新章シーズン3は「実店舗カフェ”Developers.IO Cafe”のオープン」。『横田deGoプロジェクト』最新レポート in デブサミ2019 #devsumi
先週の2019年02月14日(木)〜15日(金)の2日間、目黒雅叙園で開催されていた『Developers Summit 2019』。通称『デブサミ』には私自身2012年から参加しており、2013年からはCodeZineへの『寄稿』という形でセッション参加サポートを執筆させて頂いております。今年2019年のデブサミについても例年同様『プレス枠』での参加となりました。
CodeZineの寄稿については例年通りのスタイルで数本書かせて頂く予定ではあるのですが、今年2019年は1日目(2019年02月14日(木))に弊社取締役代表の横田による以下セッションの発表がある...!という事で、せっかくなので従来の寄稿スタイルとは別に、『いつもの(?)』スタイルでDevelopers.IOでのレポートも書いてみようと思います。(※気合入れてメモ取ったので登壇者語り掛けスタイルでお届け)
- Developers Summit 2019
- デブサミ2019【14-E-1】Amazonの文化をハックせよ。AWSをフル活用して無人レジの仕組みを作ってみた~横田deGoプロジェクト~ #devsumiE - Togetter
基本的な内容は下記Developers.IO 2018で話した内容の『再演』的な形となっています。下記の内容に加え、発表以後の取り組み部分を追加・アップデートした『シーズン3』までの道のりをまとめた形です。
目次
会社紹介&カフェはじめました
まずは簡単な自己紹介から。
2004年にクラスメソッドという会社を設立しました。会社設立後、社名でググってみてもこの会社は出てこなかったんですけれども、今やっとTOPに出るようになりました。町工場の親父っぽいと言われるようになりました、4児の父、77世代です。
会社の紹介です。主にBtoBのビジネスをやっています。で、ここで振り返りなんですけれども、私、デベロッパーズサミットに『戻って参りました』。2010年のデブサミに登壇させて頂いてまして、そのときには『業務システムのUIをどうやってうまく作ろうか』みたいなセッションをやらせていただきました。
- 【19-D-7】 RIA+クラウド+モバイルで広がる業務の効率化 - タイムテーブル詳細|世界は変わった。開発の現場はどうか? Developers Summit 2010 (※当時の発表内容及びプロフィール。)
創業以来15年経つんですが、ずっとBtoBをやって来ていまして、2010年も同様でした。その時の会社はどうなっていたか。会社は6期目で社員は40人くらい、売上も4億くらい。1フロアでビジネスをしていました。
強みはユーザーインタフェースの開発、弱みはインフラと運用保守です。これは創業以来ずっと社内外に言っていました。で、口癖は『インフラはやりません、出来ません。データセンターは行ったことありません。社長がカフェとか経営し始めたらもうその会社は終わりです』みたいなことを本当に言っていました。
また、ブログ『Developers.IO』もこの時はまだ存在していません。ブログがオープンしたのは2011年7月1日となります。今では月間210万PVくらい、ユーザー数で言うと60万人くらいの方に毎月見て頂いています。
で、今日のタイトルですが、デブサミ2019、9年ぶりに戻ってきたという事で、2018年の5月から今年の2月に掛けて行った取り組みを全て、丸裸にしてご提供したいと思います。
現在のクラスメソッドですが今15期目です。社員数は全体で300人くらい、売上規模は恐らく120億円くらいになるんじゃないかなぁと思います。グループ8社、拠点も12拠点、フロアも18フロア展開しています。強みはですね、なんと9年経ったらインフラと、設計や運用が得意な会社になりました。
私がAWSを初めて触ったのが2009年。デブサミ2010に登壇する少し前くらいに触り始めたというのがキッカケです。 弱みは業務そのものです。お客様、BtoBビジネスをやっているのですが、強みは技術であって、お客様のビジネスではなかったんですね。で、これが今回ご紹介するプロジェクトに繋がっていきます。
より良い技術を提供しようと思った時に、ビジネスを理解していないとなかなかその先に進めない...というもどかしさがここ2〜3年ありました。で、結果『全部やってみよう』という流れになっています。
そして、おととい(2019年02月12日)ですね、店舗をオープン致しました。(公式サイトは以下です)
