キャリアプランは時代遅れ!?パーソナルビジネスモデルのススメ(「ビジネスモデルYOU」出版記念セミナーに参加してきました:後編)
前回のエントリー、ビジネスモデルを3つの視点で捉える(「ビジネスモデルYOU」出版記念セミナーに参加してきました)で、セミナー前半の小山龍介さん(「ビジネスモデルジェネレーション」の翻訳をされた方)の発表を紹介しました。今回はセミナー後半である、ティム・クラークさん(「ビジネスモデルYOU」の著者)の発表まとめです。「刺さる言葉」がたくさんあり、終盤の質疑応答にも良いエピソードが入ってますので、最後までお付き合いください。
発表するティム・クラークさん(左側)
■ビジネスモデルキャンバスの作り方(基礎)
(http://www.seshop.com/static/1satsu/businessmodelgeneration/images/BMG_ch1_canvas.pdf より抜粋)
今日は皆さんにビジネスモデルのメソドロジーを紹介します。 ビジネスモデルとは何か? それは組織はどのように価値を生み出して、顧客に届けるのかを論理的に記述したものです。 誰でも簡単に描けるので、是非、みなさん、このキャンバスが描けるようになってください。 簡単な書き方は、ポスト・イットを貼っていくやり方です。 キャンバスはある意味は関係図です。
ここで、みなさんがよくわかる会社のビジネスモデルを描いてみましょう。今日の会場である蔦屋書店さんでこの会社のビジネスモデルを描くのは非常にヤバい(笑)ですが、「ブックオフ」のビジネスモデルを描いてみましょう。まず、最初に顧客セグメントから描いていきます。
- 顧客セグメント
1.本を買う人 2.本を売る人
- 価値提案
顧客に対してどういうメリットを届けているか、どういう問題を解決しているか。 1.本が安く買える 2a.不要物の現金化 2b.部屋が片付く
こうやって、番号をつけて考えると整理されて判りやすくなります。
- チャンネル
どういうふうに伝えるか、売るか、購入後をフォローアップしていくか。時間軸で言えばマーケティングプロセス。 ・店舗がメイン
- 顧客との関係
マンツーマン
ここまでで、ビジネスモデルキャンバスの右側のほとんどが埋まりました。このビジネスモデルが上手くいくのであれば収入に繋がります。
- 収入の流れ
1.本代 2.本代(-) ←マイナスの収入だけど、これがないと成り立たない
今度は左側、リソースから描いていきます。
- 主なリソース
組織のリソースを描くとき、例えばブックオフだと連想しやすいのは店舗、人、在庫と考えがちですが、実はそれはお金さえあればそれは短期間のうちに用意できるものであったりします。そうではなく、何が価値を生み出す源泉となっているのか、ビジネスモデルの機動力になっているのかを考えましょう。ブックオフの場合は、 ・買取・再販システム これがマニュアル化されていることがブックオフで一番大事なリソースです。そして、 ・ブランド があります。
- 主な活動
・本を売る ・本を買う 当然、いろんな業務(総務とか)あるけど、一番やらなければならない大事なことだけを書くことが大事です。
- キーパートナー
ブックオフにはパートナーがあまりいないようです。
- コスト
・給料 ・店舗代
当然だけど、コストよりも収入が大きくなっていないと、ビジネスは成り立ちません。それはどのような組織・団体であっても同じです。
実はもう一つの顧客セグメントがあります。それは自分でブックオフのフランチャイズを出したい人。そういう人に対して、どういう価値があるのかっていうと、リソースに入っている「買取・再販システム」が重要になります。自分で企業せずに既に完成されたビジネスモデルを手に入れることができます。
こういうふうにビジネスモデルキャンバスを描くと簡単そうに見えるけど、やってみると奥が深く、そんなに簡単じゃないことがわかります。ただし、ちゃんとやれば、自分の組織のビジネスモデルを描いてみたリすると、いろんな気づきがあります。
以上を踏まえ、ビジネスモデルキャンバスの描き方を通じて次の3つのことを覚えてください。
1. 全ての組織はビジネスモデルをもっています 営利活動を行う企業だけでなく、政府、非営利団体、大学、病院にもあります。すべての組織はそのロジックに従う必要があります。ちょっと前に、キツイ顔をした女性が事業仕分けなんかをしていましたが(笑い)、自分のビジネスモデルが言えない人は事業仕分けの対象になってしまいます(笑)。企業だけでなく、全ての組織はビジネスモデルを持っています。それは個人であっても同じです。
