Scrum Fest Sapporo 2021 で「週刊スクラム御意見番:クラスメソッド版」という発表してきた
はじめに
こんにちは、グローバル事業部の藤村です。2021年11月4日〜11月6日に開催されたScrum Fest Sapporo 2021で、「週刊スクラム御意見番:クラスメソッド版」という発表をクラスメソッド社内の『スクラムマスター向上委員会』の皆さんと一緒にしてきました。登壇に至った背景を説明するとともに当日の発表内容をブログ上で再現したいと思います。
プロポーザルの内容
クラスメソッドのCX事業本部には、スクラムマスターが組織横断で緩くつながる目的で結成した、『スクラムマスター向上委員会』という非公式グループがあります。
今回スクラムマスター向上委員会のメンバーが、CX事業本部内の各スクラムチームのスクラムイベントを順に見学し、われらが御意見番が、厳しくも愛のある、ご存じ『喝!』に加え、吟味に吟味を重ねたスーパープレーに与えられる『あっぱれ!』ってことをやりたいと思います。
プロポーザルを出した背景
アジャイルやスクラムを適用したソフトウェア開発の現場において、極端にアジャイルのマインドやスクラムのルールから逸脱しているようなケースを除くと、"正しいスクラム"や"間違ったアジャイル"のように明確に分別できる状況はあまりなく、またそもそも"よりよい開発方法を見つけだそうとしている"活動において、そのように考えること自体無意味なことでしょう。
なんて今でこそ、このように分かった風なことを書けるようになりましたが、アジャイル、スクラムに取り組み始めた当初は、「こういった場合、スクラムでは"普通は"どうやるんだろう?」、「このやり方が正しいと思って取り組んでるけど、世の中的に見たら全然見当違いのことをやっちゃってたりしないだろうか…」などの不安を常に感じていました。そんな時、アジャイルの勉強会やカンファレンスなどに参加して経験豊富な人を捕まえて相談しても、結局は"It depends(場合による)"と言われてしまい、正直モヤモヤした気持ちを感じた覚えがあります。
そういったコンテキストに依存することが多いアジャイル、スクラムでの振る舞いを学ぶ手段として、『デッドライン』や『The DevOps 逆転だ!』など一つの長いストーリーを通して学びを深めるスタイルの書籍や、『スクラム現場ガイド』のようにテーマ毎に短いストーリーを提示することでコンテキストを疑似体験し、学びを深める取り組みも行われてきました。そういったスタイルの書籍は学びを深める上でとても有効ですが、読むのに時間もかかりますし、コンテキストを伝えるなら文字よりも映像コンテンツのほうが適していいるのではないかと考え、今回動画でコンテキストを表現することにトライしてみました。なお、以下で紹介する動画の内容は実際にクラスメソッド社内のアジャイル、スクラムの現場で見聞きしたコンテキストを少しばかり誇張した内容となっています。
こうして準備した動画に対して、クラスメソッドのスクラムマスターズが各々自分の意見を述べたところで「それはあなたの感想ですよね?」になりがちですし、論点がぼやけてしまうことでしょう。そこで、お題としてのスクラムマスターの振る舞い動画に対して、「正論、表面的、ロマン的、老害、熱血」の象徴としての「藤村」、「現場感、本質的、古典的、若さ、冷静」の象徴としての「坂野」というペルソナを設定し、それぞれのペルソナが喝とあっぱれというスタンスを明確に示すことでコントラストを明確に表現し、また「無関心」の象徴としての「ガオリュウ」が淡々と話を進めるというスタイルに至りました。その表現方法としては、日曜午前のニュース番組内のスポーツニュースコーナーのフォーマット以外には考えられず、この形に至ったのは必然だったといえることでしょう。
以下に、コンテキストを理解するための動画と、それぞれのペルソナのスクリプトを記載します。それぞれ見てもらった上で、「自分は"藤村"派かな」とか、「私は"坂野"派よ」とか、または「俺だったらこうする!」などチームメンバーと話し合うことで、アジャイル、スクラムの理解を深めたり、チームメンバーの価値観、考え方の相互理解を深めてもらえると幸いです。それでは当日の登壇内容の再現を御覧ください。
登壇内容再現
オープニング
- ナレーション(ガオリュウ)
- このセッションはクラスメソッドの提供でお送りいたします
- ガオリュウ
- はい、では週間ご意見番の時間です
- 藤村さん、お願いします
- 藤村
- 宜しくお願いします!
