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組織とは何か?~集団と組織の違い

2021.10.28

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CDOとしてクラスメソッドにジョインした私の役割は、「デザイン組織を作ること」です。

しかしそもそも「組織を作る」とはどういうことなのでしょうか?

さらにいえば「組織」とは何なのでしょうか?

例えば4人が集まっていればそれは「集団」であるといえますが、何があれば「集団」ではなく「組織」になるのでしょうか。

この「組織の定義」を紐解くことがデザイン組織作りの大きなヒントになるのではないかと思い、改めて考えを整理してみました。

組織の定義

「組織」という言葉はあまりにも当たり前に存在しすぎてて、組織がテーマのビジネス書であっても明確な定義がなされていないことも多いです。

P.F.ドラッカーの名著『マネジメント(エッセンシャル版)』では、「マネジメントなしに組織はない」と冒頭に語られます。しかし組織が何であるかの定義は特になく、そのまま話は進んでいきます。

世界中の経営者やマネージャーに影響を与えたベストセラー『ティール組織』においても、組織という言葉の定義は冒頭になく、新しい組織のあり方の話にいきなり突入していきます。

ビジネス書ではなく辞書的な用語の定義を調べてみると、以下のように書かれていました。

  1. 組み立てること。組み立てられたもの。
  2. 一定の共通目標を達成するために、成員間の役割や機能が分化・統合されている集団。また、それを組み立てること。
  3. 生物体を構成する単位の一つで、同一の形態・機能をもつ細胞の集まり。
  4. 岩石を構成する鉱物の結晶度・大きさ・形・配列などのようす。石理。
  5. 織物で、縦糸と横糸とを組み合わせること。織り方。

ビジネス文脈で使われる「組織」は当然2のことになりますが、この定義の中に組織を考える上での重要なワードがいくつか含まれています。それは「目標」「役割」「機能」「分化・統合」といった言葉です。

また、一橋大学の経営学者・沼上幹氏が著した『組織デザイン』の中では、組織の特徴は以下の2つに集約されると書かれています。

  1. 分業…役割が分けられ、それぞれの役割を分けることで、たとえば専門性を発揮させるなど、何らかのメリットを追求している
  2. 調整…分業の一部ずつを担っている人々の活動が、時間的・空間的に調整され、多数の人々の活動が、あたかも一つの全体であるかのように連動して動くようになっている(あるいは、そうなろうと努力している)

ここでも「分業」「役割」「調整」「連動」という言葉が、組織を規定する重要なワードになっています。

ただ、これらの辞書的な定義や専門家の定義は抽象度が高く、現場でメンバーと共有するにはもう少しシンプルな定義にする必要があると思いました。

そこで私はこれらの定義に私自身の経営者や組織人としての経験を加えて、組織というものを以下のように解釈しました。

「組織とは目的・ルール・役割が共有された集団」

言い換えれば、「目的」「ルール」「役割」の3つが集団を組織たらしめる構成要素である、ということです。

集団と組織の違い

構成要素1:目的

組織には共通の目的が必要だ。そう言い切っても、それほど違和感を覚えないはずです。多くの人が経験則的にそうだと感じているからでしょう。

同じ時間・同じ場所に集まっていても、共通の目的を持たず、ある者は本を読み、ある者は電話をし、ある者は食事をしている、という集まりであったなら、それは集団であっても組織とは言い難いものです。

しかしその集団が、「自分たちの商品を売って世の中の困ってる人を助ける」という共通の目的を持ち、そのための学習として本を読み、その目的を達成するために電話をし、そのための休息として食事をとっているのであれば、その集団は組織といえます。

ある程度以上の規模の企業には大抵、ミッションやビジョンが設定されています。最近はミッションと似たパーパスの重要性が語られることも多いです。(そもそもPurpuseの直訳は「目的」なので、言葉通りに捉えると変な話になるのですが)

ミッション・ビジョン・バリュー・ビジネスの関係

これらミッション、ビジョン、パーパスの効果は顧客獲得、採用、IRと多岐に渡りますが、組織マネジメントの観点からも有効と考えられます。規模が大きくなって様々な価値観を持つ人がジョインして組織が複雑化すると、ミッション・ビジョン・パーパスのような共通の目的が何もないと、組織的に動くことが難しくなりやすいです。

このことを別の側面から見れば、組織作りを任された者が最初にすべきは「良い目的を設定すること」だともいえます。

ここであえて「良い目的」と書いたのは、目的は設定さえすれば何でもいいわけではなく、組織に好影響を与える目的とそうでない目的が存在するからです。例えば「世界中の人々を幸せにする」という目的を設定したとしましょう。とても立派な目的ですが、壮大過ぎるのと抽象度が高すぎるのとで、私なんかはこの目的をうまく自分事化できません。そんな感性の人で構成された集団/組織にとっては、これは「良い目的」にはなりにくいでしょう。

