[レポート] 動物管理を変革する衛星スマートイヤータグ / The satellite ear tag that is changing animal management #reinvent #AER201

Ceres Tag による世界初の衛星との直接通信を介して動物の情報監視をサポートするスマートイヤータグについてのセッションレポートです。
2022.12.11

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はじめに

こんにちは、最近は野鳥を愛でている Classmethod Canada の Funa です。今回は動物の耳に付けるスマートタグを開発したことで革新を巻き起こしている会社のセッションについてレポートします!

セッション概要

登壇者:David Smith, Co-Founder, CEO & Managing Director, Ceres Tag
Dan Iancu, Data Scientist, AWS

衛星耳

In this session, learn how knowledge from the world's first satellite-connected ear tags on animal sensors is changing the face of decision making for pet parents and wildlife conservation and impacting the protein food supply from biosecurity and sustainability to traceability and welfare.

日本語化したものはこちらです。

このセッションでは、世界初の衛星との直接接続を実現したスマートイヤータグからの情報資源が、家畜のオーナーと野生生物保護の意思決定の様相をどのように変え、バイオセキュリティと持続可能性からトレーサビリティと福祉に至るまで、タンパク質食品の供給にどのように影響を与えているかを学びます。

セッション資料

https://d1.awsstatic.com/events/Summits/reinvent2022/AER201_The-satellite-ear-tag-that-is-changing-animal-management.pdf
※ 2022年12月9日現在、本セッションの動画は公開されていません。

セッション内容

Ceres Tag とは?

Ceres Tag は世界初の衛星との直接通信を介して動物の情報監視をサポートするスマートイヤータグを開発しているオーストラリアの会社です。

Ceres Tag は「人と動物をつなぐ」というビジョンをもとに、トレーサビリティの確保のために使い捨てのスマートイヤータグである Ceres Trace と再利用可能な Ceres Ranch、野生動物の監視に特化した Ceres Wild を開発および販売しています。

これまでの技術をペットに応用する Salus Pet は現在開発中とのことです。

ceretag-vision

スマートイヤータグの特徴

Ceres Tag のスマートイヤータグは GPS デバイスを内蔵しているため、動物が敷地内のどこにいるかを監視することが可能なほか、タグをつけた動物が敷地外に脱走した場合や盗難被害に遭った場合にリアルタイムでアラート通知する機能がついています。また、高性能の加速度計や周囲温度把握機能によって動物がどのような行動をとっているか、健康上の問題はないかなども把握することができます。

こういった機能から「動物の Fitbit」と称されることもあるらしいのですが、私は「動物の CloudWatch みたいだな...」と思いました。

ceretag-tech

利用者にとっては、このスマートイヤータグを購入すれば衛星に直接データが配信されるためネットワーク周りのセットアップや追加のインフラ構築をする必要がなくコストを大幅に抑えられるところ、電池交換なしで 10 年以上機能するところに大きな魅力があるそうです。

超大企業が管理してる大牧場とかならともかく、一般の牧場主ならそこまでインフラにお金や手間はかけられないし、かけたくないですもんね。。

タグの付与〜収集したデータが利用可能になるまで

ceretag-hardware

スマートイヤータグの収集したデータが利用可能になるまでの道のりは以下の通りです。

① スマートイヤータグを動物に付ける
タグが付けられた動物の情報を収集し、行動に問題がないかを分析します。通常時と異なる行動が見られた場合はアラートが通知されます。 タグは定期的にデータを収集し、一日あたり最大 4 回情報を衛星へ送信します。

② 衛星が情報を受信する
パートナーである GlobalStar ネットワークを使用して衛星への接続を行い、衛星はスマートイヤータグから情報を受け取ります。

③ データプラットフォームにてデータが結合される
中央化されたデータプラットフォームで全てのデータが結合されます。

④ Ceres Tag のパートナー企業のソフトウェアプラットフォームにてデータが利用可能となる
利用者のニーズに合ったパートナー企業のソフトウェアプラットフォームにてデータが利用可能となります。データが蓄積されていくことでパフォーマンス傾向などが観察できるようになるため、利用者はより実践的な戦略が取りやすくなります。

登壇者で CEO の David さんは、自分たちではプラットフォームを作らずに動物/農場管理ソフトウェアプラットフォームとパートナーになっていることに重点を置いていました。
Ceres Tag としてはプラットフォームを一から作る必要がなく、利用者としては自分の好みに合った既存のプラットフォームを選択できるので Win-win でスマートなやり方だなと思いました。

タグを使うことでどんな利点があるの?

 cerestag-benefits

Ceres Tag によって以下の利点などがもたらされます。

  • アニマルウェルフェアの向上
  • 健康状態を管理/観察
  • 脱走時のアラート通知
  • 家畜の収集効率の向上
  • 牧草地の使用率の向上
  • 行動傾向についてのレポート化
  • カーボン・ファーミングのためのデータの視覚化
  • 資産台帳の作成
  • 窃盗の抑制
  • 資金援助や保険へのアクセスが向上

いくつかの例を見てみましょう!