- いやー、スクフェス札幌、盛り上がってますね!スクフェス最高!北海道最高!
- 私、新婚旅行は北海道だったんですよ
- 2週間ぐらいかけて北海道を周りましてね
- あ、その話は良い?
- ガオリュウ
- あー、そうなんですね
- 今週のゲストは、クラスメソッドでスクラムマスターやってる坂野さん
- 宜しくお願いします
- 坂野
- 宜しくお願いします
- ガオリュウ
- クラスメソッドのスクラムあんなことこんなこと
- そんなの見て面白いんですかね
- では時間もないので早速見てみましょうか
凍結注意!
- ガオリュウ
- 凍結注意?なんだろう
- 藤村
- 喝だ!
- 突然半年延びるって言われたら誰でも凍りますよ
- 何か相手に伝える時はQCDSの観点で選択肢も提示しないと
- QCD固定で今年の9月が必達なら、スコープを可変にして、どこまで削ればそれが実現できるかを示すとかさー
- で、QCS固定にして、スコープを全部作るなら、来年の3月ってことでしょ
- その間にも落とし所あると思うんだよね
- 例えばQDS固定して、開発チーム増やせないかとか
- そもそも当初はどうやって見積もったんですかね
- 開発チームは全体ポイント知らなそうだったし、何を根拠に今年の9月って言ってたのか、そこが知りたいね
- とはいえ、アジャイルで進める際の概算見積もりは難しいよね
- 昨夜も概算見積もり資料作ってて、Day0全く参加できなかったんですよ
- 絶対この通りにならない
- けど、お客さんとしても目安を知りたい
- 永遠の課題だね
- あと、これは1スプリントやっただけの結果でしょ?
- これからベロシティあげていく気概もほしいもんだよ
- 喝だ!
- ガオリュウ
- あー、そうですか
- 坂野さんはどう?
- 坂野
- 藤村さん熱いですねー
- 私はこれあっぱれですね。
- 確かに今回の場合インパクト強くて場は凍ったと思うんですが、重要な情報を最初に共有するのは素晴らしいですね
- やっぱり透明性を担保する上では、ありのままの情報を伝えるってことが肝心だと思うんですよね
- ここで気を遣って裏で工作したり、事実と違う事を伝えても意味ないじゃないですか
- 藤村さん言ってた通りスプリント1の結果はそんなに信頼できないけど、早く状況を共有するのは大事ですよね
- 以降のスプリントで見積もりの精度も上がっていくんでしょうし。
- このチームはここから何を優先して開発を進めていくのか、品質なのかスピードなのかなんなのか、皆で話し合っていくんじゃないですか?
- いい傾向だと思いますよ。
全てを受け止めるスクラムマスター
- ガオリュウ
- 続いては全てを受け止めるスクラムマスター?
- ふーん、何を受け止めたの?
- 藤村
- あっぱれあげてください
- いやー、いいねー、あのスクラムマスター。まるで私みたいだね
- それにしても元気だね!見てて清々しい!
- 見たでしょ?皆に頼られまくってましたよね
- まさに真のリーダーとは彼のことを言うんだろうね
- 彼みたいに頼りがいのあるスクラムマスターがいると、チームも安心して開発に集中できるってもんだ
- 以前のスクラムガイドだと、サーバントリーダーシップなんて言われてたじゃないですか
- その結果、彼みたいにグイグイ引っ張る人がいないスクラムチームとかも多いんだよ
- せっかくメンバーが悩み相談しても、あなたはどう思います?じゃあやってみてください、私は陰ながら支えますじゃあ、実際チームが動かないんだよ
- 3人分働いてるから給料3倍にしてあげてください!
