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デザイナーが身に付けたい4つのコミュニケーションマインド

2021.12.16

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私が新卒で配属されたのは営業でした。

ただ、初対面の人と話すのが苦手という典型的な人見知りだったため、コミュニケーション力で勝負する営業や、それに類する職種では生き残れないと思いました。デザイナーという職業に転職したのは、「自分の腕で勝負する仕事に就いた方がいい」という私なりの生存戦略だったわけです。

しかし、デザイナーになって、余程の天才でない限り、腕(=専門スキル)だけではやっていけないことに気が付きました。

コミュニケーション力に関してはもしかしたら営業と同レベルで必要かもしれません。デザイナーとして本当に良い仕事がしたければ、デザインに関する専門スキルだけにフォーカスせず、仕事の中でカバーする領域をもっと拡げるべきだと思うようになりました。

デザイナーがカバーすべき3つのデザイン領域

私が考えるデザイナーがカバーすべきデザイン領域とは、図にすると以下のようなものです。

デザイナーがデザインすべき3つの領域

それぞれについてもう少し詳しく説明します。

アウトプットのデザイン

デザインという言葉の用途も多様化しています。UIデザイン、ウェブデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザインのように視覚化できるものから、UXデザイン、組織デザイン、情報デザインのような概念まで、多種多様に存在しています。

そこに共通点があるとすれば、何らかのアウトプットを求められる点でしょう。アウトプットのデザインこそ、デザイナーの仕事の本丸です。

ただし、アウトプットのデザインが大事という話は、ここで語りたい主題ではありません。多くのデザイナーはそんなことは分かりきっています。その上で、アウトプットのデザイン「だけ」を考えていればわけではない、というのがこの記事に一貫する問題提起です。

プロセスのデザイン

デザイナー駆け出しの頃に苦しめられたのがタイムマネジメントでした。とにかく常に時間がない。厳密には、時間がコントロールされていない。

いかに質の高いアウトプットを作る能力を有していたとしても、プロセスがぐちゃぐちゃでは、質の低いアウトプットになってしまいます。デザイナーの評価は通常アウトプットによってなされますが、アウトプットの質にプロセスが関わるため、プロセスがデザインできるかどうかで自ずと評価も変わります。

時間管理やGTD(Getting Things Done)などは通常、デザイナーの知識領域として語られることはありません。しかし他職種と同じく、デザイナーにとっても重要な知識領域です。プロセスを小さなタスクに分解して設計する能力は、複雑な業務を内包するデザイナーだからこそ、習慣として身に付けておくべきです。

コミュニケーションのデザイン

ほとんどのデザイナーは自分一人で仕事が完結せず、他者との関わり合いの中で仕事をしています。その周囲との関係性が、プロセスのデザインの精度に影響を与え、アウトプットのデザインの品質に影響を与えます。

日頃から健全で良好な人間関係を作っていれば、プロセスが阻害されるリスク、アウトプットが低品質になるリスクは最小化されます。

コミュニケーションや人間関係は、仕事の質に直結する大事な要素です。机の上やデスクトップを綺麗に整理整頓しておくと仕事がしやすくなるように、コミュニケーションも日頃から整理整頓して綺麗な状態を作っておく必要があるのです。

コミュニケーションに関しては考え方も手法も無限に存在しますが、私はあえて以下の4つに絞って、デザイナーのコミュニケーションを語ることが多いです。

  1. リーダーシップ
  2. アサーティブネス
  3. エンパシー
  4. セルフUX

この4つは独立した概念ではなく、それぞれが影響しあいます。1つを高めれば、残り3つに波及するような関係性です。それぞれについて詳しく説明しましょう。

リーダーシップ

改めてのリーダーシップ【leadership】という言葉の定義は不要でしょう。誰かの依頼を受けて仕事をすることが多いデザイナーは、油断するとリーダーシップ不足に陥りがちです。

リーダーシップがある状態・ない状態

特に、顧客の意向に従順に従うことを良しとする風土でキャリアを重ねてしまうと、本質的なゴールやそもそも論を考えず、ただ目の前の顧客の要望に応えるだけ、という受け身の姿勢になってしまうことがあります。