会社としてはとにかく『全ての人々の創造活動に貢献』するという経営理念のもと、クリエイティブなことをしようというのと、クリエイティブな活動を推進するための色々な技術を提供しよう、という思いでやっています。
【完全キャッシュレスの新型カフェを秋葉原にオープン】 待ち時間ゼロによるストレスフリーな顧客体験とスタッフ負担ゼロによる顧客サービス注力を実現したカフェです。開店記念キャンペーンで初回ドリンクを税込108円で提供しています。 https://t.co/USflHNDKGu
— クラスメソッド&Developers.IO (@classmethod) 2019年2月12日
シーズン1
『Amazon Go』シアトル現地体験ツアー
昨年5月にAmazon Goのツアーを社内で組んで、お客様20数名も一緒に募ってシアトルに行ってきました。お客様をもっともっと理解しようと思い、シアトルの他にも深センや上海にも行っています。社員も3人、連れて行きました。
実際、皆さんニュース等でご存じかとは思うんですが、普通のコンビニです。実際にAmazon Goを北米で体験したことのある方、どれくらいいらっしゃいますか?...殆どいらっしゃらないですよね。私、3回くらい渡米して、1日10回位来店してるんですよ。で、1回の来店で30分位滞在していて、ホントにもう、アカウントBANされるんじゃないかと思ったんですけれども(笑)、よくよく見ていました。
実際入店してみると、天井とかはぱっと見普通のコンビニなんです。入店時にQRかざすだけで。天井観ると、8割方普通のお店の天井です。排気とか、電気の配線とか。あとはITのお店なのでネットワークの配線とかがあって、一見普通のお店でした。
ただ、よくよく見てみると何かちょっとこう、センサーが付いてるのとかが分かるんですね。棚を裏側から覗くお客さんてあんまいないと思うんですけれども、覗いてみると何か色々付いています。でも誰も教えてくれない。
仕組み周りについては、どうやってるんだろう?顔認証してるのだろうか。足跡とか重さとかサーモセンサーとか光とか音声とか距離とか....何かやってるはず。でも分からない。
で、実際に23人のお客様を連れて行ったんですけれども、皆さん普通に体験出来るんです。普通の人が。特にITエンジニアでなくても普通に体験出来る最新テクノロジ。これ、一番凄いことだなぁと思います。
で、やってみなきゃわからんという事で、日本に帰ってきまして、社員に『これ(Amazon Go)作ります。やってみます』と言ったらですね、基本、うち技術得意な会社なんですけれども全員ドン引きしていました(笑)
私よく新規事業を一人で始めるんですけれども、社内に声掛けます。『やりたいひと〜』って。こう色々甘い言葉で誘うわけです(笑)で、そうするとですね、8人くらいの方が『まっ、ちょっと興味あるから手伝っていいよ』と。基本的には有志です(笑)全員兼務です。空いてる時間にやるという感じですね。
そんな感じでやってみよう!という事ではじめました。仕事忙しいけれども楽しそう、といった感じです。
横田deGoプロジェクト『シーズン1』始動
5月にAmazon Goに行きまして感動して社内でプレゼンをしてドン引きされたんですがメンバーを6月に兼務でアサインを行いました。そして、7月の半ばに『小売勉強会』というのがありまして、関係者の方々が100人程集まる勉強会が予定されていました。まずはそこで発表をしようと決めました。このタイミングで中身は何も決まってませんし、技術も全く分からなかったんですがとりあえずリリース日、世の中に出す日を決めて逆算してはじめました。『プロジェクトX』のスタートです。
とりあえずですね、弊社はクラウド(AWS)やモバイルに詳しいという事でご飯を食べてます。なので、分かるところは全部そのまま使おう、と。極力マネージドサービス、パーツを組み合わせて短時間でやろう、ということでまず技術検証をはじめました。まずは殆ど技術検証に費やしました。実際にAWSのサービスの中で業務で使ったことのないサービスが幾つかありまして、今回良い機会なので色々やってみようという事で採用しました。
そして、要件定義です。このプロジェクトに関わったメンバーは、私以外、Amazon Goをまだ体験してません。なので『動画』の形でゴールを共有する事にしました。
ちなみにこの動画は『妄想』です。Amazon Goのお店に入ったときに、実際どんなテクノロジーが使われているのかなぁ、というのを妄想します。当然、ユーザーの認証基盤とか、色々なIoTのデバイスとか、人の検知・追跡とか、商品画像を何か認識してるんじゃないかとか色々妄想します。