- あっぱれあげてください
- ガオリュウ
- あー、そうですか
- 坂野さんはどう?
- 坂野
- これ僕喝ですね
- スクラムマスターが全部回してるじゃないですか
- 真のリーダーというより過保護な親っぽくないですか?
- もっと個人個人に考える隙を与えないといけないんじゃないですかね
- ついつい口出したくなる気持ちもわかるし、自分もやっちゃうんですが、それじゃメンバーは当事者意識薄れちゃうし、チームは育たないんですよね
- こういう時は上手くチームメンバーに回して、皆で意見を出し合えるような場を整える役割を意識した方がいいんじゃないかなあ
- もっとメンバーを信用してあげましょうよ
- これ僕喝ですね
感謝の大連鎖!(Part1)
- ガオリュウ
- 続いては感謝の大連鎖?
- まあ、見てみますか。
- 藤村
- あっぱれあげてください
- いやー、感謝で満ち溢れてて、最高のレトロスペクティブだね!
- これ、受託開発でしょ?お客さんとも素晴らしい関係が構築されているね
- こんなチームで働けたら幸せだなー
- しかも、自分が感謝されてそれで終わりじゃなく、他の人に連鎖していくの、本当にハッピーなチームだね。まさにジョイインク!ジョイチーム
- 感謝がぐるっと一周しちゃいそうだね。2周も3周もやっちゃえば良いのに
- こういった相互感謝がまさにチームに重要
- 最高のチームだと思うね!
- あっぱれあげてください
- ガオリュウ
- あー、そうですか
- 坂野さんはどう?
- 坂野
- 喝ですね
- 見てる感じ、ポジティブなこと言わないといけないって雰囲気でてません?
- 逆にシビアなことを言うのが躊躇われるような
- 全体に感謝が連鎖していく組織ってすごく素敵なんですが、連鎖をとめてシビアな話がし辛くなっているような気がしてます
- Bさんのように、課題の話題を出したい人もいたように見えましたね
- そういうときあえてスクラムマスターはネガティブなことを言ってみるとか、拾ってみる、話を切り替えてみることがプロダクトの価値を高める上では大切なのかなって思いますね
- 喝ですね
感謝の大連鎖!(Part2)
- ガオリュウ
- ん?続きもあるの?
- そっちも一応見てみましょうか。
- 藤村
- 喝だ!
- え?これ良くなったの?
- せっかく丸く収まりかけてるのに、あのスクラムマスター余計なこと言っちゃったよって思っちゃったよ
- あんまり悪く言いたくないけど、いい雰囲気が台無しじゃないかね
- 皆が幸せな気持ちになってるんだから、あれはあれで良いんだよ
- 褒め合う時は褒め合う、Keepでは褒める。あんまりやんないけど、Fun!Done!Learn!のFunも近いイメージだね
- KPTやってるんですよね?どうせこの後Problem話す時に問題を指摘すれば良いんじゃないの?
- 私はメリハリが重要だと思っちゃうけどね
- 喝だ!
- ガオリュウ
- あー、そうですか
- 坂野さんはどう?
- 坂野
- あっぱれですね
- 感謝するやりとりばかりではなく、良いことに関しても「今後どうしていくか」「懸念点や見落としがないか」をちゃんと発言できる雰囲気にした方がよりプロダクトが良い方向に向かうんじゃないですかね?
- チームの状況によってはスクラムマスターが頑張って感謝を強調するのも必要だったりしますが、やりすぎると問題点を見つける力が鈍っちゃいそうな気がします
- 上手くいってるからまあいっか。って油断しちゃうと言うか。。
- チームとしては中立な視点を持てるようにすることが良いと思うんですよね
- 藤村さんが言ってるようにProblemで話し合うんでしょうけど、結構Problemってこういう話し合いから全体の課題になりえるって僕は思ったりします
- 喫煙所での何気ない会話から問題を認識できた、顕在化したってよく聞きますよね?あれに似てると思ってます
- あっぱれですね
その時、スクラムマスターが動いた
- ガオリュウ
- 続いてはスクラムマスターが動いた?