2. 1つの製品やサービスを届けるにはいろんなモデルがあります さっきはブックオフを描きましたけど、本を読者にとどけるというビジネスモデルには、Amazon、Amazon Kindle、蔦屋、図書館、いろんなモデルがあります。さっきはブックオフのビジネスモデルを分析するために実物の縮小版(筆者注:差別化の要因になっているトピックを抽出しシンプルに描いた、という意図と思う)を描きましたが、新規でビジネスを起こす場合は一つだけではなくて、いろんな形のモデルを作って選ぶことになります。それがビジネスモデルシンキングです。
3.ビジネスモデルは計画書とは違う(特に新しくベンチャーを立ち上げるとき) 計画書は実行するものですが、ビジネスモデルは検証するためにあります。なぜなら、ビジネスモデルは、これからこういうことがあるだろうと考えて作っても、それぞれのビルディングブロックのなかに未知数のもの仮説が発生します。「できるだろうけど、できるとはかぎらない」というものです。だから検証しなければいけません。もう計画をたてる時代ではないのです。いまはモデリングの時代です。個人のキャリア展開となるとまさにそうで、キャリアプランニングなんていう発想は時代遅れです。多くの人はモデリングアプローチを無意識的に使っています。もしかしたら、若い時に医者になりたいとおもって一直線にその道にすすで実現するっていう幸せな人もいるかもしれないけど、私も含めて普通の人はいきあたりばったりでしょ(笑)。 もっと、自分のキャリアを意図的に考えて、パーソナルビジネスモデルで検証をしてみましょう。
■パーソナルキャンバスの描き方
(http://businessmodelyou.com/ からダウンロード可能)
ここからパーソナルビジネスモデルとパーソナルキャンバスの描き方の話をします。 組織のビジネスモデルだと顧客から描いていくことが多いけど、パーソナルビジネスモデルの場合はリソースから書いていきます。
- リソース
まずは関心ごと。職場で何にどれだけ関心をもっているか。それがキャリアの満足度を決めます。 次に性格。外向性が強い人は営業などが向いているだろうし、内向性の強い人は数値分析などが向いているかもしれません。また職場も性格をもっています。例えば銀行だとルール化されていて保守的で、広告代理店とかだとフレキシブルでパーソナリティが重視されます。職場の性格が自分の性格とあっているのが望ましいです。最後に能力やスキル。これがないとキャリアが上がりません。
- 主な活動
一番大事な活動を描きます。
- 顧客
誰の役に立ちたいか? 誰のためになりたいか? 人を助けてあげることが仕事です。
- 与える価値
どういうふうに役立つかが一番大事です。今日の話を1つだけ覚えてください。自分の与える価値をきちんと定義しなければいけません。それができなければ、この後のビルディングブロックのチャネルにおいて、顧客に対して知らせることもできません。
- チャネル
Amazonの場合はメールを送ってきます。5つのマーケティングのフェーズでいうと 「1.認知」で知らせる。 「2.評価」でWebをみておもしろそうだと評価させる。 買っちゃうのは「3.購入」。 翌日に届くのは「4.配送」。 そしてしばらくするとレビューを書いてくださいというメールがくる。これが「5.購入後ケアー」。 私たちも同じです。自分の価値が定義できなければ認知してもらうこともできないし、売ることもできません。
- 顧客とのかかわり
顧客はいろんな次元で接したいと思っています。製品を一緒につくってほしい、コミュニティに関わって欲しいなどです。
- キーパートナー
自分でできない活動を代わりにやってくれる協力者。配偶者かもしれない。親戚、子ども、親、上司。いろんな協力者がいるはずです。
- 収入
真っ先にお金が思い浮かびますが、それだけじゃなくて満足感やスキルが上がることなど、ソフトなベネフィットもあるはずです。
- コスト
自分の時間を仕事につかっているでしょう。あるいは、仕事が自分にあっていなければ、ストレスとしてコストに入ってきます。
こうやって自分のモデルを作るといろんなことがみえてくる。 次は実例をだして見ましょう。私のビジネスモデル。主な活動は大学の教授です。
- 活動
・授業を行う ・研究・執筆 ・コミュニティーに貢献する
- 顧客
・学生 ・管理部・学部(遥かに低いが) ・コミュニティ
- 提供価値
・人が学ぶのを助ける →気づいたのは本当は「キャリアアップに導く」
- チャネル
・大学の教室。