で、妄想した時にだいたい、Amazon GoはAmazonの会社ですけれども、AWSのサービス、関連するものはだいたい用意されているんですねなのでまぁ、それらを使おうという感じです。
元々、2010年時点で登壇した頃の時期は業務システム開発(Flex)をユーザーインタフェースから改善するっていうのをやってたんですけれども、その時の体験、考え方的なものが生きていまして。実際にAmazon Go的なものを作ろうと思った時に技術設計書から書くのではなくてまず実現したい体験を動画によって作りました。これがまず、目指すべきゴールです。
そして、動画を作りましたがとは言え見えないコンテキストが他にもたくさんありましたので、一枚のポンチ絵を作りました。お店入って、カメラで認識して、回って、棚の前で立ち止まって、商品を手にとったら誰がどの商品をどれだけ取ったかを認識をして、お店を出る...というのを判定し、決済を通す...という一連の流れを想定して書きました。
字は小さいんですが、ピンク色の枠があります。ここは、お店入ってから出るまでの、一連の動作の中で、細かい作業をタスク分割したものになります。タスク分割した1つ1つの部分に対して、得意そうなエンジニアをアサインしました。 例えばQRコードで入店する場合、スマホアプリが必要です。認証の基盤が必要です、認証はサーバサイドだなとAWSのサービスならばCognitoだな、とかそんな感じでこう、極力ゼロから作らずに、パーツをつなぎ合わせていきました。
実際に手伝ってくれたエンジニア、スマホエンジニアが兼務のうち、1日のうちの1〜2時間とかを使って作ってくれたんだと思うんですけど『たぶんこういうことだと思います』っていう設計図を勝手に作ってくれました。特に指示してないんですけれども、『たぶんこんなことですかねぇ』という感じで作ってくれました。
他にも様々なテクノロジを使って、各エンジニアが技術検証をしています。6月くらいのお話です。7月20日にリリースですが、まだ技術検証フェーズです。これ、お客様に納品するシステムだと、もうヒヤヒヤしてたぶん集中して仕事にならないという状況なんですけれども、このとき強く言っていたのは『幾ら失敗してもいい、最悪出さなくてもいい、なので思いっきりやってくれ』ということでした。
(※深層学習による画像検出と認識を行うサービス『Amazon Rekognition』も今回のプロジェクトで実際に検証。下部右の画像は分析結果のファイルを映像に重ね合わせて見たもの)
(※SageMakerを使ったおにぎり画像の認識やAWS IoTでのデバイス管理・データ連携等も合わせて検証)
(※3D LiDAR ToFセンサーのデモ風景。横田曰く『 これは、映っている世界を立体的に表すことが出来るんです。斜めから撮っているのに、上から撮ったような・前から撮ったような映像に変換出来るんです。どうやっているのかと言うと、全体に光を沢山飛ばすんですね。で、その反射によって距離が取れるんですよ、なので3D空間上に光のつぶつぶの座標が取れるんです。あとはそれを繋げるなり料理すれば良いわけです。これは本当にすごいです。』)
横田deGoが目指す世界
一番最初にグランドデザイン、システム・アーキテクチャのベースを決めました。
今後、色々なサービスや技術を同時多発的に調査します、それを全部オーケストレーションすると....何て言うんですかねぇ、あっちを直したらこっちが動かない、が繰り返されるんですね。もうぐっちゃぐちゃになります。そもそも答えがわからないんです。どの技術を使って良いのかわからない。ですので、それぞれのサービスやセンサーを独立動作させました。何ていうんですかね、専門用語でいうとデカップリング?というんですかね。すいません言いたかっただけです(笑)
分離して、独立動作させて、そのセンサーの情報を極力リアルタイムにクラウドにアップロードして、DynamoDBに時系列に保存させるような形を取りました。
良く、デジタルツインという言葉が最近出ているかと思うんですけれども、現実と仮想空間をリンクさせる 現実世界で起こっていることをデータ化して、それを仮想空間に反映させる。仮想空間で変更を加えると、変更したデータが現実世界に反映される。ラウンドトリップするようなことが今年あたりから結構流行ってくるんじゃないかなと思っています。まさに映画『マトリックス』の世界ですね。それを、だいぶチープではありますけれども、実際のお店で起こっている全ての情報をクラウドに転記する、ということをやりました。
