ワールド・カフェでチーム内の潜在的な改善ポイントを探す
私の所属している事業開発部 製品開発チームでは今年の1月からワールド・カフェという対話の仕組みを導入し、これまでに3回のワールド・カフェを開催しました。
最初は多少懐疑的な気持ちを持って参加していたのですが、何回か参加したことでワールド・カフェはチーム内で、
- なんとなくコミュニケーションの不足を感じていること
- みんなが感じてるけど行動に移しがたい施策
- 問題を感じてはいるけれど、どうしていいかわからずそのままになっていること
をなどを掘り出す上で非常に有用だなと感じました。
私は、
- 1回目→参加者
- 2回目→運営+ファシリテーター
- 3回目→運営+参加者
といったロールでワールド・カフェに参加したのですが、本記事ではこれまでに感じたことやワールド・カフェが実際にチームに与えた影響などを紹介させていただきます。
ワールド・カフェとは
「ワールド・カフェ」を大雑把に説明するとできるだけリラックスして幅広く意見を集めるための対話の手法です。ひとまずは形式が具体的に決まっているブレスト、くらいの理解でも本記事を読む上では問題ありません。
詳細については以下を参考にしていただければと思います。
参考
- The World Cafe
- 対話の場づくり実践シリーズ「ワールド・カフェのつくりかた | ワールド・カフェ・ネット」
- ワールド・カフェとは? | ワールド・カフェ・ネット
- 「ワールド・カフェのつくりかた」ワークショップに参加しました | Developers.IO
ワールド・カフェの進め方
記事をわかりやすくするため要点だけ記載します。
- 模造紙を広げたテーブルを準備
- 4〜5人でテーブルに集まる
- 「問い(議題)」を発表する
- 「問い」について対話をしながら、模造紙に思ったことなどひたすら書く
- 席替え
- 4〜5を繰り返す
あくまで雰囲気レベルでの記載です。具体的な進め方については以下が参考になりました。
ワールド・カフェの準備から開催までの流れ | ワールド・カフェ・ネット
やってみてどうだったか
まず一度参加してみて感じたのは、基本的にワールド・カフェはブレインストーミングの形式を具体化したものであるということです。
- 判断・結論を出さない(結論厳禁)
- 粗野な考えを歓迎する(自由奔放)
- 量を重視する(質より量)
- アイディアを結合し発展させる(結合改善)
上記はブレインストーミングの4原則ですが、ワールド・カフェの仕組みはこの原則を守り、促進させるために作られているように思えます。 そのため、本記事の大部分は「ワールド・カフェの形式に関わらずブレインストーミングから得られるもの」です。 以降、「ワールド・カフェならではの特徴、効用」と感じる部分については☕マークをつけて記載します。
実際に何度かワールド・カフェを開催した結果、以下のような効用があったように思えます。
- 考えを他人と共有できる
- 実際の施策につながる
個人的には目的があやふやな会議が好きではありません。ワールド・カフェは実際にやってみるまで、もしくはやってみた上でも多くの人が目的があやふやな会議のように感じると思います。
それを踏まえた上で、各効用をもう少し掘り下げてみようと思います。
考えを他人と共有できる
大雑把にいうと2つの軸があります。
- 普段話さない人と考えを共有できる
- 普段話さない話題について考えを共有できる
普段話さない人と考えを共有できる
普段話さない人、というのは
- 業務として距離感があるためあまり関わったことのない人
- 思ったこと、困ったことをあまり表に出さないタイプの人
あたりが考えられます。前者とのコミュニケーションについては通常のブレストでも大いに有用かと思いますが、後者に関してはワールド・カフェの仕組みが非常に有用だと思いました。
ワールド・カフェには「発言をする人はトーキング・オブジェクトを保持し、保持していない人は話を聞く」というルールがあります。☕ このルールを守ると、不思議と席の中で発言の量がある程度均一になります。☕
おそらく、「今話しているのが誰なのか?」が明確になるため、発言量の多い人がそのことに気付きやすいのではないかと思います。☕
ワールド・カフェの運営者は参加者が「安心し、リラックスできる場を作る」ことに注力します。私はこれを勝手に雑な雰囲気作りと呼んでいますが、雰囲気が雑であれば雑であるほど発言に対するハードルが下がるのでは?と思っています。
また、公式な手順なのかわからないのですが「ワールド・カフェのつくりかた」ワークショップで学んだ手順として「対話が開始する前に模造紙に全員が何かしら落書きをする」というものがあります。
これは模造紙にペンで何か書くことを加速させるとともに、リラックスした雰囲気を作るといった点で非常に有用に感じました。☕
このタイミングで笑いが起きたテーブルはだいたいうまくいきます。(直感)
普段話さない話題について考えを共有できる
例えば私の業務は基本的に設計や開発なので、技術、要件、仕様などの話は頻繁にするのですが、業務の話、雑談に関わらず会話の内容は偏っています。
また、普段話す相手はある程度ロールが近いことが多いです。
ロールやバックグラウンドに関わらないチームでワールド・カフェを開催したことで、本当は自分と関係しているのに普段あまり話されない他人の思いを知ることができました。
また、ロールやバックグラウンドに関わらないチームでワールド・カフェを行う上で大切なのは、「問い」をロールやバックグラウンドに関わらない内容にすることだと感じました。☕
以下はワールド・カフェ・ネットから引用させていただいた問いを立てるときの留意点(抜粋)ですが、広いロールが混ざったメンバーでワールド・カフェを行う場合、以下を特に強く意識するのが良いと思います。☕
- 主催者が、テーマに基づき、その時にどんな場を作りたいのか/どんな対話が起こって欲しいのかを意識して、問いを考える。
- オープンな問いにする。(イエス・ノーでは答えられないもの)
ワールド・カフェの準備から開催までの流れ | ワールド・カフェ・ネットより引用
ポイントは、話題を散逸させないことと、ゴールがはっきりしていないこと(オープンな問いにすること)です。
ある枠組みの中で、自分が持っている問題を自分と関係なさそうな人が解決できる(逆もしかり)可能性に気づくことができることがポイントと感じました。☕
実際の施策につながる
ワールド・カフェは、実際の施策につながります。しかし、これには当然 「施策につなげるための活動」が必要 です。この辺りは後ほど記載しますが、とにかく言いたいのは、ワールド・カフェは、実際の施策につながるということです。
何か施策を始めるうえで必要なものは色々あると思いますが、個人的な感覚としては大まかに以下が必要だと思っています。
- きっかけ
- どうやるか?