その場にデザイナーがアサインされているのは、他の誰もがデザインに関するジャッジができず、専門家の助けを必要としているからです。それなのに、「どうすればいいですか?」「何をすればいいですか?」「仕様が分からないので何もできません」という姿勢では、デザイナーがその場にいる意味がなくなります。

デザイナーは、「どうすればいいですか?」「情報がないのでわかりません」ではなく、「私が判断をするには○○な情報が欲しいので、それを用意できますか?」「用意できないなら、私が考える仮説ベースでいったんデザインを作ってしまいますね」と、先手先手で話を進めるくらいの姿勢でありたいです。

リーダーシップを伴うコミュニケーションを続けていくと、「あの人は率先して考えてくれるから任せてしまおう」「あの人は頼りになるからあの人の判断に委ねよう」と見られえるようになります。デザイナーにとっては、仕事がしやすい環境になっていくわけです。

アサーティブネス

アサーティブネス【Assertiveness】を直訳すると「自己主張」になりますが、単なる自己主張ではなく、相手に不快感を与えたり対立したりせず、相手を尊重しながら自分の意見を主張する行為を指します。いうまでもなく、前述のリーダーシップとも強く関係します。

アサーティブネス

アサーティブネスが欠けている状態には、2つあります。自己主張が欠けている状態と、尊重が欠けている状態です。

デザイナーというと、主張が強くてクセが強い、という印象を持っている人もいるかもしれません。しかし実際には、良くも悪くもあまり主張しない人も多いです。

これにはいくつか理由があります。1つには、元々コミュニケーションが得意でなかったからこそデザイナーという道を選んだ人が多いこと。もう1つは、数字などで成果をはっきりさせることが難しく、依頼者の意向に合わせることが目的になりやすいこと。

このような理由から、「自分の意見を言わない、持たない」が基本的な行動パターン、思考パターンになっているデザイナーは少なくありません。

しかし、デザイナー本人が良かれと思ってやっている「自己主張隠し」は、多くの場合、周囲の期待に反します。デザイナーと共に仕事をする人は皆「デザイナーの意見」を求めています。自分の意見を言わず、ただアウトプットを持ってくるだけのデザイナーは、「やることはやってます。それ以上のことは知りません」と言ってるようにも見えます。これでは周囲の人とのコミュニケーションが適切にデザインされません。

一方、主張が強すぎるあまり、相手を尊重しないコミュニケーションになってしまうことも避けたいところです。

明確な正解が分からないこそ、デザインには多種多様なフィードバックが必要です。このフィードバックがデザイナーの意図に反するからといって、不愉快そうな態度を顔に出したり、声高に不服の声を上げて対立しては、周囲は「あのデザイナーとは一緒に仕事をしたくない」という気持ちになるでしょう。

私が過去に付き合ったあるクライアントは、デザイナーにフィードバックを返す時に、腫れ物に触るかのように過剰に恐縮しながら伝えてくる方がいました。デザイナーは、こんな印象を与えてはいけません。

自分の主張はしつつ、周囲の人の主張や意見もオープンに受け取った上で、デザインに関する議論をゴールに導く。これこそがデザイナーに求められるコミュニケーションであり、マインドであると私は考えます。

その結果、デザイナーが当初意図したアウトプットと異なる方向に行くかもしれませんが、こうした相互作用の共同作業こそ、デザインという仕事の本質ではないでしょうか。

エンパシー

アサーティブネスには、エンパシー【Empathy】=共感が必要です。

他者に共感する力があれば、周囲とうまくやっていける。このことは誰もが分かっています。分かっていながら、自分の感情や立場に目が行き過ぎて、他者に共感する気持ちを失い、コミュニケーションが悪い方向にいきがちです。

怒りや失望を感じた時、感情に飲まれずに「なぜこの人はこういう行動を取るのだろう?」と相手の気持ちに寄り添おうとすることは、困難な仕事ほど必要になってきます。

エンパシー

デザイナーには「憑依する力」が必要です。ユーザーの気持ち、顧客の気持ち、道行く人々の気持ち。こうしたものを想像し、自分自身に憑依させて、その気持ちを推測した上で、デザインすることが求められます。