良い目的の定義

このように考えると、組織化のために設定される目的というのは、そこに集まった人々の価値観と事業や商材の特性や世界観を踏まえた上で、組織を有機的に動かす原動力になりえる、現実的で共感しやすく自分事化できる目的を設定する必要があるのだと思います。また、目的の抽象度は組織のレイヤーによって変わるため、会社全体の目的と、それをブレイクダウンして解像度を高めた事業部や職種の目的というような多層構造が必要になるケースも多いでしょう。

ちなみに、クラスメソッドには「オープンな発想と高い技術力により、すべての人々の創造活動に貢献し続ける」という理念がありますが、デザイン組織を作るにあたって私は、これを前提とした上でさらにブレイクダウンした各デザイナーの目的として「ユーザーの味方であり続ける」を仮設定しました。

クラスメソッドのデザイン組織のミッション

仮設定なのはまだ変える可能性があるからなのですが、まずは叩き台として、デザイナー陣にこれを提案しました。本記事ではこのミッションの意図や真意について語り切れないところがあるので、また別の記事で言及します。

構成要素2:ルール

ウェブデザイナーとしてのキャリアを持つ私には、JavaScriptやActionScriptといったプログラムを積極的に書いていた時代もあったのですが、時々、組織作りとプログラミングは似ているな、と感じます。

例えば「ウェブサイトで商品を買えるようにする」という目的を達成するシステムを作るためには、その目的を実現するための機能やタスクを定義した上で、そのプラットフォーム上で実行できるプログラムコードを書いていきます。

このプログラムコードこそが、組織における「ルール」なわけです。

近年はセルフマネジメントを基本とする自由で裁量のある組織が好まれる傾向にあり、それ故に「ルールは絶対に守れ」などとリーダーが発言しようものなら、社員を強固に支配しようとする時代錯誤なリーダーなのではないかと、ネガティブに受け取られがちです。

2020年秋に刊行されたNETFLIX共同経営者リード・ヘイスティングス著の『NO RULES』は、経営者やマネージャーを中心に話題になり、日本国内だけでも5万部以上売れている大ヒットビジネス書となりました。

書籍:NO RULES

NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX

この中で紹介されている経営手法が、書籍のタイトルとなっているノー・ルールズ、文中の言葉を借りれば「コントロールの撤廃」です。

こう書くと、「やはり現代の正しいマネジメントはルールを作らないことだ」と思うかもしれません。しかしこの『NO RULES』には、コントロールを撤廃することは一度の挑戦でうまく行くものではなく、大きくは3つの段階を踏むことが書かれています。つまり見方を変えれば、組織が成熟するまではルールや規律の力を借りる必要があるということです。本書の中では「会社が成長する段階では、ルールや管理プロセスがなければ組織がカオスに陥る」とも明言されています。

そして、世の中にある多くの組織がルールを撤廃できるほど成熟した状態にはなく、まずはルールの力を借りなければ組織が成り立たない、というのが現実ではないかと思います。

これはクラスメソッドのデザイン組織においても同様で、各人はデザイナーとして社内で活躍しながらも、組織としては明確な形を持っていない状態です。このような状態の組織はまず、ルールによって組織の形を作っていく必要があるでしょう。

ただし、なんでもかんでもルールを作ればいいわけでもありません。ルールの中には「良いルール」と「悪いルール」があります。

良いルールと悪いルール

例えば交差点には信号があり、赤の時は止まむ、緑の時は進む、というルールが決められています。そして100%に近い車がこのルールに従っています。これによって車は、交差点の度にブレーキを踏む必要がなくなり、短時間で目的地に到着できるようになっています。さらに深刻な事故などのリスクも最小化できます。これは良いルールと言えるでしょう。

一方で、高速道路に5kmおきに信号を置いて一時停止を促すルールを設けるのはどうでしょうか。せっかくの高速道路のメリットが大きく減退します。さらにそれによって防げる事故というのが、果たしてどのくらい発生するのでしょうか。こう考えると、このルールはデメリットの方が圧倒的に多い悪いルールと言えます。

組織づくりの初期段階では、良いルールを積極的に作り、悪いルールは積極的に撤廃していく、ということをしていく必要があります。

なお、組織がルールを扱う時に一番難しいのが、ルールを作ることではなく、ルールを定着させることでしょう。赤信号を守らない人を許すようなルールはルールとして機能しません。ルールを作るからには遵守が必須になります。

しかしながら、人命や健康や経済性と直結しないルールの場合、「理由があればルールを守らなくてもいい」「納得できない人がルールを守らないのは仕方がない」という例外運用をしがちです。このような例外運用を許した途端、ルールは形骸化して組織は形を失いきます。