- デジタルツインとは何か? 最新事例から読み解く、取り組むメリット フロスト&サリバン連載~産業別に見るICTのインパクト~|ビジネス+IT
- IoTを設計に活用するためのキーワード「デジタルツイン」とは:超速解説 デジタルツイン【設計領域】 - TechFactory
実際にそれをやるために、全てサーバ用意するの大変だし、まずちっちゃいセンサーということでマイコン(ESP32)、あとひずみセンサーですね、ロードセル。これらを用意しました。Amazon Goのお店に行くと棚がたくさんあるんですが、 棚を横から覗くと乗っかってるんですよ。多分これ、重量センサーじゃないかなぁと思ってロードセルを買いました。
オフィスが秋葉原にありますので、秋月電子に行って必要な部品をたくさん購入してきました。これ、木を削って、穴を開けてネジ止めするという作業をしているところです。こちらの方、良く知られている方ですね。一応彼はアーキテクトなんですけれども、この時は建築のアーキテクトになってますね... 組み立てについては、"先生"がいましたので指示に従って皆で組み立てる、という形で進めました。
で実際出来上がったのがこんな感じです。100円ショップで色々なものを買ってきて、ケース買ったりとか うまい棒を判定しよう、ということで、うまい棒って1本7gとか9gとかあるんですけれども、それを実際用意した(マイコンとディスプレイがセットになった)キットにつなげて、取るとその変化を検知してサーバに送る、みたいなプログラムを作りました。 これも、本当おもちゃの範囲でしか無いですけれども、技術検証として繰り返し行いました。
とにかく色々楽しくなってきたので、せっかく物を取ったんだから次は決済をしよう、ということでStripe(インターネットビジネスのためのオンライン決済処理)のAPIを入れたりとか、やっぱIoTといえばSORACOMでしょう、といいながらSORACOMを組み込んだりとかどんどん脱線していくんです。でも楽しい。顔認証やオープンソースの骨格検知などにもチャレンジしていました。
以下は途中経過の風景です。既にもう、Amazon Goっぽいです。ごらんください。これ天井にカメラを設置して、追跡しています。
はい、もう完成しました。ありがとうございます。嘘です(笑)
これは、体験を作り込むビデオです。実はこれ、2割位が本当に動いていて、8割方嘘です。ただ、関わっているメンバーが兼務で8名とか居たので、あるあるなんですけれども、作っている間にどんどん脱線していって『エンジニアとしてベターだと思った落とし所が体験としては最悪』っていうのが良くあるんです。ですので私は技術的な指導は殆んどせずに、とにかく目指すべきゴールはこれです、というのを全部ハリボテで作って、そしてそこに少しずつ、出来たところから肉付けをしていくということをやりました。
報告書はなしです。報告動画のみ。その動画が、『実現したい体験かどうか』というのを延々チェックしました。
『横田deGo』初お披露目とその反響
そして3週間後の2018年07月19日、発表日は20日なので前日ですね。ようやく完成しました。その時の風景(動画)がこちらです。
これは複数のカメラで複数の人を同時に認識しています。それぞれの人に、チェックインの際にIDが振られています。この時は一応、慎重に動いていて順番に作業を進めていますが、実際はお店の中で順番がぐるぐる回っても問題ありません。最後5人終わったあと答え合わせをしています。全ての購入が問題なく連携出来ました。この映像は今後10年位語り継がれるのでは、と思っています(笑)
翌日、100人を前に発表するという状況で、実はこのとき初めて動きました。それまで全てのパーツが独立動作していて、最後にオーケストレーションしたんです。センサーは全て独立動作しています。じゃどこでまとめ上げたかというとクラウド側に全部データが溜まっているんですね。何時何分、どんなアクションが誰によっていつ行われたかというのが全部記録されています。クラウド側でまとめて、推定をして『恐らくこのひとが何をやったのか』を判定してプッシュ通知をしています。
これはAmazon Goの体験とほぼ同じです。日本のレジレスの体験だと、出口で精算画面が出てきて、確認する流れがあるかと思うんですが、Amazon Goでは何も確認しません。まず店を出ます。そして1分とか5分とか経った後に、あとから『あなたはこれを買いましたね』という連絡が来るんです。で、これはクラウド側で推定した結果を送っているわけです。 ですので、大事なのはトランザクションとしての整合性・一貫性よりも体験としてのスムーズさ、になるわけです。でアプリも普通に作りました。もう、本家にそっくりですね......いつ、叩かれるのかとヒヤヒヤしてます。お膝元ですからね、ここ(目黒)はね...AWS使ってます!!はい、次行きましょう(笑)
