSQL: 13.3
PostgreSQLはamazon-linux-extras使ってインストール後
- log_min_duration_statement = 1000
- log_statement = 'all'
のみ設定をデフォルトから変更しています
やってみる
テーブルとテストデータの準備
まずはテスト用のテーブルとテストデータを準備します。外部キーで参照する親テーブルです。
CREATE TABLE parent ( id serial PRIMARY KEY, val text ); INSERT INTO parent( val )values( 'hogehoge' );
続いてIMMEDIATE制約を持つテーブルを作成
CREATE TABLE not_deferrable ( id serial, parent_id int, val text, created_at timestamp, FOREIGN KEY ( parent_id ) REFERENCES parent (id) );
続いてデフォルトでDEFERREDモードを利用するテーブルを作成
CREATE TABLE initially_deferred ( id serial, parent_id int, val text, created_at timestamp, FOREIGN KEY ( parent_id ) REFERENCES parent (id) DEFERRABLE INITIALLY DEFERRED );
外部キーの無いテーブルも作成しておきましょう
CREATE TABLE no_fkey ( id serial, parent_id int, val text, created_at timestamp );
作成した各テーブルにテストデータを100万件づつ投入します
INSERT INTO not_deferrable( parent_id, val, created_at ) SELECT 1, repeat('hoge', 100), now() FROM generate_series( 1, 1000000 ) AS s;
INSERT INTO initially_deferred( parent_id, val, created_at ) SELECT 1, repeat('hoge', 100), now() FROM generate_series( 1, 1000000 ) AS s;
INSERT INTO no_fkey( parent_id, val, created_at ) SELECT 1, repeat('hoge', 100), now() FROM generate_series( 1, 1000000 ) AS s;
データの準備ができたので、pg_dumpでダンプを吐き出します。フォーマットはカスタムフォーマットとしました
pg_dump -d blog -Fc -f blog.dmp
計測してみる
準備ができたので以下のシェルスクリプトを実行して各テーブルにデータを投入した際の所要時間を計測します
#!/bin/bash LOOP_CNT=10 SLEEP_SEC=30 echo "start restore to not_deferred" for i in `seq 1 $LOOP_CNT` ; do psql -d blog -U postgres -c "TRUNCATE not_deferrable;" > /dev/null /usr/bin/time -f %e pg_restore -U postgres --data-only -d blog --single-transaction --table=not_deferrable blog.dmp sleep $SLEEP_SEC done echo "start restore to initially_deferred" for i in `seq 1 $LOOP_CNT` ; do psql -d blog -U postgres -c "TRUNCATE initially_deferred;" > /dev/null /usr/bin/time -f %e pg_restore -U postgres --data-only -d blog --single-transaction --table=initially_deferred blog.dmp sleep $SLEEP_SEC done echo "start restore to no_fkey" for i in `seq 1 $LOOP_CNT` ; do psql -d blog -U postgres -c "TRUNCATE no_fkey;" > /dev/null /usr/bin/time -f %e pg_restore -U postgres --data-only -d blog --single-transaction --table=no_fkey blog.dmp sleep $SLEEP_SEC done
やっていることはシンプルで、ループ処理の中で各テーブルに
- TRUNCATEを実行
- 行データをリストア
- チェックポイントやVACUUMが完了するまで十分な時間sleep ※よく考えたらTRUNCATEするのでループ内でsleepしなくても良かったかも...
を実行しつつ、リストアの所要時間を出力しているだけです。
結果は以下の通りでした
start restore to not_deferred 10.68 11.61 11.33 10.81 12.49 10.48 10.74 10.86 10.63 11.95 start restore to initially_deferred 10.49 10.90 12.40 10.49 10.91 10.56 10.66 11.74 10.49 10.57 start restore to no_fkey 8.19 5.26 5.89 5.28 5.29 6.54 5.29 5.63 7.41 5.31
結果
まとめるとリストアの所要時間は以下の通りでした
制約検査 | 平均 | 最小値 | 最大値 | 中央値 |
---|---|---|---|---|
なし | 6.009 | 5.26 | 8.19 | 5.47 |
IMMEDIATE | 11.158 | 10.48 | 12.49 | 10.835 |
DEFERRED | 10.921 | 10.49 | 12.4 | 10.615 |
10セットだけの計測ですが、パっと見る限りは制約検査のタイミングによって高速化しているようには見えないですね。
リストア時のログも確認しておきましょう。制約検査がIMMEDIATEなテーブルにリストアした際のログは以下のようなものでした。
2022-05-01 23:34:23.755 UTC [1264] LOG: statement: COPY public.not_deferrable (id, parent_id, val, created_at) FROM stdin; 2022-05-01 23:34:34.611 UTC [1264] LOG: duration: 10856.688 ms 2022-05-01 23:34:34.612 UTC [1264] LOG: statement: COMMIT 2022-05-01 23:34:34.612 UTC [1264] LOG: statement: -- -- PostgreSQL database dump complete --
対して制約検査がDEFERREDなテーブルに対してリストアした際のログです
2022-05-01 23:42:39.304 UTC [1457] LOG: statement: COPY public.initially_deferred (id, parent_id, val, created_at) FROM stdin; 2022-05-01 23:42:44.651 UTC [1457] LOG: duration: 5346.409 ms 2022-05-01 23:42:44.651 UTC [1457] LOG: statement: COMMIT 2022-05-01 23:42:49.870 UTC [1457] LOG: duration: 5218.817 ms 2022-05-01 23:42:49.870 UTC [1457] LOG: statement: -- -- PostgreSQL database dump complete --
COPY自体は5秒弱で完了していますが、代わりにコミットにも5秒弱かかっています。IMMEDIATEの場合はCOPYで1レコード投入毎に制約検査を実施しているためCOMMITのオーバーヘッドは小さいものの、DEFERREDの場合はCOMMIT時に全レコードに対して制約検索が必要になるため、このような結果になったと考えられます。
まとめ
今回の計測結果から考えると、DEFERREDな制約検査はドキュメントに記載されている
一行一行検査するよりも効率的に、「まとめて」検査
には該当しないように見えます。
今回の計測に利用したpg_restoreのオプションは
- DEFERREDな制約検査の効果を計測したいという意図があったので
--single-transaction
を設定 - 複数のテーブルへのデータ投入をサクっと比較したかったので、テーブルは再作成せずに
--data-only
で行データのみ投入
というものでしたが、実際にリストアを実行する場合はデータベース丸ごとリストアするケースが多いと思います。その場合は
--single-transaction
を外して、代わりに-j
で処理を並列化する--table
の指定を外してデータベース全体をリストアする
といった指定に変えることで、データ投入完了後に制約を作成するような動作となります。
pg_restoreのもっとも時間がかかる部分、つまり、データのロード、インデックスの作成、制約の作成部分を最大
number-of-jobs
の並行セッションを使用して実行します。 このオプションは、複数プロセッサマシンで稼働するサーバに大規模なデータベースをリストアする時間を劇的に減らすことができます。 データベースサーバに直接接続するのではなくスクリプトを生成する場合には、このオプションは無視されます。
https://www.postgresql.jp/document/13/html/app-pgrestore.html
これで
外部キー制約は一行一行検査するよりも効率的に、「まとめて」検査
するのが良さそうです。