
Zendesk アクション入門:API Gateway と連携するノーコード自動化のはじめ方
対象読者
- Zendesk を運用・管理している情シス担当者・エンジニア
- 社内の業務自動化、外部サービス連携に興味があるサポート現場の管理者
- Zendesk のアクション/アクションフロー(アクションビルダー)機能の活用事例を探している方
参考
はじめに
Zendesk はこれまで、「トリガ」 「オートメーション」 「マクロ」 「Webhook」など多様な自動化機能を提供し、カスタマーサポート業務の効率化を支えてきました。これらの標準機能によって、チケット情報の更新や通知送信、エージェントワークフローの最適化などの自動化が実現されてきましたが、一方で、外部システムとのリアルタイムなデータ連携や複雑な業務プロセスへの適用には課題が残っていました。
このような背景を踏まえ、Zendesk は新たに 「アクション」機能 を導入しました。
アクションは、Zendesk プラットフォームと外部 API との連携を標準化し、管理画面から簡単に設定できる仕組みです。アクションフロー(アクションビルダー)等と組み合わせて使用することにより、外部サービスの最新情報の取得やデータ更新などをリアルタイムで実行できるようになります。従来の機能では難しかった双方向の情報取得や、業務要件に応じた柔軟なデータ活用が可能となります。
本記事では、アクション機能の概要、既存の自動化機能との違い、さらにアクション導入の方法について、具体的なユースケースや実装例も含めて技術的な観点から解説します。
Zendesk アクション機能の概要
Zendesk のアクション機能は、Zendesk プラットフォームから外部 API を直接呼び出し、そのレスポンスをサポート業務へ活用できる新しい自動化機能です。ノーコードで管理画面から設定できるため、エンジニア以外の現場担当者でも柔軟に導入・運用が可能です。チケット対応の効率化に加え、複数システムとのデータ連携や情報の一元管理といった現場課題の解決に貢献します。
主な特徴
-
外部 API との直接連携
アクションは、外部の REST API を呼び出し、API レスポンスの内容を Zendesk 上で活用できます。これにより、従来はエージェントが手動で取得・転記していた外部システムの情報も、事前設定したフローにより自動的に取得・活用することができます。 -
ノーコードでの設定
エンジニア以外の担当者でも、管理画面上から API エンドポイントやリクエストパラメータ、認証方式(API キーや OAuth2 など)、レスポンスデータのマッピングを直感的に設定できます。 -
安全な認証情報の管理
API 呼び出し時の認証情報(API キーやシークレット等)は、Zendesk の「コネクション」機能を通じて安全に管理されます。これにより、現場のオペレーション担当者が認証情報を直接管理・操作する必要がなくなり、セキュリティと運用性の両立が図れます。 -
他の Zendesk 自動化機能と連携
アクションは、オートアシスト(Copilot)やアクションフロー(アクションビルダー)など他の自動化機能と組み合わせて利用します。たとえば、チケット情報をもとに外部 API からデータを取得し、その内容を自動で指定フィールドに反映するといった高度なワークフローを、追加開発なしで簡単に実現できます。
既存自動化機能との違い
Zendesk には従来から「トリガ」 「オートメーション」 「マクロ」 「Webhook」といった自動化機能が用意されています。これらはチケット情報の変更やステータス遷移に合わせた通知、タグ付け、フィールドの自動設定など、日常的なサポート業務の効率化に幅広く活用されてきました。しかし、それぞれに明確な適用範囲や制約があり、特に外部システムとのリアルタイムなデータ連携や動的な情報取得には限界が存在していました。
トリガ・オートメーション・マクロ・Webhook の特徴と限界
機能 | 主な用途・特徴 | 外部 API 連携 | 双方向/レスポンス活用 | 柔軟な分岐・条件処理 |
---|---|---|---|---|
トリガ/オートメーション | Zendesk 内部のフィールド更新・通知の自動化 | ×(原則不可) | × | △(条件分岐は一部可) |
マクロ | エージェントの定型アクション(返信文、タグ追加等)の自動化 | ×(原則不可) | × | × |
Webhook | 外部サービスへのイベント連携・データ送信 | ○(一方向送信のみ) | × | × |