電話とか、Echoとかにも実は簡単に、半日くらいで対応出来ました。なぜかというと、先程デジタルツインっていう話をしましたが、実際にお店で起こっている情報全てがクラウド側に保存されているんです。お店に何人いるか、商品の在庫が幾つあるのか、全て分かるんです。ですので、データベースに全て入っているのであればそれを繋げる、例えばAWS Lambdaとかで繋げて電話のサービス、例えば『今日牛乳在庫ありますか』という問いに『あります』と返すことが出来ます。『今日のお肉の売上はどうですか』に『1時間に3つ以上売れています』とか言えるわけです。勿論、棚から商品を取って戻す...ということも分かります。同時に取って比較していることも分かります。どの棚で立ち止まっているかも分かります。
シーズン1のアーキテクチャは比較的シンプルでした。とにかく体験を達成しよう、という形です。
7月20日、大変好評を頂きまして、翌週、日経MJに記事を載せていただきました。『機動力の良さ 日本でも』という見出し。これは裏を返すと日本で新しいことをやろうとすると機動力が無い。で、この時思ったんですね。エンジニア側がどれだけ機動力を出しても、お客様側の機動力がないと実現が出来ない。悶々とするわけです。業務上の課題を抱えています。何か提案したらうまくいくかもしれない。海外ではこんな事例がある。やりましょう!って言ってもやっぱり1年とか掛かったりするんです。皆さんもそういった経験ありませんでしょうか。
とはいえそれは置いといて、1周回りました。システム開発ではよくあるアジャイル、イテレーション、一回やって終わりではないんです。イテレーションを回そう、ということですね。
シーズン2
より良い体験の為にシーズン2が始まりました。8月の夏休み休暇が空けてから、改めて有志を募集しました。シーズン1で参加したメンバーは皆『まじ忙しいです』という状況、そしてほぼ全員交代しました。ゼロリセットでイテレーション2が始まりました。全員兼務です。
シーズン1で味を締めた私は、2ヶ月後の10月には展示をしたい、と思いました。ちょうど10月には自社イベントである『Developers.IO』があるということで、そこに合わせて展示をしようということでスタートしました。
状態管理については、ちょうどStep Functionsという良いサービスがありましたので、これを使ってみようと。去年のre:Inventで発表されたStep Functionsの機能追加はかなり強力で、たくさんあるAWSのマネージドサービスをこのStep Functionsで全部繋げられるんです。これにより、かなりサーバサイドのロジックがシンプルになりました。
SageMakerも本番導入してみようということで、もうちょっと作り込みを行います。
実際のところ、SageMakerで機械学習やってみたら、どれくらい費用が掛かるものなのでしょうか。実際こういうデータをどんどん公開するのが大事かなぁと思ってますので、実際の数字をお見せしたいと思います。商品数6つ、1商品あたり10個の元画像、それを増幅(回転させたり反転させたり)させて6000枚自動生成し、それをSageMakerでp3.8xlargeインスタンスで30分学習させました。だいたい掛かった金額は9ドルです。1000円もあればこれくらいで行ける、ということです。
ただこれは商品数がかなり少ないからこの金額で済んでいるところもあるかと思います。商品数が1000〜10000、10万になると画像特定の精度は下がってきます。なので、あとで出てきますけれども学習をさせるときにはそもそも世の中全体を認識させるのではなくて、問題を局所化することが結構重要だと思います。例えば大きなお店に3000SKUとか30000SKUとかあった時に、全ての商品をカメラで認識させるのは大変です。ですから、例えば、お惣菜のコーナーを認識出来る学習モデルとか、お菓子のコーナーで認識出来る学習モデルとか、そういった形で問題を局所化するというのがAIでは結構重要なんじゃないかなぁ...と何となくですが思いました。