- 誰がやるか?
ワールド・カフェでは、前者2つが一気に集まります。
例えばきっかけとしては、「困っていること」「これがあったらうれしいんじゃないか?と思っていること」「やりたいけどなんとなく共有してなかったこと」あたりがワールド・カフェの形式で集まりやすいようです。☕
どうやるか? についても、上記のような「きっかけ」の共有があると、自然と実現のためにどうするか?の話になっていくので、ワールド・カフェを通してアイデアが集まります。(しかもいろんなロールの視点を含めて!)☕
また、「これがあったらうれしいんじゃないか?と思っていること」に対して実はすでに誰かが進めていることを知るパターンもいくつか見られました。 個人的にはこれがかなり有用に感じます。不要なもやもやを解消できました。
誰がやるか? についてはワールド・カフェを通じて決まることはほとんどありませんでした。というより、おそらくこれはワールド・カフェで決めるべきことでは無いように感じます。施策を生み出すきっかけやアイデアが実際のタスクと密につながると、発言のハードルが上がってしまうからです。☕
しかし、そこまで決めないことには実際の施策につながりません。施策につなげるために実際にやっていた活動を以下に紹介します。
ワールド・カフェ開催後に施策につなげるためにやったこと
これはワールド・カフェそのもののフローではなく実際の施策につなげるために行った活動なのですが、有用だと思ったので紹介させていただきます。
とにかく話した内容をまとめる
施策につなげるためワールド・カフェで話された内容をまとめていきます。元ネタはワールド・カフェで自由に色々書きまくった模造紙です。模造紙に書かれた内容をひたすら箇条書きでテキストに落とし込みました。
- 文字がすごすぎて読めない
- 読めるけどなんの話だかわからない
といったイベントは多々起きますが、とにかく気にせずさくさくとテキストに落とし込んでいきます。
おそらく重複した内容がたくさんあるので、テキストに落とし込んだらそれらの内容を消し込んでいきます。 さらに、ある程度話題の方向性をカテゴリに分けると見通しがよくなります。
まとめた内容を整理する
ここでいう整理は施策になりそうな話か、そうでないかを分けるという意味です。
ワールド・カフェ終了後の模造紙には、とにかく色々なことが書いてあります。施策になりそうなアイデアを書くための模造紙では無いので、落書きやその他何がなんだかわからないこともたくさん書いてあります。
例えば私は何かのきっかけで模造紙に「早起きは無駄」と書いたのですが、まとめる際に何がなんだか全くわかりませんでした。(捨て置きました)
この作業をしていると、模造紙に「もっとわかりやすく書いてくれ!」とか「まとめやすいように書くように促したい!」という気持ちがわきあがりますが、これはおそらくルール化すべきではありません。 ワールド・カフェにはリラックスして行える環境(≒大抵のことが許されそうな雰囲気)が必要です。☕
施策になりそうなアイデアの一覧を眺める
ここまでくると、施策として検討可能なアイデアや、今後検討しなければ行けなさそうな問題の一覧が現れてきます。
このなかから実際に何をするのか?を決めていく作業は、おそらく組織の構造やワールド・カフェの問いに大きく左右されるため具体的なフローを決定するのは難しいですが、一つポイントとして思うのは、「最終的な決定はトップダウンで行う方が良さそう」ということです。
ワールド・カフェから発生するアイデアや問題の多くは、「ワールド・カフェをやる前から誰かの頭の中にあったもの」で、さらに「心理的な要因やスケジュールの問題で誰も手をつけなかったもの」のように感じます。
この「心理的な要因やスケジュールの問題で誰も手をつけなかったもの」に対するGOサインは偉い人が出した方がすんなりいきます。現状アサインされているタスク量やスケジュールなどのレベルから考慮が必要なケースがあるためです。 施策の内容については吟味が必要なので、必要に応じて人を巻き込んだり相談すべきかと思いますが、基本的にはワールド・カフェから出てきた施策はおそらく誰かが必要だと感じたものなのではないでしょうか。
やってみて気づいた注意点
効用がよくわからず不安
初回のワールド・カフェで私はファシリテーターや運営ではなく参加者として参加しました。ワールド・カフェそのものは非常に面白かったのですが、「ここで話し合った内容が、最終的に何につながるのか?」がずっと不安でした。 最終的にいくつかの施策につながるところまで見た上でワールド・カフェについて初めて納得した記憶があります。