アクション機能がもたらす進化
これらの既存機能と比較し、アクション機能は「外部 API との双方向連携」 「リアルタイムな情報取得」 「柔軟なワークフローへの統合」を標準化・ノーコードで実現できる点が大きな特長です。
アクションフロー(アクションビルダー)等の仕組みと組み合わせることで、以下のような現場課題を解消できます。
- 問い合わせチケットの情報を元に、外部システムから最新データ(注文状況・在庫情報など)を取得し、その結果を即時に Zendesk チケットへ反映
- 認証・パラメータ設定なども管理画面上で完結し、開発コスト・運用負荷を大幅に削減
- 既存のトリガ/マクロ/Webhook とも組み合わせて、より高度な業務プロセスを構築可能
これにより、Zendesk は単なるチケット管理基盤から、複数システムをつなぐ業務ハブとしての役割を一段と強化しています。
典型的ユースケース
Zendesk のアクション機能は、従来の自動化機能では実現が難しかった「外部システムとのリアルタイムなデータ連携」や「複数 API をまたいだ業務プロセスの自動化」に力を発揮します。ここでは、現場で特にニーズの高いユースケースを紹介します。
注文情報の自動取得
シナリオ例:
顧客から「注文番号 12345 の配送状況を教えてほしい」といった問い合わせがあった場合、従来はエージェントが別システムにログインし、該当注文を検索・情報取得した上で、内容を Zendesk チケットへ手動で転記する必要がありました。
アクション機能の活用例:
アクション機能を用いることで、エージェントはチケット画面上からワンクリックで外部 API (例:受注管理システムの REST API )を呼び出し、最新の注文情報を自動取得・チケットに反映できます。これにより、情報の正確性と回答スピードが向上し、転記ミスや二重入力といったヒューマンエラーも大幅に削減されます。
在庫管理・決済システムとの連動
シナリオ例:
商品の在庫状況や決済ステータスに関する問い合わせに対して、エージェントが複数の社内システム(在庫管理・決済プラットフォームなど)を横断的に操作し、それぞれの結果をまとめて回答するケースは多くの現場で発生します。
アクション機能の活用例:
Zendesk のアクション機能を使えば、チケット情報をもとに在庫管理 API 、決済 API など複数のマイクロサービスと順次連携し、必要なデータをリアルタイムで一元取得できます。この仕組みは、マイクロサービスアーキテクチャを採用している企業や、複数のクラウドサービスを組み合わせて運用している現場で特に効果を発揮します。
社内システムや外部 SaaS とのワークフロー統合
シナリオ例:
- チケット情報をもとに社内の CRM や BI ツールへ自動データ登録
- 対応ステータスに応じて外部 Slack チャンネルや Microsoft Teams へ通知
アクション機能の活用例:
API ベースの SaaS や社内システムとも簡単に連携できるため、Zendesk を起点とした「エンドツーエンドの業務フロー自動化」が実現できます。Webhook では実現できない API レスポンスの即時活用が可能です
実装例:API 連携による注文情報の取得(API Gateway 利用例)
ここでは、Zendesk のアクション機能を活用し、外部 API を呼び出して注文情報を取得する実装例を紹介します。API サーバーの実装には AWS の API Gateway を用いていますが、社内で管理している他の REST API や外部 SaaS のエンドポイントでも同様に連携可能です。
システム構成
シナリオ:エージェントが Zendesk チケット上で注文番号を確認し、「注文情報を取得」アクションを実行することで、外部システムからリアルタイムに注文情報を取得します。
Zendesk(アクション機能)
│
└─ 外部 API 呼び出し(例: API Gateway 上の注文情報取得エンドポイント)
│
└─ 社内の受注管理システムやデータベースにアクセス
アクション設定手順
1. 外部 API エンドポイントの準備
例として、 API Gateway 上に /orders/{order_id}
という GET リクエストで注文情報を返却する API を用意します。
まずは、 API キーなしでアクセスできる API を作成し、検証します。API Gateway のコンソールにアクセスし REST API を作成します。
/orders