流行り言葉にのって『エッジコンピューティング』。クラウド側で全部推定するのがコストが掛かるだろうと思って、 JETSON、10台位買ってきて社員に配りました。だいたいうちいつもですね新しいものを見つけると10台単位で買って社員に配っています。手に取ったエンジニアはブログを書かなければならないという、『契り』がありましてですね、たくさん書いてもらいました。リアルに映っている商品を先程の9ドル掛けて学習させた結果、うまい棒とかカロリーメイトとかを6fpsとかそこそこ早く90%位で認識が出来るようになりました。
映像による補助以外にもセンサーを複数組み合わせることでもっと精度が上がらないか、という部分の改善については、測距センサーみたいなものをマイコンで制作をする事で対応しました。下部左側の写真は当社15年目にして初めて、社内のチャットに回路図がアップされたという記念すべき1枚なんですけれども、この写真がアップされた後に他のエンジニアが『それこっちじゃね?』って指摘が入ったんですね。それが一番ビックリしました(笑) クラウドが得意な会社だったんですけれども、回路が得意なエンジニアが結構いた、というのが良い気付き・発見でした。
色々な備品を買います。生産体制を整えます。そしてついに登場、半田ごて。私、高校以来です。オシロスコープも出てきました。これは社員の持ち込みです。木を削り、棚を作ります。そして完成です。デジタルツインという話をしましたが、現実で起こっていることがどのようにクラウドで再現出来ているかというのを実現出来て来ています。システムとしては、今までよりも、クラウド側での推定が早くなりました。お店出た後のプッシュ通知、1分位掛かっていたのが10秒とか20秒とかくらいに短縮出来ています。サーバサイドのロジックがシンプルになってソフトウェアのクオリティが向上したからです。
『シーズン2』までの集大成については、冒頭でも紹介しました、2018年10月に開催された『Developers.IO 2018』での下記セッションに繋がる形となります。
シーズン2終了時点でのアーキテクチャはこちら。
そしてシーズン2で出た『課題』です。
- 手組による壊れやすさ:この時期になるといろいろなところでデモして欲しい、と言われるようになりまして、セットで持ち込むんですが『箱ごと壊れる』ケースに直面しました。ソフトウェアってコピーしても壊れないですが、ハードウェアって持ち運ぶと壊れるんですね。運ぶたびに壊れる、というのを繰り返しました。
- ネットワークの接続性:昨年10月に単独イベントやったときには7-800名の方が来てくれたんですけれども、皆さん同時にWi-Fi繋げてるんですね。ですので、その状況でIoTの通信を行うと干渉しまくってデータが飛ばないんですね。それこそルーターの距離によって全然干渉度合いが違うんですよ。ソフトウェアの改善ではなくて、センサーの隣にルーターを置いたら治った...みたいな試行錯誤を繰り返し行っていました。
シーズン3
ここから先の話が上記発表時点からの続き、最新アップデート部分となる『シーズン3』となります。
3週目ともなると、社員も私が何をやりたかったのか、をやっと理解してくれるようになりまして、半分くらい交代しました。
で一部専任です。専任になると強いですね。ってことで10月に全員解散をして、12月には店舗で試したいと。また社員から『社長、カフェやったら会社潰れるんじゃないですか』と言われたんですが、いや違うと。やろうと。いう事でお店を探し始めました。
メンバーのアサインを11月に行い、12月に店舗オープンに向けて動き出しました。
技術検証はこれまでのシーズン同様、各種継続。
また、店舗展開のために、ネットワークの安定性や電源の確保、高速応答に関する以下の様なテーマについても検討・試行錯誤を重ねました。やればやるほど『新しければ良いってものでもない』んですね。どうやったら体験を実現するために適切なテクノロジーを選択出来るか。そこが大事です。
動体検知について。ここまで画像検知はしていましたけれども、物を取った時、正面から取ったのか左から取ったのか右からなのか、重量センサーだけでは分からなかったんです。なので、信号処理・画像処理で判定をします。リアルタイムで腕、の形を撮ってやってます。元映像とその差分を撮って判定しています。棚に手を差し込むところですね。差し込んだ瞬間にテキスト・コンソールで結果を出力しています。これもまだイテレーション3での技術検証です。
あとは同時に2人が入った時、コンフリクトする可能性があるケースですね。大きなお店で全ての情報を検出するわけではなくて、人が被っているところが問題は発生しやすい場所なので、そこを 注意深く見る、問題の局所化が必要だと思います。
店舗を借りてみよう!