これでティム・クラークのパーソナルビジネスモデルはだいたい出来上がりです(あとの項目はこの場では無視します)。
ここからパーソナルビジネスモデルを変革させます。 私は、新しい顧客が欲しかったので「社会人」を追加しました。 1つのビルディグブロックが変化すると、他のブロックも変わります。例えば、社会人に届けるすべがなかったので、「本/オンラインコミュニティ」を追加しました。それが追加されるということは活動にも変化がでます。オンラインコミュニティにも、Webサイトだけでなく、Podcastを追加するなどいろいろあります。
一昨年、シアトルでワークショップをやったときに参加した翻訳家のケースでは、顧客の90%以上は「法律事務所・弁護士」が入っていました。それ自体はわかりやすくていいのですが、価値のところに「書類の日英翻訳」を描いたのですが、それは正確には活動であると指摘しました。そして翻訳が活動なら、価値提案はなんですか? と考えたときに最初はちょっとわからなかったのだけど、顧客の弁護士達はなんのために活動しているのかと考えました。そうすることで「訴訟に勝つ」ことを助けているのではないかと気が付き、初めて自分の価値を定義できたのです。 ポイントとして、活動と価値は混同しがちだけど、価値をもたらす活動が何なのかを考えることが大事です。
パーソナルキャンバスのテンプレートは本を買わなくても無料で入手できます。よかったら、オンラインコミュニティに登録してみてください。 "Business Model You" http://businessmodelyou.com/ (筆者注:テンプレートのDLにはユーザー登録が必要です)
■質疑応答 (筆者注:名前の記述がない箇所は質問者:小山龍介さん、回答者:ティム・クラークさんです)
Q)「ビジネスモデルジェネレーション」から「ビジネスモデルYOU」と出されたのですが、普通に考えたら組織のビジネスモデルの次に個人のビジネスモデルという発想はなかなかないと思うのですが、どういった経緯で書かれたのでしょうか?
A)「ビジネスモデルジェネレーション」を共著者として執筆したころ、自分のキャリアで悩んでいたました。試しにビジネスモデルキャンバスを自分のキャリアにあてはめてみたら良かった。仲間にも伝えたらいいねと言っていたので、それから1年半くらい検討して「ビジネスモデルYOU」を執筆しました。
Q)「ビジネスモデルYOU」にはたくさんの人のケースが紹介されていますが、どうやって執筆を進めたのでしょうか。
A)基本的な枠組みは自分でつくったのだけど、分かりやすいのは事例を集めることだと思いました。最初はキャリアカウンセラーに声をかけて、それから彼らの知人へと拡げていきました。ワークショップで作ったモデルも入っています。
Q)ティム先生はアメリカだけじゃなく、日本でもいろんなワークをやっていらっしゃいますが、日米で違いはありますか
A)日本では、このメソドロジーを宗教っぽく考える人がいるけど、これはハードワークです。モデルを作ってもその後が大変。アメリカではモデルをつくって検証するっていうのに慣れているけど、日本だとモデルがあれば成功するって過信する人が多い。転職のしやすさ、情報交換のしやすさも違います。 しかし、違いはあってもそれはモデルをつくった後の検証プロセスで関係してくるもので、モデルをつくる、きっかけつくるは同じだと考えています。
小山龍介さん:アメリカ人の履歴書はストーリや目的がはっきりしていた。
ティム・クラークさん:自分の提供できる価値をはっきりさせるのが当然です。人によってはビデオを作ったりもしています。
Q)日本も変わってきているけど、自分のキャリアをきちんと意識するのはアドバンテージになると思います。例えば、ティムさんが普段、教えられているビジネススクールの学生さんたちもやっているのですか
A)やってます。 僕は実は、大学を卒業してから音楽をやりながら5年ぐらいフリーターをやって38歳で起業しました。それはアメリカやヨーロッパの企業がアジアに進出するときに調査をする会社です。Amazonが日本に進出する際に支援をしました。そこからビジネスがものすごく上手くいって、2000年に売却をしてそれから……、長い話になるからこの辺で(笑) この本をつくるのに30年かかっています。人が、自分のキャリア展開をどうやって上手くできるのかをずっと考えていました。キャンバスはアントレプレナーシップを教えるのに最適な本だと思いました。アメリカでも、人間は生まれつきのパッションがあってとかそういう考え方があるけど、普通の人はパッションを最初からもっていない。行動を通じて自分のキャリアが上がっていくことでパッションができていく。だから時間がかかるのです。 検証をするというのは、就職をして会社をやめて転職をして、これも1つの検証、テスティングです。 だけど、ロジカルに自分のキャリアを考えることは必要だし、パーソナルキャンバスは今の世の中にマッチしていると思います。 今はまだ、自分のことや組織のことをわかっていない人が多い。まずは自分の組織のビジネスモデルを理解すること。そして自分のビジネスモデルは調和をしているのか。していないなら転職してもいいと思います。