リソース、および、/orders/{order_id}
リソースを作成し、GET メソッドを作成します。統合タイプを「MOCK」とし、統合レスポンスでダミー JSON を定義します。
{
"order_id": "$input.params('order_id')",
"status": "shipped",
"shipping_date": "2025-05-26"
}
default
ステージを作成し、エンドポイント URL を取得します。
2. API キーの作成
次に、セキュリティポリシーに則り、 API キーを使ってアクセスする API へ修正します。API Gateway コンソール左ペインメニューより「使用量プラン」を選択、新規のプランを作成します。
作成したプランを選択し「関連付けられたステージ」タブから、先に作成した API のステージ(default)を追加します。次に、「関連付けられた API キー」タブから新規の API キーを追加します。「新しいキーを作成して追加」を選択し、キーを作成します。
次に、 API の設定画面に戻り、「メソッドリクエスト」の「API キーは必須です」にチェックを入れます。その後「API をデプロイ」ボタンを押して変更を反映します。
これで API の設定は完了です。次は Zendesk 側の設定です。
3. Zendesk コネクションの作成
管理センターの「アプリおよびインテグレーション > コネクション」セクションから新規コネクションを作成します。
- 認証タイプを選択する:APIキー
- ヘッダー名:
x-api-key
- 値:API Gateway で作成した API キー
- 許可されたドメイン:
*.amazonaws.com
4. Zendesk アクションの新規作成
管理センターの「アプリおよびインテグレーション > アクション」セクションから新規アクションを作成します。
- 名前:アクションの表示名を設定します(例:「注文情報を取得」)。
- 入力:チケットフィールドから取得するパラメータ(例:order_id)を追加します。(例:
https://<your-end-point-url>/default/orders/{{order_id}}
) - リクエスト方法:GET を選択。
- エンドポイント URL:外部 API の URL。パラメータは {order_id} のように可変で指定できます。
- 認証:先に作成したコネクションを指定。
- 本文/クエリパラメータ/ヘッダー:API 要件に応じて追加設定が可能です。
- 出力:API のレスポンスを受け取り、チケットフィールド等にマッピングできます。
作成したアクションは「テスト」タブから検証できます。
まとめと今後の展望
本記事では、Zendesk の「アクション」機能を活用し、外部 REST API(本稿では AWS API Gateway)と連携する設定例を紹介しました。現場エージェントがノーコードで外部システムの情報取得・活用を始められる入り口を構築できる一方で、今回扱った内容はあくまでアクションの登録の範囲にとどまっています。
実際の業務でより大きな効果(手作業の排除やリアルタイムなプロセス連携)を発揮するには、複数アクションを組み合わせて条件分岐や一連のフローを構築する「アクションフロー(アクションビルダー)」機能の活用が重要となります。
今後、アクションフロー(アクションビルダー)を使えば、下記のような業務全体の自動化・最適化を Zendesk 上でノーコードで実現できるようになります。
- 複数 API の連携:
注文管理 → 在庫 → 決済 などの自動取得・集約 - 条件分岐・例外処理:
API レスポンスに応じた次アクションの自動切り替え - 他サービス・他部門との連携:
Slack や Teams 通知、社内ワークフロー統合
今後の展開例
- まずは単体アクションの利活用から着手し、現場課題の自動化ポイントを明確化
- 次回記事では、今回実装したアクションを「アクションフロー」でどう組み合わせ、実運用のプロセス自動化に発展させるかを具体的に解説予定
おわりに
Zendesk の「アクション」機能は、現場におけるデータ連携や業務効率化の土台を用意するものです。本格的なプロセス自動化や複雑なフローの最適化は、今後リリースされるアクションフロー機能と組み合わせてこそ最大の効果を発揮します。 ぜひ、今回のアクション実装を足掛かりに、さらなる自動化・業務改革へのステップアップを検討いただければ幸いです。