この憑依力を高めるためには他者への共感が不可欠です。自分の美学、自分の視点でしか判断できず、自分の気持ちにしか注目しない人には、他者の気持ちを汲み取ることはできません。

デザイナーは、クライアントや周囲の人に対して「あの人と話をして無駄だ」「あいつは勉強不足で分かってない」と切り捨ててはいけないのです。自分と異なる価値観の相手だとしても、相手の立場を理解し、気持ちを汲み取ろうと努めた上で、どういうコミュニケーションを取るべきか考えるのもデザイナーの仕事です。

どうしても難しい相手は最初から断るか、次回から断ることも必要と思いますが、そのカードを多用しすぎると、やがて一緒に仕事をしたいと思ってくれる人がいなくなるでしょう。

セルフUX

「セルフUX」とは私が勝手に作った言葉です。仕事において自分自身をプロダクトやサービスに見立てた時の周囲の人々の体験が、セルフUXです。

セルフUXというと特殊な専門領域に思えるかもしれませんが、「相手の立場に立つ」に近いものです。自分というサービスやプロダクトがより心地良くなるように自分の言動をデザインしていくのが、セルフUXの文脈でお伝えしたいことです。

セルフUX

セルフUXが適切にデザインされていないと、「あの人と接すると嫌な気持ちになることが多い」「あの人と仕事をするとストレスが貯まる」となり、コミュニケーションの環境はどんどん悪化していきます。そのことがプロセスに影響し、アウトプットの質にも影響します。

またデザイナーとしての評価が下がるため、「自分はちゃんとやってるのに評価してくれない」と不満が募り、自分自身のメンタル環境も悪化することもあるでしょう。

具体的な行動を例に挙げると、以下のような言動は、セルフUXが悪化する可能性があります。

  • 連絡してもいつも返事が来ない(無駄な待ち時間が発生する)
  • 意図がよく分からない質問をする(少しのことでもやり取りが多い)
  • 結論から話さないので何の話か掴みにくい(話をしてて戸惑う)
  • 舌打ちをしたりため息をついたりする(接するのが怖い)
  • 資料を全部読まないと分からない報告の仕方をする(何かと時間を奪われる)
  • 唐突に打ち合わせする(心の準備ができず断ることもできない)
  • 機嫌が悪いことを隠さず、感情的な態度を取る(接するのが怖い)
  • 本人の居ないところで悪口を言って盛り上がる(裏で自分のことも言ってそうで怖い)
  • 乱暴で汚い言葉遣いをする(怖い※キャラ的に許容されている場合を除く)
  • SNSで社内の愚痴を発信する(自分も何か失敗すると拡散されそうで怖い)
  • 人の話を聞かずに自分ばかり話す(言いたいことが言えずストレスが貯まる)
  • できない理由ばかり述べてなかなか行動しない(依頼する側のストレスが貯まる)
  • 一言目がいつも否定からはじまり、ほとんど褒めない(話をしても嫌な気持ちになることが多い)

もちろんこれらのことは、デザイナーに限らずすべてのビジネスパーソンが留意すべきことですし、さらにいえば、完璧にできている人もいないでしょう。ただそれでも、デザイナーという職業に就いているからこそ、セルフUXという考えにもとづき、自らの言動をデザインするという感覚を強く持っておきたいところです。

間違ってほしくないこと

ここで書いた内容は、デザイナーが自分自身を戒めるための心構えです。一方で間違ってほしくないのは、デザイナーたちへの攻撃材料としてこの内容を使ってほしくないとも思います。むしろこれは、デザイナーと一緒に仕事をする周囲の人にも求めたい考え方です。

組織や仕事を円滑に進める上で最も大事なことは、「許容する」だと私は思います。

どちらかがどちらかを許容しなくなった時に、関係は壊れ、コミュニケーションは円滑さを失います。逆にお互いが許容しあえれば、困難やトラブルに見舞われても、その中でベターな環境を作り出し、ベターな判断ができるようになるでしょう。

多くの人がこうした考えを持てば、組織はうまく行くはずです。その前提がある一方で、デザイナー自身は自らの矜持として、ここで示した「リーダーシップ」「アサーティブネス」「エンパシー」「セルフUX」といった考え方に敏感になり、むしろ周囲にそれを広めるような立場になってほしいな、と思います。