- え?いつも動いてないの?
- まあ、見てみましょうか。
- 藤村
- 喝だーー!
- 動くの遅いよ!何やっちゃってんのよ!
- 寝てんのかと思っちゃったよ
- 皆不安になっちゃってるじゃんか
- これ、受託開発でしょ?違うの?
- お客さんのPOの前で、彼は大物だねー
- 発注者から、もっとちゃんと働けって思われちゃわないかね
- 私なんて小心者だから、全部返事しちゃうね
- さっきも話したけど、グイグイ引っ張らないスクラムマスターが多いと思うんだよなー
- あとさー、ついでに思いついたこと言っても良いでしょ?
- 今言わないでいついうの?今でしょ!思いついたら言おうよ!
- せめて何言うのか聞いてから判断しないと
- 全体的に怠慢なプレーだと思っちゃうなー
- 喝だーー!
- ガオリュウ
- あー、そうですか
- 坂野さんはどう?
- 坂野
- 藤村さんさっき「ついで」っていいました?まあいいや、私は「あっぱれ」で
- ここまで自分の意見を抑えておくの、結構勇気いりますよー
- 多分なんですがこのスクラムマスターさん、同意の場合は何も言わないっていうの、話し合いの場から自分の意見をなるべく排除しようとしてるんじゃないですか?
- スクラムマスターってファシリテーションすることが多いから、口に出した内容が結構通りやすいと思うんですよね
- そうすると結局何でもかんでも考えた意見が反映されちゃう危険があるかも
- それに意見言うとしても、一歩引いた立場から物事見れた方が新しい考えを提示できるしいいんじゃないですか。信頼の証と私は取りたいですね
- ただ藤村さん言ってる通り発注者からの見え方も重要だし、関係者なんだからもう少し愛想良くするとか、相槌は行うとかした方がいいですね
- 藤村さんさっき「ついで」っていいました?まあいいや、私は「あっぱれ」で
クロージング
- ガオリュウ
- あ、そろそろ時間?
- では今年はここまでで。
- 藤村さん、坂野さん、ありがとうございました
- 藤村、坂野
- ありがとうございました!
まとめ
禅の修行のスタイルとして、ひたすら坐禅・瞑想をする「只管打座」と、師から示された公案という問答、問題(いわゆる禅問答)について考え、理解していくスタイルの「看話禅」があります。
アジャイルマニフェストやスクラムガイドを読むだけではアジャイル、スクラムのマインドセットを理解することが難しいため、ひたすら現場での実践を通して理解を深める、いわゆる「只管打座」のスタイルが多く用いられてきていると思います。一方で禅の公案のように正解があるわけではないような問題に対して、師(先輩スクラムマスターやアジャイルコーチ)との問答を通して理解を深める、いわゆる「看話禅」的なアプローチも有効ではないかと以前から考えており、今回はその実験的な取り組みの第一弾となります。
アジャイル、スクラムを悟るための一つのステップとして、今後も試行錯誤していきたいと考えているので、ぜひフィードバック頂けると幸いです。いずれは公案集的なプレイリストを作りたい!
さいごに
今回初めて社内の『スクラムマスター向上委員会』の皆さんとともに準備から登壇までチームとして取り組んでみましたが、やっぱりチームでの活動はめっちゃ楽しいですね!いつもは一人で登壇することが多かったのですが、今後はチームでの登壇にも積極的にトライしていきたいと思います。
そんな『スクラムマスター向上委員会』の一員になってくれるようなスクラムマスターを絶賛募集中です!
既にスクラムをバリバリ実践しているスクラムマスターの方、これからスクラムマスターとしての経験を積んでいきたい方、ぜひお気軽にご相談ください!