「話し合うことそのもの」が目的でなく、なんらかの施策につなげる予定があるのであれば、初めてのワールド・カフェ開催時には施策につながる流れを説明することによって、この辺りの不安がある程度解消されるのではないかと思いました。
話題が白熱すると模造紙が放置される
ワールド・カフェの成果物は、
- 参加者の頭の中で起きたなんらかの変化
- 色々書かれた模造紙
の2点です。 しかし、話題が白熱してくると模造紙への記載がないがしろにされます。
我々のチームではワールド・カフェを実際の施策へつなげるために「模造紙から抽出したアイデアや疑問」を使うため、ワールド・カフェで話されたことが模造紙に記載されることが非常に重要です。
話題が白熱することそのものは良い状態なので、ファシリテーターはそれとなく模造紙への記述を促す必要があります。
「問い」は慎重に決める
ワールド・カフェがうまくいくかどうか?を決める要因は、リラックスした雰囲気づくりやワールド・カフェの手順に正しく従うことなど色々ありますが、一番大きいのは 「問い」が適切であることだと感じました。
これがあまり良くないと、話し合いが途中でダレます。そもそもみんなが興味を持っていなかったり、問題意識を持っていないテーマであったり、解決への道がはっきりしすぎている場合対話があまり盛り上がりません。(≒施策へのアイデアがあまり集まりません)
適切の定義は難しいですが、
- 対話の内容があまり想像できない「問い」にする
- 解決方法がはっきりしすぎていない「問い」にする
- みんなにとって興味のありそうな「問い」にする
あたりがポイントだと思います。 みんなにとって興味のありそうな「問い」がわからない場合は、「問い」を探すためのワールド・カフェを開催するのも良いかと思います。
実際、初めてのワールド・カフェの「問い」は
- 製品開発チームをより良いチームにしていくためには?
- より良いチームにしていくためにこれから心掛けることは?
と、かなり曖昧で、ここで出てきた話題がそれ以降のワールド・カフェでの「問い」につながっていきました。 また、このような曖昧な問いでもやりたいことのアイデアは集まるので、施策にもつながっていきます。
黄色いペンはあとで読むのが辛い
細かい話ですが、模造紙からのまとめを行う際に、黄色いペンで書いた文字はだいぶ読みづらくて辛いです。 あまり模造紙に何をどう書くか?について制約をすべきではありませんが、3回目のワールドカフェからこっそりと黄色いペンを抜きました。
疲れる
ワールド・カフェでの議論は普段の3倍くらい頭を使うため、ものすごく疲れました。 何を言いたいのかというと、ワールド・カフェのあとの業務は強烈に効率が落ちます。(私は落ちました)
なのでワールド・カフェが終わったらそのまま退勤、くらいの時間帯で行うのがおすすめです。
(私だけかもと思ったら開催後のアンケートで同じような意見があったので、おそらくある程度普遍的な話だと思いたいです・・・。)
実際にワールド・カフェをきっかけとして始まった施策
事業開発部が今まで行ったワールド・カフェから始まった施策を、「ワールド・カフェの問い」「模造紙に書かれていた当日のメモ」「施策の内容」と合わせて一部紹介します。
問い「製品開発チームをより良いチームにしていくためには?」
当日のメモ
- 他チームの業務が見えない
施策
- カンバンを導入し週 1で各チームの作業を全員で共有
問い「チケットを翌週に回さないためにはどうすればいいか?」
当日のメモ
- モヤモヤが言いにくい
- おやつタイム(コミュニケーションの促進)
施策
- 雑になんでも投げこめるチャットルームの作成
問い「現状のドキュメントをもっと良くするにはどうすればいいか?」
当日のメモ
- 全体的なクイックスタートが欲しい
- ドキュメント番長が欲しい
施策
- マイクロサービスをまたぐクイックスタートの作成
- ドキュメント番長(横串でドキュメントを管理するロール)のアサイン
まとめ
というわけで、3回のワールド・カフェを通じて感じたことと、実際に起きたチームへの変化についてまとめてみました。
- なんとなくコミュニケーションの不足を感じていること
- みんなが感じてるけど行動に移しがたい施策
- 問題を感じてはいるけれど、どうしていいかわからずそのままになっていること
をなどを掘り出す上でワールド・カフェは非常に有効な施策だと思います。
また、とにかくこの記事で言いたいのは「ワールド・カフェは実際の施策につながる」ことと、それには「施策につなげようという意思とプロセスが必要」だということです。
私からは以上です。