ウィム・クロウェルのポスターと書体

2012.01.23

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■はじめに

ウィム・クロウェル(Wim Crouwel)はオランダの書体デザイナー、グラフィックデザイナーです。
ウィム・クロウェルは1960年代から美術館や企業向けのデザインをスタートし、数多くの書体を手がけてきました。
特に、彼のデザインした「New Alphabet(1967年)」は、コンピュータの画面や液晶での可読性を高めるために設計されたと言われていますが、 Wim Crouwel - New Alphabet Quadrat Print 2012年の今見ても、何ら色あせることなく、確かに先見性のあるものであったと感じることができます。

先日、恵比寿にあるlimArt galleryにてウィム・クロウェル の「ポスター展」が開催されていましたので、見に行ってきました。

■展覧会概要

今回の展覧会では、ウィム・クロウェルの60年代のポスター作品等が紹介されています。
アムステルダム市立美術館(Stedelijk Museum Amsterdam)のポスター群はオフセット印刷で、その殆どが文字と色ベタで構成されています。
「文字の認識性」「情報の有用性」が実験的に、デザインを通して追求されています。
ギャラリーのキュレーターの方によると、当時のオフセット印刷は現在のように4色分解できないものがまだ多く、色を塗り重ねるようなものであったとのこと。ですので、必然的に写真のような表現は少なくて、特色などで1色1色シルクスクリーンのような刷り上がりになるものも多かったとか。 (展示品の中には4色分解できたであろう、写真をつかったポスターもありましたが、それでも色数がかなり限定されていました。) 技術的な制約がありつつも、その中でいかに豊かな表現(要素が多い、という意味ではなく)をするかということも、その時々のデザイナーのお仕事なのかなと感じます。
因みに、作品の中で、筆者が個人的に気になったのは「ニキ・ド・サンファル(展?)」のためのポスターです。文字と色ベタで構成されたポスター作品群(いずれも特徴があり魅力的ですが)の中で、このポスターはビビットなイエローのバック地に女性の水着のイラストが大胆に可愛らしくデフォルメされていて、(少しだけ)異彩を放っていました。

■「Stedelijk」デジタルクロック

今展覧会の目玉として、1968年に制作されたアムステルダム市立美術館(Stedelijk Museum Amsterdam)のポスターを、グラフィックデザイナーの田中義久さんとsemitransparentdesignさんが現在の壁掛け時計として再現した「Stedelijk」デジタルクロックの展示もありました。ポスター大のモニター上で、アルファベットで表現される時間が時を刻んでいます。(ウィム・クロウェルがデザインした「Stedelijk」という書体が使用されている。)こちらは是非会場に足を運んで動いているものをご覧いただくことをお勧めします。

Wim Crouwel アムステルダム市立美術館のポスター、オフセット印刷、1968年

■見る人による文字の認識

キュレーターの方からいくつか作品についての解説をうけたのですが、特に心にのこったのがウィム・クロウェルが行っていた「文字はある程度の面積を削ったり、正しくない方向に置いても、規則性や認識できる面積が残されていれば、見る人が脳内で補完することで文字として認識される」試みについてです。
例えば、下記は1964年(1963年?)のカレンダーですが、 Wim Crouwel 「april」の文字が、部分的に削られていても、上下逆さまになっていても、「4月(april)」だということが分かりますよね。
さて、ではこちらは何月か分かりますか? Wim Crouwel

■ウィム・クロウェルの本

残念ながらウィム・クロウェルについて日本語で解説されている本は殆ど刊行されていません。
2007年にアイデア誌がウィム・クロウェルの特集をしたものがありますが、現在絶版となっています。
idea (アイデア) 2007年 07月号 [雑誌]
今後何かしらの形で、日本語の本が出版されればよいのですが。

■おわりに

ウィム・クロウェル 「ポスター展」は、恵比寿、limArt galleryにて2012年2月5まで開催中です。お早めに。

展覧会URL:http://www.limart.net/limartgallery.html

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※本記事はこちらからの転載になります。