小山龍介さん:つまり2冊あわせて考えていくということ(笑)
Q)先生は学びを助けることが提供価値だと思っていたけど、そうじゃなくてキャリアアップを助けることが提供価値だと気づいたのは何故ですか? どういう問いをしたらそういう答えを導き出せるのか?(会場のお客さん)
A)パーソナルキャンバスの演習をした方がいいと思います。 しかし、助けることはできるけど、代わりにやることはできません。 若い人は難しい。社会経験がないと、世の中の厳しさや働くことがどういうことがわからないし。 (著者注:質問をされた方も大学で教授をされているそうです) 自分の過去の行動をみながら、実際の行動をヒントにしてやったほうがいいと思います。
(ここでセミナーが終了)
以上です。いかがだったでしょうか。 ビジネスモデルキャンバスもパーソナルキャンバスも、描くこと自体は難しくありません。しかし、お二人の話にもあったように、良いキャンバスを書くには知識や経験も必要になるし、描き終わったらそれで完成ではなく、あくまで仮説として扱い検証をすることが必要になります。つまり、実際に使ってやってみる以外に上達の近道はないだろうということです。 私も、仕事で実際に描いてみたり、ビジネスモデルジェネレーションのコミュニティ (参加者絶賛募集中です)でワークショップを繰り返しやったりして習熟度を上げているつもりですが、やるたびに新たな気づきがあったり、他の人と一緒にキャンバスを描くことで思わぬ発見があったりして、その度に視野が広がっているような気がします。 いずれにしても、組織、もしくは自分自身の今後についてもやもやとするところがあったら、是非、キャンバスを描いてみましょう!
——————————–おしらせ——————————– 【12/15(土)・12/16(日)】 「DevLOVE Conference 2012」 http://devlove2012.devlove.org/ 日時 2012年12月15日(土)11:00〜21:10・12月16日(日)11:00〜19:00 場所 株式会社サイバーエージェント東京本社 1日目の12月15(土)11:00-15:00から「勝手にワークシフト(仮) 〜4人の達人開発者と未来について語ろう〜」というディスカッション形式のセッションでファシリテーターを担当します。組織からの独立や起業について、よそでは聞けない話を高江洲 睦さん(@takaesu0)、中村 薫さん(@kaorun55)、綿引 琢磨さん(@bikisuke)、梶浦 毅一さん(@shirokappa)の四名のみなさんにしてもらいます。
【12/20(木)】 「0から始める速習Amazon VPC〜AWSに両足を突っ込みたいアナタと共にハンズオン〜(クラスメソッド開発ブログ課外授業3日目)」 http://classmethod.doorkeeper.jp/events/2235 日時 2012年12月20日(木)19:30~22:00 場所 クラスメソッド株式会社 クラスメソッド開発ブログで、ご好評頂いたエントリーを中心に勉強会を開催します! 第3回は満を持しての登場AWSになります!今回は代表の横田とAWSアーキテクトの福田が登壇いたします。
【1/15(火)・1/16(水)】 「Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013」 http://scrumgatheringtokyo.org/2013/ 日時 2013年1月15日(火)10:00~18:00、1月16日(水)10:00~18:30 場所 秋葉原UDX 2日目の1/16(水)の午後の部「[2E-3][ワークショップ]The New New Product Development with Lean Canvas 角征典氏」でアシスタントを担当します。その他にも豪華ゲスト陣による豪華セッション・ワークショップが目白押しなので、良かったら是非、ご参加ください。