バイオセキュリティ(防疫対策)

biosecurity

Ceres Tag は口蹄病(FMD)や狂牛病(BSE)などの深刻なバイオセキュリティ侵害が発生した場合に、世界で唯一の自動化されたリアルタイムの検出を行い、接触過程を追跡することが可能です。また、結膜炎などの治療可能な病気を検出したときにはアラート通知を行います。

畜産業界で伝染病が発生して大量処分という流れを妨げる一手になる素晴らしい技術だと思いました。画像が辛かったのでモザイクを入れました。

自然災害や天敵による攻撃時の通知

cerestag-disasters

自然災害によって敷地外に飛ばされた動物の位置を特定したり、捕食者の攻撃が発生した場合に遭難したことを通知します。

動物がどこに行ってしまったかを把握できるだけでなく、生産者が誰かを特定するのにも繋がります。

土地利用の効率化

efficiency

  • カーボン・ファーミングのための情報生成
  • 牧草のより良い遺伝的育種選択のための情報使用
  • 土地利用の改善

実演でこれを見たときにオーストラリアとかアメリカとかデカい国ならではの問題だと思いました。土地がとにかくデカい。

AWS をフル活用したアーキテクチャ

cerestag-aws (参照)The Satellite Ear Tag that is Changing Cattle Management

アーキテクチャの一部を説明すると以下の通りとなります。

  • 衛星から AWS Ground Station を使ってデータを受け取り、IoT データベースへと移動した後は AWS PrivateLink を経由して Ceres ポータルと接続を行います。

  • CloudFront と Route 53 の位置情報ルーティングを利用してユーザーがどこにいてもレイテンシーの少ないアクセスを提供できます。ALB が差す Web API の基盤としては、Fargate を使用しています。

  • 認証は Amazon Cognito を使用して Facebook、Google、Amazon などのソーシャル ID プロバイダーを利用できるようにしています。

詳細は SHIO さんが同じセッションに出ていて先にブログを書かれているため、そちらもご参照ください。

AWS Ground Station!そういえば衛星周りも AWS はカバーしているのでした(オペ周りでは触れないのでど忘れてしていました)。AWS をまさにフル活用という感じで良いですね。

カナダでのユースケース

さて、カナダ民としては見逃せないのがカナダでのユースケースです。

cerestag-canada

  • カナダでは、敷地を移動することが制限される寒い冬の間、スマートイヤータグを使用して動物を監視している。
  • ブリティッシュ・コロンビア州など一部の州では、動物が捕食またはその他の理由で死亡したことを証明できれば、農家はスマートイヤータグの約 2 倍の 300 ドルの払い戻しを請求できます。

カナダの冬に動物が逃げたとなると、車を温める所から作業が始まる一仕事になるので冬の間の遠隔監視は重要になるかと思います。300 ドルの払い戻しができる政策があるということなので、BC 州だとスマートイヤータグは導入しやすそうですね。

カナダでのユースケース②

最後にカナダのマニトバ州で Ceres Tag のスマートイヤータグを使用している事例がありましたのでこちらも紹介します。

(参照) Satellite tracking of cows still a work in progress

【利用して感じた良い点】

  • インフラストラクチャを構築しないでスマートイヤータグだけで完結するシステムは非常に優れている。
  • 他社のイヤータグは衛星との直接通信に対応しておらず、基地局の近くの範囲のみでしか利用できないので Ceres Tag の衛星直接通信は有利である。

【利用して感じた問題点】

  • スマートイヤータグはオーストラリアで開発されているため、マイナス 21 度で電源がオフになってバッテリーの電力を節約するように設計されている。
  • 一日最大 4 回というアップロード間隔では繁殖活動に関するデータなど詳細なデータを集めることが難しい。

カナダも土地がとても広大なので、衛星を介してデータ通信ができる Ceres Tag のスマートイヤータグはやはり需要のあるものとなりそうです。ただカナダの地域の多くは冬にマイナス 20-30 度になるのが普通なのでそこはこれから課題となるかもしれません。

感想

結構最先端の技術だなと思って最初のうちは聞いていたのですが、ユースケースを聞くと結構小規模な牧場主から野生動物の研究者、国家規模でも利用されているのが興味深かったです。あと、イヤータグから得られる利点が多種多様で利用者次第でいろいろな使い方ができるというのでこれからも需要が伸びそうだなと思いました。

また、AWS Ground Station を実際に使用している事例を見たのは初めてだったので、一般企業が衛星を利用したサービスを提供できるというのはすごい時代だなとしみじみしました。