一方でルールを設定した初期には、ルールの不完全さなどもあり、組織内のハレーションやメンバーの中での心理的な抵抗が生まれることが往々にしてあります。こうしたルール作りの細々とした微調整と根気良いマネジメントによって、ルールが習慣になり、組織のメンバーがほぼ無意識でそれを守ることができるようになる状態を作っていく行動が、組織を率いる人には求められてきます。

構成要素3:役割

一般的に組織の人数が増えるにつれて、多くのルールが必要になってきます。そしてそのルールの多くを一人では実行できなくなると、役割分担が必要になります。事業や職業によっては、組織の最小単位である2人の時点でさえ、役割を明確にしないと組織がうまくまとまらなくなることがあります。

組織の中で起きる機能不全の何割かは、この役割の不明瞭さや未設定によって起こります。

役割が不明瞭だと、誰も担当せず、責任を負わない、グレーゾーンが生じることです。これは上司がやるべきか部下がやるべきか、これは営業部がやるべきか開発部がやるべきか、これはエンジニアがやるべきかデザイナーがやるべきか。仕事の中には必ずこうしたグレーゾーンが発生しますが、役割が決まってないことで誰もこのグレーゾーンを実行せず、その結果組織やプロジェクト上の大きな問題に発展することがあります。

また役割が不明瞭なことで、逆のことが起こることもあります。役割が不明瞭なことで、AさんとBさんで同じ仕事をしてしまい、結果的に無駄が生じるようなケースです。未成熟な組織では、このようなグレーゾーンの放置や業務重複により生産性の低下が、そこかしこで発生します。これらを回避する正攻法が、明確な役割を決めることです。

役割の不明瞭さとは

上手な役割定義ができれば、良いルールを順守する負荷が軽減し、組織習慣となり、組織は自然と目的に向かって進んでいくようになります。

ただし、役割の明確化にはトレードオフも発生します。役割定義が精緻で細かくなればなるほど、誤解や行き違いは減りますが、自分自身で思考することも減ってしまいます。つまり、思考停止的な判断が蔓延し、柔軟で臨機応変な対応ができなくなります。また不確実性がある現代において「ルールがないと的確な判断ができない人材」というのが非常にリスキーです。組織の存在意義の中には「所属するメンバーの市場価値を高める」という側面が不可欠だと思いますが、その観点でいえば役割分担が過度に細かすぎる組織は、それはそれで問題があるように思います。

私自身は、役割の粒度は、組織の階層によって変えていくべきと考えます。新社会人や入社歴が浅い人が属するもっとも末端に位置する組織や仕事においては、もっとも細かく役割定義をします。精緻な役割定義があれば、例え未経験で入社しても短期間で即戦力化が可能になります。一方でそこから組織の上部に移行するにしたがって、役割を曖昧にし、目的中心に行動していくようにします。マネージャーのような立場の人間は、新たに発生した未知の問題と対峙し、必要に応じてルールや役割を作る立場の人間です。こうした人間が「役割が決まってないと動けない」では組織は自律的に機能しなくなるでしょう。そのため、責任と権限を与えながら、目的達成のためにはある程度の自由度を与えていきます。

そして組織の最上部にいる経営者やCxOのような立場になると、役割はかなり曖昧になり、例え自分の本来の職務領域でなくても必要であれば飛び込んでいくような行動が求められます。

役割定義の粒度

このように、役割は組織を形作る上で非常に重要な構成要素ですが、細かく定義すればいいわけではなく、立場や職能特性などによって、その粒度をうまく使い分けていく必要があるものだと思います。

「組織を作る」とは?

組織の基本的な構成要素が何かが分かれば、「組織を作る」というのがどういうことかも明確になります。つまり目的を設定し、それが実現できるルールを作り、役割を決める。これこそが組織を作る、ということです。

この基本はデザイン組織においても例外ではなく、私がクラスメソッドでやるべきことも、まさにこれになります。ただし、当然ながらデザイナーならではの特性、あるいはクラスメソッドという会社のデザイナーだからこそ、ということは必ず存在します。

こういった現場最適の試行錯誤も含めて、組織作りに関する思考や取り組み、社内に向けて話したことなどを、今後もDevelopersIOで発信していこうかと思います。

※この記事はクラスメソッド社内でデザイナーに向けて行ったプレゼンテーションを元に構成しています。

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組織作りから始めている状況で体制としてはまだまだですが、逆にいえば中心メンバーとなって一緒にデザイン組織を作っていくことができます。クライアント向けのデザイン以外に自社サービス向けのデザインを手掛けることもできます。また社員の9割がリモートワークであり、デザイナーも東京近郊以外に、岡山、神戸のメンバーもいて、働く方を柔軟に作ることができます。

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