ここから話は飛びます。
タイトルにありましたとおり、『Amazonの文化をハックせよ』とテーマを掲げましたが、良くこういった技術検証は研究室の中とか、頑張ってもビルの自社専用の食堂とかで閉じることが多いと思います。それだとやはり良いデータは得られないのでは、と考えていまして、実際に一般のお客様に使って頂くことでカスタマーフィードバックを高速にサービスに反映させる...おぉ、これってAWSじゃん、と。実際私、AWSにたくさんフィードバックしているんですけれども、1年後とか2年後には、機能になって返って来ています。そういう風に高速に回していくことで良いものが出来るのではないかなと思います。
って事で店舗を借りよう!という事でシーズン3が始まりました。冒頭の会社紹介でもお分かりのように、当社、店舗をやったことはありません。
店舗を借りるにあたり、以下の様なイメージを膨らませてみました。...はい、この時点では何も出来てません(笑)
コンセプトを実現する店舗を見つけるために、秋葉原周辺を100件近く確認して、10件程内見しました。
居抜きのカフェで諸々の条件が合致した、ビルのオーナー様に2-3回ほどプレゼンしました。『新しい実験店舗を!』的な説明をしたところ、始めは『?』という感じでチンプンカンプンな顔をされました。なので、今ちょうどJRの赤羽駅で似たようなことをやってますので、見に行ってください!と伝えました。すごい寛容なオーナー様で『分かりました。見に行ってきます』と、実際に見に行って頂いて『なるほど、面白いですね。やりましょう』と言っていただきました。なので、ビルのオーナー様の協力無くしては実現出来なかったです。
12/1に契約締結。物件契約しただけだと何も出来なくて、店長やスタッフの採用、これめっちゃハードル高かったんですけれども、これも、元々のカフェのオーナーと仲良くなりまして、良いよと、持ってけ!と。そんな江戸っ子な感じではなかったんですけれども、当時そこで働いていたスタッフの方々6名、そのまま移籍していただきました。コーヒーマシンとか冷蔵庫等の設備に関しては、その業界の専門家の方にご協力頂くことができ、詳しい情報を教えて頂きました。保健所への届け出等についても諸々を対応しました。
同時に本番アプリのモックアップ(動画)も作成しました。ご覧の様に手書きです。そして実際現在このような形で動いています。
クラスメソッド、結構ホワイト企業でして、年末年始16連休に入ります。誰も出勤していません。そのため、1月の半ばまでプロジェクトはストップしていました。
とは言いつつも私(横田)一応代表者なもので、休みの間固定費や変動費、顧客単価や損益などちょっとずつ考えながら結果的にはたぶん赤字だろうなぁ、という感じでした。スタートは赤字、そこからどうやって黒字にしていくかは今後をお楽しみにしてください。
マーケティングも考えました。当社、Developers.IOは60万人くらいの方々に毎月見て頂いていますので、その方達にどういった魅力的なコンテンツをオフラインで繋げられるか。オフラインで繋がる事によって、更にオンラインのコミュニケーションを活発化させられるか、これはあらゆる小売業、飲食業の方々が考えてらっしゃることなのではと思います。
という事で2019年1月中旬から全員が本気を出す、という事で2019年02月12日の開店までの1ヶ月弱の間、社内から助っ人を召喚してお願いしました。以下のものを1月中に行いました。最終的には2月1日、オープンするぞという目標だったのですが体験が少し足りず、延期をして2月12日のオープンとなっています。
このスライド自体、昨日かきあげた内容なので間違った事を言っているかも知れませんが、あまり突かないでください(笑)
標準化とか正規化、大事なんですが 体験重視のサービス・システムを作るときにはあんまりこだわり過ぎない方が良いかな、と思いました。結構私、社員に言ったんです。『ちゃんと設計しましょう、って言ったらお前ら負けだからな』と。それは本当にスケールするときで良いよ、まずは1店舗、第1歩目を出すときには、もう何でもいい、雑でもいいから体験を実現しよう、と。お願いをしました。
「ちゃんと設計しようって言ったら負け」の背景は、プロの料理人に「余り物で手抜き料理お願いします」です。プロが肩の力を抜く感じ。素人が設計しないとヤバイのが出来上がると思っていますw。社員の技術力にはかなりの信頼あります。
— さとし? (@sato_shi) 2019年2月18日
お伺いを立てるクライアントがいないのも大事です。とにかく自分たちでデイリーリリースをしながら必要なツールを揃えていきました。
そしてオープン。結構かっこいいいお店がオープンしています。技術検証半年、ITの仕組み構築が2ヶ月くらいです。様々な方、ハード・ソフト、ノウハウ、いろいろなものをご提供頂きました。ありがとうございました。
考察
最後に考察です。
とにかく、答えがないプロジェクトを回すときには、仮説検証サイクルを高速に回すしかありません。そして、ソフトウェアだけで解決出来る世界はごく一部です。ハード・ソフト、リアルなもの、全てオールインで自ら考えて動かす事によって何か新しい事が出来るんじゃないかなーと思います。多数の実験・失敗を重ねていく事で結果としてデータも蓄積し、学習してサービスに反映させる事でより早く簡単に良いものが出来るんじゃないかなと。最終的にはソフトウェアモデルと厳選されたセンサーが残ります。
ソフトウェア部分については、AWSが『結構"良い形"』で提供してくれているので、作る必要はありません。使えば良いんです。実際にIT企業が実店舗運営してみました、気付きがありました、今、事業会社のIT化がどんどん進んでいます。だったらその逆もあっても良いんじゃないかなとも思います。ITの会社が事業会社になったって良いじゃないですか。それによって、切り拓けることもあるんじゃないかなと思います。
『やってみた』という事で1日目(2019年2月12日)、実際122回体験頂きました。2日目(2019年2月13日)、157回体験頂きました。リピーターは10%を超えはじめています。
(※カフェ開店以降、横田のFacebookでは適宜状況の共有が行われており、フィードバックが高速に周り、反映されていく様子を感じ取る事が出来ます。)
ここからがスタートです。3月末位までに、どんな結果になっているか、またブログ等で報告させて頂きたいと思います。
という事で、『Amazonの文化をハックせよ』、机上で終わらせない、成功は保証しない、失敗していいよと。とにかくたくさん実験する、その失敗もウン億円も、社運を掛けてというのではなくてまずは小さく回す。実際の利用者に使ってもらってフィードバックを反映させる、最後には良いモデルが残って、それを高速に繰り返すことで様々なビジネスに適用出来るんじゃないかなと思います。
という事で、駆け足ではありましたが、私のセッションは以上となります。ありがとうございました。
追記:
セッション終了後、幾つか情報として追加されたものがセッション資料にあったので、こちらのレポートでも言及しておきたいと思います。
まずは利用費。それなりに大掛かりなのかな/費用もそれなりに掛かっているのかな...?と思いきや、現時点でAWS費用として掛かっているのは1日わずか4ドル未満。完全サーバーレスな環境で組んでいることがこの低価格を実現しているのですが、それにしてもこの低価格は凄いですね...。
そしてHiring。興味をお持ち頂けた方のご応募、お待ちしております!!
社内外で横田deGo専任エンジニア募集してます!
— さとし? (@sato_shi) 2019年2月19日
まとめ
という訳で、デブサミ2019『【14-E-1】 Amazonの文化をハックせよ。AWSをフル活用して無人レジの仕組みを作ってみた~横田deGoプロジェクト~』のセッションレポートでした。改めましてカフェの情報を下記に掲載致しますので、興味のある方は是非とも一度お越し頂いて『完全キャッシュレス、レジレス、ウォークスルー』を体験してみてください。